それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~
第十六話 実は俺も帰りたい
そんなこんなで、俺たちは朝食を済ませて急遽マンスフィールド家の屋敷へと向かうことになった。
「むー」
またあの変態お面オヤジと会うと思うと全力で帰りたくなるが……ここは至上のオフトゥンのため、俺は退くわけにはいかない。
「むむー」
だから俺はこれを『仕事』とは考えないぞ。新型ベッドの試用イベントに特別待遇で参加できた、と思うことにする。そうすればほら、これは立派な休日の楽しみ方だ。間違ってないだろ?
「むむむー」
「あの、兄貴ちょっと」
新型ベッドの寝心地を想像してワクワクしている俺に、ヘクターがそっと耳元で囁いてきた。
「どうした、ヘクター?」
「本当によかったのですか? エヴリルさんの頬がどんどん膨らんでいてそろそろ爆発しそうなのですが……」
俺はこっそり背後を見る。俺たちの三歩後ろをついてきているエヴリルさんは、ぷくーっと破裂寸前のお餅みたいにほっぺが膨らんでいた。とっても不機嫌そうに俺とヘクターの背中を睨んでいるな。隙あらば刺しそうな勢い。
その膨れっ面はつっつきたくなるくらい可愛いけど……あまり不機嫌オーラを撒き散らされるのもよくないよなぁ。俺はこのイベントをエヴリルにも楽しんでもらいたいんだよ。
「エヴリル、休みが消えたからってそんなに怒ることはない。これを仕事だと考えるからイライラして帰りたくなるんだ。俺たちは休日にヘクターの家に遊びに行く、そう思ってみろ」
「帰りたくなったです」
「実は俺も帰りたい」
「ええっ!?」
おっと、つい心の底の願望が口に出てしまった。
「エヴリルさんはともかく、兄貴はめちゃくちゃ乗り気だったじゃないですか!?」
「いや、やっぱりあのお面オヤジに会うとなると非常に抵抗が……」
「呼んだ?」
「どわひゃあっ!?」
ぬっ、といきなり真横から小太りな顔面が割り込んできて俺は変な声で叫んでしまった。蹴り倒したら転がって行きそうな丸々とした体型の中年親父がそこにいた。この前会った時はオーガのお面をつけていたが……今回はなんだあれ? デフォルメされた白鳥みたいなお面をつけているぞ。大変きもいですね。
こいつが巷で噂のお面大好き変態系中年オヤジこと、マンスフィールド商会を束ねる大商人さんだ。名前は知らない。
「親父、なんでここに?」
「なんで、か。ふむ、そう問われると君たちが遅いから迎えに来たと答えよう。我がマンスフィールド家の危機を救ってくれた英雄に会うのだ。やはり私自らが出るべきだと思うのだよ。ほら馬車に乗りたまえ」
割とまともなことを言っているが、実は大商人って暇なのかね? そんな馬鹿な。俺のイメージでは『帰りたい』って思いすら摩耗するくらい忙しいはずなのに……。
「あ、ちなみにこのお面は綿毛鳥だよ。今回の試作ベッドに合わせて特注で作らせたのだ。いやはや、この純白のフォルムが堪らないね。フフフ、どうだね? 羨ましかろう?」
「「「いや、別に」」」
俺とエヴリルとヘクターは三人同時に首を横に振った。大商人は「あ、そですか……」としょんぼりした様子で丸い体を更に丸くした。
かと思えばすぐにシュパッと顔を上げた。
「そうだそうだ忘れるところだった! 君たちは息子と我が商会を救ってくれた恩人だ。ギルドに提示した報酬だけでは私の気が済まない。是非とも渡したい物があるのだよ」
「え? なにかくれるですか?」
エヴリルがちょっと期待した眼差しを向けた。なんせ大商人なだけあってギルドの報酬はよかったからな。そんな太っ腹なおじ様がなにかくれると言うのだ。俺だって期待しちゃうね。
これで宝石とかだったらエヴリルさんの機嫌も直るんじゃないかな?
「フフフ、素晴らしいものだよ。君たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。嬉しさのあまり泣いちゃってもおじさん知らないぞ?」
大商人は勿体ぶるようにゆっくりとした動作で恰幅のいい懐に手を伸ばし――
「さあ、ありがたく受け取りたまえ」
バッ! と今度は勢いよくそれを俺たちに差し出した。
「君たちの銅像お面だ!」
「……」
「……」
俺たちはそそくさと馬車に乗り込んだ。
「ヘクター、出発してくれ」
「わかりました」
馬が嘶き、パカラパカラと馬蹄の音を弾ませて街路を進んでいく。俺とエヴリルの顔を模した銅製のお面なんていりません。土に還してください。
大商人はお面を差し出した姿勢のまま、馬車から見えなくなるまで固まっていた。
「むー」
またあの変態お面オヤジと会うと思うと全力で帰りたくなるが……ここは至上のオフトゥンのため、俺は退くわけにはいかない。
「むむー」
だから俺はこれを『仕事』とは考えないぞ。新型ベッドの試用イベントに特別待遇で参加できた、と思うことにする。そうすればほら、これは立派な休日の楽しみ方だ。間違ってないだろ?
