それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第三十五話 何者だっていいだろ

 日が沈んだ。
 薄暗闇の空を飛び続け、俺の視界にようやく王都が見えてきた。

 ドラゴンの姿もな!

「街は……まだ無事か」

 ギリギリで追いつけた。だが、既にブレスの射程内だ。王都もドラゴンの襲来にはとっくに気づいている様子で、警鐘がやかましく響いている。ここからでも大パニックになっていることがわかるぞ。
 ドラゴンが大口を開く。あの野郎、早速火の海に変える気だ。
 そうはさせるかよ。

「――〈憤怒の一撃イラ・ブロー〉!!」

 俺は飛行高度を上げ、手から射出した光線をドラゴンの後頭部へと叩き込んだ。火を吐く寸前だったドラゴンは口を閉じてしまい暴発。口から黒煙を噴いてバランスを崩した。
 その間に一気に接近する。
 魔眼に警告。目の前にあのブラックホールが出現した。

「二度もやられるかっての!」

 左手を翳し、吸い込まれる前に〈暴食なる消滅グラ・ヴァニッシュ〉で穴を消し去った。ゼノヴィアが俺に対抗できる手段と言えばもう転移させるしかないもんな。

「ぐぬぬ……」

 ゼノヴィアは……ドラゴンからちょっと離れた場所で悔しそうに歯噛みしているな。そこで見ていろよ。俺がドラゴンを倒して帰るまでな。
 ドラゴンも俺の存在に気づく。鬱陶しそうに尻尾で振り払ってきた。小さい山なら崩し去ってしまいそうなその一撃を俺は受け止め、掴み、思いっ切り後ろへと放り投げた。
 森に墜落したドラゴンは即座に首を上げて俺にブレスを吐いてくる。ならこっちもだ。目には目を、歯には歯を、ブレスにはブレスをってな。
 灼熱と灼熱が空中で激突する。とんでもない爆風と熱波が周囲に弾け飛び、森が一瞬で焦土と化した。よく薬草採取に行く森だった。定期的にある仕事だったのに、これじゃしばらくできないな。仕方ないね!

「……もうあいつ、人間じゃないのよ」

 ゼノヴィアを警戒させていた魔眼が呟きを拾った。魔法を使ってくる様子はない。もう戦意喪失したのかな? 警戒は続けるけど。

「ヴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 ドラゴンが咆哮を上げる。なんて大声だ。近くで聞いたら鼓膜が破れるなんてお話じゃ済まないぞ。普通の人間だったら音と衝撃で心臓が止まったっておかしくない。
 ブレスは効かないと悟ったのか、ドラゴンは翼を広げて飛び上がり、俺に向かって突進してきた。

「悪いが、イチイチ相手なんてする気はないぞ」

 お互いタフ過ぎて普通に戦っていたら七日七晩とか冗談みたいな時間が現実になっちまう。だから俺は、俺の能力を勿体振らず使うけど恨むんじゃないぞ。

「〈強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――巨大隕石」

 俺に向かってくるドラゴンの目の前に、赤熱した超絶巨大な岩塊が出現した。当然、重力に従って落下し、ドラゴンと衝突。ドラゴンの図体もでかいが、この隕石はその三倍に設定した。破壊することも、押しのけることもできないはずだ。
 隕石は落下スピードが一瞬だけ衰えはしたが、案の定、自然の力に従って地上に落下。大地が捲り上がって地形が思いっ切り変わるほどの威力がドラゴンを呆気なく押し潰した。
 砕けた隕石が四方八方に吹っ飛ぶ。

「あ、やべ」

 隕石の欠片が王都にまで届いてるんですけど!? ていうか、落下の衝撃で城壁とか崩れてませんか!? ドラゴンに襲撃されるよりはマシだと思うけど……お、俺のオフトゥンは無事だろうな!?
 魔眼で被害状況とか〈解析〉できないかな? ……あ、できた。便利だなホント。
 重軽傷者多数だけど死者はなし。俺のオフトゥンも無事だな。ドラゴンのおかげで避難が進んでいてよかった。被害総額も表示されたけど見なかったことにします。

