ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
11-085.魔剣は冒険者なら皆欲しがる夢のアイテムです
「いいえ、伝説とまではいきませんが、強力なアイテムであることは間違いありません。おそらく小悪鬼騎士に復讐する積りだったのでしょうね」
「小悪鬼騎士?」
「この辺りの小悪鬼を束ねる王のような存在です。本来ゴブリンは群れることはあっても、組織的な戦闘はしない種族です。何十年か前、小悪鬼騎士がこの地に現れました。小悪鬼騎士は瞬く間にこの辺りの小悪鬼達を支配下に治め、組織化していったのですよ。ロッケンの郷を襲ったのもその小悪鬼騎士に率いられた小悪鬼達だと言われています。単体では、小悪鬼はそれ程強くないですけれども、この辺りの小悪鬼は小悪鬼騎士によって集団戦をするようになった。侮れない存在です。ヒロさんも気をつけてください」
ヒロは承認クエストの帰りにゴブリンに襲われた時のことを思い起こした。ゴブリンは、ヒロの正面に対峙した何匹かを囮にして、頭上から矢で攻撃してきた。もし、あの戦法を小悪鬼騎士が教えた結果なのだとすれば、この先も面倒な相手になるだろうな、とヒロは思った。
「厄介な相手みたいだな。で、その小悪鬼騎士は、『破魔の剣』がないと斃せないのか?」
「絶対無理とはいいませんが……。難しいでしょうね。小悪鬼騎士は硬い皮膚を持ち、通常の剣では傷をつけることすらできません。硬さだけならドラゴンの鱗に迫るとも言われています」
「それほどなのか……」
「剣で攻撃するなら、喉元が唯一の弱点らしいです。討伐に向かったあるパーティの剣士が一太刀浴びせたことがあるそうです。あそこだけが比較的皮膚が薄いらしいですね」
「そこまで分かっているなら、いくらでもやりようがあるんじゃないのか。何人かで牽制して、隙をみて矢で喉元を射れば済む話だと思うが」
ヒロは思いつくままに言ってみた。弱点を突くのは攻撃の常道だ。相手が一人なら斃せないことはない筈だ。だが、そんなヒロの提案をロンボクはあっさりと否定した。
「ヒロさん。残念ですが、それが通用するならとっくにやっていますよ。小悪鬼騎士は、いくつかの迷宮に拠点を構えているらしく、殆ど外に出ないんです。手下の小悪鬼達に冒険者や村を襲わせ、食料や金品を強奪しては、それを自分に貢がせているんです。御存知かどうかは知りませんが、迷宮の内部は広くないですし、複雑に入り組んでいます。矢が使える所なんて殆どありません。勿論、至近距離なら使えますが、そこまで接近してしまったら、狙いがバレてしまいます。意味がありませんよ」
「そうか。ならば魔法攻撃はどうなんだ?」
「地下迷宮の外であれば可能性はあります」
ロンボクは、条件付きで魔法攻撃の有効性を認めた。
「小悪鬼は魔法を使えない種族です。小悪鬼騎士とてそれは同じです。彼らは魔法に疎い分、魔法攻撃をすることで隙を作れる可能性は十分にあります。それでも小悪鬼騎士は、ドラゴン並みの外皮を持っていますから、只の魔法攻撃だけで仕止めることが出来るかどうかは分かりません」
「やはり地下迷宮の中では、魔法は駄目なのか?」
「先程も言いましたが、洞窟と同じです。地下迷宮は大気の流れに乏しい為にマナを集めにくく、魔法の威力は低下してしまいます。勿論、ダンジョン内で連続しての魔法発動は出来ません。自分の体内マナを使えば別ですが、そんなことをしたら、ロッケンと同じになる運命が待ってます。これまで何組もの高位冒険者パーティが小悪鬼騎士の討伐に向かいましたが、全て返り討ちに遭っています。今ではもう討伐クエストも上がって来なくなりました」
「じゃあ打つ手なしってことか」
「だから『破魔の剣』なんです。あの剣は魔力を秘めた魔剣でしてね。マナを集めなくても、剣単体で炎魔法を発動出来るんです。僕は見たことありませんけど」
そこまで言ってロンボクはふぅと小さく息をついた。
「魔剣は冒険者なら皆欲しがる夢のアイテムです。強力な魔法を使えるとなれば尚更です。魔法発動できる魔剣を剣士が装備したら、どれほどのものになるかお分かりでしょう? ただ……」
ロンボクの次の言葉を、ヒロが答えていた。
「魔剣は滅多に手に入るものではないし、あったとしても、とんでもない高値で取引される品物だ、そういうことなんだな?」
「仰る通りです。スティール・メイデンにとって、パーティのランクなんてどうでもいいんです。彼らは、もう何もしなくても間違いなく一生暮らしていけるだけの金を稼いでいる。だけど、冒険者であることを辞めない。それは小悪鬼騎士に復讐するためです。そして、『破魔の剣』を手に入れるために、アンダーグラウンドにも手を染めた。それが彼らの……」
ロンボクはギリッと奥歯を噛みしめた。組んだ手の平が小刻みに震えている。彼は、怒りとやるせなさを無い混ぜにした顔をしていた。
「でも、『破魔の剣』を手に入れるためのクエストが、選りによって、黒衣の不可触の捕縛だったなんて……。僕はもうスティール・メイデンになんて声を掛けていいのか分からない……」
「ロンボク……」
ヒロにもロンボクに掛ける言葉が見つからなかった。ロンボクとロッケンの間に深い関係があったからかもしれないが、スティール・メイデンが冒険者仲間に一方的に嫌われている訳ではなさそうだということがロンボクの言葉の端々から窺えた。
――黒衣の不可触。
スティール・メイデンを再起不能にまで追いやった謎の人物。と、ヒロにある疑問が浮かんだ。承認クエストの帰り、小悪鬼を掃討した後、ミカキーノといざこざになりそうになったとき、二人の間を風が吹き抜けて遮った。あれは黒衣の不可触の仕業ではなかったのか。
ロンボクの話によれば、黒衣の不可触はこちらから仕掛けない限り何もしないという。ではあの風は何の為だったのか。
そんなヒロの疑問を遮るようにロンボクが口を開いた。
「そういえば、ヒロさんも御用事があったのでは?」
ロンボクは、いつまでも暗い表情を見せてはいけないと思ったのだろうか、努めて明るい声を出した。だがその口調は少しぎこちなかった。ヒロはロンボクの気遣いをそのまま頂戴するのも悪い気がした。
「いや、いいんだ。鑑定をお願いしている品があったんだが、昨日の今日で結果が出せるものなのか分からないし、特に急いでもいないからね。今日は君の貴重な話が聞けただけで十分だ。また今度機会があったらお願いするよ」
「そうですか」
ロンボクは少しほっとしたような顔をした。やはりロッケンの事を気にしているのだろう。ヒロはそろそろ宿に戻ることを告げると、ロンボクはもう少しリーファ神殿に残るという。ヒロとリムはロンボクに礼を言って、その場を後にした。
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