異世界から「こんにちは」

青キング

ショッピングモール

 ただいま、公園の噴水前で待機中。
 理由は、人と待ち合わせているのだ。
 それにしても野良猫の数が増加している。
 噴水前から公園を眺めただけで六匹は確認できた。
「何ぼっーとしてるの」
 横からの声に目を遣ると、いつもとは雰囲気の違う冬花が。
 肩の部分だけ透けていて、膝から下が露出している短めの白に近いピンクのワンピースを着ている。
 どうしても視線が膝から下にいってしまう。
「どこ見てるのよ変態」
 目を細くして見てくる。
 あれ、気づかれてる?
「どう?」
「どうって?」
「……バカ!」
「なんで!」
「知らない。そんなことより行きましょ」
 お前が言ったんだろ?
 俺の疑問も関係なしに歩きだしている。
 人を誘っといて先に行くのは、誘った意味を成していない気がする。
 歩きだして十歩程度のところでこちらを振り向いた。
「なんで立ったままなの」
 唇を尖らせて言ってくる。どう対応すればいいのかわからん。
「もう遅い!」
 足早に俺のところまで戻ってくると、左手を掴んで引っ張っられた。
 俺の手を掴んだまま歩きだす。
 俺はそのまま引っ張られて前に一、二歩と足が出ていく。
「わかったから手を放してくれ」
「ほんとにわかったの?」
 顰めっ面で俺を訝しそうに見つめる。
「何があっても今日は傍にいてやるから、早く放してくれ。痛いから」
「レンタル彼氏か」
 微笑みながらツッコミを入れてくる。
 なぜツッコミを入れてきたのか?
「いつかは……本物の彼氏にしてやるから」
「なんだよ文句あるのか?」
「えっ? い、いや……何にも」
 はて、何か呟いたような気がするが?
 気にしても仕方ないな。
 冬花に着いていくまま、公園を出て、交差点を抜け、舗道を歩いて、とあるショッピングモールに到着した。
 広いなぁ。
 外観だけでも壮観なのに中はもっと壮観で、至るところに店、店、店。あちらこちらに人、人、人。
「圧倒してるの?」
「圧倒じゃない、圧巻だな」
「どっちでも良いわよ」
 どこ行きたい、となぜか俺の要望を聞いてくる。
 誘われた側だからな、決めてもないし買いたいものもない。
 なんのためにショッピングモールに、と問われたらショッピングモールが好きだからです、と答えてやろう……誰も問わないか。
「いろいろ廻りましょうか」
「そうだな」
「剣志はショッピングとかよくするの?」
「俺がそう見えるか?」
 冬花は首を横に振る。
「それなら私が先導してあげる」
「先導者か……なんかカッコいいな」
「どうでもいいよ。それよりあのこと忘れてないわよね?」
 あのこと? なんも記憶ないけど。
「忘れてるなら後で教えてあげるわ」
「すごい気になるのだが」
「まぁ行きましょう」
 そして冬花に先導されるままモール内を歩き回って気づいた、冬花は何を買いに来たんだということに。
「何か欲しいものでもあったのか?」
 並んで歩く冬花にさらっと尋ねる。
「特に欲しいものとかはないよ」
 へ?
 じゃあなぜショッピングモールを歩き回ってるんだ?
「目的も無しにショッピングモール訪れるのは、暇人だけだぞ」
「私は暇人ではありません! あと欲しいものがないだけで目的はあります」
「なんだよ」
 呆れたようにため息つかれた。
「言えるわけないでしょ」
「さっきから隠してばっかだな」
「言えないことは言えないことなの!」
 なぜか顔を真っ赤にして怒られる。
「剣志だって人に言えないことくらいあるでしょ」
 女って難しいな、とつくづく思った。
「そうだねブティックで何か買ってもらおうかな」
「なんで?」
「約束通りでしょ」
 あぁそうだった。なぜ誘われたのか思い出した。奢るやらなんとかだったよな。
「はい、行きましょ」
 そして冬花が立ち止まったのは、 ある女性用服屋のようだ。
「ここでいいわ。剣志の財布が寂しくならないようにしてあげるわ」
 余計なお世話だ。
 広くない面積に商品を敷き詰めたような、そんなお店の第一印象だ。
 なぜショッピングモールの店内はどれも通路が狭いのだろうか?
「無理に並んで商品探すなよ。なんというか……窮屈」
「少しくらい我慢しなさい」
