僕だけが蘇生魔法を使える!

AW

29.偏狂の疑い

 今日は朝から雨だ。

 ここロンダルシア大陸は、西部を北上する暖流と気流の影響のために年中温暖な気候だ。四季は実に緩やかで、気温の変化はあまり気にならない。一年を通じて雨は少なく、雪なんて5年間で数日間だけ最北地域に降る程度だ。

 珍しく朝から降り続く雨は、女性陣の心に“昨日休んだ分のレッスンを取り戻せ”という神様のお告げを与えたように感じられた。


 朝6時前、僕におはようの口付けをしたクーは、照れ笑いを浮かべながら部屋を出て行った。
 僕は、昨晩の温もりを思い出しながら、愛おしさと名残惜しい気持ちを噛みしめる。

 しばらくすると、階下からクーの手拍子と綺麗な歌声が聞こえてきた。
 昨日の今日でよく頑張るよ。

 コンサートは3日後。つまり練習は、今日と明日の2日間しかできない。チェルシーとの戦いという想定外の事態があったけど、国王によって既に告知されたスケジュールはもう変更できない。突っ走るしかないんだ。



 3時間ほど経つと、シャワーを浴びてすっきりしたみんなが食堂へ集まった。
 メイドのカナが用意してくれた食事を、ケットシーのミゥと赤毛のクマコが運んでいる。
 そう言えば、カナは住み込みメイドらしい。家族はいないのだろうか……ルーミィが話し合って決めたらしいから、僕が一々詮索することじゃなさそうだね。

「ご主人様、昨日はお疲れ様でした」

『クーもね!』

 カナちゃんの一言に勘違いして赤くなっているクーを、すかさずアネットさんがからかう。

「カナちゃん、クマコとミゥも、朝食の準備ありがとう。みんなで一緒に食べようね! これからもそういうルールにしよう」

 ヨダレが垂れる寸前だったクマコは、歓喜の笑顔だ。

 全員で準備をし、わいわいお喋りしながら食事を楽しむ。パンと野菜とスープの質素な朝食だけど、楽しい会話が最高のスパイスになった。


「僕はこれからギルドに行くけど、みんなはどうする?」

 食事が一段落したタイミングで聞いてみた。
 因みに、昨日やらかしたので、僕の単独行動は禁止されている。

「お兄様、連れて行ってくださいっ!」

「そうね。ポーラちゃんはレッスンを頑張っているから大丈夫ね。でも……他の4人はダメ! 特にルーミィとミール!」

 結局、クーの鶴の一声で、僕とポーラとカナのギルド行きが決まった。



 ★☆★



 ギルド内は、嵩張った雨具を身に纏う冒険者たちでごった返している。
 迷子防止のため、ポーラと手を繋いでカウンターへ向かう。その後ろを、カナが必死についてくる。

 暇そうな男性職員を見つけ、声を掛けてみた。

「おはようございます。エンジェルウイングですが、依頼は入っていますか?」

『おぅ、1件だけ入ってるな! これだ』

 依頼書を受け取ると、左右からポーラとカナが覗き込んでくる。顔が近いよ……。


【蘇生依頼書】

 蘇生対象:ラム
 蘇生理由:大切なパーティメンバーだから
 種族:ラビ(兎人族)
 性別:雌
 年齢:18歳
 死因:戦死(魔物による)
 時期:3日前
 職業:冒険者
 業績:迷宮踏破、ランクD、盗賊討伐
 報酬:○お金 ○物品 その他
 メモ:亜人中心のパーティ
 依頼者の関係:パーティメンバー


「ウサギさん?」
「亜人ですね」
「ミゥみたいな?」
「ミゥさんは妖精ですよ」
「じゃぁ、クマコみたいな?」
「クマコは元魔物……」
「冒険者だから、もっと人っぽいと思うよ」

