それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第二十八話 勇者様を甘やかさないでくださいです!?

 勇者様は外で待ち構えていたサイラス将軍にあっさり捕獲されていたです。

「意外と時間がかかりましたな、王女殿下」

 こちらも新しい漆黒鎧に着替えた将軍さんは、監獄から出てきた王女様に恭しく一礼したです。そして勇者様は首根っこを猫みたいにふん捕まえられているです。

「サイラス、準備はできているな?」
「無論です。彼らのパーティーに私を加えた合計四頭。駿馬を揃えました」

 将軍さんの言う通り、向こうで兵士さんに連れられた四頭の馬が待機しているです。実はわたしとヘクターくんも勇者様のパーティーということで参加を許可してもらったです。なぜかわたしは勇者様を殴り倒したことが異様に評価されたですが……。

「ん? ちょっと待て、私の馬は?」
「王女殿下の馬はありません。危険な任務です。王宮で留守番をしていただきます」
「ならば仕方がない。馬がないなら走ればいいな」
「大人しく!! 留守番!! していてくださいッ!!」

 大声で怒鳴りつける将軍さん。王女様は煩そうに指で耳栓をしていたです。この人なら普通に馬の速度について来れそうだから怖いです。
 と、勇者様がなにかを思い出したかのようにキョロキョロしたです。

「そういえばヘクターは?」
「あー、なんか準備すると言って一度屋敷に帰ったです」
「帰っただと!? くっそうらやま!?」

 正直過ぎるです、勇者様。

「次にドラゴンが襲うと予測される村まで馬を飛ばして三日はかかる。君たちも準備があるなら少し時間を取るぞ。私の馬も用意しなくてはならないからな」
「なん……だと……」

 あ、勇者様が『三日』に反応したです。移動だけで三日。果たして今の勇者様に堪えられるですかね?

「却下だ! そんなに時間かけてられるか!」

 無理だったです。

「やるんなら効率重視だ。三日もかかるような乗り物だと間に合わない可能性だってある」
「む? ならばどうすると言うのだ? 走るのか?」
「そうだな。〈強欲の創造〉で音速を越えるジェット機を出して……いやそれじゃ三分以内に着かないとちゅどんだな。どこでも空間を繋げられるドアは一度チャレンジしたけど失敗してるし……これは宿題だな。帰ろう」

 もちろん帰さないです。逃げようとする勇者様を神樹の杖で引っ掛けてやったです。

「結局馬しかないです。馬が一番速いんです。諦めてくださいです、勇者様」
「ちくせう……」

 地べたに大の字に倒れた勇者様はとても不服そうに呻いたです。
 とその時、わたしたちの周囲が突然暗くなったです。

「いいえ、そうとは限りませんよ、エヴリルさん」

 ふさり、という妙に軽い羽音と共にヘクターくんの声が降ってきたです。わたしたちは声がした上空を同時に見上げ――

「えっ!?」
「なっ!?」
「むっ!?」
「げっ!?」

 わたし、将軍さん、王女様、勇者様はそれぞれ驚きの声を上げたです。
 そこには、真っ白なふわっふわの羽毛をした超巨大な鳥さんが飛んでいたです。

「王都に魔物だと!?」

 将軍さんが咄嗟に身構えたです。見るのは初めてですが、わたしは一発でわかったです。

「綿毛鳥……もしかして、フィーちゃんのお母さんですか!?」

 よく見るとヘクターくんが綿毛鳥に乗って手綱を握っているです。間違いなくマンスフィールド家で飼育している綿毛鳥の成体ですね。勇者様が一瞬拒否反応を起こした理由もわかったです。
 あの綿毛鳥、さっきから目をハートにして勇者様ばかり見詰めているですし。

「兄貴! 遅くなってすみません!」

 ヘクターくんが綿毛鳥の頭の上から叫ぶです。

「でも、こいつに乗って空から行けば数時間で到着しますよ!」

 綿毛鳥はふわふわとゆっくり降下して、ヘクターくんが飛び降りるや否や勇者様に頬ずりを始めたです。愛されてるですね、勇者様。

「正直驚いたです、ヘクターくん。まさか綿毛鳥を連れてくるなんて」
「兄貴は馬を嫌がると思いまして」

 ヘクターくん、勇者様のことわかっているです。まだ会って一週間くらいですよね? それなのに勇者様の性格を完璧に把握して的確な仕事を見つけたり準備したり……こ、この子できる子です。なんかジェラシーです。
 これが商人さんの『人を見る目』というやつですか。

