ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
13-100.戦うしかないのか
ヒロは身を隠した木の幹に背をつけたままズルズルとしゃがみ込んだ。状況を整理する意味で、先程の黒衣の不可触との応酬を思い起こす。対抗策を考えなければならない。
話しかけても黒衣の不可触は何の反応も示さなかった。言葉が通じるのかも喋れるのかも分からない。この状況では、もう一度なんてとても出来そうにない。意志の疎通は無理だ。
では、逃げるか。しかし、森の奥に入るのは危険だ。先に何があるか分からない。まだ、このままじっと身を隠してやり過ごす方がまだマシだ。だが、それは黒衣の不可触が俺を探すのを諦めるのが条件だ。それにいつまで林の中で身を隠していられるのかどうか分からない。
――戦うしかないのか。
確かにヒロのバリアの盾も、黒衣の不可触が放った風魔法の攻撃に耐えてみせた。あるいは防御だけに徹すれば黒衣の不可触の攻撃を凌ぐことはできるかもしれない。
いや、駄目だ。黒衣の不可触の攻撃から身を守れると決めつけるのは拙い。防いだといっても、たった一度だけだ。同じ攻撃を何度受けても大丈夫であるとは限らない。それに黒衣の不可触が、先程より遙かに強力な魔法を持っていない保証はないのだ。やはりこちらからも攻撃することも考えなければ……。
――黒衣の不可触への攻撃。
それはそう簡単なことではない。少なくとも正面から攻撃するのは無謀だ。さっき、炎粒で攻撃しても簡単に弾かれてしまったばかりじゃないか。
なら、背後に回って死角から攻撃するか。だが、もしも黒衣の不可触の防御バリアが全身を覆うタイプのものだったとしたら、どこから攻撃しても効果はないだろう。黒衣の不可触のバリアそのものを破壊しない限り攻撃することは不可能だ。
(でも、そんなことが出来るのか?)
背中越しに黒衣の不可触の様子を窺うヒロの頬に汗が伝う。もっと大掛かりな炎魔法なら有効なのか? だがそれでも黒衣の不可触のバリアを破壊できる確証はない。スティール・メイデンと戦った時には、ロッケンが放った最上級の炎魔法も、ハーバーの矢も通じなかったという話だ。
(光魔法なら効くか?)
ヒロはモルディアスのところで襲われた異形の魔物をしとめた、光の矢を思い起こした。だが、あれはリムのサポートがあってようやく発動できた魔法だ。炎系統の魔法なら兎も角、光魔法を自分一人で発動できるかどどうか分からない。それに光魔法を発動させるということは自分の居場所を知らせてしまうリスクがある。瞬時に発動できない限り、黒衣の不可触に見つかってしまう公算が高い。ヒロは、今の状況で光魔法を使うのは無理だと判断した。
――ビュゴッ。
突然ヒロの頭上で風鳴り音が響いた。続いてバキバキと木が切り倒される音が続く。黒衣の不可触は、どうやら一々ヒロを探すことをせず、周りの木を片っ端から倒して炙り出すことにしたらしい。荒っぽいやり方だ。
ヒロは巧みに倒れる木を躱しながら、林の中を少しずつ移動する。上手く黒衣の不可触の背後に近い位置へ回り込めた。息を潜めて様子を窺う。このまま逃げることはできないのか。そんな考えも浮かんでは消えた。
黒衣の不可触は元の場所から殆ど動かない。仮面の顔は左右を見渡してから右手を天に掲げた。
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