 少女たちの会話をぶった切り、依頼書をアイテムボックスに収納する。
 僕と自然に手を繋ぐポーラをチラ見し、羨ましそうな表情を浮かべるカナ……。

 何だか、刺さるような嫉妬の視線を強く感じる。

 雑踏を軽快にすり抜け、僕たちはギルドを出た。



 ★☆★



『お帰りなさい、にゃぁ』
「ただいまっ、にゃぁ」

 ミゥの出迎えにポーラが応える。なんか可愛い。


「依頼はこの1件だけ? 少なくない?」
「そうなんだよ、雨だったからかもしれないし、まだ知名度が低いだけかもしれない」

 ルーミィの懸念、僕も同感だ。
 でも……よくよく考えたら、王都で蘇生したのは、猫と熊と魔王の子孫……知名度が上がるはずもない。

「依頼の件、あたしとミールとアネットが同行するわ」

 ルーミィの人選はいつも的確だ。
 昨日のチェルシー戦も、ラールさんを守るために結界魔法を使えるクー、想定10名を捕縛可能なルーミィとアネットさんを選抜したらしい。
 今日は、足取りがぎごちないクー、昨日危険な思いをしたラールさん、そして、さっきまで僕とウハウハで手を繋いでいたのを見られたポーラ……この3人を除外した消去法で決まったらしい。


「依頼を受けるかは、話をちゃんと聞いてから決めるわよ」
『そうね!』
 ミールも、蝶の姿で僕の顔をペシペシ叩いてくる。

 まぁ、お年頃の女性だからという理由で、無条件に依頼に飛びつく僕を牽制しているのだろう。反省してます……。



 ★☆★



 ギルド職員に案内された宿屋の一室、そこには2人の亜人が居た。

『貴方がロト?』
「あ、はい」

 猫っぽい亜人からいきなり名前を呼ばれて即答してしまった。
 もう1人は犬の亜人かな。どちらも20歳前後の女性。耳と尻尾以外はほとんど人間と同じ姿だ……。

 目の前の自分をガン無視されたルーミィが、不機嫌丸出しに言い放つ。

「詳しいお話を聞かせてください。内容によってはお断りさせていただくかもしれませんが!」

『噂通りね……いいわ。私たちはギルドの依頼でクエストを受けたの。そこで、巨大なサソリの魔物にラムがやられた。ラムの犠牲がなければ倒せなかった……命の恩人を救いたいの。報酬はできる限り用意するわ。お願い、ラムを生き返して!』

「冒険者なら死のリスクは当然覚悟して依頼を受けているのでは?」

 “噂通り”を“噂通り傲慢な女”と正確に受け取ったルーミィが反撃する……。
 でも、突っ込むべきはそこじゃないでしょ! 巨大なサソリには覚えがある。あの遺跡で戦った魔物かな?
 同じことを考えたのか、アネットさんと目が合った。

『当然だ。だが、依頼を受けたのは国のためだ。決して私欲からではない。同じ冒険者であるなら、仲間を想う優しい心を持つ者なら、蘇生するのに何を躊躇う?』

「ぐぬぬぅ……」

 正論に正論で返されたルーミィが、僕を一瞥する。
 言いたいことは分かる。僕が許可を出す必要のあること、つまり僕が制限を加えたこと。“ソウル・ジャッジ”を使いたいのだろう。
 目を見て頷き返す。まぁ、大丈夫だろう。

「ラムさんを見させていただけますか?」



 しばらくして、隣の部屋からルーミィが戻ってきた。

「ウサギは+23、ネコは+18、イヌは+19よ。悔しいけど問題はないわ。報酬も十分だし……ロト、この依頼を受けましょう」

 悔しいとか言っちゃってるし。



 ベッドの上には、氷結魔法を施されたウサギ耳の女性が上半身裸で寝かされていた。
 と言うより、正確には上半身だけ・・が、寝かされていた……。

 その事実は、魔物との戦いがいかに壮絶だったのかを物語っていた。

 18歳のはずだけど……?
 思いの外、平たい胸に左手を添える。
 つ、冷たい!