「聞いてくれよヘクえもーん! エヴリルさんてば酷いんだよー!」
「あはは、仕方ないですね兄貴」
「ちょ!? そこ、勇者様を甘やかさないでくださいです!?」

 まずいです。このままヘクターくんにいろいろ任せてたら勇者様がダメダメにはならなくても、わたしの目指す改心には程遠くなるです。わたしがしっかりしないとです!

「剣を収めろ、サイラス。どうやらあの魔物は大丈夫なようだ」
「そのようで」

 王女様と将軍さんも警戒を解いてくれたです。綿毛鳥はそんな二人など目もくれず勇者様を嘴に挟んでペロペロしてるですね。

「くそう、絶対いつか〈魅了〉を解除してやる……」

 勇者様は唾液でベッタベタになりながら珍しくオフトゥンと帰ること以外にやる気を出していたです。

「ヘクター殿、その魔物には何人まで乗れるのだ? ずいぶんと大きな魔物だが」
「そうですね。荷物も運んでもらうので、多くても四人が限界でしょう」
「気合いで五人にならないか?」
「む、無茶を言わないでください、ラティーシャ様」

 この王女様、なんとしてでもついてくる気です。ご自分の立場をわかってるですかね。将軍さんがジト目の無言で王女様を威圧しているですよ。

「そう睨むな、サイラス。定員オーバーならば仕方がない。諦めるさ」
「わかってくださいましたか、王女殿下」

 将軍さんはほっと胸を撫で下ろしたです。

「それにしても……そ、そのもふもふの体はなぜだか無性に触ってみたい。構わないか? 構わないな? よし!」
「あ、わたしもです」

 手をわさわささせて王女様が綿毛鳥に近づいていくです。その気持ちはわたしもよーくわかるです。こんなもふもふのふわふわが目の前にあったら触らずにはいられないですよね。
 綿毛鳥は大人しいです。わたしと王女様が羽毛をもふもふしても抵抗しないです。二人で背中に上って全身で堪能しても振り落とされるようなこともないですよ。勇者様ペロペロに夢中になってるだけかもしれないですが……この気持ちよさは偉大です。

「エヴリルたちだけずるい! 俺にももふらせろ!」
「勇者様は最大の愛情表現を受けてるじゃないですか。そんなベトベトな状態でここに来ないでくださいです」
「酷い!? てかいい加減舐め過ぎだ帰りたい!? 俺はアメちゃんじゃねえぞ!?」

 勇者様は喚いているですが、綿毛鳥は勇者様を嘴に挟んだまま放そうとしないです。まあ、その気になれば自分で脱出するですね。

「まったく……王女殿下、私は積荷を検めてきます。移動が数時間で済むのであれば、不要な荷も出てくるでしょう」

 綿毛鳥の背中ではしゃぐわたしたちに、将軍さんが溜息をついて踵を返したです。

「ふむ、ではすぐに出発しよう」
「ええ、無駄な荷がなくなればすぐにでも……えっ?」

 バッ! と将軍さんが振り向いたです。いつの間にか王女様は綿毛鳥の手綱を握っていたです。しまったです。わたしが止めなきゃいけなかったです!

「ではな、サイラス。先に行って待っているぞ!」
「なんですと!?」
「ちょ!? ラティーシャ様!? オレもまだ乗ってな――」

 そういえばヘクターくんも降りたままでした。けど王女様はそんな二人のことなんてお構いなしに手綱を引っ張ったです。

「それ行け! 魔物よ!」

 綿毛鳥は王女様の命令に応え、翼を大きく広げて飛び上がってしまったです。乗っているのは王女様とわたし、それと咥えられたままの勇者様だけです。
 そのまま空の彼方へ飛んでいくわたしたちに――

「おのれ王女殿下ぁあああああああああああああッ!?」

 将軍さんの悲痛な叫び声だけが背中に刺さったです。

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