異世界転移-縦横無尽のリスタートライフ-

じんむ

衝撃の事実

「――ッ!?」

 葉が生い茂る間から光が目に届く。自然特有の土の香りが鼻腔をくすぐり、同時にひんやりとした感触を背中に感じた。
 俺は寝転んでいるのだろうか? なんで俺は寝てるんだ? ここって森だよな? 

 うんおかしい、明らかにこの状況はおかしい。だって考えてもみろ、俺絶賛ヒッキーしてたんだぞ? そんな俺がこんなアウトドアな空間にいる事なんかあり得ないだろ。

 思い出せ、何があったか思い出せ……。

「あっ」

 ……俺、死んだよな?
 そうだよ、俺は死んだはずだ。確かあの瞬間、トラックが俺に突っ込んできてそのまま意識が飛んだはずなんだ。いやでも俺は現にこうして景色を見ている。だとすればこれは夢か、あるいは天国か?
 上半身を起こし周りを見渡してみる。やはり森だ。ただ植物は日本のとは少し違う気もする。腕をひねってみても痛い。脈を調べてみてもしっかりと脈動している。となるともう答えはあれくらいしか……。

 この状況に目星をつけていた刹那、鳥の羽ばたく音にあわせて、木々の間から一定の間隔で重低音が聞こえてくる。それ以外にも騒がしく森がざわめく音に第六感が不吉な感覚で満たされた。
 刹那、勢いよく何かの影が飛び出してくる。

「きゃっ」

 その影は軽く悲鳴を上げると、勢いよく転倒。
 女の子だった。さしずめ赤ずきんちゃんを思わせる身なりはロリコンの俺の心を少なからずくすぐる。
 まさかこの女の子があの音を……? なんてありえないか。
 しかし呑気にそんな事を考えている場合では無かった。

 一瞬遅れて耳を貫くのは獣と思しき、咆哮。

 同時に、木々を張り倒し目前へと姿を現したのは、最低でも大人二人分の背丈はありそうな三つ頭を持った獣だった。状況は恐らく最悪。ただ、これで分かった。いやもうだいたい分かっていた。ここはたぶん、日本はおろか、地球上のどこでさえもない別の世界、異世界だ。

「お母さん……っ!」

 女の子が切実な様子で放つ。その瞳は濡れ、心から恐怖してる事が分かった。
 残念ながら勇者の剣とか何かしらチートアイテムを持ってきてくれる神様的ポジションの子では無いらしい。クソ、死んだと思ったら異世界に転移してまた即死でしたとか笑えない。どうすんだよこの状況……。
 もはや焦燥を通り越して諦めの境地に入りつつある中、三つ頭の獣はこちらへと細かくも鋭そうな歯を見せつけて迫っていた。身体中のアドレナリンが五月蠅く警鐘を鳴らし、生命の危機を知らせる。
 瞬間、脳内に燃えさかる炎のビジョンが映し出された。その火の中にいるあれは……虎か?

召喚イステドア

 ふと、声が聞こえた。子供の声だ。でも傍で怯える女の子でも無い、ましてや俺のでも――
 ――いや、俺の声?
 思考の中かから目の前へと視線を移すと、黒と灰の虎が三つ頭の首筋を引き裂いているところだった。
 空間を満たす断末魔の主は殺意の方向を俺と女の子から逸らし、少し先で佇む虎へと猛進する。
 しかし時既に遅し。三つ頭は虎に到達する前に紺色の炎で包み込まれた。やがて火が消えると、残るのは塵となった灰のみ。
 あの虎は俺達を助けてくれたのか? それにあれはさっき火の中で映った虎とかなり似ている。

「お前は一体……」

 尋ねようとするが、虎が最後まで俺の言葉を聞く事は無かった。不意に光で包まれそのまま虚空へと消え去ったのだ。
 しばらく呆然と虎のいた場所を眺めていると、ふと女の子がいたことを思い出す。
 見ると、頭巾が取れ、琥珀色の髪の毛があらわになったその子は何が起こったのか分からないらしく、くりくりした目をぱちくりさせていた。かという俺も正直何が起こったのか分かっていない。
 やがて目線が合った。これ何か話しかけなきゃまずいよな……頼むから日本語通じてくれよ?

