転生先は現人神の女神様

リアフィス

閑話06 セラフィーナのある日

セラフィーナの朝は……普通である。
早くもなく遅くもなく布団から抜け出し、身なりを整えたら庭へと出る。

「おはようございます、ルナ様」
「おはようフィーナ」

ルナフェリアの手料理である朝ご飯をもぐもぐして、少し休んだらルナフェリアと勉強だ。
午前中はお勉強、午後は自由時間。それが、セラフィーナの1日である。
そして、今日のお勉強は……。

「ねぇルナ様?」
「なに?」
「どうしてお勉強するの?」
「また突然ね」
「他の同じぐらいの子達はしてないって言うから気になったの」
「ふむ、なるほど」
「どうして?」
「そうねぇ……。恐らくその問いにこれという回答はないと思う。人によって答えは変わる可能性が高いから。だからあくまで私の考えを言うわね?」
「うん」

子供は時に難しい質問をしてくる。
そして、子供の質問に重要なのは『その子が納得するかどうか』である。

「まず、前提として子育てとは?」
「子供を育てること?」
「そうね。では子供を育てるとは何を指す? 朝になったら起こして、朝ごはんをあげて、好きに遊ばせて、お昼ご飯をあげて、お昼寝させて、おやつをあげて、遊ばせて、夜ご飯をあげて、おやすみ?」
「うーん?」
「子供はね、親の背を見て育つの」
「背中を見るの?」
「言葉通りの背中じゃなくて……そうね、親の生き様を見て育つの。自分達の前を歩いて行く親の背中を見ながら、後を付いていく子供。そう言った意味ね」
「うーん……」
「なんとなく分かればいいのよ。自覚が無くてもそういう物なの。フィーナがどうしていいか分からない状況になりました。その時にお母さんは、お父さんはこうしていたからこうしよう。または、こうして失敗したから私はこうしよう……って」
「うん」
「でね? その『こうしてたからこうしよう』というのが、どうして勉強をするかと言う答えその物よ」
「う?」
「子育てとは衣食住、服、食事、住む所を与える事だけじゃないと言う事よ。『こうなった場合どうするか』または『判断するための材料』という知識、知恵を与えるのも立派な子育て」
「ちしき、ちえ?」
「そう、例えば……、何故食べる時にお肉を焼く? 生じゃダメなのか? 何故料理をするのか。そして、何故布団で寝る? 床じゃダメなのか? 獣は生肉を食べ、床で寝る。どうして?」
「うーん……そうした方が良いから?」
「そうね。そうした方が良いと、教えられてきたから。親は子に知識や知恵を教え、子が親となった時、自分の子に知識と知恵を教える。人類はそうしてきた。親から教えられた、はたまた子が親となるまでに自ら学んだ事を自分の子に授ける。我が子が少しでも苦労しなくてすむように、その手段を知識、知恵として授ける」
「それがお勉強?」
「そうね」
「じゃあ他の子は? してないって言ってるよ?」
「ふふ、『してない』なんてあり得ないわ。間違いなく気付いてないだけ」
「そうなの?」
「『お勉強』じゃなくて『お手伝い』として学ばされているはずよ。お勉強じゃなくて『親の手伝い何かしてる?』って聞いてみなさい。間違いなく全員している。男の子達は恥ずかしがってしてないとか言うかもだけど、絶対にしている」
「そうなんだ?」
「特に村ぐらしだった獣人の子達。フィーナ、貴女だって村にいた頃手伝っていたでしょう?」
「うん……」
「それは『お手伝い』として生きる知識、知恵、技術を教えているのよ。私が魔法を教えてるのとやっている事は一緒。お勉強とお手伝い、言い方が違うだけよ」
「そうなんだ……」
「お勉強だと拒絶反応出る子達がいるのよね。堅苦しくてやだー! ってなる子達が。だからお手伝いで誤魔化すのよ。あ、これは言っちゃダメよ? 何も言わず見守ってあげなさい」
「分かった!」

セラフィーナは頭が良い。
まだまだ幼いけれど理解力はあるし、自分で考える事もする。
分からなければ聞いてくるし、ルナフェリアも教えるのは好きだ。
だからセラフィーナが理解するまで、納得するまでじっくり話す。お互い寿命がない種族だからこそ、時間はたっぷりあるのだから。
『その内容は6歳には難しすぎます!』とかジェシカやエブリンに怒られるのもご愛嬌だ。最近は割りとある。将来が末恐ろしいエルフっ娘である。

