それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第四十六話 結婚なんてしたくないわー

 なんか無駄に格好よかったボードワンさんが退場し、さあ事件も無事解決したしやっとお家に帰れるわーいわーい! と心の中で万歳三唱していた俺でしたが……

「汝――レナルド・マルス・ベイクウェルは、この女性――ディーナ・リズベス・プリチャードを妻とし、
 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 病める時も、健やかなる時も、
 共に歩み、他の者に依らず、
 死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、
 神聖なる婚姻の契約のもとに――誓いますか?」
「誓います」
「汝、ディーナ・リズベス・プリチャードは、この男性、レナルド・マルス・ベイクウェルを夫とし、
 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 病める時も、健やかなる時も、
 共に歩み、他の者に依らず、
 死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、
 神聖なる婚姻の契約のもとに――誓いますか?」
「はい、誓います」

 おかしいな、俺の目の前でレナルドさんとディーナさんが口づけを交わしているぞ。もう帰っていいはずだよね? なんで俺ってばまだ式場に残ってるんだってばよ?

「ディーナさん、ホントのホントに幸せそうです。ううぅ、よかったです」

 はい、全ては俺の隣で完璧に赤の他人なくせに貰い泣きしちゃってるエヴリルさんが元凶です。颯爽と帰ろうとした俺を容赦なくふん捕まえて「せっかくですから最後まで見て帰るです」「お一人様でどうぞ」「見 て か え る で す」「……イエス、マム」といった具合に強制連行されました。

「勇者様、どうです? 愛する二人が今一つになったです。ね? 結婚式っていいものです」
「大衆の面前でキスとか恥ずかしくないのかね彼らは」
「この捻くれ方どうやったら矯正できるですかね!?」

 それは無理だ。俺という世界の真理がそう告げている。俺という個を生み出した超常的存在がそういう風に設定したのである。なんならその超常的存在さんも理解してないまである。
 ただ――

「こうして幸せそうな二人を見てると、後で破局するなんて思えないよなぁ」
「なんで破局前提なんですか!? 末永く幸せになるに決まってるです!?」
「え? いやでも俺の周りじゃ」
「だから勇者様の周囲がおかしいんです!?」

 そんなことはない。きっとアレだ。俺の世界には写真とか動画とか、そういう文明の利器がある。この後、それらを駆使した黒歴史の大暴露大会が始まるわけで……お互いの人に見せちゃいけない過去を知った二人が幸せになるなんてあり得ないことなんだ。うん。
 なにせ、相手の弱みを握っちゃうわけだからね。そりゃあ恐ろしくもなるよね。仕方ないね。うちのママンもやってたよ。パパンの秘密をご近所様ネットワークにアップロードされたくなければ今月の小遣い七割カットを承諾しろって。

 怖いわー。
 結婚なんてしたくないわー。

『それでは皆さんご起立ください。どうぞ、お若い女性の方から前方に集まってください』

 ん? ああ、いつの間にか婚儀は終わってたのか。なんか若い女の人ばかりが前に集められてるけどなにが始まるんだ? エヴリルさんも行ってるね。

『お待たせいたしました。これより〈幸福の譲渡ブーケトス〉を行います』
「〈死の宣告ブーケトス〉だと!?」

 まずい! この位置だと万が一にも届いちまう! ああ、やばいディーナさんがブーケを持って背中を向けた! 早く後ろに離れねえとってうわああああ投げたぁあああ!?

『あーっと! ちょっと力が強過ぎたか! ブーケが女性陣たちの頭を飛び越えて後ろの方に! まるで吸い込まれるように事件を解決してくれた冒険者の少年の下へと――』
「トス!!」
『トスした!?』

 やむを得なかった。やむを得なかったんだ。ほら、普通ブーケって未婚の女性が受け取るものじゃない? 俺なんかが受け取っちゃったら場が白けるというか俺が死らけるというか。

『まさかの女性陣たちの方へ投げ返されたブーケ! 一体誰が拾うのか!』

 俺じゃなければ誰でもいいさ。拾った人はご愁傷様。まあ、女性にとって結婚はいいことだしな。寧ろその相手に選ばれそうな男こそご愁傷様だな。

『幸せを掴んだのは――魔導師の少女、エヴリル・メルヴィルさんです!!』
「ふぁ!?」

 女性陣たちの中心で、エヴリルさんが勝ち誇ったようにブーケを天に掲げていらっしゃる。その表情はすこぶる輝いていて、その視線はまっすぐに俺を見詰めていた。キノセイであってください。お願いします太陽神様!
 くすり、とディーナさんが笑った。

「どうします、英雄様? このまま彼女とご結婚なされますか?」

 そのからかうような口調に、俺は今ブーケを受け取ったエヴリル以上の注目を集めていることに気づく。
 俺の答えを、みんなが待っている。
 なるほど、この突き刺さる視線の痛みはまさしく現実だ。

「……フッ」

 俺はいろいろと諦めると、小さく肩を竦ませた。
 そして、叫ぶ。

「俺は絶対に結婚なんてしねえッッッ!?」
「「「えええええええええッッッ!?」」」

傲慢なる模倣スペルビア・トレース〉――エンシェント・ドラゴン。

 この間戦った最強種の力を模倣し、その怪物級の身体能力を惜しみなく利用して全力ダッシュ。観音開きになっている教会の扉から一瞬で外へと駆け抜けた。

「あ~ばよぅ! エヴリルぅ~!」
「そこまでして嫌ですかこのダメ勇者様ぁあああああああああああああああああッ!?」

 背後に響いた悲鳴が、俺が今夜ギルティされることを如実に物語っていた。

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