ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

17-149.御注文の品、届いておりますぞ

 
 ――三日後。早朝。

 ヒロとソラリスとリムの三人はエマの街の大通りを歩いていた。路の両脇には露天商が立ち並び、朝市で賑わっていた。ヒロ達はこの街でエルテと落ち合い、明日からフォーの迷宮に向かうことにしていた。出発前にこの街に寄ったのは、準備を整えるためだ。ヒロ達は時折、露天で足を止めて果物やパンを調達しながら、大通りから少し外れた道具屋に向かっていた。

「おはよう、カダッタ」
「おお、ヒロ殿。ようこそ。御注文の品、届いておりますぞ」

 店先に品物を出して開店準備をしていたカダッタが大きな体を揺らして愉快そうに笑う。注文の品というのはもちろん、ミスリル銀の特製鎖帷子のことだ。

「こちらで待って下され。持って参りますでな」

 カダッタはヒロ達を店内のテーブルに案内するとバックヤードに消える。

 ヒロは肩に掛けていたナップサックを降ろし、中から朝市で仕入れた果物ラルパをソラリスとリムに渡す。朝食の代わりというよりは、水分補給の積もりだった。ソラリスとリムはヒロに礼をいってラルパを囓る。シャリシャリと歯応えのある果肉が桃の味を舌に伝える。ヒロ達がラルパを一つ平らげたところでカダッタが鎖帷子を手に戻ってきた。後ろに誰かを連れている。

「ヒロ殿、紹介致しますぞ。ギリアム工房のギム親方です。御注文の鎖帷子の製作者ですな」

 紹介された親方は、酷く小柄な壮年の男だった。背丈はリムよりも少し高いくらい。おそらく百四十センチもないだろう。深い緑色をした丈の長い服を、幅広の茶色い皮ベルトで止めているため、裾の部分がまるでミニスカートを履いているかのように見える。しかし胸板も腹回りも分厚い筋肉の鎧で覆われ、袖無しの肩口から見える二の腕などヒロよりも太いくらいだ。顎から耳に掛けて白髪混じりの長い髭が胸元辺りまで伸びているが、頭髪は全くない。薄い眉の下に光る眼孔は鋭く、頑固そうな顔付きを一層際立たせていた。
 

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