それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第三十三話 お前はどこに帰るんだ?

「追いついたぞこのやろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
「なんか飛んできたのよ!?」

 俺は箒を捨てると次はドラゴンの能力を〈模倣〉する。ドラゴンほどの巨体が翼の力だけで飛んでいるわけがない。こいつはこいつで飛行魔法を使ってるんだ。
 箒は三分が経過して消滅する。だが俺はドラゴンの飛行魔法で浮かんだままだ。そして上乗せされた馬鹿みたいな筋力パラメータを遺憾なく使ってドラゴンを地上へと蹴り落した。

「ふぁあああああッ!?」

 巨大隕石のごとき衝撃で地面に叩きつけられたドラゴンを見て、ゼノヴィアは目玉が飛び出そうな勢いで激しく取り乱した。

「お、おおおおお前なんなのよ何者なのよ!? 人間がドラゴンを蹴り落すなんて聞いたことがないのよ!? ていうかなんで生きてるのよ!?」
「誰も焼かれちゃいねえよ。ちゃんと確認するんだったな」
「ぐぬぬ、またお前の妙な力なのよ?」

 悔しそうに歯噛みするゼノヴィア。あまりの驚きに涙目になっててちょっと可愛いな。だが、可愛いからと言って俺の帰宅を邪魔する奴には容赦しない!

「次は王都をドラゴンに襲わせようったってそうはいくか! ここで叩き潰してやるから覚悟しろよ、魔女!」
「こっちも簡単にやられるつもりはないのよ!」

 ゼノヴィアは呪文を唱えて闇の魔弾を連続で撃ち出してきた。あんなもの、避ける必要もないな。今の俺はドラゴンの防御力+αなんだ。
 はい、掠り傷一つつきませんでした。ドラゴンの防御力+αやべーwww

「どういうことなのよ……」

 攻撃が直撃したのに全く効いてない俺を見てゼノヴィアは顔を青くした。無駄弾を撃ってこないところを見ると、得体の知れなくなった俺に対して諦めモードなのかな?

「一応そっちの言い分も聞いてやろう。なんで魔物に村や街を襲わせている?」

 それが家に帰るためとか、帰宅を邪魔した奴に復讐するとかだったら手伝ってもいいかな。俺も鬼じゃないもんな。もちろん、別の方法になるけど。

「あ、あたしが指示してるわけじゃないのよ! あの子たちがやりたいからやってるのよ!」

 うん、どうやら違うみたいだな。

「そうさせてるのはお前の〈呪い〉だろ?」
「さっきも教えたのよ。あたしは魔物の本能を縛りから〈解放〉しているだけなのよ」

 そういや何度も〈解放〉だのなんだのって言ってたな。どういう意味なんだ?

「魔物はもっと自由になるべきなのよ! 人間を警戒して引っ込んで、住処を奪われて死に絶えて、見つかったら討伐されたりペットみたいに飼い慣らされたり……可哀想で可哀想で仕方ないのよ!」

 ゼノヴィアは心の底から叫んでいる。〈解析〉の魔眼がその言葉に嘘はないと告げている。

「だからあたしが〈解放〉してあげるのよ! 魔物は人間より強いのよ! この世界に君臨するのは強者たる魔物であるべきなのよ!」

 ゼノヴィアは効かないとわかっていながらも、俺に魔弾や暗黒光線を浴びせ続ける。
 魔物に支配された世界……それはなんというか、地獄だな。こいつを放っておいたら本当にやばいことになっていたかもしれないわけか。

「なんでそこまで魔物に肩入れするんだ? お前だって人間だろ?」
「当然なのよ。魔物は家族なのよ。あたしは魔物に拾われて育てられたのよ。自分を人間だなんて思ってないのよ!」

 人間だと思ってない、か。
 その言葉自体が思っている証拠じゃないか。
 さて、どうする? 綺麗事並べても改心させるのは俺のコミュ力じゃ難しそうだ。ゼノヴィアの魔物ラブを治すことは俺の帰りたい病を治すくらいの難易度だろう。なにその無理ゲー。
 とりあえず、これだけは聞いておこうかな。

「それで、こんなことをし続けてお前はどこに帰るんだ?」
「は?」
「帰る場所はあるのかって聞いてんの?」
「……」

 ゼノヴィアは沈黙した。ないんだな、帰る場所。彼女を育ててくれた魔物は、たぶんもうとっくにいないんだ。他人の心情や過去は流石に解析不可能だが、それが人間のせいだということは容易に想像できる。

