ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
15-125.君は魔法使いだったんだね
「助かったよ。ありがとう」
一息ついたヒロは赤鎧の女騎士に礼をいう。
「礼をいうのは、こちらの学生にだ。彼が魔法で矢を折った。新入生だが中々の腕前だ」
女騎士はサムズアップした親指をグレーの髪の少年に向けた。
「ありがとう、俺の名はヒロ、君は……」
「僕の名は、メルクリス・ダボル・ファーディナント。メルクリスと呼んでくれるかい?」
「ありがとうメルクリス。こちらの方は?」
「こちらは僕の教官で……」
女騎士は、そう言い掛けたメルクリスを手で制して、口を開いた。
「申し遅れた。私の名はティモテ・ド・ボーモン。見てのとおり騎士だ。今はウオバル大学で剣技教官をしている」
「何故ここに?」
ヒロはティモテの差し伸べた手を握ると不思議そうな顔で問いかけた。
「パトロールをしていた。色無しは五色通り程、治安は良くなくてな。炎が見えたので様子を見に来た。さっきの炎は君が?」
「あぁ、魔法の炎だけどね」
「そうか。君は魔法使いだったんだね」
メルクリスは感心したような顔を見せた。小柄な少年をティモテが見下ろした。
「彼を知っているのか。メルクリス」
「いえ、彼が剣の練習をしているところを、偶然闘技場でみただけです。直接話すのはこれが初めてです」
――あの時か。
ヒロはソラリスに剣技練習を闘技場で行った時のことを思い出した。闘技場は貸し切りで観客席にも誰もいるようには見えなかったのだが。
「そうか」
ティモテはメルクリスに頷くと、ヒロにエメラルドの瞳を向ける。
「さて、私は役目柄、貴殿に問わねばならぬ。ヒロ、と言ったか。さっき、魔法使いと言っていたようだが、冒険者なのか?」
「そのとおり。まだ登録したての駆け出しさ」
「登録はウオバルの冒険者ギルドか?」
「そう」
「住処は?」
「ここの赤の路沿いに下宿してる」
「何用で此処に来た?」
「知り合いが色無し通りに住んでいてね。送っていった帰り道さ」
「先程の男達とは面識があったのか?」
「いや、全く」
「トラブルでもあったのか?」
「分からない。いきなり絡まれたんだ。身に覚えがない」
ティモテはしばらくヒロの瞳を覗き込んでいたが、やがて疑念が晴れたのか、満足そうな表情を見せた。蓮月の七色の光が、彼女の凛々しい顔を照らし出す。僅かに微笑んだ唇が彼女を一層魅惑的なものにさせていた。
「分かった。冒険者ギルドには後で照会しておこう。だが、この辺りを夜出歩くのはあまりお勧めできない。さっきのような目に遭わないとも限らんからな」
「奴らの様なのは他にもいるのか?」
「いないこともないが、短弩は珍しいな。あの顔は私も初めて見る。メルクリス、何か知っているか」
メルクリスは静かに首を横に振った。
「ヒロ。それにしても貴殿はどうするつもりだったのだ。メルクリスがいなければ、撃たれていたところだ」
「一応、魔法のバリアを張っていたよ。奴らはそんなものは効かないといっていた。ハッタリ半分ではないかと思ったんだが……」
ヒロの答えを聞いたメルクリスは、落ちた鏃を拾って検査するかのようにじっと見つめた。
「教官、あながち嘘でもないようですよ」
メルクリスは握り拳ほどの小石を拾うと鏃を突き立てた。鏃はプスリと苦もなくめり込んだ。
――!?
驚くヒロを余所にメルクリスが解説した。
「硬化魔法ですね。それもかなり強力な。ミスリルの盾でも貫けると思います。だけど、鏃にだけ掛けて、矢柄には何もしてなかったのが幸いでした。矢柄にも硬化魔法を掛けられていたら、僕の魔法も効かなかったかもしれない」
「成る程、何にせよメルクリスを連れて来て正解だったということか。普段は新入生にこんな事はさせないのだが……」
メルクリスの説明にティモテは申し訳なさそうな顔をした。
「ティモテ教官。僕がお願いしたことです。お礼をいうのは僕の方です」
「正式に授業が始まれば、今日のような機会はいくらでもある。焦ることはない」
「はい」
ティモテはそういって、ヒロに申し出る。
「ヒロ、赤の路に住んでいるといっていたな。我々も大学に戻るところだ。虹の広場まで一緒に行こうか」
「そういうことであれば、宜しく頼むよ」
ヒロは同意を示した。三人は連れ立ってウオバルの中心街に戻る。いつしか蓮の月が中天近くにまで登っていた。ヒロはティモテに大学の事を少し聞いた。大学の卒業式と入学式を数週間先に控えた今の時期は、ウオバルに大陸中から人が集まる。それに伴って先程のような怪しい輩も入ってくる。彼らによる揉め事を避けるため、大学の教官や先輩の学生がパトロールをしているのだという。
「先程目にした通り、メルクリスは魔法使いでな。私は剣技教官だから専門外だが、数多くの学生達を見てきた経験からみても、彼の実力は相当なものだ。魔法教官達も期待している。将来の宮廷魔導士候補だな」
「いえ、僕はまだまだですよ。卒業できるかどうかも……」
「謙遜することはない。貴様の実力はラダルが高く評価している。大学でしっかりと研鑽を積めば卒業は遠くないはずだ」
ティモテとメルクリスの会話を聞いていたヒロは微笑まし気な表情を浮かべた。もし自分が大学に入学することが出来たなら、教官と今のような話をしながら、日々を過ごすことになるのだろうか。目をきらきらさせながらティモテと会話するメルクリスをヒロは少し羨ましく思った。
やがて三人は、虹の広場にたどりついた。
「ヒロ、貴殿が大学にくる機会があれば、私か彼を訪ねるといい。案内くらいは出来るだろう」
「そのときは是非頼むよ」
ヒロはティモテとメルクリスに別れを告げ、下宿に戻った。
 
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