 そうは言われてもこの店、狭いのに人が多いのでこう冬花の体と微かに接触して、ちょっと緊張する。
 俺がそんなことを苦しんでるとは知らないであろう冬花は嬉しそうに色とりどりの服の山を物色している。
 これどうとか、剣志は貧乏だから選ぶのも大変とか、嫌味までこぼしていた。
「これなら値段的にもデザイン的にもまあまあね」
「おお決まったか。ならさっさと買ってやるから俺に渡してくれ」
「何を言ってるのよ、バカなの? 試着しないと似合うかどうかわからないでしょ」
 早くこの窮屈から脱したい。
 しかし冬花の楽しそうな顔を見ると、我慢しよう、と思ってしまう。
「あんたの感性できちんと判断してよ」
「おう、そうか」
 そう返すといそいそと試着室のカーテンを開けるとこちらを一瞥してから入っていった。
 そして俺の目の前でカーテンがシャアーと閉められる。
 似合ってるかどうかか、あいつならなんでも似合いそうだけどな。
 それから二分程度。
 今から見せるね、と中から着終わったことを表す声がする。
 入るときより大きくカーテンの音をたてて……あああ!
 マリンルックの下腹部が露になった上半身に華奢だが細すぎない綺麗な脚をほとんど素で出しているデニムのショートパンツ。
 冬花のスタイルの良さが一見でわかる。男子には心が躍動するというか……なんかもう二の句が継げない
「どう似合ってる?」
 似合ってるというレベルではない、見ちゃいけない気までしてきた。
 ほらそうして、はにかんだ笑顔とか、俺の魂をくすぐってくる。
「いざ着てみると少し恥ずかしいけど似合ってるならそれでいいかな……なんか喋ってよ!」
「ああっごめん。似合いすぎて」
「ほんと? お世辞で言ってたら怒るよ」
 直視するには輝きが強すぎる。
「ならこれでも買ってもらおうかな」
 もうすでに買わせる気満々だ。
 そういえば値段はいくらなんだろうか?
「二点合わせて五千円よ、お得ね」
 なに、五千円だと! 俺からしたらかなりの大金だぞ!
「なんでそんなに蒼白くなってるの?」
 顔を覗き込んでくる。
 不思議そうな顔で見ないで!
「だってよ……五千円だぞ。厳しい値段だなぁと思いまして……それでその」
 俺って情けねぇ。落胆だ。
 冬花は眉間に手を当てて呆れていた。
「私がバカだったわ、それなら……う~んあそこのランチ代でいいわ」
 店を出た通路の向かいにある定食屋を指差している。
 癪だな。
「なぁ冬花?」
「何?」
 これでは男としての面目がなくなってしまう。そうはなりたくない。
 だから言うのだ。
「また今度誘ってよ。バイト代が入れば俺だって十分な金額でお前に奢る、いやプレゼントしてやれるから……有り体に言えば、ちょっと待ってくれってこと」
「うっ……ウハハハ」
 堪えていたのか吹き出して、けらけら笑われる。
「そんなこと言う人いないよ、しかもバイト代入ればって、なにそれ?」
 なにそれってそのままだよ。
 腹を抱えてまだ笑いを堪えている。
 そしてやっと笑いがおさまったのか、ふぅと一つ息を吐いた。
「じゃあこれ元の場所に戻してくるね」
 そう言って、再び試着室に入り着替えを始めた。
 出てくると先程まで着ていたワンピースに身を包みながら、俺を見ることなく商品の置いてあった場所に向かった。
 その姿をぼんやりと眺めていると、冬花の姿が楽しそうに見えてくる。
 なぜだろうか?
 商品を戻してこちらに帰ってきた。
 俺の前に立つと次どこ行く、と聞いてくる。
「俺なんかと一緒にいて恥ずかしくないか?」
 ふとそんな疑問を投げ掛けた。
 冬花は少し考えて口を開く。
「私が楽しいから、そんなこと気にしなくていいよ」
 その返しに胸をつかれた。
 俺は冬花という人間の優しさを感じて、いつか冬花が助けを求めているときに俺が助けてやろうと心の中で決意した。なぜかって大切だから。
 大切な物がまた増えた。
 俺が大切にしようと思ったものは……跡形もなくなる。
 親友のれいみたいに突然いなくなってしまうんだ。
 でも俺は大切な物を増やしてしまう。
 守ることができないとわかっていて。

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