それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第五十四話 この報酬はそう使うのがベストです!

 ぐつぐつ。ぐつぐつ。

「あっふ」

 お風呂に入ってスッキリしたわたしと勇者様は、宿の共同食堂でぐつぐつに煮えたお鍋を囲んでいたです。中身はスライム討伐の帰りに勇者様に買わせたちょっとお高めのお肉やお野菜。霜降りの牛のお肉は口に入った途端に蕩けちゃうです。根野菜や葉野菜もスープの旨味がたっぷり染み込んでいて思わずほっぺが緩んでしまうですね。

 うまうま。
 温かくて、幸せの味です。

 お鍋なんて久々ですね。村では年に一度家族で囲んで食べる御馳走だったです。そういう意味ではわたしと勇者様しかいないからちょっと寂しいですね。王女様も食べていけばよかったですのに……まあ、将軍さんに見つかって引きずられて帰ってしまったので仕方ないですが。

「そうだ、ベッドを買おう」
「いやいや勇者様、どうせならもっといい宿に引っ越してはどうでです?」

 そしてわたしたちは今、お鍋をつつきながら王女様からいただいた報酬の使い道について会議しているです。

「なるほど、確かに生活環境をよくするためにボロ宿を出て行くのも悪くはない選択だ。いい宿ならばわざわざ買わなくとも備えつけで高級なオフトゥンもあるだろう」
「ですです」
「だが、エヴリル、本当にそれでいいのか?」
「えっ?」

 勇者様は意味深にそう言うと、お肉を葉野菜で巻いて口に入れたです。いいもなにも、わたしはさっさとこのボロ宿を出たかったです。もしかして勇者様は、今まで生活したこの宿に思い入れとかあるんですかね?
 そう思ったですが、違うようです。

「あの脳筋王女はまた来るぞ。今日の特訓も途中で終わったようなもんだしな」

 特訓も一回だけじゃ特訓にならないですからね。それに今回の報酬には今後の分も含まれていたです。一回だけだといくらなんでも貰い過ぎですしね。

「だったら尚更です。王女様をこんなボロ宿に入れるなんてとんでもないです」
「じゃあ訊くが、俺の部屋の鍵はどこに行ったと思う?」
「……」

 わたしはそっと勇者様から目を逸らしたです。お肉美味しいです。

「わかったようだな。もし高級な宿に引っ越して、そこでラティーシャが鍵どころか触れたもの皆壊してしまったら……報酬なんて軽く吹っ飛ぶぞ」
「いや、そうなったら王女様が悪いわけですから、わたしたちが弁償するなんてことにはならないと思うです」
「本当に?」
「……なんやかんやでわたしたちが払うことになりそうですね」

 世の中、理不尽ですから。

「まあ、隠れるって意味でも住処を移動するのは悪くないんだが……俺やエヴリルの『気』を覚えられちまったからどこに隠れても無駄だろうな」
「ああ、あの筋肉反応とかいうやつですね」

 勇者様はなぜか理解があるようですが、わたしには未だにさっぱりな超感覚です。

「俺の親戚の知り合いにも変態的な筋肉フェチがいて、どうやってんのか狙った獲物のプライバシーを悉く暴いてたりしてるんだが、なんかそれに近いものを感じる」
「それはそれで王女様に失礼な気がしてきたです」

 流石の王女様もそこまではやらないと思うですよ。あの人がやりたいことは勇者様との特訓だけのようですから。

「だから、もう俺たちは引っ越さなくていいと思うんだ」
「でも勇者様、やっぱりいくらなんでもこのままボロ宿にいつまでも住むのはちょっと嫌です」
「俺はオフトゥンさえあれば牢獄だって楽園です。帰る場所です」
「それは勇者様だけです!?」

 牢獄に帰るってどういうことですか? 前科何犯する気ですか勇者様?

「というわけで、この宿を買い取ろう」
「……へ?」

 ちょっと根野菜がほくほくすぎて勇者様がなにを言ったのか聞き取れなかったようです。

「勇者様、なんて?」
「宿を買い取るんだよ。買い取って好きに改築すればいい。それくらいの金は貰ってるんだからな。幸いここにはもう俺たちしか住んでないわけだし、職場ギルドからも近い」

 この宿を買い取る。
 その発想はなかったです。確かにここにはもうわたしたちしかいないですし、これから店子が増えるとも思えないです。わたしたちがいなくなれば潰れるのは目に見えているです。というか大家さんも、先月お家賃を支払った時に管理が難しくなってきたからもう辞めたいとか手放したいとか言ってたですね。その時はわたしたちの住む場所がなくなるので必死に説得したですが。

「なるほどです、そういう手もあるですね」
「なにより今さら引っ越しとかめんどくさい」
「本音はできれば隠して欲しかったです」

 かくいうわたしも市街や高級住宅地にある宿から毎日ギルドに通うのは億劫です。安くて近い。今にして思えば、ここって割といい物件だったですね。

「とにかく、買い取ってしまえば家賃も払わなくていい。真の意味で俺たちのマイホームになるわけだ」
「マイ……ホーム……」

 わたしと、勇者様の。
 二人だけの、お家……えへへ♪

「いいですね。いいですね勇者様! 是非そうするです! この報酬はそう使うのがベストです!」

 思わず興奮して鼻息を荒げてしまったですが、勇者様はその反応待っていたとでも言うように水の入ったコップを差し出してきたです。

「お、エヴリルも乗り気になったな。明日さっそく管理人に交渉しよう」
「はいです!」

 わたしも同じようにして勇者様のコップと軽くあてるです。キンと透き通った音。夢のマイホームにカンパイです。

「そしてオフトゥンを買いに行こう!」
「それは後です! 宿を買い取るなら他にやることいっぱいあるはずです!」

 さあ、忙しくなってきたですよ!

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