それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第六十七話 まだあと一人の仲間が見つかってないです!

 困ったことになったです。

「決闘の日時は明後日の正午。場所は我がファウルダース家の所有する小闘技場ですわ」

 次の日の早朝、いつも通り文字通り勇者様を叩き起こしていたら、いきなりリリアンヌさんが押しかけてきてそんなことを言ったです。

「別に逃げても構わなくってよ? その場合、このボロ宿はしっかり取り壊してカフェにさせていただきますわ」
「どうしてカフェなんですか? ここって大通りからも外れてるですし、あまり集客は見込めない気がするです」
「あたくしの夢ですの。こういう静かな場所でオシャレなカフェを経営することが。もちろん、売上を度外視などしていませんわ。安らぎと寛ぎをお求めになるお客様、近隣住民の憩いの場、軽食をテイクアウト可にすればお仕事前などでお時間のない方でも立ち寄り易くなりますわね」
「……夢、ですか」

 夢ならわたしたちだって同じです。そうなるとリリアンヌさんも言葉で説得されることはないと思うですね。だから彼女は早々に決闘と言い出したのかもしれないです。
 チラリ、とリリアンヌさんがベッドの方に視線を向けたです。

「ところで、彼はまだ寝ていますの? 来客中に失礼ではありませんこと?」
「勇者様いい加減起きろです!?」
「問題ない。起きているし聞いている。そのまま話を続けてくれて構わない。オフトゥンに包まることこそ俺の世界では最大限相手を敬っている姿勢である!」
「嘘つけです!?」

 どんな世界でも絶対馬鹿にしているって捉えられるポーズです!

「さっさと起きないと痛い目見るですよ!?」
「待ってエヴリルさん神樹の杖はらめもう痛い目見てるからってなんかいつもより激し――あっ、あぁああぁあああぁああぁあああああッ!?」

 それからわたしが心を鬼にして神樹の杖を乱打している間に、なぜか顔を青ざめてドン引きしたリリアンヌさんはそそくさと退散して行ったです。「鬼神が、鬼神がいますわ……」って呟きが聞こえた気がするですが、なんのことですかね?


 勇者様を叩き起こボコボコにした後は、軽く朝食を取ってからギルドに向かったです。
 お仕事ももちろんですが、まずなにより早急にもう一人のメンバーを集めないといけないですからね。
 ギルドで合流したヘクターくんによると、ファウルダース家が雇っている元冒険者は最低でも星四つだったベテランばっかりだそうです。普段からギルドにいる連中は最高でも星三つ。勇者様みたいにランクと実力が必ずしも一致するわけではないですが、少々不安ですね。

「なんだなんだ帰宅勇者、珍しく喧嘩か?」
「決闘を見世物にしようったぁ景気のいい話だな、ガハハ!」
「エヴリルちゃん! ぼぼぼぼ僕でよければ一緒に戦うよ!」
「そんなことより一緒に飲もうぜ帰宅勇者!」

 毎度のごとく朝っぱらからお酒臭い筋肉チームにも声をかけてみると、割とすんなり力を貸してくれそうですがやっぱりこの人たちはなんか生理的に無理です。いい人たちではあるんですけど……なんか無理です!

「そんなに酔ってて戦えるのか、あんたら?」
「あたぼうよ! 寧ろ酒が入ってなけりゃ戦いなんてできやしねえ! ……おっとジョッキ落とした」
「もう帰れよ手元覚束なくなってんじゃねえか!?」

 これで全員星三つの冒険者というから驚きです。
 筋肉チームは最悪集まらなかった時の最終手段にしておくです。

「兄貴、エヴリルさん、やっぱりここはお金を払って依頼という形で募集した方がいいのでは?」

 ヘクターくんがもっともな提案をしてきたです。冒険者が冒険者に依頼を出すということは別に珍しくないらしいですから、規則的には問題ないです。ただ一度受けた依頼が手に負えなくてヘルプを募集すると、腰抜けだと軟弱者だのといったレッテルを貼られてしまうですが……今回はそういうわけでもないです。

「星四つ以上の冒険者と決闘してくれなんて依頼、誰が受けるんだよ。依頼として出す以上、勝ってもらうこと前提だぞ。俺なら帰る。負けてもいいので~、なんてするならそれこそ誰でもいいわけだ」
「そうですね。わたしも勇者様と同意見です」

 ぶっちゃけ、勇者様は心配いらないとしても、わたしが勝てる自信ないですからね。もう一人には絶対に勝ってもらいたいです。

「話は聞かせてもらったぞ、勇者殿!」

 とその時、ドバン! と勢いよくギルドの扉が開いて銀髪の女騎士様が威風堂々と入り込んできたです。
 ていうか王女様です。

「ファウルダース商会と決闘をするのだろう? ならば私を使うがよい! あそこには腕の立つ護衛が多いと聞く。是非とも手合わせ願いたいところだ!」
「王女様また抜け出してきたですか!?」

 この人どうしてこんなに自由人なんですか!

「というかまだギルドの中でしか話をしてないのにどうして知ってるですか!?」
「フッ、筋肉に問えば、全てを答えてくれる」
「そういう超理論の展開はお腹いっぱいです!?」

 王女様に決闘をさせるなんてことできるわけがないです。勇者様からもなにか言って……っていないです!? もしかしていつの間にか〈凍結〉させられて、勇者様またどっかに隠れやがったですね!?

