それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第七話 それはつまり俺の帰る場所を奪うってことだ

 突然現れた謎の美女に、ヘクターが苦虫を噛み潰したような顔をする。

「あんたは……くそっ、なんでここに」
「え? 誰?」
「どちら様です?」

 戸惑う俺とエヴリルに、ヘクターは警戒するように女性から視線を外さないまま小声で囁く。

「親父の再婚相手だ」
「へー」

 綺麗で人のよさそうなお姉さんじゃないか。まあ、あの中年変態お面オヤジの再婚相手と考えると若過ぎるし美人過ぎるし、こりゃあヘクターじゃなくたって疑っちゃうよね。しょうがないね。

「あなたに会えると思って冒険者様の後をつけて来たのよ。さあ、帰りましょう。あの人が待っているわ」

 いい人じゃないか。普通、まだ結婚もしてないのに相手の家出した子供をこんな熱心に捜してくれる人なんていないぞ。俺にも『帰りましょう』って言ってくれる人を絶賛募集しております。お問い合わせは俺まで。

「断る」
「どうして?」
「オレは全部知っている。これから衛兵に通報するつもりだったんだ。いい人のフリなんてやめて正体を現せ盗賊め!」
「「えっ!?」」

 啖呵を切ったヘクターに俺とエヴリルが同時に驚きの声を上げる。
 すると――

「く、ふふふ、アハハハハハハハハッ! これだから頭のキレるガキは嫌いなんだよ!!」

 女性が纏めていた髪を解いて優しげだった表情を豹変させた。

「御明察だよお坊ちゃん。アタイはドゥルシー――盗賊団〈ワイルドキャッツ〉のリーダーさ。隠し通せる自信はあんたんだけどねぇ。どこで気づいたんだい?」
「最初から怪しいとは思っていた。昨日親父と喧嘩した後、家出と見せかけてあんたの後をつけたんだ。そしたらあんたが部下と会っているところを目撃した。単なる金目当てじゃなく、マンスフィールド家の全財産を奪い取る計画の全貌を聞いた」
「ふぅん、やっぱりお前は邪魔だね。死んでもらうしかなさそうだよ」

 ドゥルシーとかいう女性がパチンと指を鳴らすと、周りからぞろぞろとなんか強面の男たちが集まってきた。やだ怖い。俺らあんまり関わってないんでそういうことは迷惑なんて余所でやってくれませんかね?

「盗賊に襲われたことにする――ってことか」
「その通りだが、襲われたことにするのはお前じゃない。お前が泊まっていたそこの宿だ!」

 ピクリ。
 今、聞き捨てならないことが聞こえたぞ。

「住民になにか言ったかもしれないし、どんな証拠を隠されているかわかったもんじゃないからねぇ。そうさね、適当に皆殺しにして金目の物を盗んだ後は火でもつけてやろうか!」
「やめろ! 宿は関係な――」
「どけ」

 俺は表情を焦りの色で染めたヘクターを無理やり引っ張って下がらせた。俺が代わりにドゥルシー率いる強面盗賊団の前に立つ。急に交代させられたヘクターは目を白黒させてるな。だが、もう事はお前の問題だけじゃないんだ。

「なんだい、冒険者? そのお坊ちゃんを助けようって言うのかい?」
「いいや、そんなつもりは別になかった。あくまで俺たちと関係ないところでやってくれんならスルーして帰ってもよかったんだ」
「ハン! 帰すわけないだろう? お前たちもアタイの正体を知ったからにはきっちり死んでもら――」
「黙れオバサン」
「お、おば……」

 おっと、つい怒りに任せて暴言が出ちゃったけどもう誰も俺を止められないぞ。
 ドゥルシーは、言っちゃあいけないことを口にしたんだ。

「いいか? あんたは宿を燃やすって言った。それはつまり俺の帰る場所を奪うってことだ。俺を帰れなくするってことだ! その意味をあんたがわかっていようがいまいがとりあえず――覚悟はできてんだろうなぁ?」
「――ひッ!?」

