それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~
第四十七話 なんで王女様がここにいるですか!?
朝です。
今日も朝が来たです。
朝と言えば、わたしが一番苦労する時間帯です。いつもいつもいつも毛布に包まってベッドにしがみついて離れない誰かさんを叩き起こさないといけないですからね。
まったく勇者様はわたしがいないとダメダメなんですから! わたしがいないと! わたしが……い、いえ、別にこの朝の行事を楽しんでいるなんてことはないですよ?
「勇者様、朝ですよ! 入るですよ!」
反応なんてないってわかっているですが、一応他人の部屋に入るわけですからね。ノックと声くらいはかけないと失礼です。
わたしが強制的に作らせた勇者様の部屋の合鍵を取り出すです。合鍵を作って間もなく勇者様がこっそり鍵を変えようとしたことがあったですが、もちろん許さなかったですよ。ふふふ、わたしの目が青い内はそんな勝手な真似なんてさせないです。
「あれ?」
合鍵を鍵穴に挿そうとして、わたしは異変に気づいたです。
鍵穴が、ないです。
あ、違うです。勇者様が溶接して鍵穴を塞いだとかではなく、ドアノブ自体がなぜか綺麗に消失していたです。
ノブのないドア……え? どういうことです? ドアノブ泥棒? なんですかそれ?
「ドアは……開いてるですね」
ドアノブがあった場所の穴に指を引っかけてみると、ドアはすんなりと開いてくれたです。鍵ごとドアノブが消えてるので当然と言えば当然ですが……。
まあいいです。勇者様に訊けばわかることです。今度はなにを企んでいるか知らないですが、このわたしから逃れられるとは思わないことですよ、勇者様。
「ほーら勇者様! 朝ですよ! 起きてくださいです!」
わたしは真っ直ぐ勇者様が寝ているベッドまで歩いて行くです。ベッドの上にはこんもりと毛布が膨らんでいるです。まったく、この前は一度だけわたしが来るより早く起きてくれていたですのに、あの時のやる気はどこに行ったですか?
「勇者様! さっさと起きて朝ごはん食べて仕事行くです!」
いつもならここでグズグズと意味不明な弁論を述べてくる勇者様ですが――
「……」
今日は、なんか返事がないです。
「勇者様、寝てるですか?」
珍しいです。勇者様はベッドから離れないだけで、なんやかんや呼びかけたら起きてることが多い……ていうか、ほとんどです。それなのに今日は寝てるですか? 余程お疲れになることが最近あったですかね?
先日の結婚式を思い出すです。ダイオさんから熱烈なラブコールをされていたですが……まあ、それは関係ないですね。
「勇者様、もしかして具合が悪いですか?」
ちょっと心配になってくるです。でもよく考えたら重度の帰りたい病患者はどういうわけか風邪なんて引かないです。病気したいと思っているから病気しない。そんなわけわからん理屈を勇者様は語っていたです。
もぞっと。
今、勇者様が動いたです。なんだかわたしの存在が煩わしいって感じの動き方だったです。ちょっとイラッと来たですよ。
「病気でもなんでもとりあえず一度起きてくださいです勇者様ぁあッ!!」
バッ! とわたしは毛布を掴んで引っぺがしたです。まだです。続いてベッドの上で丸くなった勇者様を蹴り落すまでが一連の流れです。
「勇者様覚悟してくだ……えっ?」
ベッドの上の勇者様を蹴り転がそうとした足が止まったです。止めざるを得なかったです。
だって、そこに寝ていたのは綺麗な銀髪の女の子だったですから。
「えっ? あれ? えっ?」
困惑するです。すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てているのは、どこからどう見たって勇者様ではありませんです。わたしより少し年上の女の子。ほとんど下着姿と言ってもいいあられもない格好をしているです。健康的な白い肌に、スレンダーながらもたっぷり膨らんだ胸とお尻。むむむ、けしからんです。
そうじゃなくて!
「ご、ごごごごごめんなさいです!? お部屋間違えてしまったようです!?」
なんたる失態! 勇者様の部屋を間違えるなんて! わ、わたしが寝惚けていたんですかね?
何度も何度も頭を下げるわたしに、銀髪の女の子は眠い目をこすりながら体を起こしたです。
「んむ~……ああ、エヴリル殿。おはよう、よい朝だな」
「ごめんなさいです!? ごめんな…………ん?」
なんでこの人、わたしを知ってるです?
