異世界転移-縦横無尽のリスタートライフ-

じんむ

強迫観念

 間もなく森を抜けようという時、馬車の外で獣の唸り声が聞こえる。

「敵か!」
「俺が行きます!」

 即座に馬車から飛び降りると、七体のハイウルフが道を塞いでいた。

「フェルドシャール!」

 詠唱すると、浮遊する数十の紺の球が一斉にハイウルフを猛襲。煙と共に獣の悲鳴が飛散した。
 やがて煙が晴れると、道には灰と魔鉱石しか残っていなかった。

「はぁ……ッ!」

 ふと、身体から力が抜け片膝をつく。中継地点を離れてからもまた何度か魔物と出くわした。全て倒してきたが流石に魔力の使いすぎか。

「おいおい大丈夫かよお前?」

 肩に手をのせられるので見てみると、ハイリの心配そうな目線が向けられていた。

「大丈夫、です。なので俺なんかの事より殿しんがりの方を」

 軟らかな手を退けると、きしむ身体に鞭打ち立ち上がる。

「そんな事言ったってよ、お前ずっと戦いっぱなしだぜ? いいから休んどけよ。後ろあんま来ねぇから俺が前に行く」
「ほんとに大丈夫なんで」
「お、おい……」

 ハイリを無視し言い切ると、再び馬車の中に戻る。
 俺には今、戦うだけの力がある。だから多少無理してでも俺がやらなきゃならないんだ。
 しかし身体は正直だ。荒波のように襲い来る疲労感に自然、身体は仰向けになる。
 感じるのは焦燥。
 もしここで魔物がまた出てくれば恐らく俺は動けない。いや、動けないじゃない、何が何でも動かす。

 やにわに、かつていた世界の記憶が脳裏を掠める。
 俺は人生で二度失敗をした。まず一つは勉強。高校まで順当に進学したが受験勉強をサボった挙句つまずき、結局浪人してから頑張ってみても第一希望に落ちた。そこから何もかもやる気が起き無くなり現実から逃げるように部屋にこもり続けた。
 そしてもう一つは――――

 だが、俺はこの世界で失敗しないと決めたのだ。今回は手を抜かない。一片の抜かりなく完璧な人生を送って見せる。そのためにはまず、自分のやれる事はやらないといけない。特に人を傷つける事だけは絶対にダメだ。

 ふと、視界が揺れる。意識が遠のいていく。
 このままでは寝てしまう。まずい。
 無理矢理上半身を叩き起こすと、自らの頬を叩くが大して効果は無かった。
 猛烈に襲い来る睡魔にぎりぎりの淵で抗っていると、またしてもどこからか魔物の遠吠えが聞こえた。同時に村の人の声が響く。

「まただ!」

 もうすぐ森を抜けるというのに次から次へと。
 心の中で軽く毒づくが、事態は変わらないので気持ちを切り替え馬車から飛び出す。
 だがあまりの疲労のせいか、思うように地面に着地出来ず、傍の木に背中を打ち付けてしまった。
 敵の位置は前。俺が行かないと。俺が……。
 木から身体を引きはがし、魔物の方へと歩く。

「ったく、もうみてらんねーぜ」

 不意に耳元で女の子の声が聞こえた。
 刹那、後ろから首に凄まじい衝撃が走る。
 同時に身体に力が入らなくなり地面に踏みとどまれなくなる。
 チカチカ点滅しながら地面に勢いよく近づく視界の端には、ハイリの横顔が一瞬だけ見えたのだった。

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