ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

17-144.アラニス・エマ

 
 エルテからの迷宮探索の依頼クエストを受けたヒロ達は、エルテと共に、その足で冒険者ギルドに向かった。パーティ登録をするためだ。

「ラルル、パーティ登録だ」

 ソラリスの明るい声が冒険者ギルドの受付窓口に響いた。その声を聞いた周囲の冒険者達が一斉に視線を向ける。

 未攻略迷宮へは、原則パーティを組んでいかなければならない。どんな危険があるか分からないからだ。無論、それを無視して単独で向かう冒険者もいない訳ではないが、高ランクの冒険者か、余程の偏屈だけだ。

 アルプスやヒマラヤ登山では、ルートの確立から、キャンプの設営、荷揚げと多くのメンバーがパーティを組んで、十分な準備を整えてから望むのが普通だ。それでも、頂上を踏むことができるのは、登頂アタックに選ばれた一握りが天候を味方につけたときだけだ。増してや、未踏峰へのアタックともなれば尚更だ。ヒロは未攻略迷宮の探索は登山にも似ているなとソラリスの説明を聞いて思った。

「は、はい。ソラリスさんがパーティを作られるのですか?」

 冒険者ギルドの看板受付嬢のラルルが目を丸くしている。ロンボクのパーティを辞めて以来、どんなパーティに誘われても決して入ることがなかったソラリスがパーティ登録するというのだ。ラルルはソラリスがかつて剣士としてパーティを組んでいた当時を目の当たりにしていた訳ではないが、ギルドの先輩や冒険者達からよく聞かされていた。ラルルにとって、ソラリスは憧れの冒険者でもあった。ラルルの瞳は直ぐに驚きから期待へと変わっていた。

「いや、あたいじゃねぇよ。こっちのヒロだ。こいつのパーティにあたいが入るのさ。他にはこっちのリムちびっこいのと……」

 ソラリスがエルテに視線を向けたと同時にラルルが口を開いた。

「あれ、エルテさん。貴方もパーティに参加されるのですか?」

 ラルルは少し意外そうな顔を見せた。冒険者の代理人マネージャーは、クエストを雇い主の冒険者に取り次ぐことを生業としているが、自らパーティに参加してクエストを行うことは滅多にない。それだけのスキルがあれば、自ら冒険者になった方が余程稼げるからだ。

「はい。今回同行させていただきますわ、ラルルさん」

 エルテがニコリと微笑んだ。

「という訳だ。よろしく頼むよ」

 ヒロの言葉にラルルは、少しお待ち下さいと言って、カウンターの奥に消える。しばらくして戻ってきたラルルは、手にした組紐を何本かカウンターに置くと、羊皮紙を広げた。

「え、えと、ではパーティ登録させていただきます。リーダーは……」
「ヒロだ」

 ソラリスが即答すると、ヒロを向いてニヤリとする。

「ヒロさんですね。登録パーティ名は如何しますか? 登録後でも変更はできますけど」
「そうだな……」

 ラルルの問いにヒロは天を仰ぐ。

「……アラニス・エマにするよ」 

 しばらく考えてからヒロはそう答えた。リムとソラリス、そしてエルテの三人が不思議そうな顔を見せた。後で聞くと、地名をそのままチーム名にするのは、普通はしないらしい。

「いいのか? ヒロ、そんなんで」

 ソラリスが念を押す。

「いいんだ。君達に最初に会ったのがアラニスとエマだからね。エルテもアラニスの出身だそうだから、丁度いい」

 ヒロは軽く答えた。パーティの名前に特に拘りがある訳ではないが、今、こうして仲間を得ることができた感謝の気持ちの顕れでもあった。この異世界に最初に訪れた地の名だ。初心を忘れない為には丁度いい。

「いいですね。ヒロ様」
「いい名だと思いますわ」

 リムとエルテが同意する。ソラリスは、ヒロがそれでいいというならいいさ、と笑顔を見せた。決まりだ。ヒロはラルルにパーティ名は「アラニス・エマ」だと告げた。

「あと、もうひとつ」
「はい?」
「冒険者登録を変更したいんだが、魔法力ゼロでも、魔法使い登録って出来るのかな?」

 ラルルは一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、にこりと笑った。

「はい。申請するのは自由ですよ。問題ありません」

 ヒロは少し気まずそうに頭を掻いた。

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