「あの、ラティーシャ様」

 わたしが目を鋭くしてギルド内を見回していると、ヘクターくんがおずおずといった様子で王女様に進言したです。

「その、今回は冒険者・元冒険者同士の決闘という体ですので、参加するには冒険者になって一時的に兄貴のチームに入ってもらう必要があります」
「む? そうか。ならばそうしよう」

 王女様に迷いはなかったです。

「なりませぬ!!」

 再びドバン! とギルドの扉が吹き飛ぶ勢いで開いたです。
 そこからサイラス将軍が大勢の兵士さんを引き連れてギルドに入ってきたです。

「王女殿下! あなたはいい加減ご自分の立場を理解していただきたい! ただでさえ今は例の件で忙しいというのに、あなたを連れ戻すだけで大量の兵士を導入しないといけないのですよ!」

 例の件……脱獄の件ですね。

「いや、だが、勇者殿も困っているようだし……」
「困るのは我々です! 超困るのです!」
「ぐぬぬ……ならば腕相撲で勝負だ」
「その手には乗りませんよ。――王女殿下をお連れしろ」

 兵士さんたちが将軍さんの命令に従って王女様を取り囲んだです。暴れようとする王女様を物量の力でどうにか抑え込んでギルドを出て行ったです。

「待て! 私も! 私も決闘がしたいのだぁあああああああああああっ!?」

 ギルドの外から王女様の悲鳴。最後に将軍さんが「お騒がせしました」と頭を下げて辞去したです。
 まるで犯罪者のように連行されていった王女様に、ギルドのみんなはポカーンとした様子でしばらく扉を見詰めていたです。

「最近あいつあんな役ばっかりだな」

 いつの間にか勇者様が戻ってきていたです。干し肉を齧っているところを見るに酒場の方に隠れていたですね。

「正直、王女様が仲間になってくれたら心強かったですね」

 文字通り千人力な怪力を誇る王女様なら星六つの冒険者とも渡り合えそうですし。

「まあ、しょうがないだろ。なんかもうどっと疲れたな。よし今日はもう帰ろう」
「まだあと一人の仲間が見つかってないです! あとちゃんとお仕事もしてから帰るですよ!」
「なん……だと……?」
「どうしてそんな意外なモノを見たように目を見開くですか!?」

 わたしが神樹の杖を振り被ると、勇者様は反射的に手で頭をガードしたです。
 その時――

「なんじゃさっきの騒ぎは? 兵士が誰かを連行していたが、犯罪者でもおったのかや?」

 王女様を連行した兵士たちと入れ替わりに、蓬色のローブを纏った魔導師っぽい女の子がギルドにやってきたです。

「イの字、エの字、宿におらぬと思ったらやっぱりここじゃったか」
「え? ヴァネッサさん、どうしてここに?」

 彼女はヴァネッサ・アデリーヌ・ワーデルセラムさん。
 わたしの病気を治してくれたお医者様です。ツインテールに結った鳶色の髪。歳や背はわたしと同じかちょっと高いくらいですが……ぐぬぬ、なんでそんなに一部が隆起しているですか。地母神教会だから豊満だとでも言うんですか?
 ヴァネッサさんは、わたしの質問に対してここぞとばかりに掌を顔に被せて変なポーズを取ったです。

「クックック、決まっておろう? 先日の対価をいただきに来たのじゃ。そう、お主たちの命で――」
「ああっ! そう言えばまだお支払いしてなかったですね!」

 宿のことがあってすっかり忘れていたです。台詞を遮られたヴァネッサさんは面白くなさそうに唇を尖らせ――

「……あとお主の再診じゃ。ここにおるということは大丈夫そうじゃが、体調よく感じていても完治しているわけではないからの。ぶり返しても大変じゃ」
「あ、ありがとうございますです」

 そうですね。ヴァネッサさんの言う通りです。治ったばかりで油断していたら痛い目を見るですよ。

「昨日は大人しく寝ていたか? まさかギルドの仕事をやったりしておらんだろうな?」
「……」

 わたしは全力で明後日の方向を見たです。

「イの字、ヘの字、なぜ止めなかったのじゃ!」
「俺はいつも止めてるよ! 無茶は体によくないし今日はやっぱり早退しようと思います」
「えっと、オレはヴァネッサさんが許可したものだとばかり……」
「勇者様は帰りたいだけです!? だから今帰ったらあと一人が見つからないですよ!? 決闘は明後日なんですから!?」
「あと一人? 決闘? なんのことじゃ?」

 キョトンとするヴァネッサさん。そういえば、彼女は魔導師としても優秀だと聞いているです。
 仲間になってくれないですかね?

「実は――」
「やめろエヴリル!? こいつはマズイ!?」

 勇者様が咄嗟にわたしの口を塞いでしまったです。なにするですか! ともごもご言っていると、ヴァネッサさんが石の杖で勇者様の頭を叩いたです。
 ゴッ! ととても鈍い音がしたです。

「これイの字! 決闘などというステキワードが聞こえたからには詳細を聞かねば帰るに帰れぬぞ!」
「帰ればいいと思うピィヨ……」

 頭に大きなコブを作って大の字に倒れた勇者様は、ヒヨコとお星様がぐるぐるしているようだったです。石は……痛いですよね、そりゃあ。

 そうして結局、勇者様がノビている間に粗方説明させられてしまったです。

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