 僕の中にあるリンネ様の魂を感じ取る。
 魔力を練り上げ、左手から放出していく。

 部屋が銀色の神聖な光で満ちる頃、僕は優しく呟くように詠唱する。

「聖なる光よ、この勇気ある者の魂を呼び戻す奇跡を! 天より還れ、レイジング・スピリット!」

 詠唱に呼応するかのように、ラムさんの身体を纏う光が大きく弾けた!

 銀色の繭は、部屋中に満ち溢れた光を吸収していく。

 そして……僕の左手は温もりと鼓動を感じ取った。

 やばい……アネットさんの眼光が刺さる!
 強い視線を感じる!

 今日は揉むことを早々に諦め、ルーミィから服を受け取って掛けてあげる。


 気丈に振舞っていた猫人は泣いていた。
 周りを気にすることなく、涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んでいた。
 犬人も、嗚咽を漏らし、横たわるラムさんに顔を埋めている。

 優しい瞳だった。
 兎人のラムさんは、犬人の女性の頭を撫で、猫人の女性を抱き寄せる。

 ルーミィもわんわん泣いていた。
 アネットさんですら目に涙を浮かべ、亜人の3人を微笑ましげに見つめていた。


「仲間って……仲間って最高だね!」

 喉を詰まらせながら、ルーミィが言う。

 僕もアネットさんも何も答えない。
 言葉の代わりに、いつの間にか少女の姿になっていたミールも含めて、4人で抱きしめ合って泣いた。
 ミール、服を着ないと場違いな興奮が……。


『ロト殿、それとエンジェルウイングのみなへ深い感謝を。これは約束した報酬だ』

 落ち着きを取り戻した猫人さんが、僕に布袋を手渡した。
 ずっしりと重い……中身は帰ってから確認しよう。

 僕たちは、何度も何度も感謝の言葉を貰いながら拠点へと戻った。
 背中には温かい視線がいつまでも降り注いでいた。



 ★☆★



『お帰りなさいにゃぁ……痛いにゃぁ!』

 出迎えたミゥの猫ひげを両手で引っ張るミール。
 これも、妖精なりの仲間への愛情表現なのかな。

「ロトくん、依頼はどうでした?」

「受けたよ。クー、これが報酬」

 僕はクーに布袋を手渡す。
 受け取ったクーは、さっそく中身を確認して驚嘆の声を上げた。

「ねぇ! これってマジックアイテムじゃない?」

 袋の中には3万リル(300万円相当)の大金と、指輪が1つ入っていた。
 アイテムの詳細は、ルーミィも聞かされていないらしい。どこかで鑑定してもらわないとね。



「午後はみんなで遺跡に行くんでしょ?」
『ワタシは残るわ』

 お昼の食卓を囲みながらルーミィが尋ねると、ミールが速攻で留守番を宣言した。

「なんでよ。ミールも強くならないと……」
『ルーミィ様、姫は殺生を好みませんにゃぁ。お優しいのです……痛いですにゃぁ』

 無心にミゥのひげを引っ張るミール。
 ミールさん……殺生ぎりぎりだね。



 ★☆★



 多少ドタバタがあったけど、午後1時には僕たちは遺跡に到着した。

 前回同様、ルーミィが先頭を行き、僕とポーラが続く。その後ろにラールさんとクーで、殿はアネットさんが務める。

 問題なく結界を通り抜け、魔物が巣食う地底に出る。


「大きいのが来た! サソリ……じゃない、クモ!?」

 体高3mにも及ぶ大グモがのっそりと歩み寄ってくる。よく見れば、足元には無数の子グモの姿もあった。子とは言え、50cmはある。野犬並の大きさだ!