「さて」

 俺は箒で空中に浮かんだままのゼノヴィアの下へと飛ぶ。青い顔で呆然と隕石に潰されたドラゴンを見下ろしていた魔女っ子は、俺が近づいてきたことでハッと正気づいた。

「た、ただの人間が、ここまでできるわけないのよ。お前は一体何者なのよ!」
「何者だっていいだろ。んで、あとはお前だけだが、どうする?」
「……」

 ゼノヴィアは砕けた隕石に埋もれて動かないドラゴンを見る。それからものすごく悔しそうに唇を噛むと、俺に向き直った。

「どうするもこうするも、これ以上お前と戦うなんて――」

 ゼノヴィアが降参を言いかけた時、ドラゴンを押し潰していた隕石の瓦礫が弾け飛んだ。魔眼がとてつもない熱量を感知。俺たちに向かって放射される。

「危ねえッ!?」

 俺は反射的にゼノヴィアを抱きかかえるようにして飛んだ。一瞬前までいた空間を灼熱の業火が焼き尽くした。
 ちりちりとした火炎の残滓が肌に刺さる。あのままだったら俺はともかく、ゼノヴィアは確実に消し飛んでいたぞ。
 地上を見ると、怒り狂った瞳をしたドラゴンが倒れたまま俺を見上げていた。

「なんてしぶとさだ。まだ生きてんのか」

 巨大隕石衝突とか、恐竜も絶滅するやつだぞ。たぶんそれと比べたら威力は天地の差があるだろうけど、息があるのはまだしも動けるなんて魔眼の〈解析〉でも数パーセントの奇跡アンノウンだ。

「ふ、フフフ、アハハ! やっぱりドラゴンはそう簡単にはやられないのよ! 今度はあたしも援護するのよ! 二人でなら勝てるのよ!」
「おまっ、せっかく助けてやったのに!?」
「敵を助けるのが悪いのよ!」

 鬱陶しい展開になってきたぞ。俺から距離を取って体勢を整えたゼノヴィアは、本気で戦闘を続行するつもりだ。
 どうする? また〈凍結〉させるか? それとも俺をもう一人〈創造〉して相手させるか?

「開け深淵の――ッ!?」

 呪文が途切れた。
 ゼノヴィアの周囲で、そこが歪んで見えるほど濃密な空気の流れが渦を巻いたからだ。

「これは……風の檻!?」

 渦に触れたゼノヴィアの指がスパッと切り裂かれた。切り傷からつーっと赤い血が流れる。飛び込めば全身ズタズタになることは間違いない。
 そして動きを封じられたゼノヴィアに向かって大岩が飛んでくる。いやアレは俺が〈創造〉した隕石の破片か。

「う、穿つのよ! 虚構の深遠!」

 ゼノヴィアは焦って呪文を詠唱。隕石の破片を空間に開いたブラックホールに呑み込ませた。どこかにランダム転移させられたが、被害は出ないだろう。丁度三分が経ったからな。
 俺は首を巡らせて探す。
 風の檻を作った魔導師と、隕石の破片をぶん投げた怪力王女様を、な。

「勇者殿、魔女殿の相手は我々が引き受けよう!」
「勇者様はドラゴンをなんとかするです!」

 見つけた。エヴリルは綿毛鳥に乗って上空を旋回していた。ラティーシャは……地上に降りたみたいだな。今度はその辺に落ちていた普通の大岩を片手で持ち上げているよ。

「くっ、邪魔なのよ!」

 ゼノヴィアが下打ちする。そして風の檻を闇の魔光線で掻き消した。ぶん投げられた大岩を回避し、エヴリルの風の魔法と撃ち合いを始める。

「二人とも助かった。でも巻き込まれないように気をつけろよ!」

 ドラゴンが身を起こす。空間を揺るがす咆哮を放ち、隕石でボロボロになった翼を広げる。口から火炎が零れ、血走った両眼が俺だけを捉えている。
 殺る気満々だなおい。
 でもな、もうとっくにチェックメイトなんだよ。さっきも言ったが、もうイチイチお前の相手なんてしてられないんだ。

「隕石一発じゃ足りねえなら、死ぬまでぶち込んでやるよ!!」

 王都に被害が出ないように気をつけながら、俺は〈創造〉した流星群を情け容赦なくドラゴンへと叩き込んだ。

 さっさとくたばって、俺を帰宅させてくれ。

「それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く