異世界転移-縦横無尽のリスタートライフ-
出立
「それでは参るぞ」
夜はティミーの家に泊まらせてもらった次の日、村長が高らかに告げると、荷馬車の列が一斉に動き出す。
俺はそのうちの先頭を走る馬車の中、魔導書を読んでいた。
魔導書にはもちろん魔術の事も記してあったが、便利な事にこの世界の事についても記してあったのである程度の知識を得る事は出来た。例えばこの世界には魔物も存在するが動物も存在するとか、変わり種で言えばどこの地方の食べ物が云々なども載っていた。ここまでくると魔導書というよりも何やらの歩き方である。
「じー……」
「ん? どうしたティミー」
何故だかこちらを訝し気に見てくるので尋ねると、ティミーの視線は俺の読む本へと向けられる。
「……変」
それだけ言うとぷいとそっぽを向いてしまった。
なるほど、他の人から見れば白紙だもんなこれ。確かにそうなるのも分かる。このまま変人扱いされるのはよろしくないので説明してやるとする。
「これなんだけどさ、ティミーって魔導書って知ってるか?」
「知らない」
「そうか。これはその魔導書でさ、魔導書っていうのはどうにも使用者にしか内容が見えないようになるらしいんだ。だから俺は別に白紙の紙をみつめてるわけじゃなくて、ちゃんと文字が見えてる。もちろんだましたりとかそういう意図で言ってるわけじゃないからな」
ついでに言うと使用者の識字能力にも合わせてくれるという便利機能つきだ。だから日本語表記だったんだな。
「そうなんだ」
魔導書に書いてあった知識をそのまま教えてやるが、以前、態度はそっけない。
まぁ、まだ十歳の子供には理解しがたいのかな。
「魔物が出たぞ!」
不意に誰かが叫ぶと、馬車が止まる。
俺は本を閉じすぐさま飛び出すと行く手には、三頭の魔物。名前を確かハイウルフと言ったか。
「大丈夫ですかい!?」
俺が飛び出すのとほぼ同時、殿を務めてもらうため、最後尾の馬車に乗っていたベルナルドさんも慌てて飛び出す。
「ベルナルドさん大丈夫です。俺がやるんでー」
それだけ言うと、ハイウルフの前へと身を投じる。
瞬間、ハイウルフが俺の元へと疾駆。たった一人で現れた格好の餌に今すぐありつきたいらしい。
さぁいっちょやってみますかぁ!
「フェルドクリフ!」
詠唱すると、突如紺色の壁が目の前に顕現する。
間際を狙ったので対応しきれなかったのだろう、壁が消えた跡にはハイウルフの姿は無く、あるのは灰のみだった。
「おお……」
その光景に自然と声が漏れる。
今扱ったのは下位魔術【フェルドクリフ】。目の前に炎の壁を形成するこれは遠距離攻撃を防ぎ、相手をけん制、あわよくば今のように自滅させる事が可能だ。
しかしまさかほんとに使えるとはな……これはちょっと楽しすぎるんじゃないですかねぇ!?
「いやぁ、おったまげた、魔物が一発かい?」
「ほう、術者自身も紺色を扱うか」
先頭の馬車に馭者として乗る村人と村長が口を開く。
そういえばほんとだ、さっきの炎紺色じゃん俺。なになに、これもしかしてかなり優遇されてるんじゃないの俺?
