希望と夢は同じようで違う。

ノベルバユーザー173744

戦いのあとの軍師

 軍師……。

 将軍の次に……いや、それ以上に味方や敵の情報を一手に掌握し、軍略を練り、将軍に上申したり、もしくは、それすらなくとっさの判断で軍を、部隊を動かす存在……。

 しかし、隣国を壊滅、もしくは隣国が協定を希望するとそれからは外交の職務になり、軍師は用済みとなる。
 いや、この国……デュッフェルの国では、代々、野蛮ではあるが、帰ってきた軍の戦勝パーティの裏で、軍師は口を封じられる。
 首をはねられ、その首を塔に納められるのだ。

 それが当たり前であった。
 逆に策略を伝えなかったとしても、敗戦の責任を取り、殺され、こちらは無惨にも遺骸をその辺りに打ち捨てられる。
 戦勝して首は塔に納められたら、残った身体は、棺に納められ軍師の墓に埋葬される。

 どちらがましか……微妙であるが……。



 10年前、弱冠7歳で軍師として召喚されたクリスでも、一日一日と王都に向かうことにより死に近づく。
 7歳とはいえ、当時から結末は解っていたが、8歳上の天才と言われた兄が、召喚を拒み行方をくらませた。
 軍の……国の命令に背くのは、家族親族は罰せられる。
 特に両親は兄を逃がした罪人として殺される。

 それだけはさせられないと、周囲の反対を押しきって……軍にやって来たのである。
 元々、兄が軍師として勉強していたのを横で勉強していた。
 兄の残した本やノートと共に、兄に届けられたローブを身にまとい、軍の新しい将軍であるウィルヘルムの元に出向いたのだった。



 自分は逃げるつもりはない。
 逃げては逃亡罪として、自分のみならず家族や今度は軍の仲間に罪が及ぶ。
 せっかく共に戦って生きて戻って、家族に会うのだと喜びあっている仲間を巻き込みたくない。
 次第に周囲の警備は強化され、今まで戦いの中、冗談をいっては気分を晴らしていた仲間たちとも遠ざかる。
 解っていても寂しかった……。
 敢えて避けていたこともあるが、切なかった。

 しかし、どうしても今日は……。
 ローブをまとい、自分のテントを出て、歩き出す。
 微妙な顔で付いてくる護衛の兵士に、

「ありがとう、大陣営に届けるのでよろしくお願いします」

微笑み、進んでいく。

 周囲には余り人はいない。
 ざわざわとしていた今までに比べ、雲泥の差である。

 一番大きなテントの入り口の兵士に頭を下げると、

「失礼致します」

と声をかけた。
 護衛が掛布を持ち上げようとするが、首を振る。

 ざわざわとしていたテントの中……一瞬に静まり返る中、ウィルヘルムの声が響いた。

「クリスか?どうした?入れ」
「いえ、これだけお渡ししたく持ってきたものですので、こちらの方にお渡ししておきます。目を通して、ご確認して頂きたく」
「何をだ?」
「10年前より、全ての戦い、こちらと相手の被害、亡くなった皆の名前、怪我をした人の名前、記録できる限り全て記録しております。こちらをお預かり下さいませ。では」

 丁寧に頭を下げると、油紙に包んだ紙の束を兵士に手渡し、もう一度頭を下げて自分のテントに戻っていった。

 そして、ようやく自分の身の回りを……転戦に次ぐ転戦でそれほどないが……片付け、残りの日々をどう過ごそうかと考えるのだった。

「希望と夢は同じようで違う。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く