異世界から「こんにちは」

青キング

魔法使いが「こんにちは」2

 知らぬ間に脳が睡眠から活動へと転換しはじめてきている。
 重いまぶたをなんとか開いてみる。
 カーテン越しに日差しが眼を貫通し俺の寝ぼけた頭に刺激を加える。
 寝ぼけ眼のまま体を起こそうと手をつくがやけにズッシリと体が重たい。
 昨日苦悶しすぎて疲れたのだろうか?
 なぜか背中に違和感があるのだが、変な寝相だったのかな。
 重い体をなんとか起こすと背中の違和感がスッと無くなった。
 おぉー良かった気のせいだったのか。
 布団を片付けようと身を翻すと俺は目を丸くした。
 だって、別室にいるはずのリアンが俺の布団で幸せそうに熟睡してるんだよ!
 なぜこうなった?
 寝起きで記憶を辿っていく。
 う~ん記憶にない。
「待ってくだしぁいよぉ~うにゃうにゃ……」
 突然繰り出されるリアンの寝言にビクッとした。
 寝相がやけに可愛い反則だ!
 いかんいかん。リアンを起こさないと……しかし幸せそうな寝顔を見ると起こすのは気が引ける。
 自力で起きるまで寝かせといてあげよう。
 俺はリアンを残してカーテンの音をたてぬよう慎重に開けて、事前に用意しておいた衣服を持ち出して部屋を出た。
 着替えの最中に起きたらこちら的にも少し恥ずかしいので、リビングで着替えよう。
 リビングのドアを開けると、シュールな事態になっていた。
 ピンク髪の女の子がソファの隣で倒れているのだ。
 はじめは驚きと戸惑いで足が動かなかったが、状況を把握して女の子の所へ駆け寄る。まずは安否確認をしてから、ここにいる事情を尋問しよう。
「どうした!」
 体を揺すりながら意識があるかを確かめる。
「うっ……な、なんですか」
 微かに意識はある。
「痛いところはないか?」
 優しく聞いたが、返事はない。
「おい! 大丈夫か!」
 少し口調が強くなってしまう。落ち着け!
 どうすればいい?
 そうだ! 救急車だ!
 思い付いた時、ドアが開く音とともに眠そうにあくびしながらリビングにリアンが入ってくる。
「はぁ~おはようです太刀さぁん…シャマ!」
 リアンは女の子に気がつくなり、目を大きく見開きすぐに女の子に駆け寄り激しく体を揺らす。
「シャマ、どうしましたか。誰かに殴られましたか、毒リンゴでも食べてしまいましたか?」
「なんですかぁ? うん? リアン先輩!」
 女の子はリアンを確認すると、ボロボロ泣き出した。
 良かった、リアンの知り合いみたいだ。俺は胸を撫で下ろす気分になった。
「どうしたんですか、泣いて?」
 リアンが心配そうにピンク髪の女の子を見ている。
「大丈夫だと思いますけど……なんで私はこんなとこに?」
 まぁそうだろうな。
 女の子はリビングを一通り見回すと、俺を見つめてきた。
 えっなに?
「太刀先輩じゃないですか。どこで何をしてたんですか?」
 唐突で意味の不明な質問に動揺を隠せない。
 女の子の方は俺のことを知っているのか?
「ええと、君名前は?」
「うううひどいです!」
 えっえっちょちょ待って。
 女の子の瞳が涙で潤みだしてきている。
「太刀さん女の子を泣かすなんて悪人です!」
 なぜだ。知らないものは仕方ないだろぉー!
 涙目で俺を見つめてくる女の子が記憶の断片にいるような……少し思い出した気がする。ええとピンク髪の女の子かぁ、そうだ同じパーティーのシャマだ!
「リアン思い出したぞ。この子の名前はシャマだ!」
「さすが先輩です。ありがとうございます、正解したお礼に……」
 顔を少し紅潮させ上目遣いに俺を見据えてくると両腕を広げて、突然俺に飛び付いてきた。
 避けようと少し体を後ろに反らすと、逆効果になり飛び付いてきた勢いに押され倒れてしまった。
 ドダン、と床に倒れた衝撃の音がリビングに響く。
「やっと先輩に会えて嬉しいです!」
「だからって飛び付くなよ!」
 早く退いてくれ。
 状態が悪く、さらには床に倒れた衝撃で背中が痛い。
「不埒です! 破廉恥です! 太刀さんだって困ってますよ!」
 怒りか、恥じらいか、顔を赤くしてリアンは怒鳴った。
「本物です。触った感触があります」
「無かったら怖いだろ!」
「そこは関係ありません! 早く退いてください!」
 リアンは耳まで真っ赤に染め叫んだ。
「そもそも、なんでシャマさんはこっちの世界に来たんですか!」
 シャマの動きがその一言で止まった。
 そして、俺の上から退くとリアンの方に向き直る。
「私にもわからないんです。記憶がない、だから原因を知らないんです」
「記憶がないって、私も少しだけ記憶が抜けてるけど……」
 そこでリアンの言葉は途切れた。
「どうやって来たのか、なぜ来れたのか、なんのため来たのか、どれもこれもわからないんです!」
 本音だろう。それを吐露しても現状は変わらない。
「これからどうすればいいんですか!」
 どんどん声のボリュームが大きくなっていく。
 苛立ちなのか歯を食いしばる。
「シャマに詳しいことを聞いていいか? 
 顔をこちらに向くと、なんですか、と涙目ながらに言う。
 実に愁傷に思ってしまう。
「記憶がないってどこから無いんだ?」
「あっ、そういうことですか。どこからって自分の家に入ったところから」
「リアンは?」
「ええっ私ですか? そうですねぇ太刀さんが岩穴に入っていったので、それに着いていったところから。あぁでも太刀さんがリアンも来いよ、って促してくれたんですよね」
「何を言ってるんだ。俺そんなこと覚えてないぞ?」
 微妙に異なりがある。
 山林に入ったところまでは夢で見たが……岩穴? 
「う~んなんか変ですね?」
 リアンは首を傾げて考えだした。
「多分記憶がないだけですよ」
 一言に俺とリアンはシャマに目を遣る。
 不思議に思わないのか?
「だってリアンは私達と太刀先輩を捜しに山林に入ったじゃないですか」
「私そんな記憶ない」
 目を丸くしてシャマを見つめるリアン。
 各々の記憶が間違っているのか?
「まだあっちにブルファとワコーとマークスが残ってるんです。早く戻らないと三人が心配です」
 シャマは視線を落とす。
 俺にとってまず、なんで夢の世界から人が出てくるのか、だ。
 ほんとに俺の夢の異世界はあるのか?
 でももし、そうだとしたらどこにあるんだ?
 さらには実はあっちが現実でこっちが異世界なのかもしれない。
 そうなると俺達は異世界転移したということになるわけだが、なぜ三人ともリビングなんだ?
 数多くの疑問を残していることに気づかされた。
 もう自分がどっちの世界の人間なのかすら疑心を持つよ。

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