そういえば、今この宿にはわたしと勇者様しか店子はいないはずです。ちょっと前までヘクターくんも部屋を借りたままにしていましたが、少し前に引き払っていたです。
新しい住民が来たなんて話は聞いてないです。
女の子は翠色の瞳をきょとんとさせて――
「マジマジと私を見てどうしたのだ、エヴリル殿? ああ、すまないがそこの鎧を取ってくれないか?」
「鎧?」
女の子が指差した方向を見ると、部屋の隅に安宿には似つかわしくない高そうな白銀の鎧が置かれていたです。さらに全長が床から天井にまで届きそうな大剣が物騒にも壁に立てかけられていたです。
色白の肌に翠色の瞳、長くて綺麗な銀髪、そして白銀の鎧と大剣。全てのパーツがわたしの中で一つに合成されていき――
「……」
「……」
「……」
「……」
「ほわぁああああああああああああああああああああああああああっ!?」
女の子の正体に気づいたわたしは、もう目玉が飛び出て世界を一周しそうなほど驚いて腰を抜かしたです。
「そ、そのように悲鳴を上げられると少し傷つくのだが……」
「な、ななななななんで王女様がここにいるですか!?」
この国――グレンヴィル王国の第一王女。ラティーシャ・リア・グレンヴィル様。
そんな普通ならお目にかかることすら奇跡なお方が、こんないつ潰れてもおかしくないあばら屋にいるなんてあり得ないです!
でも、現実に目の前にいるお方は間違いなく王女様です。
「勇者殿に用事があったのだ。それで訪ねてみると鍵がかかっていたので、開けて部屋に入ったのだが」
「どうやって開けたですか!? ドアノブ消えてるですよ!?」
「勇者殿はまだ寝ていてな。起こそうにもベッドから頑なに離れなかったのだ。なにやらベッドについての良さを延々と語られた」
「いつもの勇者様ですね」
「それほど気持ちのいい物なら私も是非体験してみようとお邪魔してみたのだが……ふむ、いつの間にか眠ってしまっていたようだ」
「ふむ、じゃないですよ王女様!?」
この人、つまり勇者様とお、同じベッドで寝たってことですか!? 一国の王女様がなんてことしてくれちゃったんですか!? わたしだってまだ一緒に寝たことないですのに!? この王女様には危機感ってものがないですかね!? 馬鹿じゃないんですかね!? そういえば脳筋さんでしたね!?
もちろん、そんなことは口が裂けても直接言えないですが……。
「ちょっと待ってくださいです。それなら、勇者様はどこに行ったですか?」
ベッドの上には王女様しかいないです。
「ん? 私が勇者殿のベッドに潜り込んだ時はまだいたはずだが……」
王女様は不思議そうにきょろきょろしたです。そしてなにかを見つけ、ちょいちょいと手招きでわたしを呼んだです。
「エヴリル殿、こちらだ」
そう言われてベッドの反対側を覗くと……。
「床冷てぇ……」
そこには、泣きながら床で丸くなっている勇者様の憐れな姿があったです。たぶん、眠っちゃった王女様に蹴り落されたんだと思うですね。
今日も朝が来たです。
朝と言えば、わたしが一番苦労する時間帯です。いつもいつもいつも毛布に包まってベッドにしがみついて離れない誰かさんを叩き起こさないといけないですからね。
まったく勇者様はわたしがいないとダメダメなんですから! わたしがいないと! わたしが……い、いえ、別にこの朝の行事を楽しんでいるなんてことはないですよ?
「勇者様、朝ですよ! 入るですよ!」
反応なんてないってわかっているですが、一応他人の部屋に入るわけですからね。ノックと声くらいはかけないと失礼です。
わたしが強制的に作らせた勇者様の部屋の合鍵を取り出すです。合鍵を作って間もなく勇者様がこっそり鍵を変えようとしたことがあったですが、もちろん許さなかったですよ。ふふふ、わたしの目が青い内はそんな勝手な真似なんてさせないです。
「あれ?」
合鍵を鍵穴に挿そうとして、わたしは異変に気づいたです。
鍵穴が、ないです。
あ、違うです。勇者様が溶接して鍵穴を塞いだとかではなく、ドアノブ自体がなぜか綺麗に消失していたです。
ノブのないドア……え? どういうことです? ドアノブ泥棒? なんですかそれ?
「ドアは……開いてるですね」
ドアノブがあった場所の穴に指を引っかけてみると、ドアはすんなりと開いてくれたです。鍵ごとドアノブが消えてるので当然と言えば当然ですが……。
まあいいです。勇者様に訊けばわかることです。今度はなにを企んでいるか知らないですが、このわたしから逃れられるとは思わないことですよ、勇者様。
「ほーら勇者様! 朝ですよ! 起きてくださいです!」
わたしは真っ直ぐ勇者様が寝ているベッドまで歩いて行くです。ベッドの上にはこんもりと毛布が膨らんでいるです。まったく、この前は一度だけわたしが来るより早く起きてくれていたですのに、あの時のやる気はどこに行ったですか?
「勇者様! さっさと起きて朝ごはん食べて仕事行くです!」
いつもならここでグズグズと意味不明な弁論を述べてくる勇者様ですが――
「……」
今日は、なんか返事がないです。
「勇者様、寝てるですか?」
珍しいです。勇者様はベッドから離れないだけで、なんやかんや呼びかけたら起きてることが多い……ていうか、ほとんどです。それなのに今日は寝てるですか? 余程お疲れになることが最近あったですかね?
