異世界から「こんにちは」

青キング

猫の恐怖にメールアドレス

 快晴の下、一人で堂々と登校する。
 これが俺の人間関係を表していることは一見してわかるだろう。
 そう、俺は友達がいない!
 一年生の頃は一人親友がいたのだが忽然と姿を消してしまったのだ。
 その真相は未だに解決できていない。
 俺は今でもそいつの帰りを待っている。
 それにしても朝から魔女の使いとして知られている黒猫に睨まれるとは不吉な。
 先程、玄関を出た真ん前で俺を待っていたかのように座っていて、俺と目が合うと凄むように鋭く睨み付けてきた、そしてほんの三秒で道路へ走って姿を消した。
 その眼がなんとも恐ろしく俺は半歩後ずさったほどだ。
 こうして歩いていても何十匹の猫が俺に視線を向けている気がする、怖いよ。
 野良猫だらけな気がする。
 そうこうしているうちに学校に到着。
 考えすぎだ、と自分に言い聞かせて校門をくぐった。
 いつもこの時間はランニングをしている野球部が部員集まってしゃがみ地面を凝視している。
 背中姿しか見えないが、様子がいつもと違うので興味で近づいてみる。
 えっ嘘。
 野球部員が囲い集まっていた中心の輪の中にこれまた猫。
 グレーとブラックの縦縞が等間隔に並んだ小柄な猫。
 野球部員はそれに癒されているのだろう、顔が緩んでいる。
 やっぱり何かが起きる予兆だ。
 猫と目が合うなり恐怖を感じ俺はその場を駆け出し教室に直行した。
 下駄箱で上履きを取りだし、それに履き替え教室に向かう。
 階段を昇り、廊下をどんどん進んでいく。
 教室に早足で入室すると心中で安堵した。
 ここなら猫もいないはずだ。
 それも束の間、教室の中央で灰色の猫が一匹机の上に横たわっていた。 
 そしてその周りをクラスメイトが囲んで猫に触ったり、可愛いなどと平和なことを言ったりと、陽気で穏やかな空気に包まれていた。
 なせだ! と問いても答えは知らない。
 ただ、呆然と立ち尽くすことしか体ができなくなっている。
「お、おはよう剣志」
 後ろから声をかけられ顔だけ向けると、冬花がこちらを不思議そうに見つめていた。
「剣志、顔から汗が流れてるよ。それも際限なく」
 誰でもいい、話を聞いてほしい。
「ちょっと話がある着いてきてくれ」
 俺は冬花の手を許可なく掴み、皆の居なさそうな場所へ連れていくことにした。
「ととと突然何!」
 困惑する冬花の問いに答えることなくどこなら人が居ないかということで頭が一杯だった。
 人の居ない場所は見つからず結局、屋上前の階段にした。
「ななな何よ、こんなとこに連れ出して」
 なぜか顔を赤くしている。
 俺は自分の落ち着かせるのに、手一杯で深呼吸をしてみた。
「どうしたのよ、顔色悪いじゃない」
 深呼吸を続けて呼吸を整え、俺は切り出した。
「冬花に聞きたい、何か変わってないか」
「えっ、私何も変えてないけど……」
「そうじゃなくて!」
 強めに否定したからか少し冬花が体をのけ反らしたので怖がらせたと思い、ごめんと一言謝ってからもう一度詳しく聞き直す。
「街が変わったとでも言うか、異変が起きてるような」
「それは私も少しだけ気がかりなの。猫が突然増えた感じがするんでしょう、私猫アレルギーだから災難だった」と半笑いで言う。
 良かった同じ感覚をしている人がいて。
「それがどうかしたの?」
 真剣な面持ちで聞いてくる。
「どうかしたとか、そういうことじゃなくて皆気にせず触れあってるから」
「でもきっと思い込みだよ。あのよく言う錯覚ってやつだよ」
 なんで皆恐怖を覚えないんだ。
 どういう思考なら皆みたいに何もかもを怖がらず受け入れられる?
「ねぇ、剣志」
 俺は冬花に迷惑はかけられないと教室に戻ろうとしたとき声を掛けてくる。
 視線を向けたり逸らしたり繰り返して何か言いたそうにしている。   
 顔を赤らめて言った。
「この前の弁当の約束、覚えてる?」
 あ、あれか。何か奢るとかなんとかだっけ?
「覚えてるなら次の日曜、買い物付き合ってもらって……」
 そういうことか。それならいっそのことこうしてしまおう。
 スマホをポケットから取りだす。
「メールアドレス交換しようぜ」
「いいの!」
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「嬉しくなんかなもん!」
 そっぽ向いてしまった。
「そっちから頼んでくるとは思ってなかった」
「こっちの方が手っ取り早いからな。すぐに情報交換できる」
「情報交換……」
 なんで突然暗くなってるんだ冬花?
「交換終えたから私先戻ってるね」
 目を鋭くして俺を睨む。なんで怒ってるんだ?
 バカ、と小声で言うとそっぽを向いて無造作に胸ポケットにスマホを戻すと何かぶつぶつ呟きながら行ってしまった。
 どこに怒る要素が?
 自分のスマホの画面には新しい名前が。
 冬花。そして、消えてしまった友人。
 その二名しかメールアドレスが登録されていない。
「俺も教室戻ろうかな」
 思わず寂寥の感を身に染みて感じるのだった。   

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