ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

16-135.あたいが聞きたいのは本気で冒険者をやる気があるかってことさ

 
「えぇ、是非とも」

 ソラリスのリクエストは半ば命令口調だったが、エルテは動じることなく応じる。懐から筒型に丸めた羊皮紙を取り出し、ソラリスに渡した。

「あんがとよ」

 ソラリスは、両手で羊皮紙を広げると、端から端まで隈無く目を落とした。その視線は鋭く、ほんの僅かな瑕疵も見逃さないだろうと思われた。

 ソラリスはこの話に乗り気ではなかったし、石板の写しにしても、恐らく信じていないのだろう。今、地図を確認するのは、偽物なのかどうかその真贋を見極める為であって、単に駄目押しの確認をしているだけなのだ。そうヒロは思った。

 だが、もしエルテが入手したこの地図が本物だったとしたら……。ヒロは息を詰めて、ソラリスを見つめた。

「……ヒロ、一つ確認しておきたいんだけどよ。お前は当面此処ウオバルで生活基盤を確立するのが目的だと言ってたよな。冒険者は仮の仕事でいつまでもやる積もりはないって」

 大分経って、エルテの地図を一通り点検したソラリスは、燃えるような紅い前髪が目に掛かるのを手で掻き上げると、ヒロに質問する。

「理想を言えばそうだが、ここで仕事を見つけるのはそう簡単じゃないことも分かっている。だから冒険者としてのスキルも上げておきたい。君に剣術を教えて欲しいとお願いしたのもその為だと言ったはずだが……」
「そんな事は分かってる。あたいが聞きたいのは本気で冒険者をやる気があるかってことさ。お前にその気があるなら、あたいは協力する。なければ、この話はこれで終わりだ」

 ソラリスは真紅の瞳をヒロに向けた。彼女ソラリスの瞳の奥には強い意志の光が宿っていた。それは、初めてウオバルに来た夜、酒場で冒険者になるようヒロに説いたときと同じ輝きだった。

「……」

 ヒロは突然の問いに戸惑った。今は、エルテからの依頼クエストを受けるかどうかの話の筈。だが、ソラリスはそんな事には目もくれず本気で冒険者になる気があるのかと問い掛けた。どういう意図があるのか。ヒロはソラリスの真意を測りかねた。

「ここから先は、本気の仕事になるぜ。生半可な気持ちじゃやっていけないよ。その気がないなら行かないほうが身のためだ。命を無くしてからじゃ遅いからな」

 ヒロの戸惑いを見て取ったのか、ソラリスは理由を説明した。これまでのクエストとはが違う。彼女の顔にはそう書いてあった。

「……そんなに危険なのか?」
「どうなんだ? ヒロ」

 ソラリスはヒロの質問に答えずに、自分の質問に対する答えを求めた。彼女ソラリスの瞳は真剣だ。生半可な気持ちじゃやっていけないという彼女の言葉がヒロの胸に突き刺さる。それは覚悟を決めろということを意味していた。

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