「それよりお主、魔鉱石は拾っておかんのか? 無一文であるのなら持っておいても損はあるまい」
「あ、ほんとですね」
見れば、灰の中に紫色の石が混じっている。
汚れを払い太陽にかざすと、それは妖美な光を放つ。
魔物は死ねば灰になるという。そして時々この紫の石、魔鉱石を落とすらしい。どうにもこの石は装備など加工するのに使うらしく、売れば多少のお金になるとか。
「あれ、魔物はどこに行っちまったんです?」
見ればベルナルドさんがきょろきょろと辺りを見回していた。
その様子を眺めていると、はたとベルナルドさんと目線が合った。
「まさかアキがやったってぇのか?」
「はい」
嘘をつく理由が無いので正直に答えると、ベルナルドさんは素っ頓狂な声を上げる。
「そいつぁ驚いた! やっぱりやる奴なんだなぁアキはよぉ」
バシバシと背中を叩いてくるので思わずむせそうになる。
「ま、まぁそういう事なんで、安心して殿お願いします」
「おう、まかされたぜい! ハッハッハ」
高笑いしながら馬車へと戻っていく姿は人情味に溢れているが、なんというか、本当に陽気な人だな……ハハ。
その後、ディーベス村一行は夕方辺りに小さな教会辺りに到着すると、いったんそこで馬を休ませ進むのは明日という事になった。
次の日もその次の日も進み続け、着々とサンフィエンティルは近づいていく。今は森の中にさしかかり、ここを抜けることが出来れば人里近くになって魔物も減るらしい。
俺も魔術の扱いには慣れ、今となっては下位魔術を四個ほど覚えた。深層魔術だけに頼るのは心もとないからな。
「うーん、きっついなぁ……」
五個目の魔術がなかなか想像しがたく思わずため息が漏れる。
やれやれ、魔術の扱いはもうちょっと楽かと思ってたけど、やっぱ難しいな。
詠唱するだけで発動できるのならよかったんだけど、それだけでは無論発動できるわけもない。脳内でいかにイメージするかがカギになってくる。魔術は基本的に空想の具現だ。これから発動する魔術の形態を細かく脳内で構築しなくてはならない。絵心などがあればもう少し楽な作業だったのかもしれないが、生憎そんなものは持ち合わせてないので日々想像力との戦いだ。
五個目の魔術を覚えようと努力していると、不意に別の馬車から声が届く。
「おおい少し待ってくれー、車輪の様子がおかしいんだ」
揺れが収まった馬車から顔を覗かせると、村長がおかしいと思われる馬車の車輪の方へと歩いていっていた。
「ああこりゃいかん。劣化じゃ。だがこれくらいならば直すことはできよう。少し先に聖粉が撒かれた中継地点があるからそこまではなんとか持つじゃろう」
じいさんの言う通り、少し行くと水車小屋があり明らかに人の手が加えられた場所に出た。
どうにも、この世界にはこう言った中継地点がいくつか存在するらしい。既にここまで来るのに四、五回通った。曰く、冒険者という職業がこの世界には存在し、その人達のための施設だとかなんとか。
「よっ……と」
馬車の旅も楽じゃない。
大きく伸びをして身体をほぐしていると、ティミーがどこか期待の眼差しを俺に向けてくる。
「ちょっとだけ探検してみたい」
何を言うかと思えばこの子は……。
「駄目です」
「む、なんで?」
「だって危ないだろ? 魔物とか遭遇したらどうするんだよ。そもそもヘレナさんだって許さないだろ」
「ううん、お母さんは行ってきてもいいって言ったよ?」
「えー……」
いやいや流石に駄目ですよヘレナさん、なんでまたそんな事言っちゃったんですか……。
「アキと一緒なら守ってくれるから大丈夫だって」
「ああそういう事……」
ヘレナさんもなんという重荷を背負わせてくれるんですかね……。この世界に来てまだ数日、ゲームならまだチュートリアル消化してる最中ですよ俺。
「それに……アキずっと本読んでて全然お話もしてくれないし……」
ティミーはどこか拗ねたような口調で付け足すと、寂しげな表情を見せる。
なるほど……確かにここまでずっと勉強しっぱなしだったな。
そんな事言ってくれるって事はやっぱり俺かなり気に入られちゃったかなぁ? ヌフフ。
まぁ、冗談はさておき、見たところこの村にはティミーと同世代の子供はいない。そこにひょっこり同い年の俺が現れたもんだから友達になりたいと感じるも必然ってところか……。だとすればちょっと悪い事したな。まぁ、俺が守ってやればいい話だよな。
「ちょっとだけだぞ」
「え、ほんと?」
「ああ、でも俺から絶対離れるなよ?」
「うん!」
ティミーは満面の笑みを浮かべると、俺の手を引いてくる。
「はやくはやく!」
「分かったから」
一挙に元気になったティミーに自然と口元が緩むのを感じていると、不意にまたしても懐かしいような、妙な感覚に襲われる。俺もいつの日だったか、今みたいに誰かと一緒に歩いていたんじゃないだろうか?
