それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第四十三話 俺たちに警備させる気あんのかよ

「かーえりたいー♪ やーすみたいー♪ オフトゥンで寝たーいー♪」
「変な歌歌ってないでちゃんと警備してくださいです勇者様」

 届かない、この想い。

 一夜が明け、俺たちは結婚式の会場になる教会へと移動した。この辺の地域で最も多く信仰されている太陽神ヘリオスの教会だそうだ。危なかった。天空神ウラヌスだったら俺は理性を保っていられる自信がない。

「警戒って言ってもなぁ」

 俺は周囲を見回す。
 人、人、人。流石は貴族様同士の結婚式だな。身なりのいい老若男女が溢れ返っていて人混みに酔いそうな勢い。まだ式の開始まで時間があるせいで大勢が自由に動き回りすぎてカオスな空間ができあがっている。一流のコミケニストから見れば大したことないかもしれんが、人混み苦手系男子の俺にとっては堪えがたい地獄だからもう帰りたい。

「脅迫状の犯人がなにをしてくるかわからない以上、俺たちはどうしても後手に回ってしまうわけで」
「それは仕方ないですが、怪しい人物を見つけて未然に防げば問題ないです」
「この人混みの中で?」
「この人混みの中です」
「人が多すぎてまともに動けないのに?」
「そこはどうにかするしかないです」
「か――」
「帰りたい、なんて言ったら勇者様を不審者として突き出すです」

 俺の思考を先読みするとは……エヴリルめ、やりおる。エヴリル・ヤリオル。

「ていうか、真面目に多すぎないか? 俺たちに警備させる気あんのかよ。入場チェックとかザルになってそうでやだわー」
「なんか予定より多く招待してしまったそうです」

 なにそれちゃんと管理してくださいよ。いや、もしかして暗殺者を紛れ込ませるためにあえて人を呼んでいたとするなら……花婿さん超逃げて!? ダイオさんが抹消計画を企てています!!

「あっ、見てくださいです、勇者様。プリチャード伯爵家とベイクウェル伯爵家の人たちがいるです」

 エヴリルが指差した先――会場の正面付近にたくさんの人に囲まれてお祝いの言葉を告げられている人たちがいた。

「あっちにダイオさんがいるってことはプリチャード伯爵家で、こっちがベイクウェル伯爵家か」

 ダイオさんの隣にいる女の人って奥さんかな? ディーナさんと激似。やっぱりこの世界の遺伝子影響力は女性の方が強いと思います。
 ベイクウェル伯爵家の人たちは……いやなんかもう、裕福を絵に描いたような人たちだな。みんなぽっちゃりしてて生活習慣病が心配になりそうな感じ。

「まさか花婿さんもあんな感じなのか?」

 昨日ディーナさんから聞いた印象をご家族からこれっぽっちも感じないんですけど。
 いや、待て。よく見るとぽっちゃりさんたちの中に一人だけスラリとした体格の男がいる。お祝いしているモブかと思ったけど、いろいろ質問とかされているからベイクウェル伯爵家側の人間だろうな。

「えーと、あの人はベイクウェル伯爵様の三男さんですね。と言っても養子のようですから、似てないのも当然です。あと今回ご結婚されるのは次男さんだそうですよ」

 俺の視線から疑問を察してくれたらしいエヴリルが簡潔に教えてくれた。

「お前よく知ってるな?」
「勇者様がベッドに張りついていた間にわたしなりに調査していたです。勇者様がベッドに張りついていた間に!」

 なんか強調して二回言われた。そんなに大事なことだったのかしら? お屋敷のベッドがふかふかだったからしょうがないね。

「お屋敷のメイドさんの話によると、ディーナさんと三男さんは昔からとても仲がよかったそうです。次男さんとご結婚されることを不憫に思っていたようですが、ディーナさんは次男さんを愛しているようでしたし……」
「ふーん、ま、いろいろあるんだろ」

 俺はもう一度三男を見る。両家の純粋な血統を結びたいってのがお家の考えだろうな。当人同士はディーナさんには愛があるっぽいけど、次男って奴はどうか知らん。なんにしても俺には関係ないお家関係の人間関係だ。

『お集りの皆さん。お待たせしました。ただ今よりプリチャード伯爵家とベイクウェル伯爵家の婚儀を執り行いたいと思います』

 やっと式が始まった。それまでざわめいていた人々が着席し、または席が足りず立ったまま、口を閉ざして静かにその時を待つ。

『それでは、新郎新婦のご入場です』

 早く帰るためにも、このまま無事に結婚式が終わってくれることを祈ろうか。

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