「むむむー」
「あの、兄貴ちょっと」
新型ベッドの寝心地を想像してワクワクしている俺に、ヘクターがそっと耳元で囁いてきた。
「どうした、ヘクター?」
「本当によかったのですか? エヴリルさんの頬がどんどん膨らんでいてそろそろ爆発しそうなのですが……」
俺はこっそり背後を見る。俺たちの三歩後ろをついてきているエヴリルさんは、ぷくーっと破裂寸前のお餅みたいにほっぺが膨らんでいた。とっても不機嫌そうに俺とヘクターの背中を睨んでいるな。隙あらば刺しそうな勢い。
その膨れっ面はつっつきたくなるくらい可愛いけど……あまり不機嫌オーラを撒き散らされるのもよくないよなぁ。俺はこのイベントをエヴリルにも楽しんでもらいたいんだよ。
「エヴリル、休みが消えたからってそんなに怒ることはない。これを仕事だと考えるからイライラして帰りたくなるんだ。俺たちは休日にヘクターの家に遊びに行く、そう思ってみろ」
「帰りたくなったです」
「実は俺も帰りたい」
「ええっ!?」
おっと、つい心の底の願望が口に出てしまった。
「エヴリルさんはともかく、兄貴はめちゃくちゃ乗り気だったじゃないですか!?」
「いや、やっぱりあのお面オヤジに会うとなると非常に抵抗が……」
「呼んだ?」
「どわひゃあっ!?」
ぬっ、といきなり真横から小太りな顔面が割り込んできて俺は変な声で叫んでしまった。蹴り倒したら転がって行きそうな丸々とした体型の中年親父がそこにいた。この前会った時はオーガのお面をつけていたが……今回はなんだあれ? デフォルメされた白鳥みたいなお面をつけているぞ。大変きもいですね。
こいつが巷で噂のお面大好き変態系中年オヤジこと、マンスフィールド商会を束ねる大商人さんだ。名前は知らない。
「親父、なんでここに?」
「なんで、か。ふむ、そう問われると君たちが遅いから迎えに来たと答えよう。我がマンスフィールド家の危機を救ってくれた英雄に会うのだ。やはり私自らが出るべきだと思うのだよ。ほら馬車に乗りたまえ」
割とまともなことを言っているが、実は大商人って暇なのかね? そんな馬鹿な。俺のイメージでは『帰りたい』って思いすら摩耗するくらい忙しいはずなのに……。
「あ、ちなみにこのお面は綿毛鳥だよ。今回の試作ベッドに合わせて特注で作らせたのだ。いやはや、この純白のフォルムが堪らないね。フフフ、どうだね? 羨ましかろう?」
「「「いや、別に」」」
俺とエヴリルとヘクターは三人同時に首を横に振った。大商人は「あ、そですか……」としょんぼりした様子で丸い体を更に丸くした。
かと思えばすぐにシュパッと顔を上げた。
「そうだそうだ忘れるところだった! 君たちは息子と我が商会を救ってくれた恩人だ。ギルドに提示した報酬だけでは私の気が済まない。是非とも渡したい物があるのだよ」
「え? なにかくれるですか?」
エヴリルがちょっと期待した眼差しを向けた。なんせ大商人なだけあってギルドの報酬はよかったからな。そんな太っ腹なおじ様がなにかくれると言うのだ。俺だって期待しちゃうね。
これで宝石とかだったらエヴリルさんの機嫌も直るんじゃないかな?
「フフフ、素晴らしいものだよ。君たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。嬉しさのあまり泣いちゃってもおじさん知らないぞ?」
大商人は勿体ぶるようにゆっくりとした動作で恰幅のいい懐に手を伸ばし――
「さあ、ありがたく受け取りたまえ」
バッ! と今度は勢いよくそれを俺たちに差し出した。
「君たちの銅像お面だ!」
「……」
「……」
俺たちはそそくさと馬車に乗り込んだ。
「ヘクター、出発してくれ」
「わかりました」
馬が嘶き、パカラパカラと馬蹄の音を弾ませて街路を進んでいく。俺とエヴリルの顔を模した銅製のお面なんていりません。土に還してください。
大商人はお面を差し出した姿勢のまま、馬車から見えなくなるまで固まっていた。
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