ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

20-177.即席パーティ

 
「それにしても、よく此処が分かったな」

 ソラリスが話題を変える。

「アリアドネの種を追いましたからなんてことありませんでしたよ。ソラリス、貴方が蒔いたのでしょう? 種の色でまだ日にちが経ってないことは分かりましたし、直ぐ追いつけると思っていましたよ」
「だな」

 ソラリスがニカリと笑う。

「ロープを垂らして置きましたから、もと来た道を戻っていくことは出来ます。どうしますか?」

 ロンボクの口元に笑みが浮かぶ。ヒロがぐるりと一同を見渡した。帰ろうという顔をしたものは一人もいなかった。そうだ、折角此処まで来たのだ。マナの消耗もまだ大丈夫。あと一日くらいは安全圏だろう。余程の足止めを食いさえしなければ、一日あれば戻れる。何より隠し扉の奥に隠されたこのホールに何もないとは考えにくい。

「援軍を得たのに、帰るのは冒険とは言えないよな」
「ですね」

 ロンボクが首を少し傾けて、当然という顔をする。

「じゃあ即席のパーティだな。あたいらも今回が初めてだけどね」
「ソラリス、貴方がパーティに入った事はギルドでも評判になってましたよ。どんな凄腕が貴方を口説いたんだってね」

 ロンボクはヒロにウインクしてみせると、エルテに声を掛ける。

「初めまして。自己紹介がまだでしたね。僕はロンボク、魔法使いです。こっちはミカキーノさん、スティール・メイデンのリーダーです」

 ロンボクがエルテに挨拶をしたが、エルテは戸惑いの表情を浮かべていた。エルテが答えを探していると、ヒロが割って入った。

「彼女はエルテ。神官の格好をしているが、冒険者の代理人マネージャーだ。魔法も使える。よろしく頼むよ」

 ヒロは、エルテを代理人マネージャーだと紹介した。ロンボクが彼女エルテを知っているか分からないが、冒険者ギルドで姿をみた事くらいはあるだろうと思った。ならば、変に隠し事をして不審を持たれることは避けた方がいいだろう。もちろん、彼女が黒衣の不可触ブラックアンタッチャブルであると明かすことはしなかったが。

「よろしく、エルテさん。ギルドで貴方を何度か見かけた事があります。僕は代理人マネージャーを雇わないので、お話する機会も無かったですけど、何か御縁があれば宜しくお願いします」

 エルテは無言で答礼した。

「ヒロさん、エルテさんは、貴方の代理人マネージャーですか?」
「いや、ちょっとした訳があってね。迷宮探索のクエストに同行して貰ってるんだ」
「そうでしたか。代理人マネージャーが冒険者パーティに加わるのは、ないこともないですしね」

 ロンボクは成程と頷いた。余り深く詮索されると、エルテの正体がバレてしまい兼ねない。ヒロは内心冷や汗を掻いたが、ロンボクはそれ以上追求しなかった。ほっとしたヒロは、探索を続けると皆に告げる。

「この通路の奥に何かがありそうだ。行こう」
「待て」

 踵を返そうとしたヒロをミカキーノが止めた。

「?」

 ミカキーノは懐からナイフを取り出すと右の壁際に向かって投げつけた。

 ――ギィキキキキィ!!!!!

 先程何度も聞いた小悪鬼ゴブリンの悲鳴が聞こえる。次いでドサリと倒れる音がした。

 ヒロ達が向かうと、背中にナイフが刺さった小悪鬼ゴブリンが一匹倒れていた。まだ息がある。

 まだ生き残りがいたのか。全部片づけた積もりだったのだが。

 ミカキーノは大剣の切っ先が下にくるようにして両手で持ち、ぐいと引き上げる。大怪我をしている筈なのに、少しもぶれない。相当体幹が強いのだろう。

ゴブリンこいつらは直ぐ仲間を呼ぶからな」

 ――グシャリ。 

 小悪鬼ゴブリンが絶命したのを確認したミカキーノは無言で剣を引き抜いた。目線でいいぜとヒロに告げる。

 ヒロも目線で分かったと返す。ロンボクとミカキーノを加えたヒロの一行はホールの奥に向かった。
 

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