それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第五十八話 どっかに腕のいい医者とかいないか?

「帰りたい」

 宿を出て開口一番に呟いた俺の言葉に、今日はツッコミを入れてくれる相棒がいない。

「……むぅ」

 そこはかとない淋しさを覚えつつ、これ幸いと我が家のオフトゥンに潜り込みたい衝動をぐっと我慢しつつ、一歩歩くごとに重たくなっていく足を前に前にと進めていく。くっ、このままだと職場に着く前に自分の重さに堪えられなくなっちゃいそうだ。

 頑張れ、俺。
 今日は仕事に行くんじゃない。医者を探しに行くんだ。

 あ、なんかそう考えたら足が軽くなったぞ。そうかこれが『物は考えよう』って言葉の意味か! 例えば学校に行くにしても『勉強するため』じゃなくて『友達とだべるため』って思えば……俺、だべるような友達いねえや。毎日同じ帰りたい病の親戚たちとつるんで近寄るなオーラを出しつつ帰宅してたもんな。なんて青春!

「よぉ! 帰宅勇者! お? 今日は一人か?」
「珍しいじぇねえか。まあ、その景気の悪ィ面はいつも通りだがな! ガハハ!」
「エヴリルちゃんは!? なんでエヴリルちゃんいないんだ!?」
「おぅ、嫁がいねえなら今日は存分に飲めるんだろ? こっち来いよ」

 ギルドに到着すると、もはや見慣れた筋肉グループの飲み会から声がかかった。相変わらず朝から飲んだくれてやがるよ。アレかな? やっぱり夜勤明けでそのままずっと飲んでんのかなこいつら?

「なあ、お前ら……」
「「「「んあ?」」」」
「……」

 酔っ払って真っ赤になった顔とトロンとした目が一斉に向けられ、俺は言葉に詰まった。こいつらに医者を紹介してもらえないかと思ったが、やめた方が賢明な気がする。筋肉御用達の医者なんて紹介された日にはエヴリルさんがマッチョになっちゃう! そんなのエヴリルちゃんじゃないやい!

「や、なんでもない。あんまり飲みすぎんなよ帰れなくなるぞ」

 そう言って適当に話を切ってから、他の知り合いを捜す。もう少しマトモな奴をな。
 まあ、顔見知りならだいたい全員そうなんだが、よく考えたら俺に親しげに話しかけてくるような奴らってあの筋肉どもくらいじゃないか? あれ? そう思うとあいつらがいい奴らに見えてきた。いかんいかん。ただの酔っ払いだ。

「兄貴! こっちです!」

 すると、ロビーの椅子に座って手を振りつつ声をかけてくれる奴が! なんていい奴! と思ったら俺のもう一人のパーティメンバーだった。

「ヘクター。そうだ、お前がいたな」

 ヘクター・マンスフィールド――俺を兄貴だと呼ぶ自称舎弟のイケメンお金持ちだ。最近家の方が忙しかったみたいで一緒に仕事してなかったから忘れそうだったよ。

「あれ? エヴリルさんは?」
「ああ、なんか風邪引いたみたいでな。羨ましいことに」
「え? エヴリルさん風邪ですか?」

 ちょっと心配そうな顔になるヘクター。それから恐る恐るといった様子で俺に訊ねてくる。

「あの、いいんですか兄貴? エヴリルさんの看病してなくて」
「するつもりだったんだけど、なぜか追い出されたんだ」
「兄貴の看病が下手すぎていない方がマシだったとか?」
「バッサリ言ってくるねチミィ。まあでも、そうかもしれん。俺は自分がビョーキしたことないから、病人の気持ちがわからないんだ」

 おたふく風邪や水疱瘡なんてものも迷信だと思っています。世の中にあるビョーキは帰りたい病と仮病だけです。少なくとも、俺は。

「ヘクター、どっかに腕のいい医者とかいないか?」

 そんなわけで、こればっかりは医者や薬剤師なんて職業を模倣したところで俺には使いこなせない自信がある。多少金がかかっても経験を積んだ専門家に任せるのが一番だ。

「でしたら、うちでよくお世話になっている医者兼薬剤師の方なら紹介できますよ」
「頼むよ。大富豪御用達なら信頼でき……いや、でもお前んとこかぁ」

 類は友を呼ぶという言葉がある。
 イケメンの癖に子分気質なヘクターもそうだが、特にこいつの父親が厄介すぎる変態だ。その医者兼薬剤師がお面を被って出てきたら俺は迷わず回れ右します。

「その医者、大丈夫なんだろうな?」
「腕は確かですよ」
「いや、腕じゃなくてその、性格とか趣味とか」
「あー」

 おや? ヘクターくんが遠い目になったぞ。これは関わっちゃダメそうなタイプかもしれん。やめとこうかなぁ。

「お面被ってたり、変な薬を開発して他人を実験体にしちゃったりするのかな?」
「あ、そういう方向の心配だったら大丈夫です。親父みたいな変態ではありません。ちょっと気難しい感じってだけですかね」

 大商人さん、息子に変態って言われてますよ。
 でも俺ってば頑固ジジイも苦手なんだよな。あーいう人って説教大好きすぎるでしょ。なにかにつけて説教したがる。しかもいちいち長いんだよ帰りたい。

 まあいいさ。会うだけ会ってみよう。

「じゃあヘクター、その人、紹介してくれ」
「わかりました。あ、ギルドの仕事はどうします? 兄貴にピッタリな感じのをいくつか見繕ってましたが」

 ヘクターがいくつか依頼書を見せてくる。どれも☆☆☆以下の依頼だ。ヘクターさんわかってらっしゃる。いやホント。
 近場での討伐系が多いな。採取系もあるが、そういうのはエヴリルがいた方が捗る。

「キープで。パーティメンバーが寝込んでる時に呑気に仕事なんてできないよね。うん」
「やっぱり兄貴は優しいですね!」

 君は俺に優しいよ、ヘクターくん。
 俺に厳しいエヴリルさんだったら、今の発言だけで神樹の杖だったろうね。

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