それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第十話 勇者様は最初から勇者様だったです

 わたしが勇者様と出会ったのは、わたしの暮らしていた村から少し離れたところにある森の中だったです。
 そこはわたしも信仰している天空神ウラヌス様の御神体を祀る祭殿があって、魔導師の修行の場にもなっている聖なる森です。

 その日の修行を終えたわたしは、祭殿で祈りを捧げて村へ帰るところだったです。
 突然、祭殿の床に巨大な魔法陣が出現したです。驚いたわたしは咄嗟に木の陰に隠れて様子を伺ったです。
 すると、魔法陣の中心から異国の服を纏った少年と――少年に腕を掴まれて涙目で必死にもがいているおじいさんが出て来たです。

「てめジジイ強引に転移させてんじゃねえぞコラ! 異世界だかなんだか知らないが行ってたまるか! 俺は元の世界に帰るんだ! つか帰せ!」
「ちょい!? マジやめて引っ張らないでお願いします!? もう異世界来てる!? 来てるから!?」
「知るか今すぐ俺は帰るんだ! ここをもう一回通ればさっきの椅子しかない部屋に戻るんだよな? そこからなら元の世界に帰れるんだろ? 俺知ってるよ?」
「無理無理!? だってお主死んだじゃん!? よくある異世界転生系の小説みたいにトラックに轢かれて死んだじゃん!? 記憶と体を引き継いで新しい世界でニューゲームすることのどこに不満が――」
「ありまくりだこの野郎!? そういうのはフィクションで見るから楽しいんだクソジジイ!? ていうか俺死んでませんから! この通り生きてますから! 元の世界に帰すことだってできるだろ!?」
「さっきも説明したけど人口が溢れ返ったあっちの世界に生まれ変わる人数には制限があるの! 魂のバランスを取るために人口が減少している世界に転生させるのが儂ら神の仕事であって――」
「そんなテンプレ設定いらないんだよ!?」
 当時のわたしは言葉がわからなくて二人の遣り取りを理解できなかったですが……今にして思えば、勇者様は最初から勇者様だったです。

「わかった! よしわかった! 帰すことはできぬが、能力をもう一個やろう! な? それでどうか勘弁してくださいッ!!」

 おじいさんの方はなんだか天空神様の銅像にそっくりでしたが、魔法陣に半分沈んだ体を少年に引っこ抜かれそうになってマジの抵抗をしてる人が神様だったなんて今も信じたくないです。

「そういえばさっき貰ったこの魔眼でお前を見た時、内ポケットにキャバクラ嬢の名刺みたいなものが」
「あーあーッ!? なんのことかなおじいちゃん歳だからわからないなぁ!?」
「……ははーん、なるほど、全部〈解析〉できた」
「くっそ最悪の奴に最悪の能力あげちゃったよチクチョウ!?」
「天にまします神々のみなさーん! 聞いてくださーい! この駄神はあろうことか天界の資産を横領して人間界の風俗に通って――」
「ぎゃあああああああああああッ!? 待って待ってわかったわかった! もう二つ、いや三つ……いやいや六つ能力を差し上げますから持ってけドロボー!?」

 おじいさんが手を翳すと少年の体が虹色に輝き始めたです。あれがどんな魔法なのかは未熟なわたしにはわからなかったですが、勇者様はこの時にいろんな力とその使い方が直接頭に流れ込んできたと言ってたです。

「うっ、力が一気に……」
「チャンス!」
「あ、てめっ」

 少年が一瞬くらっとした隙をついて、おじいさんは腕を振り払って魔法陣に飛び込んで行ったです。少年が捕まえようとするけどもう遅く、おじいさんは頭の先までトプンと沈んだです。

「フハハハ! 油断したなバァカめ! お主にはこのまま異世界で人生を過ごしてもらわねば儂が困るのだ。だってお主を異世界にやらないと儂が今月のノルマを達成できなくて上司に怒られちゃうもん!」
「どこの会社の営業マンだお前は!?」

 少年はおじいさんが沈んだ場所に手を突っ込もうとしたですけど、そこはもう硬い石床になっていてすり抜けなかったです。それでも魔法陣は輝き続け、おじいさんの声が聞こえてきたです。

「その世界には異変が起きておる。それを見事解決できれば、もしかすると帰れるかもねー」

 なんだかテキトーな調子でそれだけ言い残すと、魔法陣が幻だったかのように消えておじいさんの声も聞こえなくなったです。
 一人残された少年は困ったように頭をわしゃわしゃと掻いていたです。

「くっそ、異変ってなんだよ? せめてもうちょっと詳しく説明しろよ。魔王でも倒せって言うのか?」

 わたしは驚き過ぎてまだ声をかけられずにいたです。

「あっ! この〈模倣〉のスキルで神をコピーすれば帰れたんじゃないか? ミスッたな。いや待てよ。この〈解析〉の魔眼で神を見たからそれを元に……ん? なんか頭の隅に注意書きが……『いつから神から授かった力で神を〈模倣〉できると錯覚していた?』――死ね!!」

 今度は腕を組んでぶつぶつ言い始めたです。

「他は……確かに全部チートだが、帰れそうな能力はないな。――携帯も圏外。当たり前か」

 少年が見たこともない薄い板状のなにかを取り出して溜息をついたです。そこでやっとわたしは正気づいたです。ちょっと怖かったですが、困っているみたいなので声をかけようと決意したです。
 その時だったです。

 わたしが声をかける前に、少年が突然こっちを見たです。

「おいあんた! 逃げろ!」

 少年はなんか顔を青くして叫んだですが、異国の言葉がわからなかったわたしは首を傾げるしかなかったです。
 だから、後ろから魔物が近づいて来ていることに気づかなかったです。

「危ねえッ!?」
「ひゃあッ!?」

 動こうとしないわたしを駆けつけた少年が突き飛ばしたです。わたしは地面を転がって、いきなりなにするです! と文句を言ってやろうと思ったです。
 ですが、さっきまでわたしがいた場所に巨大な爪痕ができていてゾッとしたです。
 そこでようやく、わたしは魔物の存在に気がついたです。長く鋭い爪を持った、二足歩行する巨大な熊の魔物。

 少年が突き飛ばしてくれなかったら、わたしは間違いなく八つ裂きになっていたです。

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