先日の結婚式を思い出すです。ダイオさんから熱烈なラブコールをされていたですが……まあ、それは関係ないですね。
「勇者様、もしかして具合が悪いですか?」
ちょっと心配になってくるです。でもよく考えたら重度の帰りたい病患者はどういうわけか風邪なんて引かないです。病気したいと思っているから病気しない。そんなわけわからん理屈を勇者様は語っていたです。
もぞっと。
今、勇者様が動いたです。なんだかわたしの存在が煩わしいって感じの動き方だったです。ちょっとイラッと来たですよ。
「病気でもなんでもとりあえず一度起きてくださいです勇者様ぁあッ!!」
バッ! とわたしは毛布を掴んで引っぺがしたです。まだです。続いてベッドの上で丸くなった勇者様を蹴り落すまでが一連の流れです。
「勇者様覚悟してくだ……えっ?」
ベッドの上の勇者様を蹴り転がそうとした足が止まったです。止めざるを得なかったです。
だって、そこに寝ていたのは綺麗な銀髪の女の子だったですから。
「えっ? あれ? えっ?」
困惑するです。すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てているのは、どこからどう見たって勇者様ではありませんです。わたしより少し年上の女の子。ほとんど下着姿と言ってもいいあられもない格好をしているです。健康的な白い肌に、スレンダーながらもたっぷり膨らんだ胸とお尻。むむむ、けしからんです。
そうじゃなくて!
「ご、ごごごごごめんなさいです!? お部屋間違えてしまったようです!?」
なんたる失態! 勇者様の部屋を間違えるなんて! わ、わたしが寝惚けていたんですかね?
何度も何度も頭を下げるわたしに、銀髪の女の子は眠い目をこすりながら体を起こしたです。
「んむ~……ああ、エヴリル殿。おはよう、よい朝だな」
「ごめんなさいです!? ごめんな…………ん?」
なんでこの人、わたしを知ってるです?
そういえば、今この宿にはわたしと勇者様しか店子はいないはずです。ちょっと前までヘクターくんも部屋を借りたままにしていましたが、少し前に引き払っていたです。
新しい住民が来たなんて話は聞いてないです。
女の子は翠色の瞳をきょとんとさせて――
「マジマジと私を見てどうしたのだ、エヴリル殿? ああ、すまないがそこの鎧を取ってくれないか?」
「鎧?」
女の子が指差した方向を見ると、部屋の隅に安宿には似つかわしくない高そうな白銀の鎧が置かれていたです。さらに全長が床から天井にまで届きそうな大剣が物騒にも壁に立てかけられていたです。
色白の肌に翠色の瞳、長くて綺麗な銀髪、そして白銀の鎧と大剣。全てのパーツがわたしの中で一つに合成されていき――
「……」
「……」
「……」
「……」
「ほわぁああああああああああああああああああああああああああっ!?」
女の子の正体に気づいたわたしは、もう目玉が飛び出て世界を一周しそうなほど驚いて腰を抜かしたです。
「そ、そのように悲鳴を上げられると少し傷つくのだが……」
「な、ななななななんで王女様がここにいるですか!?」
この国――グレンヴィル王国の第一王女。ラティーシャ・リア・グレンヴィル様。
そんな普通ならお目にかかることすら奇跡なお方が、こんないつ潰れてもおかしくないあばら屋にいるなんてあり得ないです!
でも、現実に目の前にいるお方は間違いなく王女様です。
「勇者殿に用事があったのだ。それで訪ねてみると鍵がかかっていたので、開けて部屋に入ったのだが」
「どうやって開けたですか!? ドアノブ消えてるですよ!?」
「勇者殿はまだ寝ていてな。起こそうにもベッドから頑なに離れなかったのだ。なにやらベッドについての良さを延々と語られた」
「いつもの勇者様ですね」
「それほど気持ちのいい物なら私も是非体験してみようとお邪魔してみたのだが……ふむ、いつの間にか眠ってしまっていたようだ」
「ふむ、じゃないですよ王女様!?」
この人、つまり勇者様とお、同じベッドで寝たってことですか!? 一国の王女様がなんてことしてくれちゃったんですか!? わたしだってまだ一緒に寝たことないですのに!? この王女様には危機感ってものがないですかね!? 馬鹿じゃないんですかね!? そういえば脳筋さんでしたね!?
もちろん、そんなことは口が裂けても直接言えないですが……。
「ちょっと待ってくださいです。それなら、勇者様はどこに行ったですか?」
ベッドの上には王女様しかいないです。
「ん? 私が勇者殿のベッドに潜り込んだ時はまだいたはずだが……」
王女様は不思議そうにきょろきょろしたです。そしてなにかを見つけ、ちょいちょいと手招きでわたしを呼んだです。
「エヴリル殿、こちらだ」
そう言われてベッドの反対側を覗くと……。
「床冷てぇ……」
そこには、泣きながら床で丸くなっている勇者様の憐れな姿があったです。たぶん、眠っちゃった王女様に蹴り落されたんだと思うですね。
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