それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第三十一話 サービスって大事だよね

 この世界に来て何ヶ月も経った。
 だけど、元の世界に帰りたい想いに揺らぎはない。
 たとえ向こうじゃ俺は死んでいたとしても。葬式も終わって家族や知り合いの気持ちも整理されていたとしても。俺が現れたら幽霊だのなんだのって恐れられるとしても。それでも、帰りたいものは帰りたいんだ。
 神のジジイは言った。

『その世界には異変が起きておる。それを見事解決できれば、もしかすると帰れるかもねー』

 最後の『かもねー』が超絶胡散臭いが、結局俺はその言葉に縋りつくしかないんだ。
 実際に異変っぽいのは起きていた。魔物が呪われて狂暴化し、人々を襲っている。きっと俺の知らないところでもかなりの被害が出ているんじゃないかと思う。

 その元凶と思われる存在がようやく現れた。
 こいつを倒せば、俺は帰れるんだよな?

「――〈憤怒の一撃イラ・ブロー〉」

 俺はまずゼノヴィア――〈呪いの魔女カース・ウィッチ〉と名乗った少女の周りを飛んでいたバグ・ワイバーンをチート威力のビームで全て消し飛ばした。可哀想だが、こうするしかないもんな。〈魅了〉ですか? 嫌です。

「お前っ!?」

 ゼノヴィアは赤紫色の目を怒りと驚愕に大きく見開いた。

「杖もなしに魔法? なんなのよ! その力!」

 そして乗っている箒を急上昇させ、指揮を執るように立てた指で空中になにかを描いた。

「開け深淵の門! 無慈悲なる闇に呑まれるのよ!」

 呪文が唱えられた途端、ゼノヴィアの周囲に六つの黒い魔法陣が展開。そこから一斉に暗黒の光線が射出された。
 でかい。〈解析〉したからわかるぞ。アレをまともに喰らったら俺だけじゃなくエヴリルたちまで消し飛んじまう!
 だったら――

「闇を喰らえ! 〈暴食なる消滅グラ・ヴァニッシュ〉!」

 俺は左手を天に翳し、村に降り注ぐ六つの暗黒光線を同時に霧散させた。〈暴食なる消滅グラ・ヴァニッシュ〉は要するに打ち消しのチート能力だ。消せるのは鎧や服だけじゃないんだよ。

「勇者様! その子は暗黒神教の魔導師です! 気をつけてくださいです!」

 風の結界の中からエヴリルが教えてくれた。まあもう〈解析〉はしてるんだけど、つまり闇属性の魔法が得意な魔導師ってことだろ。
 闇属性……中二心をくすぐられます。

「あたしの魔法が!?」
「お返しだ! ――開け深淵の門! 無慈悲なる闇に呑まれろ!」

 既に〈模倣〉も完了。今の闇魔法を二倍返しだ。

「どうなってるのよお前はぁあッ!?」

 空に向かって発射された超極太の暗黒光線を、ゼノヴィアは叫びながら箒でアクロバティックに飛翔してなんとかかわしたな。まあ、人殺しにはなりたくないから当てる気はなかったんだけどね。

「今ので力の差はわかっただろ! 降参しろよ帰りたいんだからよ!」
「ふん! あたしはまだ本気を出してないのよ!」

 そうだろうな。知ってるよ。

「あたしの可愛い魔物たちをたくさんたくさんたくさんたくさん! 殺してくれた人間にはお仕置きが必要なのよ!」

 ゼノヴィアが魔法を使う。次の魔法は……あ、ちょっとまずい。

「終焉の闇よ! 貪欲なる虚念の混沌よ! 暗黒神ヘカテーの意思の下、全てを蝕むのよ!」

 地面が、家屋が、そして俺たちまで。
 さっき俺が〈創造〉した戦闘機と戦車を朽ち消しやがった闇が侵食していく。

「ゆ、勇者様!?」
「こ、これは、振り払えないッ!?」

 エヴリルとラティーシャ、それに村人たちが手足の先から黒く染まり始めて悲鳴を上げる。くそっ、範囲が広い!