「ポーラは光魔法、アネットは火魔法で広範囲に殲滅して! ルーミィは左から回り込んで!」

 最近は、クーが戦闘の指示を出すことが多い。

 ポーラとアネットさんは交互に範囲魔法を放つ。ラールさんとクーは魔法で撃ち漏らした魔物にトドメをさしていく。ルーミィは左側の、子グモが手薄な所から親グモを牽制する。

 遠距離からの範囲魔法で倒された子グモを乗り越えるようにして親グモが迫る。怒りに満ちたような赤い眼……単なる人への憎しみか、それとも人間と同じように子を思う感情があるのか。

「ロトくん、気持ちは分かるけど、今は敵に集中して! 牙と糸に気をつけて、頭上からの攻撃をお願い!」

 蘇生による魂共鳴だけでなく、身体でも通じ合ったからか……クーは僕の表情を見て全てを悟ってくれる。頼もしい反面、少し焦る。

 基本的な戦法はサソリ戦と同じ。体が大きい魔物は下からの攻撃に滅法強い。上から攻めるのが吉だ。
 僕は浮遊魔法で頭上に展開、すぐさま背部へ風刃を重ねて放つ。


 30分も経たずにクモの魔物を殲滅した。

 次に現れたのは……大量のヘビだった。
 うまく連携をとり、無理をしない程度に戦い続ける。


 およそ5時間……魔力が尽きるぎりぎりまで遺跡に篭った結果、大量の魔結晶と経験値を手に入れた。
 レベルは、僕とルーミィが22、ラールさんが20、アネットさんとクーは16、ポーラは12になった。

「ふぅ、疲れた……」
「同じくっ!」
『今回はきつかったね』
「お風呂に入って休みたいです」

「でも、まだ午後2時よ? 帰ったらまたレッスンね!」

 クーの追い討ちで全員が蒼ざめる。


 その後……拠点に戻ったみんなは、シャワーの後の休みももらえず、クー先生に捕縛されて逃亡に失敗したミール共々、レッスンに励み続けた。



 ★☆★



 死んだ魚のような目をしたルーミィたちが4時間の追加レッスンを終えてベッドに入る頃、一足先にレッスンを終えていたポーラが僕の部屋にやってきた。

『あの~、お兄様……』

 嫌な予感が止まらない。

「ポーラ、どうしたの?」

 部屋に入ってすぐ、左右の人差し指の先をもじもじさせながらポーラが俯いている。

『お兄様……ポーラの順番……』

 うわ……兄妹だからって断れない雰囲気。
 確かに血の繋がりはないけど、この子ってまだ10歳だったような……。

 緊張した中にも、歓喜に震えるような笑みを見せるポーラ。
 僕は……どうすれば良いんだろう。

「ポーラはまだ小さいからね……」

『お兄様……ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!』

 泣きじゃくるポーラ……失言だった。
 ポーラの感情がどっと溢れてきた。

 そうだったのか。
 奴隷時代の辛い体験を乗り越えたいんだね……僕にすべきことは、ポーラ自身が乗り越えられるように、優しく手伝ってあげることなのかもしれない。


「おいで……」

『はいっ!』

 僕がポーラに抱く気持ちって何だろう。

 “妹”だと自分に言い聞かせてきたけど、本当は違う。大切にしたい、幸せになってほしい……そう、愛しいという気持ち。これも一種の愛なのか。
 信頼するパートナーであるルーミィ、誰よりも優しく包み込んでくれるラールさん、神秘的な美しさを秘めたミール、悩殺ボディで性欲をかき乱してくれるアネットさん、大好きで大好きで仕方がない恋人のクー……ポーラに対する感情は、誰とも違う。でも、誰にも劣っていない!

「ポーラ。僕たちは兄妹じゃない」

『お兄様……』

 悲しく涙ぐむポーラを強く抱きしめる。

「兄妹じゃないけど、家族だ! 兄妹よりもっともっと深い絆で結ばれた家族だよ! 今まで通り兄と呼んで良いけど、僕はそう思ってる。愛しい家族だと思ってるからね」

『はいっ! はいっ! ポーラも、今まで以上に愛情を込めてお兄様と呼びますっ! 家族ですっ! 大好きです……』

 号泣するポーラは、僕と唇を重ねる。
 あぁ、エルフの唇ってこんなに甘いんだ……。

 その後、僕たちは、優しく、優しく愛し合った。



 ★☆★



 早朝……日の出と共に、部屋には数人の侵入者が現れた。
 そして、裸のポーラが拉致されていった……。

 いろいろ疲れていた僕は、クー先生のレッスンが終わるまで布団の中で余韻を楽しむことにした……。



「ご主人様、朝食の準備ができました!」

 ドアをノックする音は聞こえなかった。
 布団を剥がし、耳元で叫ぶカナの声がズドーンと鼓膜に響く。


 食堂の空気は異常だった……。

 もしかして、妹を襲っちゃったから? それとも、10歳の幼女を襲っちゃったから?

