異世界から「こんにちは」

青キング

二日という空白

「二日間も意識失ってましたね」
「えっなんだって?」
 目の前には正座して俺を見据えるシャマとリアン、俺は大声で聞き返す。
「太刀先輩、二日間ずっと意識失ってましたってことです」
 時計が十時を示している中、俺は脳の処理ができていなかった。
 シャマに平然と言われて驚きなのか動揺なのか判断がつかなかった。
「証明できるものはないのか!」
「意識失ってたから脳が壊れましたか?」
 うっ、酷い泣きたくなるよ。
「それでも意識が戻ってよかったです」
 シャマの隣でリアンが笑顔でそう言う。
 それでもってことは、脳が壊れたことを肯定してるよね?
「この程度で驚いてるんですか?」
 シャマはしれっと辛辣なことを言う。
 そんな情けないなぁーみたいな目で見ないで悲しいから!
「そんなこと言ったら可哀想ですよ!」
 リアンがシャマの発言に異議ありのようだ。
 リアンは優しいな。
「情けないけど精一杯守ってくれるのが太刀さんです!」
 前言撤回、フォローどころかもっと傷ついたよぉ。
 俺は悲しさに身を縮ませる。
「まぁそういうことにしといて……本題に入ろう」
 一回、間をおいて、シャマは切り出した。
「黒猫の行方ですよ、あれをどうにかしないとまた暴れますよ」
「そうですね……」
 それを聞いてリアンは顔を伏せた。
 俺が足を引っ張ったせいだ、ごめん。
「二人とも顔を上げる、だってこういうときこそ思案しなきゃ」とシャマが俺とリアンに言ってくる。
「「思案?」」
「そう思案。考えて案を出すの」
 確かに落ち込む時間があるなら、ひとつでも方法を思い付いて実行した方が断然早く捕まえられる。
「で、シャマさんは案を思い付いたんですか?」
 リアンが小首を傾げて尋ねると、シャマはリアンを見つめて固まった。
 シャマの額に冷や汗が。こいつ言うだけ言っといて考えてないのかよ。
「それを……これから考えます、ハハ」
 呆れた、風呂でも入ろう。
 俺は立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
 立ち上がった俺を見てリアンが不思議そうに聞いてくる。
「風呂沸かして入浴」
「そうですか、ならいいです」
 ならってことは別件だといけなかったのか?
 ドアまで来て一度リアンとシャマを振り返り一瞥する。
 楽しく喋っている姿を確認して俺はリビングを出た。
 自分の頬が少し緩んだことにも気がついた。

 僕の名前はレイ・アナシク・ルンダ。
 脱黒服隊のリーダーだ。
 そして最強の幻方使いでもある。
 今、地下にある僕達、脱黒服隊の秘密施設で会議室兼談笑室で会議という名目の談笑を行っている、いや楽しんでいる。
「レイさんどう思います?」
「何結婚について?」
「……そうですか」
 隊員の一人に袖にされた……ううう。
「黒猫の今後についてですよ」
 呆れたように聞かれる。
「封印しよう」
 適当に処理しようと簡潔な方法を選んだ。
「かなりの人数と魔力が必要ですよ」
「じゃあどうしよう?」
「優柔不断が!」
 他の隊員に次は睨まれた。すいません……
「みんな、ここは黒猫を人質にして黒服隊を呼び出して……」
 そう言い立ち上がったのは脱黒服隊の中で一番容貌端麗いわばイケメン、さらに決断力もあり、さらにさらにたくさんの隊員から慕われ、さらにさらにさらに身長も高くて、さらにさらにさらにさらに身体能力抜群というモテ要素の塊、氷己津だ。
 羨慕されるのもわかる。
「おぉーさすがは氷己津さん、ナイスアイデア!」
「氷己津さんすぐに実行しましょう」
 各々が氷己津を誉めそやす、が本人は浮かれない。
「静粛にしろ会議はここからが始まりだ」
 こういうクールさも羨慕されるポイントなのだろう。
 はぁ羨ましい。
 僕もモテモテになってみたいなぁ。
 そんな街中を歩いていて突然美少女が「私と付き合ってください」とはにかみながら声を掛けてくる確率よりも低い願いを胸中に抱くのだった。

