それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第一話 俺は常にこう思うだろう

 もしも、あなたが物語の主人公だったらどうなりたいですか?

 異世界に行ってチート能力で無双したい。たくさんの美少女たちとハーレムを築きたい。格好よく難事件を解決したい。幼馴染と純愛したい。生徒会やら謎の文化部やらに入ってくだらないことでだべりたい。タイムスリップして戦国時代で天下統一したい。巨大ロボットを操縦して宇宙戦争で活躍したい。
 まあ、いろいろあると思う。俺もそういうのを夢見なかったと言えば嘘になる。つまらない現実を生きているなら、非日常でフィクションフィクションした世界観の中心に自分を置いた妄想をしたことのない人なんていないはずだ。

 だが、それらはあくまで妄想であって、実際に体験することは絶対にない。だからこそ夢であり、現実逃避の終着駅であり、小説や漫画の主人公と自分を重ねてみることでワクワクするんだ。

 普通は。

 じゃあ、実際に体験しちゃったらどうなると思う?

 異世界に行ってチート能力で無双する。たくさんの美少女たちとハーレムを築く。格好よく難事件を解決する。幼馴染と純愛する。生徒会やら謎の文化部やらに入ってくだらないことでだべる。タイムスリップして戦国時代で天下統一する。巨大ロボットを操縦して宇宙戦争で活躍する。

 うん、だから、それらは妄想だ。
 いざそういう場面になって、実際に妄想通りに行動することができるか?
 俺はできない。いや、できていたとしてもそれは最初だけだった。
 妄想って奴は基本的に嫌な事は省略される。つまり現実はどこの世界に行ったとしてもその『嫌な事』が付き纏うわけで、最初はよくても段々と同じ感情へと帰結するようになる。

 異世界に行ってチート能力を得ても、たくさんの美少女たちが言い寄って来ても、格好よく解決できる事件に遭遇しても、好意を抱いてくれる幼馴染がいても、くだらないことでだべり続ける生徒会や謎の文化部があったとしても、タイムスップで戦国時代に行ったとしても、巨大ロボットに乗ることができたとしても。

 俺は常にこう思うだろう。

 帰りたい。

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