それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第十九話 俺、あの背中でなら寝れそうだ

 マンスフィールド家の中庭は、冗談みたいに広かった。
 なにここゴルフ場? そんな感想が出るくらい広かった。これで中庭とは一体……?

「こちらが綿毛鳥の飼育場となっております」

 アイリーンちゃんに案内された場所は、木柵に囲われた牧場のような広場だった。柵内の奥に雨風を凌ぐことだけを目的に建てられたような小屋があり、その床に大量の藁が敷き詰められていた。
 小屋は、小屋と呼べないほどでかい。なにせそこには見上げるほど巨大な真っ白い塊がすっぽり収まっていたからだ。
 全体的に丸っこいフォルムだが、首は長く、白鳥を思わせる黄色と黒の嘴が突き出ている。大商人が今かぶっているお面とそっくりなその怪鳥こそ、大人の綿毛鳥だ。

「すごいな、本当にでけえ」

 そしてふわっふわだった。もっこもこだった。円らな瞳は愛らしいし、でかいけど全然怖くない。俺、あの背中でなら寝れそうだ。
 アイリーンちゃんの頭に乗っていたフィーちゃんがピーと鳴いて飛び降りる。そしてトトトトっとお母さん鳥の下へと駆けて行った。

「フッフッフ、見ていたまえ。私もついに綿毛鳥デビューを果たす時が来た!」

 綿毛鳥お面をかぶった大商人がやたら自信満々に柵を飛び越え、親鳥へと歩み寄っていく。それを見た親綿毛鳥がのっそりと立ち上がり、小屋から出てくる。
 大商人は両腕を大きく広げて――

「私がこの屋敷の主だ! 見たまえこのお面を! 君たちの仲間である! 怖くなーい怖くなーい!」

 パクッ。

「あっ」

 大商人は親綿毛鳥の嘴に啄ばまれ、ポイッと中庭の彼方へと放り棄てられてしまった。「また入ってきたなこのどら猫が!」とでも言うような慣れた仕草だった。

「この子たちはお父様には絶対に懐かないのです」
「わかるんですよ。誰が怪しい人間か」

 そう言いつつ柵内に入ったアイリーンちゃんとヘクターには、自ら顔を近づけて頬擦りする親綿毛鳥。大商人さんが不憫過ぎる。割と遠くまで投げ飛ばされたのに心配すらされてないぞ。

「俺も入って大丈夫かな?」
「はい、お父様以外であれば締め出されることはないかと」

 頑張れ、大商人。

「それじゃ、お邪魔します」

 俺は親綿毛鳥を、あの真っ白いふわもこを全力でもふりたい気持ちにウズウズしながら柵の中へと足を踏み入れた。
 その時――

《ああ、可哀想なのよ。気高き魔物が人間に飼われているなんて》

 どこからともなく、不気味な少女の声が聞こえた。

《あたしが、〈解放〉してあげるのよ》

 どうやら聞こえたのは俺だけでヘクターたちは気づいていない。どこだ? 誰だ? 周囲を見回しても声の主と思われる存在は見当たらない。
 気のせいか? そう思った次の瞬間、親綿毛鳥がピクリと体を震わせて大きく翼を広げた。
 その翼の先から、純白だった色がどす黒く染まっていく。

「二人とも離れろ!?」

 突然どうしたのかと驚いていたアイリーンちゃんとヘクターも異変に気づいた。俺は咄嗟に魔眼――〈嫉妬の解析眼〉を発動させる。

【バグ・フラフィバード】
【ステータス――〈呪い〉】

 やっぱりそうだ。〈呪い〉状態のモンスター。エヴリルの村を襲っていたエッジベア以来見ることはなかったが、まさかこんなところで遭遇するなんてな。
 いや、さっきまでは普通だった。あの声が聞こえた途端、大人しかった親綿毛鳥が変異した。
 何者かに〈呪い〉をかけられた。そういうことか?

「兄貴、これは一体!?」
「あ、あの子どうしちゃったんですか!?」

 ヘクターが妹を守りながら俺の下まで走ってきた。これが単なる魔物の暴走なら帰りたいところだが、これはあの糞じじいの言っていた世界の異変とやらに繋がる事態だ。
 やっと見つけた手がかり。
 真の意味で帰るためにも、ここはちょっと頑張ってみるか。

「俺にも正直まだよくわからんが、とにかくあの綿毛鳥は危険な魔物になったってことだ」

 全身が黒く染まってしまった綿毛鳥が大空へと舞い上がる。そのまま逃げていくのかと思いきや、俺たちに向かって突っ込んできたぞ。
 俺たちは左右に散って巨鳥の体当たりを回避する。

「ヘクター、アイリーンちゃんを連れて逃げろ!」
「兄貴は!?」

「俺はあの魔物をどうにかする!」

 再び上空に戻った親綿毛鳥を俺は睨んだ。それから右手を翳し、狙いを定めて力を放出する。

「〈憤怒の一撃イラ・ブロー〉!!」

 瞬間、俺の掌から凄まじい光線が天へと撃ち放たれた。説明しよう! 〈憤怒の一撃〉とは、俺の内に秘めた最も強い思念を物理的な力に変換して射出する能力である。つまり俺の帰りたい思いと帰りたいけど帰れないストレスを源としてぶっぱできるのだ。威力はチート。相手は死ぬ。

「おおおおっ! やっぱり兄貴はやる時はやる男です!」

 ヘクターがなんかキラキラした感動の眼差しを向けてきているが、そんなことしてないで早く逃げなさい。いくら威力がチートでも当たらなけりゃ意味ないんだから。

「待ってください! あの子を殺さないで!」

 アイリーンちゃんが叫んだ。

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