ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
1-012.俺の国の言葉でアタリという意味さ
ヒロとリムは、横穴を這いずって、奥の抜け穴をくぐった。奥は四角い空間で広く、普通に立っても何の問題もない程の高さがあった。リムの白い光球がいい具合に部屋の四隅の天井に浮かび、間接照明の如く部屋の様子を映しだしている。思ったより空気は澱んでいない。
四方の壁は横穴を蓋していた石と同じ素材で出来ていてツルツルだ。ヒロは試しに壁を裏拳でコンコンと叩いてみる。堅くて重い感触が返ってくる。落とし穴の石壁と違って相当頑丈に出来ていることが分かる。
部屋の中はこれという程のものは殆ど無かったが、角にはスコップとツルハシが何本か立てかけられていた。その隣には、木の椅子が二つ無造作に転がっている。床には麻のようなもので編んだ縄がいくつか蜷局を巻いていた。
一体、何に使う部屋だろう。ヒロはちょっとした興味を覚えたが、今はそんな時ではない。ヒロは横道に逸れた思考を振り払った。
リムがヒロの左腕をしっかと掴んで身体を寄せてきた。その小さな肩が心なしか小刻みに震えている。
「大丈夫だよ。直ぐに出口が見つかるさ」
「はい。頼りにしてます」
リムはヒロを見上げて答えた。彼女の綺麗な金色の瞳が白色球の光を受けてきらきらと輝いていた。
ヒロは、自分の人差し指を嘗めて、頭上に掲げた。空気が澱んでいないということは、外へと続く空気の流れがある筈だ。どこかに出口がある。ヒロはしばし息を止めて意識を指先に集中させた。指の外側が僅かにひんやりとした。
(こっちだ)
ヒロが、指先の感覚を頼りにそちらの方向に足を向けると壁の一角に行き当たった。見たところ只の壁で、特に何もありそうに見えなかった。ヒロはもう一度、指を嘗めて、空気の流れの出所を探す。
(……あった、ここだ)
壁の一部から僅かに空気の流れがあった。ヒロは壁に手をやり、そっと押してみた。
――ギギィ。
壁はどんでん返しのようにあっさりと開いた。それを待っていたかのようにリムが魔法で作り出した光球が踊り込み、奥の様子を照らす。扉の先は通路になっていた。その奥に木の階段が真っ直ぐ上に続いている。やった。ヒロは心の中で小躍りした。
「ビンゴ!」
「え、何ですか?」
リムが不思議そうな顔を向けた。
「俺の国の言葉でアタリという意味さ」
ヒロの顔に安堵と笑みが浮かんだ。
◇◇◇
――うっ。
急角度の階段を登り、天板を押し開けたヒロは、いきなりの眩しさに思わず声を出した。そのまま慎重に天板を押し上げ、顔を出して様子を窺う。蔦葛のような草と、その向こうに林がある以外何もない。
ヒロは一気に外に出る。辺りを見渡すが先程の黒犬といった害獣の姿も見かけない。ただ、木々の梢でチュンチュンを囀る小鳥の声だけがさわさわを風にそよぐ葉っぱの音に混じって聞こえるだけだ。どうやら襲われることはなさそうだ。
「リム、大丈夫。外だ。出られるよ」
ヒロは階段の下で待っていたリムに声を掛けた。リムは餌を前にした仔犬の様に階段を駆け上がってきた。
「やった~。ヒロ様、脱出成功ですぅ」
外に出るや否や、満面の笑みを浮かべたリムがヒロに抱きつく。その瞳は薄っすらと潤んでいた。
「うん。出られたね」
ヒロはリムの頭を撫でながら、今立っている場所を確認した。左手に先程の小屋が見える。意外と離れてはいなかった。安心したヒロはとりあえず、リムと小屋で一休みすることにした。
ヒロは小屋につくと、先程自分が座った丸太に再び腰を下ろした。セフィーリアが座っていた丸太に今度はリムが座る。
「ヒロ様はこれからどうなさるのですか?」
開口一番、リムが訊ねた。
「うん。村か街に行きたいと思っている。何処にあるか知らないか?」
「ええっと。それはですねぇ」
ヒロの問いにリムはごそごそと自分のローブの内を探る。やがて、小さな皮の地図を取り出した。リムは両手で地図と広げ、暫く睨めっこする。
「地図によると、この道を真っ直ぐに行けば、村が二つ。その先にウオバルという街があります。一日半の距離です。ウオバルにはお城の印がついていますから、大きな街だと思いますよ」
リムはそう言って、山道の右手を指さした。その方向は、先程別れたセフィーリアが去っていった方角だ。やはり街があるのだ。ヒロはよしとばかり腰を上げた。
「ありがとう、リム。俺はこれからそのウオバルという街に行く。君はどうする?」
リムはお願いです、といって立ち上がると背筋をピンと伸ばした。ヒロを見つめるリムの顔は真剣そのものだった。
「ヒロ様。私も一緒に連れて行ってください。貴方のお手伝いをさせてください。精霊修行の一つに人助けというのがあるんです。ヒロ様をお助けすることで、私も修行ができます。お願いします」
リムは身を乗り出して、ヒロに懇願した。彼女の金色の瞳には嫌と言ってもついていくと書いてあった。精霊――見習いだが――を味方にするのも悪くない。ヒロは直観的にそう思った。落とし穴から脱出できたのも、リムの力とサポートがあったからこそだ。いくらこの辺りに疎いといっても、異世界から来た自分よりも知らないということはないだろう。
「分かった。こちらからもお願いしたかったところだ。宜しく頼むよ」
「はい。ヒロ様」
リムはぴょんと飛び跳ねて喜びを全身で表現した。この異世界でヒロが初めて作った友達は人ではなく、精霊だった。
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