「知識、知恵、技術……これらは大切よ。大切だからこそ、教えるの。これらはまさに『あるに越したことはない』代物。分かる?」
「うーん?」
「そうね……例えば、フィーナが1人で遊んでいる時、木登りしました」
「うん」
「そして細い枝に乗ってしまい、枝が折れ木から落ちました」
「う、うん」
「左腕に涙がでる程の激痛がします。さあ、どうする?」
「え、えっと……周りには誰もいないんだよね?」
「うん、いないわね」
「じゃあ、急いでここに帰ってくるか、冒険者ギルド本部に行く」
「うん、そうなるわね」
「あ、精霊さんに呼んでもらう!」
「ふむ、確かに。貴女ならそれが1番早いかもしれないわね」
「えへへー」
「じゃあフィーナ、貴女に今から知識を与えましょう」
「う?」
「まず貴女はこれで学びましたね? 木登りは危ないと」
「うん」
「でも、木登りより落ちた直接の原因があるわね?」
「えっと……細い枝?」
「そう、細い枝が折れて貴女は落ちた。なら次からは『同じぐらいの枝には乗らない』はずね?」
「うん、落ちたくないもん」
「その経験から来る知識が『子が親になるまでに学んだ事』に該当する。ちなみに世の中にはそれで学ばず再び細い枝に乗って落ちる馬鹿もいるわよ」
「えっ……」
「まあ、馬鹿は置いといて……、貴女は重力魔法を使えるとします。そしたらどうする?」
「落ちる前に使う!」
「そうね。今は詠唱や反応が間に合うかは置いといて、使えるなら使うでしょう。つまり、事前に知識や知恵、技術があるなら『できることが増える』という事。だから、『あるに越したことはない』ってね」
「知識、知恵、技術があるから対応ができるってこと?」
「そういう事。貴女はよく知っているはずよ、フィーナ。力があれば、自分が強ければ、そう思って私に魔法を教えてほしいと言ったはず」
「うん……」
「それはつまり戦う技術があれば、戦い方を知っていれば、対応が出来たかもしれない。良くも悪くも、知識や知恵と言う所謂『判断材料となり得る物』は必須よ。逆に戦う技術を持ち、自分の力量を知っているからこそ、相手との力量差がはっきり分かり、絶望することも無くはないけれど、こればっかりはね」
「むー……」
「まあ、『何故勉強をするのか?』という問の私の答えは、『判断材料を増やし、対応力を上げるため』となるかしらね。もっと簡単に言うと『できることを増やすため』。だから私は午前は勉強、午後は遊んでこいと言っている。午後遊んできて、遊んでいる中で様々な体験をし、学んでくる。まあつまり、遊んで怪我でもしてこいってことね。木登りだけでも学ぶことはあるでしょうよ」
「うん」
「さて、何か質問は?」
「うーん……」

セラフィーナの親は母、父共に亡くなっている。
『親の背を見て生きていく』……親と呼べる者は既に……。

「フィーナ」
「なに?」
「貴女を産んだ両親を生みの親と言うの。そして、子を育てた者を育ての親と言うのよ。つまり……」
「ルナ様達も親?」
「そうね。貴女が家族だと思えるのなら、十分に家族よ。私達では不満?」
「んーん。皆大好き!」
「そう、大丈夫。私達は貴女の親よ。胸を張りなさい」
「うん!」

スリスリとセラフィーナの契約精霊達が私は? 私は? と擦り寄っていた。

「精霊さんも大好き!」

キャッキャしているフィーナと精霊達を見ながら、つくづくいい子だな……と思うルナフェリアであった。
セラフィーナは寿命がない種族だけれど、私とはまた別。いつか死ぬ時が来るかもしれない。それまではしっかり見守ろうかと思うルナフェリアであった。

ハイエルフの少女……セラフィーナはどんな道を歩むのだろうか。
この日からセラフィーナはルナフェリアをお母様。
ジェシカをジェシカ姉様、エブリンをエブリン姉様と呼ぶようになった。
母と姉2人、そう呼べる者を得た日だった。


……ちなみに、2人のお勉強を第三者から見ると幼女2人がテーブルで話してるだけにしか見えない。
内容は……幼女が話す様な事じゃないが。

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