それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第二十三話 さっきまでのやる気はどこ行ったですか!?

「帰りたい」

 わたしの願いはギルドの建物に入った瞬間に瓦解してしまったです。

「早いです!? 勇者様早いです!? さっきまでのやる気はどこ行ったですか!?」

 せめて仕事一つくらいこなしてから言ってほしかったです。ギルドに入るまでは普通に生き生きとしていたですのに、どうして一歩中に踏み入った途端こうなるですか!

「いやいや、やる気はあっても帰りたい気持ちが消えるわけじゃないんだぞ。俺はちゃんと仕事するつもりだが、オープン帰りたい病を治すとは言ってない!」
「このダメ勇者様!?」

 これはアレですか? 勇者様が少なくとも今だけは改心したと期待したわたしが馬鹿だったですか?

「おう、帰宅勇者! 今日も飽きずに『帰りたい帰りたい』言ってんなぁ!」
「そんなに帰りたいならギルドを家にしちまったらどうだ! ガハハ!」
「エヴリルちゃん、そんな帰りたい病患者の介護なんて辞めて俺たちのパーティーに来ない?」
「帰宅勇者、今日こそ一緒に飲もうぜ!」

 ロビーの奥にある酒場からムキムキマッチョの四人組が声をかけてきたです。まだ朝なのになんでもう飲んでるですか? というかあの人たちいつも飲んでる気がするです。

「朝から酒なんて飲んでないであんたらこそ帰れよ」

 勇者様がいつものように白けた対応をするです。筋肉四人組は酔っぱらって真っ赤な顔でガハガハ笑っていたです。わたしはよくパーティーに誘われるですが、あそこに入ると暑苦しい筋肉で圧死しそうなので絶対お断りですね。

「兄貴! 待ってました!」

 と、依頼書の掲示板の前でヘクターくんが手を振っていたです。いつもわたしたちより早く来て勇者様がやってくれそうな仕事を見つけてくれるから助かっているです。

「よう、ヘクター。アレから綿毛鳥は大丈夫そうか?」
「はい、またあの時みたいに真っ黒になって暴走したりといったことはありません。兄貴にとても会いたがっていましたよ」
「勘弁してくれ帰りたくなる」

 勇者様は綿毛鳥の母親が呪われて暴走した際、滅多に使わない〈魅了〉の力で鎮めたと聞いているです。勇者様が封印していて実はわたしも見たことないですが、その能力はどんな生物でも勇者様のことを好きになっちゃうらしいです。非常に恐ろしい力です。

「(ヘクターくん、ベッドの開発状況はどうなってるです?)」
「え? どうしたんですかエヴリルさん? そんな小声で」
「(いいから教えろです。勇者様には聞こえないように)」
「(そうですね。あまり外部に漏らしていいものではないのですが、先日の暴走の件もありましたし、しばらくは頓挫しそうです)」
「よし!」 

 わたしはついガッツポーズをしてしまったです。これで勇者様が余計にダメダメになることは遥か遠い未来にまで繰り越されたはずです。

「(そのことは勇者様には内緒ですよ。絶対ですよ絶対)」
「(は、はい……)」

 こうやってヘクターくんに釘を刺しておけばわたしの仕込みは完了です。

「ヘクター、ベッドの開発ってどうなったー?」
「え? いや、その……」

 む、勇者様ってば早速訊きに来たですね。フフフ、ですがヘクターくんは既にわたしの支配下です。その質問には答えませんよ。ねえ、ヘクターくん?

「き、企業秘密です」
「そこをなんとか」
「いくら兄貴でも無理です!? オレが殺されてしまう!? ていうか既に後ろからあたる視線で死にそうなんで許してください!?」

 ヘクターくんは泣いて謝っていたです。わたし、そんな怖い顔で睨んでいたですかね? まあ、秘密は守ったのでヘクターくんは後で誉めてあげるです。

「さあ勇者様、張り切って仕事するですよ! ヘクターくん、なにかいい依頼はあったですか?」
「ひぃ!? あ、いえ、そうですね……この薬草採取なんてどうでしょう? エヴリルさんは薬術の知識があるので、簡単に素早く終わらせられるかと」
「ほう、いいねヘクター。速いことはいいことだ」
「ところで今なんで悲鳴を上げたですか?」

 非常に不愉快だったですが、ヘクターくんは笑って誤魔化すと別の依頼書もいくつか提示してきたです。
 とその時、なんだかギルド内がざわつき始めたです。ただでさえ静寂とはかけ離れた喧噪飛び交うギルドですが、このざわつきは様子がおかしいです。
 みんな入口の方に目を向けているです。そこにはたくさんの兵士さんに守られるようにして、高級そうな白銀の鎧を纏った銀髪の女性が立っていたです。

「私はラティーシャ・リア・グレンヴィル。我がグレンヴィル王国の第一王女だ」

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