それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第二十九話 勇者様なら神様でも襲って来ない限り大丈夫

 わたしたちは王都に戻ることもなく、休憩を挟みながら目的地へと向かっていたです。
 王女様は巧みに手綱を引いて綿毛鳥を誘導しているです。初めてのはずなのにどうしてできるですか? と訊くと、馬の扱いと同じようにやってみたらなんか上手くできたそうです。

「ぶえっくしょんかえりたいっ!!」

 勇者様は休憩した時に体も洗って着替えたですが、ベトベトのまま長時間風にあたっていたせいで凍えているです。ヘクターくんがある程度の荷物を載せてくれていたことは助かったですね。

「エヴリル、なんか温かくなる魔法ってない?」
「ないです。わたしにできることは風の流れを変えて綿毛鳥の背中を快適にすることくらいです」
「先生、体調が悪いので早退します」
「誰が先生ですか!? あと帰らないですよ!?」

 行くも帰るも王女様の手綱次第です。勇者様が綿毛鳥に直接命令したら従ってしまいそうですが、そこは言わずに黙っておくです。

「このまま風邪引いて休みたい」
「そうならないように今からお薬飲むですか? 調合するですよ?」
「いや、必要ない。どうせ俺は病気しないし。ほら、病は気からって言うだろ? 風邪引きたい休みたいって心の底から願っている奴は絶対に病気に罹らない天邪鬼な世界の法則」
「それ意味違くないですか!?」
「現に俺は物心ついてから風邪一つ引いたことがない!」
「この人物心ついた時から帰りたい病だったです!?」

 そういう意味では常に病気ですよね、勇者様って。

「君たちはとても仲がいいのだな」

 手綱を握りながら王女様が愉快そうに笑ったです。というか王女様に行者役をさせてていいのですかね? わたしたちが代わるべきでは……?

「あの、王女様、手綱代わるですよ? 勇者様が」
「おい」
「いや、これはこれで貴重な経験だ。退屈な王宮にいては絶対に体験できないだろう。私は楽しんでいるよ」

 王女様はどうやら心底この状況を楽しんでいるですね。脳筋さんさえ目を瞑れば、この王女様はなんだかとっても親しみ易いです。

「時に、強引に出発した私が言うのもなんだが、これからドラゴン退治に行くというのに君たちはずいぶんと落ち着いているな。あのサイラスですら危機の意識に慎重になっていたというのに」
「それはまあ、勇者様なら神様でも襲って来ない限り大丈夫だと思ってるですから」
「寧ろ神のジジイ降りて来いぶん殴ってやる!」
「勇者様はちょっと黙れです!」

 こんなところでこれ以上帰りたい病を拗らせても面倒なだけです。あと勇者様には絶対に神様を会わせてはいけないです。その、元の世界に帰っちゃうかもしれないですから……。

「王女様の方こそ、どうしてこんな無茶を?」

 ちょっとその時を想像してしまって気持ちがブルーになりかけたので、わたしは今さらな疑問を訊ねてみるです。

「無論、ドラゴンと力比べをするためだ」

 聞かなきゃよかったです。

「三割冗談だ」
「ほぼ本気です!?」
「君たちも知っての通り、わたしは王女に生まれながら人より強い力を持ってしまった。この力を王宮の中でちやほやされて腐らせるよりは、民のために使いたいと思っている。私の周りはどうも『王女』という立場ばかりに目が行っているからな。こうでもしなければ王都の外に出ることすら叶わん」
「なんか意外とまともなこと言ってるですが、それ三割ですよね?」
「俺もお家の中でちやほやされたいです」
「黙れと言ったです勇者様!」

 とりあえず神樹の杖で殴るです。綿毛鳥の背中では避けようがないので脳天に直撃した勇者様は「げぶらっ!?」と変な悲鳴を上げて倒れたです。

「君たちは、特に勇者殿は私の前でも普通だ。媚び諂ったりなどしないし、『王女』としての私の身を案じたりもしていない」
「不敬ですねごめんなさいですすぐに改めさせるです!」

 わたしは勇者様の上半身を起こして頭を無理やり下げさせたです。

「いやいや、それが心地よいのだ。エヴリル殿も私のことは冒険者の仲間だと思ってくれると嬉しい」
「えっと……」

 いきなりは、その、難しいですね。

「俺のことも大切な仲間として扱ってくれると大変嬉しいですエヴリルさん」
「え? 勇者様のことは大切な仲間として生活態度を改めるように接してるですよ?」
「大切だからこその厳しさ……帰りたい」

 あれ? もしかしてわたしが帰りたい病を促進しちゃってるですか? い、いえ、そんなことはないはずです。甘やかしたら一生治らないです。

「なあ、王女様」
「ラティーシャでよいぞ。なぜかエヴリル殿は呼んでくれないのだ」

 そんな、王女様を呼び捨てなんて恐れ多いことわたしにはできないです。

「わかった、ラティーシャ」

 勇者様の据わった肝は時々尊敬しそうになるです。

「そんでラティーシャ、ぶっちゃけ俺らまだ今回の依頼についてなにも聞かされてないんだが、討伐するドラゴンってどんな奴だ? 何匹もいるのか?」
「聞いた話では一頭のはずだ。村を襲ってはいるが、人ではなく主に家畜などに被害が出ているらしい。ドラゴンは知能の高い魔物だ。普通であれば、人里を襲うような真似はしないのだがな」
「普通じゃない魔物、か……」

 わたしも勇者様も心当たりがあるです。わたしの村を襲ったエッジベア、そして先日のこの綿毛鳥。勇者様が言うには〈呪い〉にかかっていたとか。
 自然現象ではないです。誰かが、なにかの目的で魔物たちを暴走させているです。
 世界の異変の解明と解決。
 それがわたしたちの目的です。時々忘れそうになるですが……。

「目的の村にはまだ着かないのか?」

 少し真面目モードな雰囲気になった勇者様が王女様に訊ねるです。

「ふむ。もうすぐのはずだ」
「方向は合ってるのか? さっき王都の外には滅多に行けないみたいなこと言っていたが?」
「問題ない。地図は確認している」
「地図上と実際はけっこう違うもんだぞ?」
「そこは勘だ。案ずるな」
「不安しかねえ!? これ帰れなくなったら俺泣くよ!? 超泣くよ!? 幼児みたいに手足バタバタさせて駄々捏ねるよ!?」

 ああ、勇者様の真面目モードが崩壊しちゃったです! せっかくちょっと格好よかったですのに、一瞬だったです。

「お、王女様、このままだと勇者様がうざくなってしまうです。その村はなんて名前です? もしかするとわたしは行ったことあるかもです」
「モーランだ。果樹の栽培が盛んな村だな。下草を食べる家畜も大量に放し飼いしている。ドラゴンの出現ルートから考えて、次に襲われそうな村はそこだ」
「あ、その村なら知っているです。さっきからちらほら果樹園があったですからそろそろ……あ、勇者様勇者様! 見えてきたですよ!」
「マジか! 俺、ドラゴンが来るまで宿屋でオフトゥンするんだ」
「このダメ勇者様!?」

 ドラゴンの情報の聞き込みとか村人の避難とか、やることはいろいろあるですよ。休むのも大事ですけど、すぐに宿になんていかないですからね!

「待て、様子がおかしい」

 王女様が声を険しくして言ったです。

「どうしたです……えっ!?」

 村の方を見ると、その上空に黒い影が無数に飛んでいたです。村からは煙も上がっていてるですし……微かに人々の悲鳴も聞こえたです。
 村が、魔物に襲われているです。

「気をつけろ二人とも! あれは小型竜ワイバーンの群れだ!」

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