 空気に呑まれ、緊張で喉を通らない食事を無理矢理に押し込む。

 その時、ルーミィが叫んだ。

「あたしは見たわよ!」

 出たな、覗きルーミィ!

「クーも……」
『ワタシも見ました』
『私も……あれは恐ろしい光景だった』

 全員で覗いていたのか!?
 しかも、恐ろしい光景って……優しくしたのに!

「ゆ、幽霊ですか!?」
『窓の外から見ていたにゃぁ。暗殺者? それとも、ストーカーかにゃぁ』

「えっ!?」

 そっち? って、どっちだよ!


 みんなの素っ頓狂な話を統合すると、昨晩……僕とポーラも寝静まった深夜、2つの光る眼がみんなの部屋の外をうろちょろしていたらしい。窓から覗き見るように。それが、目を合わせると逃げるように飛んでいってしまったらしい。敵意を感じると言うより、気味が悪いと言う表現が相応しい。

「僕たちは悪いことをしていないけど、敵は自ずとできるもんだ。単独行動は控えて、くれぐれも注意しようね」

 真面目に言ったはずなのに、お前が言うなよ的な白い目が集中砲火を浴びせてくる。
 ポーラ、お前もか……兄は切ないぞ。


「今日は最終リハやるよ! 会場で衣装を着るからね!」

 クーの告知に、みんなが興奮して大騒ぎだ。

 結局、追い出されるように僕とカナがギルドに向かう。



 ★☆★



 尾行されてる?
 最近感じる視線……ギルドへ向かう途中、僕の背中にずっと突き刺さる。

 カナの手を掴み、走るようにしてギルドに入る。
 カナの、抗議するような赤い顔を無視してカウンターへ向かう。

「エンジェルウイングです」

『はいよ! これ1枚ね』


【蘇生依頼書】

 蘇生対象:キュン
 蘇生理由:大切なパーティメンバーだから
 種族:ロンダルシアンブルー(猫人族)
 性別:雌
 年齢:19歳
 死因:不明
 時期:昨晩
 職業:冒険者
 業績:迷宮踏破、ランクC、盗賊討伐
 報酬:お金 ○物品 その他
 メモ:昨日泊まった宿屋に来てください
 依頼者の関係:パーティメンバー


「これって……」

 亜人パーティ、猫人族、昨晩、19歳、冒険者……いくつかのキーワードが僕の脳裏に警鐘を鳴らす。
 きっと兎人族を蘇生した場に居た人だ……宿屋に来てくださいって、何があったんだ!?

 依頼書をアイテムボックスに収め、カナと腕を組むようにしてギルドを出て、お姫様抱っこで拠点に飛ぶ。
 ギルドにいる間も、僕を監視する視線は絶えることがなかった。



 ★☆★



「ご主人様……下ろしてください!」

 カナをお姫様抱っこしたまま、ルーミィに依頼書を見せて事情を説明していると、真っ赤に茹で上がったカナが暴れ始めた。

「あ、ごめん……」

 手を離すと、ダッシュで走り去るカナ……。
 やばい、今さらだけど結構恥ずかしい。

 ルーミィたちはそれどころではない様子で、依頼書を凝視している。

「昨晩の覗き、今朝の尾行をしてきた奴が関係しているかもしれない。危険だけど、行くしかないわね! リハは気になるけど、人の命に勝るものはない。あたしとアネット、それにクーも来て」

 ルーミィの人選は、チェルシー戦と同様だった。
 同じような事件を想定しているようだ。



 そして、昨日兎人族のラムを蘇生した宿屋に到着した僕たちは、最大のライバルと向き合うことになった……。

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