しかしその感覚はすぐに砂時計の中を滴り落ちる粒の様にすっとどこかへ消えていってしまった。
夜はティミーの家に泊まらせてもらった次の日、村長が高らかに告げると、荷馬車の列が一斉に動き出す。
俺はそのうちの先頭を走る馬車の中、魔導書を読んでいた。
魔導書にはもちろん魔術の事も記してあったが、便利な事にこの世界の事についても記してあったのである程度の知識を得る事は出来た。例えばこの世界には魔物も存在するが動物も存在するとか、変わり種で言えばどこの地方の食べ物が云々なども載っていた。ここまでくると魔導書というよりも何やらの歩き方である。
「じー……」
「ん? どうしたティミー」
何故だかこちらを訝し気に見てくるので尋ねると、ティミーの視線は俺の読む本へと向けられる。
「……変」
それだけ言うとぷいとそっぽを向いてしまった。
なるほど、他の人から見れば白紙だもんなこれ。確かにそうなるのも分かる。このまま変人扱いされるのはよろしくないので説明してやるとする。
「これなんだけどさ、ティミーって魔導書って知ってるか?」
「知らない」
「そうか。これはその魔導書でさ、魔導書っていうのはどうにも使用者にしか内容が見えないようになるらしいんだ。だから俺は別に白紙の紙をみつめてるわけじゃなくて、ちゃんと文字が見えてる。もちろんだましたりとかそういう意図で言ってるわけじゃないからな」
ついでに言うと使用者の識字能力にも合わせてくれるという便利機能つきだ。だから日本語表記だったんだな。
「そうなんだ」
魔導書に書いてあった知識をそのまま教えてやるが、以前、態度はそっけない。
まぁ、まだ十歳の子供には理解しがたいのかな。
「魔物が出たぞ!」
不意に誰かが叫ぶと、馬車が止まる。
俺は本を閉じすぐさま飛び出すと行く手には、三頭の魔物。名前を確かハイウルフと言ったか。
「大丈夫ですかい!?」
俺が飛び出すのとほぼ同時、殿を務めてもらうため、最後尾の馬車に乗っていたベルナルドさんも慌てて飛び出す。
「ベルナルドさん大丈夫です。俺がやるんでー」
それだけ言うと、ハイウルフの前へと身を投じる。
瞬間、ハイウルフが俺の元へと疾駆。たった一人で現れた格好の餌に今すぐありつきたいらしい。
さぁいっちょやってみますかぁ!
「フェルドクリフ!」
詠唱すると、突如紺色の壁が目の前に顕現する。
間際を狙ったので対応しきれなかったのだろう、壁が消えた跡にはハイウルフの姿は無く、あるのは灰のみだった。
「おお……」
その光景に自然と声が漏れる。
今扱ったのは下位魔術【フェルドクリフ】。目の前に炎の壁を形成するこれは遠距離攻撃を防ぎ、相手をけん制、あわよくば今のように自滅させる事が可能だ。
しかしまさかほんとに使えるとはな……これはちょっと楽しすぎるんじゃないですかねぇ!?
「いやぁ、おったまげた、魔物が一発かい?」
「ほう、術者自身も紺色を扱うか」
先頭の馬車に馭者として乗る村人と村長が口を開く。
そういえばほんとだ、さっきの炎紺色じゃん俺。なになに、これもしかしてかなり優遇されてるんじゃないの俺?
