ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

16-138.今読んだ内容は本当です

 
「大地母神リーファの導き。天上に住み給う偉大なる皇帝レーベに言上す。大帝の血を分けし英雄王賜りしレーベの証。代々護りて王国の礎とならん。フォートレート王ライバーンが娘エルフィート・フォン・レーベ、此処に父王より受け継ぎし、レーベの宝をフォーの神殿に奉らん。宝に宿りし精霊の力甦りし日まで、大地母神リーファの永久の加護あらんことを」

 リムは自らハートに折った石板の写しを読んでみせると、再びテーブルに置いた。

「本当にそう書いてあるのか。リム。何故読めるんだ?」
「これは宮廷文字です。王家の間でのみ使われていたものです。大事な親書や神殿に奉納するときに使われていました。確か父子、母娘で使う字体が違っていて、誰が書いたか分かるようになっていました。これを書いたのはレーベ王の孫娘さんだと思います。お会いしたことはないですけど」
「お会いしたことって……」

 そんなこと有るわけないだろうと言い掛けて、ヒロは口を噤んだ。リムは人ではない。八千年の昔、レーベ王の時代からこの世界を見つめ続けてきたであろう精霊だ。ヒロはこの場にリムを連れてきたのは正解だったと軽い興奮を覚えた。

「リム。でも神殿に奉納するときに使っていたのなら、此処の神官なら読めるんじゃないのか?」

 ヒロは当然の疑問をリムにぶつけた。当時の古語が今に伝わっているのなら、リムのいう宮廷文字とて、王族や神官の間で代々受け継がれているのではないのか。そんなヒロの問いをエルテが否定した。

「残念ですけど、こんな文字を習ったことはありませんわ。この写しを大司教様から渡されたとき、大司教様御自身も読めない文字だと仰っていました。きっと長き時の中で失われたのだと思いますわ」

 エルテは自分の耳朶に手をやって、困ったような顔をした。そんなエルテをリムが愛おしそうに見つめる。

「リムお嬢さん。初めてアラニスの酒場でお会いしたとき、貴方は、レーベン古金貨を持っていましたね。そして、今、石板の秘密を解き、その文字が宮廷文字だと言ってすらすらと読んでみせた。レーベ王の時代から生きているとしか思えません。一体貴方は何者です? 精霊の中には不老長寿の種族がいると聞いたことがありますが、貴方がそうなのですか?」

 シャロームがいきなり核心に踏み込んだ。誰にも解けなかったというエルテの石板の謎を易々と解いたばかりか、失われた古語も読んでみせた以上、そう思うのも無理からぬところだった。リムはにこりと微笑んだあと、頭を下げた。

「ごめんなさい。禁則事項です。お話することは出来ません。でも、今読んだ内容は本当です」

 リムの答えにシャロームは肩を竦めた。テーブルのカップを手に取り、茶を一口含む。ゆっくりとカップを戻すとヒロに問いかけた。
 

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