希望と夢は同じようで違う。
戦いのあとの軍師
軍師……。
将軍の次に……いや、それ以上に味方や敵の情報を一手に掌握し、軍略を練り、将軍に上申したり、もしくは、それすらなくとっさの判断で軍を、部隊を動かす存在……。
しかし、隣国を壊滅、もしくは隣国が協定を希望するとそれからは外交の職務になり、軍師は用済みとなる。
いや、この国……デュッフェルの国では、代々、野蛮ではあるが、帰ってきた軍の戦勝パーティの裏で、軍師は口を封じられる。
首をはねられ、その首を塔に納められるのだ。
それが当たり前であった。
逆に策略を伝えなかったとしても、敗戦の責任を取り、殺され、こちらは無惨にも遺骸をその辺りに打ち捨てられる。
戦勝して首は塔に納められたら、残った身体は、棺に納められ軍師の墓に埋葬される。
どちらがましか……微妙であるが……。
10年前、弱冠7歳で軍師として召喚されたクリスでも、一日一日と王都に向かうことにより死に近づく。
7歳とはいえ、当時から結末は解っていたが、8歳上の天才と言われた兄が、召喚を拒み行方をくらませた。
軍の……国の命令に背くのは、家族親族は罰せられる。
特に両親は兄を逃がした罪人として殺される。
それだけはさせられないと、周囲の反対を押しきって……軍にやって来たのである。
元々、兄が軍師として勉強していたのを横で勉強していた。
兄の残した本やノートと共に、兄に届けられたローブを身にまとい、軍の新しい将軍であるウィルヘルムの元に出向いたのだった。
自分は逃げるつもりはない。
逃げては逃亡罪として、自分のみならず家族や今度は軍の仲間に罪が及ぶ。
せっかく共に戦って生きて戻って、家族に会うのだと喜びあっている仲間を巻き込みたくない。
次第に周囲の警備は強化され、今まで戦いの中、冗談をいっては気分を晴らしていた仲間たちとも遠ざかる。
解っていても寂しかった……。
敢えて避けていたこともあるが、切なかった。
しかし、どうしても今日は……。
ローブをまとい、自分のテントを出て、歩き出す。
微妙な顔で付いてくる護衛の兵士に、
「ありがとう、大陣営に届けるのでよろしくお願いします」
微笑み、進んでいく。
周囲には余り人はいない。
ざわざわとしていた今までに比べ、雲泥の差である。
一番大きなテントの入り口の兵士に頭を下げると、
「失礼致します」
と声をかけた。
護衛が掛布を持ち上げようとするが、首を振る。
ざわざわとしていたテントの中……一瞬に静まり返る中、ウィルヘルムの声が響いた。
「クリスか?どうした?入れ」
「いえ、これだけお渡ししたく持ってきたものですので、こちらの方にお渡ししておきます。目を通して、ご確認して頂きたく」
「何をだ?」
「10年前より、全ての戦い、こちらと相手の被害、亡くなった皆の名前、怪我をした人の名前、記録できる限り全て記録しております。こちらをお預かり下さいませ。では」
丁寧に頭を下げると、油紙に包んだ紙の束を兵士に手渡し、もう一度頭を下げて自分のテントに戻っていった。
そして、ようやく自分の身の回りを……転戦に次ぐ転戦でそれほどないが……片付け、残りの日々をどう過ごそうかと考えるのだった。
将軍の次に……いや、それ以上に味方や敵の情報を一手に掌握し、軍略を練り、将軍に上申したり、もしくは、それすらなくとっさの判断で軍を、部隊を動かす存在……。
しかし、隣国を壊滅、もしくは隣国が協定を希望するとそれからは外交の職務になり、軍師は用済みとなる。
いや、この国……デュッフェルの国では、代々、野蛮ではあるが、帰ってきた軍の戦勝パーティの裏で、軍師は口を封じられる。
首をはねられ、その首を塔に納められるのだ。
それが当たり前であった。
逆に策略を伝えなかったとしても、敗戦の責任を取り、殺され、こちらは無惨にも遺骸をその辺りに打ち捨てられる。
戦勝して首は塔に納められたら、残った身体は、棺に納められ軍師の墓に埋葬される。
どちらがましか……微妙であるが……。
10年前、弱冠7歳で軍師として召喚されたクリスでも、一日一日と王都に向かうことにより死に近づく。
7歳とはいえ、当時から結末は解っていたが、8歳上の天才と言われた兄が、召喚を拒み行方をくらませた。
軍の……国の命令に背くのは、家族親族は罰せられる。
特に両親は兄を逃がした罪人として殺される。
それだけはさせられないと、周囲の反対を押しきって……軍にやって来たのである。
元々、兄が軍師として勉強していたのを横で勉強していた。
兄の残した本やノートと共に、兄に届けられたローブを身にまとい、軍の新しい将軍であるウィルヘルムの元に出向いたのだった。
自分は逃げるつもりはない。
逃げては逃亡罪として、自分のみならず家族や今度は軍の仲間に罪が及ぶ。
せっかく共に戦って生きて戻って、家族に会うのだと喜びあっている仲間を巻き込みたくない。
次第に周囲の警備は強化され、今まで戦いの中、冗談をいっては気分を晴らしていた仲間たちとも遠ざかる。
解っていても寂しかった……。
敢えて避けていたこともあるが、切なかった。
しかし、どうしても今日は……。
ローブをまとい、自分のテントを出て、歩き出す。
微妙な顔で付いてくる護衛の兵士に、
「ありがとう、大陣営に届けるのでよろしくお願いします」
微笑み、進んでいく。
周囲には余り人はいない。
ざわざわとしていた今までに比べ、雲泥の差である。
一番大きなテントの入り口の兵士に頭を下げると、
「失礼致します」
と声をかけた。
護衛が掛布を持ち上げようとするが、首を振る。
ざわざわとしていたテントの中……一瞬に静まり返る中、ウィルヘルムの声が響いた。
「クリスか?どうした?入れ」
「いえ、これだけお渡ししたく持ってきたものですので、こちらの方にお渡ししておきます。目を通して、ご確認して頂きたく」
「何をだ?」
「10年前より、全ての戦い、こちらと相手の被害、亡くなった皆の名前、怪我をした人の名前、記録できる限り全て記録しております。こちらをお預かり下さいませ。では」
丁寧に頭を下げると、油紙に包んだ紙の束を兵士に手渡し、もう一度頭を下げて自分のテントに戻っていった。
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