「待ってろすぐ打ち消してやるから!」
「は、早くお願いするです!?」

 俺は急いでエヴリルたちを蝕んでいる闇を〈暴食なる消滅〉で打ち消した。村人たちも一ヶ所に固まってくれて助かったな。一度に消し去ることができたよ。

 パァン!
 服も、一緒に。

「……」
「……」
「……」
「あれれー?」

 おかしいな。どうしてエヴリルさんたちが下着姿になって、大事なところを手で隠して、涙目になって俺を睨んでいるのでしょうか? ふむ、無意識に服も消滅対象に入れちゃったようだ。無意識って怖いね。

「あれれー? じゃねえですよこのダメ勇者様!? こんな時になにをやらかしてくれちゃってんですか!?」
「サービスって大事だよね」
「なんの話ですかッ!?」
「その水玉のパンツ可愛いね。エヴリル可愛いよエヴリル」
「あとでブチ殺すです!?」

 グッとサムズアップして気づく。俺の手、真っ黒だ。痛みはないけど朽ち果てる寸前だ危ねえッ!? 打ち消しがあと数秒遅れてたらやばかったな。

「ひぅ……勇者殿に……二度も……」

 純白の下着姿で赤面涙目になって蹲る王女様。なにあの生き物かわえぇ! もうちょっとだけこの肌色天国を眺めた……いのはやまやまだが、爺さん婆さん野郎の肌色も視界に入っちまうからやめとこう。そんな場合でもないしね。鬼の形相をしたエヴリルさんが怖いわけじゃないよ。

「なにやってるのよ……」

 ゼノヴィアは上空から『馬鹿なの?』って言いたげな顔で俺たちを見下ろしていた。手を出していいのか迷っている様子でもあるな。
 ならば――

「エヴリルたちは綿毛鳥で村の外に出ろ! 巻き添えくらうぞ!」
「そ、そうはさせないのよ! その子もまた〈解放〉してあげるのよ!」

 焦ったゼノヴィアがまたなにかの呪文を早口で唱えた。しまった。綿毛鳥を呪われたら非常に困る!

「お前らやっぱり綿毛鳥から離れ……あれ?」

 綿毛鳥は……白いままだぞ。

「う、嘘なのよ」

 上空でゼノヴィアがわなわなと悔しそうに震えていた。

「その子、あたしの〈解放〉よりずっと強い〈呪い〉が既にかかっているのよ」
「あー」

 俺の〈魅了〉ですね。てことは、綿毛鳥はもうゼノヴィアに呪われることはないわけだ。助かったのやら残念なのやら……ふう、溜息が出ちゃう。

「よし今のうちだ! 逃げろ!」

 村人たちが数人ずつ綿毛鳥に乗って離脱していく。何往復かしなくちゃいけないが、手出しはさせねえぞ。

「なんと言うか、妙にやる気になっているな、勇者殿」
「まあ、今回の敵はずっとわたしたちが追いかけていたものですから」
「そうなのか?」

 エヴリルとラティーシャはちゃっかり綿毛鳥に積んでいた荷物から服を取って着替えていた。ラティーシャの着替えはなかったからエヴリルの服を着ているけど……キツキツですね。特に胸の辺りが。

「コラ勇者様あっち向いてろです!?」

 怒られた。
 仕方ないからゼノヴィアに視線を戻す。村人たちが逃げて行くのを黙って見送っていた魔女は――妖艶に笑っていた。

「まあ、いいのよ。あの子が到着するまでの時間は稼げたのよ」

 一体なんのことかと思った瞬間だった。
 俺たちの上空に、雲が太陽を覆い隠すように――
 そいつは現れた。

「なっ!?」
「ふぁっ!?」
「ついに来たか!?」

 ドラゴン。

 ワイバーンなんか比じゃない。トカゲ型の巨体は村一個分くらい余裕で踏み潰せそうだ。硬質な鱗は黒く染まり、全身に瘴気を纏っている。
 こいつも、呪われているな。

 バグ・エンシェントドラゴン。

 魔眼に名前が表示される。各種ステータスも化け物なんてレベルじゃない。普通の人間が相手できるような魔物じゃないぞ。俺でも倒すのは骨が折れそうだ。帰りたい。

「この子はずっとあたしの〈解放〉に抵抗していたのよ。だから家畜しか襲わなかったみたいだけど、どうやらもう完全に〈解放〉されているようなのよ」

 クツクツと嬉しそうに楽しそうにゼノヴィアが笑う。ドラゴンは唸りを上げると、鎌首をもたげ、その大口を開いた。
 口の奥がオレンジ色に輝く。
 やばい!

「さあ! 村ごと焼き払うのよ!」

 ゼノヴィアが指示を出すのと同時、村を覆い尽すほどの灼熱のブレスが降り注いだ。

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