 今日も俺は書類の山を疎んでいた。
「ナレク様、順調ですか」
 度々仕事の進み具合を見に来るこの女性は、イナシア。
 スーパーロングの艶やかな黒髪に中々豊満な胸、そして極めつけは容姿端麗まさに絶世の美女である。
「ナレク様、飲み物はどぶ水か泥水どちらがよろしいですか?」
「どっちも拒否だ!」
「そうですか、では」
 ゆっくりとドアを閉め、部屋を出ていった。
 何がしたかったんだ?
「ふぅ」
 一つ溜め息を溢す。早急にこの膨大な書類を処理するか。
 書類の山から一番上を一枚手に取り目を通す。
 何々店内の金庫から収入が逃げ出した、という逃走事件。金庫の鍵は店長と店員リーダーしか所持しておず、店長が全店員を帰し点検をしていて金庫から収入を出そうとしたとき無いのに気づいたそう。
 逃げ出したっていう言葉からおかしくねぇかこれ? せめて紛失にしろよ、書類書いたやつ。
 俺の仕事はこういった事件や騒動などをまとめた書類に対処法とか解決法とか打開策等々を記して黒服隊員を向かわせるという、必要とされ責任重大だが目を通して文字を書き連ねていくだけという精神的にシビアな内容だ。さらには幾度もリピートし続けるので一日書類を目にしている日もあるのだ。そして今日も同じ作業をひたすら続けていた。
 今までくだらないと思った内容は、強風あとの落ち葉事件。それ事件じゃなくて必然だろ!
 他にも、深夜のフクロウすごい事件。それただの感想だろ!
 そんな下らない内容が多い中、特に絶句したのは、空が紺碧になったり暗黒になったりしてる事件。これに関しては何も記す事柄が無かった。人間なら空が青いときと黒い時入れ替りを繰り返して日が経っていくのを『当たり前』と感じる、しかしそれを事件とみなす人が居ると知って少し恐怖した。世の中もしかすると別世界でもあるのだろうか?  しかしなぜ紺碧は知っていたのに常識を知らなかったのだろうか、そこも疑問である。
 あーいかんいかん、手が止まってた。早くすますぞ。
 俺が気合いを入れ直した時に突然ドアが開いて体がにわかに飛び上がってしまった。
「ごめんな驚かせた?」
 すまんすまんと軽く頭を下げながら部屋に入ってきたのはブルファだった。
「今回はどうしたー」
 嫌そうな口調で尋ねると、朗報がブルファの口から飛びだした。
「微かだが情報をゲットした、それを伝えようと思って」
 口にしながら自室如くソファに腰をおろした。座っていいと許可してないぞ!
「その情報なんだが山中に一ヶ所だけ微少の魔力を帯びている地面があった、それだけだ」
 魔力感知の良いブルファが言ってるんだ、間違いない。
 でも過去の調査で一度も魔力を帯びているところは確認されなかった。
 土地自体の変化なのか、それとも何者かが意図してやったことなのかどちらかだろう。
「もっと詳しく調査すべきだな、黒服隊を出動させる。今回は俺も同行するブルファ達も手伝ってくれ」
 強い意志を持ってブルファを一点に見つめる。
 ブルファは首肯した。
「ふもと集合でいいか?」
「オーケー、できるだけ急いでくれ日が暮れると難航するから」
 それを聞いてブルファは足早に部屋から立ち去った。
 俺も右手首にはめたブレスレットにはめ込んである連絡用の伝信魔石に顔を近づけ黒服隊員に知らせる。
「急ですまない巡回中の者は至急山のふもとに集合、待機中の者は普段より厳重にかつ逃げ場もないくらいに街の巡回にあたれ」
 了解ですと声がして俺は通信を遮断して部屋を飛び出した。
「ナレク様どうなさいましたか?」
  向こうから俺の存在に気づくや否や、俺の様子を見て驚き気味に尋ねてくるイナシアに対してすれ違い際に一言伝える。ここの警備は頼んだ、と。
 すると急すぎる命令に、わかりましたと無表情で返してきた。
 俺は振り返りもせずひたすらに駆け抜け、黒服隊本部を呼吸をせわしくしながら出動した。
 今頃他の隊員も向かっているところだろう急がねば。
 看過できない問題の突破口になるかもしれないことだからこそ、一刻を争うのだ。
 この街を守るのが、黒服隊の一番の大仕事だ。

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