「それよりお主、魔鉱石は拾っておかんのか? 無一文であるのなら持っておいても損はあるまい」
「あ、ほんとですね」
見れば、灰の中に紫色の石が混じっている。
汚れを払い太陽にかざすと、それは妖美な光を放つ。
魔物は死ねば灰になるという。そして時々この紫の石、魔鉱石を落とすらしい。どうにもこの石は装備など加工するのに使うらしく、売れば多少のお金になるとか。
「あれ、魔物はどこに行っちまったんです?」
見ればベルナルドさんがきょろきょろと辺りを見回していた。
その様子を眺めていると、はたとベルナルドさんと目線が合った。
「まさかアキがやったってぇのか?」
「はい」
嘘をつく理由が無いので正直に答えると、ベルナルドさんは素っ頓狂な声を上げる。
「そいつぁ驚いた! やっぱりやる奴なんだなぁアキはよぉ」
バシバシと背中を叩いてくるので思わずむせそうになる。
「ま、まぁそういう事なんで、安心して殿お願いします」
「おう、まかされたぜい! ハッハッハ」
高笑いしながら馬車へと戻っていく姿は人情味に溢れているが、なんというか、本当に陽気な人だな……ハハ。
その後、ディーベス村一行は夕方辺りに小さな教会辺りに到着すると、いったんそこで馬を休ませ進むのは明日という事になった。
次の日もその次の日も進み続け、着々とサンフィエンティルは近づいていく。今は森の中にさしかかり、ここを抜けることが出来れば人里近くになって魔物も減るらしい。
俺も魔術の扱いには慣れ、今となっては下位魔術を四個ほど覚えた。深層魔術だけに頼るのは心もとないからな。
「うーん、きっついなぁ……」
五個目の魔術がなかなか想像しがたく思わずため息が漏れる。
やれやれ、魔術の扱いはもうちょっと楽かと思ってたけど、やっぱ難しいな。
詠唱するだけで発動できるのならよかったんだけど、それだけでは無論発動できるわけもない。脳内でいかにイメージするかがカギになってくる。魔術は基本的に空想の具現だ。これから発動する魔術の形態を細かく脳内で構築しなくてはならない。絵心などがあればもう少し楽な作業だったのかもしれないが、生憎そんなものは持ち合わせてないので日々想像力との戦いだ。
五個目の魔術を覚えようと努力していると、不意に別の馬車から声が届く。
「おおい少し待ってくれー、車輪の様子がおかしいんだ」
揺れが収まった馬車から顔を覗かせると、村長がおかしいと思われる馬車の車輪の方へと歩いていっていた。
「ああこりゃいかん。劣化じゃ。だがこれくらいならば直すことはできよう。少し先に聖粉が撒かれた中継地点があるからそこまではなんとか持つじゃろう」
じいさんの言う通り、少し行くと水車小屋があり明らかに人の手が加えられた場所に出た。
どうにも、この世界にはこう言った中継地点がいくつか存在するらしい。既にここまで来るのに四、五回通った。曰く、冒険者という職業がこの世界には存在し、その人達のための施設だとかなんとか。
「よっ……と」
馬車の旅も楽じゃない。
大きく伸びをして身体をほぐしていると、ティミーがどこか期待の眼差しを俺に向けてくる。
「ちょっとだけ探検してみたい」
何を言うかと思えばこの子は……。
「駄目です」
「む、なんで?」
「だって危ないだろ? 魔物とか遭遇したらどうするんだよ。そもそもヘレナさんだって許さないだろ」
「ううん、お母さんは行ってきてもいいって言ったよ?」
「えー……」
いやいや流石に駄目ですよヘレナさん、なんでまたそんな事言っちゃったんですか……。
「アキと一緒なら守ってくれるから大丈夫だって」
「ああそういう事……」
ヘレナさんもなんという重荷を背負わせてくれるんですかね……。この世界に来てまだ数日、ゲームならまだチュートリアル消化してる最中ですよ俺。
「それに……アキずっと本読んでて全然お話もしてくれないし……」
ティミーはどこか拗ねたような口調で付け足すと、寂しげな表情を見せる。
なるほど……確かにここまでずっと勉強しっぱなしだったな。
そんな事言ってくれるって事はやっぱり俺かなり気に入られちゃったかなぁ? ヌフフ。
まぁ、冗談はさておき、見たところこの村にはティミーと同世代の子供はいない。そこにひょっこり同い年の俺が現れたもんだから友達になりたいと感じるも必然ってところか……。だとすればちょっと悪い事したな。まぁ、俺が守ってやればいい話だよな。
「ちょっとだけだぞ」
「え、ほんと?」
「ああ、でも俺から絶対離れるなよ?」
「うん!」
ティミーは満面の笑みを浮かべると、俺の手を引いてくる。
「はやくはやく!」
「分かったから」
一挙に元気になったティミーに自然と口元が緩むのを感じていると、不意にまたしても懐かしいような、妙な感覚に襲われる。俺もいつの日だったか、今みたいに誰かと一緒に歩いていたんじゃないだろうか?
しかしその感覚はすぐに砂時計の中を滴り落ちる粒の様にすっとどこかへ消えていってしまった。
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