「……お前には関係ないのよ」
「そうだな。関係ないな。関係ないから説得なんて面倒で帰りたくなるようなことはしない」

 俺のやることはシンプルだ。なにも変わることはない。
 ゼノヴィアの事情なんて知ったことじゃなかった。

「お前を力ずくで止めて、俺は帰るだけだ」

 効果範囲をゼノヴィアの周囲に設定する。

「――〈怠惰の凍結アケディア・フリーズ〉」
「なにを――」

 身構えようとしたゼノヴィアが凍ったように動かなくなる。これで一分間は逃げることもできないし、これから始まる戦いに巻き込まれることもない。

 起き上がったドラゴンが、怒りの咆哮を上げて俺に襲いかかってきたからな。

 俺はドラゴンの鼻先を両手で受け止める。飛行魔法の膂力だけじゃ受け止めきれず、何十メートルも上空に突き上げられてしまった。

「チッ!」

 ステータスは俺の方が上なのに、やっぱりここまで化け物だと多少超越したところで僅差だな。ドラゴンの攻撃をまともに受ければ防御力+αでも普通に死ねるぞコレ。
 俺はドラゴンの鼻先を蹴り飛ばした。そして怯んで頭を振るドラゴンに〈憤怒の一撃〉を射出する。頭部の鱗をちょっと凹ました。わーいかたーいかえりたーい。
 俺のスキルには〈模倣〉したステータスは乗らないんだよな。いくら攻撃力が上がっても〈憤怒の一撃〉の威力は上がったりしない。もっと柔らかい部分に当てないと効果なさそうだ。
 ああ、これは……想定以上に苦戦しそうだぞ。

「ていうかドラゴン、やっぱ間近で見ると迫力やべーな」

 最初に遭遇した魔物がエッジベアじゃなくてドラゴンだったら死んでいたな。俺は〈強欲の創造〉で戦闘機を量産して多方向から攻めることにした。
 戦闘機のミサイルでも鱗は剥がれない。けどドラゴンの注意は散漫にできた。ここで一気に腕力に物を言わせて叩き伏せる!

「おらぁああああああああッ!!」

 気合一発。握り締めた拳を鱗の薄い腹に叩き込む。呻いたドラゴンは体を曲げて吹っ飛んだ。そこに〈憤怒の一撃〉とミサイルで追撃する。微ダメージでも積もれば山だ。
 空中で体勢を整えたドラゴンが鎌首をもたげる。
 そして薙ぎ払うように吐き出された高熱のブレスが戦闘機を一瞬で蒸発させた。くっそせっかく〈創造〉したのに……何回出しても無駄だな。ドラゴンも学習してやがる。
 次は俺に向かってドラゴンブレスが飛んでくる。

「だったら俺も」

 大きく息を吸う。腹の中で熱が高まっていくのがわかる。煮え滾るどころか熔解しそうなほどの熱だが、今の俺の体ならなんの問題もない。
 それを一気に吐き出す。

 轟ッ!!

 ドラゴンブレスとドラゴンブレスが衝突する。爆炎と閃光が周囲一帯をオレンジ色に染め上げる。
 同じ技なら超越して〈模倣〉した俺の方が勝っている。徐々にドラゴンの方の火炎を押していき、やがてその全身を炎で包んだ。
 もがくドラゴンだが、たいして効いちゃいないな。知ってたけど火属性の耐性が半端ない。正確には火属性だけじゃなく光と闇以外の属性に耐性があるっぽい。
 まさにチート級のモンスターだな。

「マジで長期戦になっちまいそうだ。あー帰りてぇ。さっさと蹴りをつけねえとゼノヴィアの〈凍結〉も――」

 言いかけて、気づいた。
 ゼノヴィアがいない。
 もうとっくに、一分は経っていた。

「そんなに帰りたいなら帰してやるのよ!」

 声が聞こえた瞬間、俺の背後にブラックホールみたいな黒い穴が出現した。

「しまっ――!?」

 凄まじい吸引力。俺は抵抗する前に呑まれちまった。一度入ってしまうと、ドラゴンの膂力でも抜け出せない。完全に闇に捕らわれた。

「まあ、帰すと言っても、行先はどこかわからないのよ」

 最後に見えたゼノヴィアの顔は、勝ち誇ったように笑っていた。

「それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く