「お嬢ちゃん、お名前は?」
「えっ……」

 聞くと、女の子は肩をピクリとさせ戸惑ったように目を泳がせる。
 しくじったな。あの聞き方じゃただの変態おじさんじゃないか! あるいは日本語が通じなかったという可能性もある。とりあえず謝っておこう。

「ごめん、いきなり知らない人に名前を聞かれても困るよね。アイムソーリートゥーアスクユアネーム、ハハハ」
「え、えと、いいの……」

 女の子がそう言って首を小さく振ると、それに連動してふわふわした髪の毛もちょこりと揺れる。
 可愛らしく控えめな声で放たれた言葉はどうやら日本語のようだった。
 にしてもあれじゃあただの馬鹿だな俺。念のため咄嗟に思いついた英語言ってみたけどその必要は無かった。完全にスルーされたっぽいからボケとしても成立しないし。

「……」
「……」

 お互い顔を見合わせたまま束の間の沈黙が訪れる。
 十歳くらいだろうか? まだまだあどけないが顔立ちは整い、泣いていたからかまだ少し濡れているが、その澄んだ瞳の中には将来美人になった女の子の姿が映り込んでいる気がした。
 別に可愛いから愛でたいとかそんなやましい事は一切なく女の子を隅から隅まで観察していると、はたと妙な感覚で脳内が満たされる。これは既視感とでも言えばいいのだろうか? 俺はこの女の子を知ってる、あるいは知っていたような気がする。この子の名前は確か……。

「ティミー」

 ふと、女の子が言葉を発した。ティミー、恐らくこの子の名前だろう。なんとなくその言葉に親近感はあったものの、知らない名前だったからさっきのはただの錯覚か何からしい。別に日ごろからロリっ子画像をにやにやしながら見ていたからそれが潜在意識として現れたなんてことは無いと思う。いや言っとくけどちゃんとした普通の幼女だから。別にそういうのじゃなくて俺はただ純粋に愛でていただけだから。

「ティミーっていうんだ。可愛い名前だね。ちなみに俺は明久あきひさ。親しい奴からはアキって呼ばれてたからそれでいいよ」

 よし、これは我ながら好青年な印象を与えられたに違いない。ん、待てよ? 好青年? なんというか、今話した感じ、ガチめの好青年の声に聞こえたんだけど気のせいか? っていうか好青年というよりは少年? うーん……。

「アキ……。 え、えと、よろしくね……」
「よろしく」

 どうやらこの子はかなりの恥ずかしがりやさんらしい。言うやいなや頭巾を被ると、その頬を紅く染めていた。ああなんて可愛い赤ずきんちゃんなんだ! 
 さて、可愛いロリ……女の子とお近づきにもなれたし、とりあえずどうするかなと周りを見渡すと、たまたま近くの水たまりに目が行った。ただの水たまりならばそのままスルーしていただろう。いや水たまり自体は何の変哲もないただの水たまりなんだ。問題はそこの映る人であって……。

「な、なぁティミー……ところでさ、俺の歳っていくつだと思う?」

 いきなりなんの脈絡も無く聞いたからか、ティミーは不思議そうな表情を覗かせるが、質問に答えてくれた。

「えと、私と同い年……十歳くらいかな?」

 遠慮がちながらも鋭く放たれた言葉に驚愕すると同時に、なんとなく感じていた声の違和感の正体にも合点がいったし、水たまりが映し出すこども・・・の俺の姿も信用する事が出来た。

 そう、俺は異世界に飛ばされて十歳くらいにまで若返っていたのだ。

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