 ドゥルシーと彼女の周囲の盗賊たちが一瞬身を震わせた。それほどの怒気が今の俺から放たれているんだ。

「な、なんだか知らないけど、たかが星二つの冒険者だ! やっておしまいッ!!」

 ドレスの内側に隠していた鞭を取り出して部下の盗賊たちに指示を出すドゥルシー。俺は振り返らず後ろに向かって言う。

「エヴリル、そいつ連れて下がってろ」
「はいです!」
「おい、あんた」
「いいです。勇者様に任せれば大丈夫です」

 ヘクターがエヴリルに引っ張られていくのを気配で感じながら、俺は躍りかかってきた盗賊たちを――握っていた鞭で叩き伏せた。

「なっ!? アレはアタイの鞭ッ!? いやでもアタイのはここに……?」

 同じ武器を見て困惑するドゥルシー。まあ、理解できないだろうな。これは俺が神から与えられた能力の一つなんだし。

「聞いて絶望しろ。俺は全部で七つのスキルを持っている」

 俺は片手の指全部ともう片手の指二本を立てて七を表現した。

「七つだって!? い、いやハッタリに決まっているさ!? 囲んで袋にしな!!」

 盗賊たちが俺を囲む。だがさっきみたいに無闇に襲いかかってくることはしないな。じりじりとにじり寄ってくる。ナイフとか持ってて日本にいた頃の俺だったら余裕で土下座しているだろうが――

「俺の帰る場所を奪おうとする連中に慈悲なんていらねえよなぁ!」

 俺が叫ぶと同時に四方八方から飛びかかってきた盗賊たちは、生き物のようにうねる鞭に一瞬で叩き弾かれた。

「どういうことだい!? それはアタイの技じゃないか!? いやアタイのよりずっと――」
「強い、だろ? 説明してやる。この中で一番強いのはお前だ。俺はお前の能力を〈解析〉して自分のモノにした。何倍にも強くしてな」
「なんだって!?」

 驚愕するドゥルシー。能力を説明するなんて馬鹿げた行動だ。それはわかっている。わかっているんだけど……なんでこんなに気持ちいいんだろうね?

「〈嫉妬の解析眼インウィディア・アナリシス〉――この目は魔眼になっていて、発動時は視界に映る全てを〈解析〉する。例えば……ふむ、上から九十・五十六・八十二か」
「ちょっ!?」

 スリーサイズをピタリと当てられたドゥルシーが自分の体を抱き寄せた。

「最低です」

 そして俺の背後から北風のような視線が突き刺さった。う、うるさいな。これが一番手っ取り早いんだよ! 別に俺が美女のスリーサイズ知りたいからってわけじゃないんでゲス。
 気を取り直して。

「二つ目のスキル――〈傲慢なる模倣スペルビア・トレース〉。〈解析〉した情報を元に、対象物の異能や魔力や身体能力といったステータスを全てコピーして超越する。一対一で俺に勝てる奴はいないだろうな」
 いわゆるコピー能力。チートの定番だよな。なんでも吸い込む桃色饅頭みたいに一度に一つしかコピーできないが、その力はオリジナルから何倍にも引き上げられている。普通なら劣化するところだ。

「そして三つ目は、これだ」

 俺は手に握っていた鞭を見せた。

「〈強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――俺の想像力が及ぶ限り、どんなものでも無からこの世に顕現できる」
「なんだいそりゃ!? あんた神かなにかのつもりかい!?」

 はい、その神からいただいた能力です。もっともこいつには制限があって、無から創るわけだから世界の因果とか諸々に引っかかって三分間しか存在できない。だが、三分もあれば充分チートだろ?
 残り四つは今は使う必要ないな。またの機会ってことで。
 ちなみにこれらに最初能力名なんてなかった。この世界に来たばかりの頃、まだ充電が生きてたスマホの辞書を使って厨二病っぽい名前をつけたのは内緒。異世界だから厨二病を叫んでも恥ずかしくないもん! そう思っていたあの頃の俺死ね! 実は結構恥ずかしい。でも定期的にやりたくなってしまうから困る。

「と、とにかくよくわからんけど、アタイよりちょっと強い鞭使いになった程度で調子に乗るんじゃあないよ!? 全員でかかれば楽勝さ!!」

 残りの盗賊たちはドゥルシー含めて約十人。確かに一対一なら油断しない限り負けないだろうが、複数が相手だとキツイかもな。
 俺が一人で戦うのなら。

「そうか、じゃあ……」

強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――俺を二十人ほど創造。

 どこからともなく出現した俺の分身たちが、逆に盗賊たちを包囲する。驚き過ぎて口をパクパクさせる盗賊たちに、俺はニヤリと笑って問いかける。

「こんな風に今の俺がお前らの倍の数いたら、どうなると思う?」
「よりきもくなるです」
「はいそこエヴリルさん、今いいところなんだからシャラップ!」

 これでもまだ歯向かってくるのだとしたら……戦車とか戦闘機とか出してみるか。俺はミリオタじゃないから詳しい構造は知らないが、それでもイメージできるならなんでも〈創造〉できます。

「あ……あ……」

 が、そんな心配はいらなかった。完全に腰砕けになった盗賊たちを『俺たち』が捕縛するのは、たったの数分程度で終わった。わーい早く済んだー。

 まったく、これに懲りたらもう二度と他人様の家を燃やそうなどと言うんじゃねえぞ?

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