ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

13-099.牽制

 
(……魔法の盾シールド

 ヒロは、左の掌を正面に向けると、心の中で呪文を唱えバリアを張った。呪文を唱えたのは、イメージを形成しやすいようにだ。それは此処で小悪鬼ゴブリンに襲われた時に発動させたバリアと同じものだった。だが、それは全身を囲わず、左手を起点として前面にのみ形成されていた。バリアは白い半透明の板となって、ヒロの肩から膝辺りまでを覆い隠す。いわゆる大盾だ。

 もしも小悪鬼ゴブリンに襲撃された時のように、全身を覆ってしまうと、攻撃の際、最低でもバリアのどこかを解除しなければならない。それが隙になってしまう可能性は十分に考えられた。ヒロがバリアを部分的にしか張らなかったのは、反撃をする事を考えての事だ。

 だが、問題は、このバリア黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの攻撃に耐える程の強度があるかどうかだ。やはり身を曝け出すのは拙い。左右の林に身を隠すべきだ。ヒロは右手を後ろに回して、そっと炎粒フレイ・ウムを発動させた。

 黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルが右腕を水平に伸ばすと肘を直角に折り、薬指と小指だけを握った指先を左胸に軽く当てる。ピンと伸ばした人差し指と中指の先端が白く光り、その指先に空気が渦を巻いて集まった。

 ――!

 ヒロが直感で危険を感じ、左へステップした。同時に黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルが、逆水平チョップの要領で右手を振る。

 黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの右手が描いた弧の軌跡に沿って、弓形ゆみなりの風が刃となってヒロを襲う。先ほどの風の刃が短刀だとすると、こちらは大太刀だ。攻撃範囲も威力も段違いだと思われた。攻撃範囲が広い分、多少狙いが甘くなっても問題ない。命中させるのは簡単だ。ヒロは左腕を黒衣の不可触ブラックアンタッチャブルの方に向けて、バリアの盾で防御すると同時に、右手で発動していた炎粒フレイ・ウムを投げつけた。

 ――バシッ!!

 二人の目の前で同時に激しい音が炸裂した。ヒロのバリアの盾シールド黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの風の大太刀を弾いて逸らし、ヒロが放った炎粒フレイ・ウム黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの数歩手前で、弾け飛んだ。

 黒衣の不可触ブラックアンタッチャブルは、おやとばかり仮面の顔を上げた。ヒロの姿が見あたらない。やはり仮面では視界が悪いのだろうか。首を左右に振ってヒロを探す。

 ヒロは、先程の攻撃の隙に左の林に逃げ込んでいた。木の陰に身を隠し、左手のバリアの盾シールドを解除する。

(……やっぱり駄目か)

 予想通りだ。黒衣の不可触には弓も魔法も剣も通じない。ヒロはウオバル酒場で聞かされたスティール・メイデンとの戦いの顛末を思い出した。

 さっきのヒロの攻撃は、林の中に逃げ込むための牽制だ。ヒロは最初からその積もりだった。命中することなど、さらさら期待していない。だが、炎粒フレイ・ウムは、いとも容易く防がれてしまった。黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルは、ヒロの魔法を迎撃しないどころか回避さえもしなかった。

 それなのに、炎粒フレイ・ウムは途中で弾け飛んだ。つまり黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルも自分を守るためのバリアを張っているということだ。これも酒場で聞いたとおりだ。黒衣の不可触ブラックアンタッチャブルが二重のバリアを張っているかどうかは分からないが、そんなことはどうでもいい。大事な事は、この窮地から逃れられるかどうかだ。

(拙いな……)

 黒衣の不可触ブラックアンタッチャブルには、自分の攻撃など一切通じないのではないかという不安がヒロの心によぎった。
 

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