転生先は現人神の女神様

リアフィス

50 貿易と魔導貨物船

久々に翼を出し広げる。
何だかんだで、翼を出している方が楽と言えば楽だ。微妙に窮屈感がある。一応これがデフォルトだからだろうか。

今回は転移ではなく、飛行で行こうかと思っている。
間者、つまりスパイと言った連中の事だな。大国には間違いなくいるし、我が土地にも既に数人確認している。ご苦労なことだ。と言うかファーサイスのもちゃっかりいた。
まあ、余計なことをせず情報を集めているだけならスルーの予定だ。情報を持ち帰ってもらうのも重要だからな。
今後はそう言った者に目撃される必要も出てきてしまった訳だよ。私がどういったにんげ……存在か知ってもらい、しっかりと飼い主に知らせて貰わないとねぇ?

転移が便利だから転移ばっかり使ってたし、たまには飛びたいなと思っていたので、丁度いいと言えば丁度いいのだが。折角飛べるようになったんだしねー。


「それじゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ、マイスター」

オートマタとアストレートに見送られ、空へと舞い上がり……御神木にぶつかりそうになった。
しまらんなぁ。天辺が雲に突き刺さっている御神木である。すくすく育ったな。
光の精霊達がいなかったら、御神木の影でその他壊滅してただろうけどな。

すいすい空を飛び、ファーサイスの北門にいる騎士達に見送られつつ、城の入り口に降りる。
スカートが捲れないようにゆっくりとな。着地したら翼を畳むが、消しはしないでおこうと思う。

「あ、ああ。ししょ……ルナフェリア陛下」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ええ」

素が出そうになっていた門番に見送られながら、侍女に付いていく。

「ルナフェリア陛下、お連れいたしました」
「通してくれ」

国王の声により通された部屋はそこそこ広く、国王の他に王太子、宰相、更にもう3人初見の男。後は護衛の騎士達がいた。
1人はステータスを見ると外交官の様だ。国王や宰相と同じぐらいの年齢である。
もう1人はマースト側の公認商人の様だ。最後の1人は商人関係者だな。
席についているのが国王と外交官と商人。王太子と宰相は部屋の隅っこで座っていた。
商人関係者は外交官と商人の後ろに立っている。

王太子と宰相はあくまで見学か。基本的には外交官が主体だろうな。
あ、この商人の人初見じゃないな? シードラゴンの素材売る時の商人に混じってたな。
デニス・バルツァー。バルツァー商会の主だ。ここの商会、未だにシードラゴンの肉をちょいちょい買ってくのよな。おかげで在庫がそろそろやばい。
この立ってる男《鑑定》持ちか。まあ、いるに越したことはないな。

それはそうと、お話の時間だ!

「さて、我が国との貿易……とのことですが?」
「こちらはダンジョンから産出される、スパイスやハーブなどの香辛料を出そう。そちら側は野菜を出して欲しい」

これは既に伝えていたが、これ以外に特に無いのだ。再び前回置いていったサンプルを並べる。

「こちらが出せる香辛料はこれら」
「見させてもらっても?」
「どうぞ? 鑑定もご自由に」

そう言うと商人組の眉がぴくっと反応していた。

「バルツァー商会の商会長と会うのはこれが2回目ね?」

む……? ああ、情報は掴んでるけど確証がないと言ったところか。確かギルドでの取引時はもう少しでかかったな。変化を直接見たわけでも無いから反応しづらいか。下手なこと言えんしな。

「1回目は冒険者ギルド、シードラゴン素材の取引ね……」
「ではやはり……」
「ええ、あの時はこのサイズだったかしら?」
「ああ、そうですね。いやいや、稼がせてもらいましたとも」
「今でもたまに肉を買いに来るけど、そろそろ在庫が無いのよね」
「むむ、それは残念ですな……」

再び身長を戻しつつ、話も戻す。

「それでね。ファーサイスへと運ぶ公認商人、その者に証となる何かを持たせる予定。それを持っている者には決まった金額幅で仕入れをしてもらいたいの」
「ふむ……? 金額幅とは?」
「その間の金額内という決まりはあるけれど、いくらで仕入れられるかは商人次第。そしてファーサイスで売る際も決まった金額幅でお願いしたいわね」
「それはつまり…………」
「理解が早くて助かるわ?」

すぐに言いたいことを理解したデニス。差額は当然商会に入る。
税やら何やらは国同士で話し、それによって金額幅を決める。商人はその金額幅の間でいつも通りの取引を行い、利益となる。
証を持っていない他の商人にも売りはするが、値段が国によって制限されていない為、下手したら証持ちの数倍の値段がかかる。

「ファーサイス側も野菜をこのルールで頼みたいのよ」
「ふむ。それについては問題無いですね。しかし、証というのは?」
「どんなのにするかは後で話して決めるとして、複製されないように私が作ります。当然素材もこちらで用意しましょう」
「それならこちらは何の問題もありませんが……」

逆にファーサイス側が有利すぎて戸惑ってる状態だな、これは。
まあ、そりゃそうだろう。回りくどい言い方もせず、全てストレートに話しているからな。今までとは勝手が違うのだろう。
内容的には相手を上げ上げ状態だ。

「しかし、野菜はうちを優先して欲しい」
「む、それは……」

品物的には明らかにこちらが有利なのだよ。
しかし、国としての格の違いも考えると妥協点はこの辺りだと思うが。
国としての格はできたてのこちらが弱い。だが、提示している品に関してはこちらの方が上だ。
香辛料は他国も確実に欲しがる品物。

「ファーサイスの生産量は400パーセント強だったはず……。まだ余裕、あるわよね? どこにどれだけ渡しているか、外交官なら把握しているでしょう?」

私はニンマリじゃなく、ニタァとしている。当然目は笑っていない。さぞ不気味なことだろう。
だが、外交に情けは無用。
しかし向こうもプロである。

「はぁ、堪りませんね。良いでしょう。しかし! 香辛料もうちを優先して貰いたい。それなら多少他を削ってでも優先致しましょう」
「ほう……」

この話は間違いなくファーサイスにとって利となる話だ。
こちらの要求を丸々飲みつつも他国への香辛料を制限してきたか。

「証持ち以外の商人がどこに運ぶかまでは責任持てんよ?」
「……それは大した量にはならないでしょう?」

量を制限するなり値段を上げるなりで調整しろとな?
しかし、残念だったな外交官!

「私の勝ち」
「む……」
「元よりそのつもりだもの」
「なっ……」

私の言葉を聞いた外交官は眉をピクッとした後、驚いて項垂れていた。
そんな外交官に呆れ顔の国王である。

「だから言ったろう、相手が悪いと……」
「自信が無くなりそうですよ……」

悲しいことに、この外交官は私の魔眼を知らない。悲しいことにな。ほんと、悲しいことにな!
私相手にポーカーフェイスや言葉の言い回しなどは無意味だ。思考が筒抜けだからな。何を狙ってそういう言い回しをしているかなど丸わかりである。
私はにっこりスマイル。と言うよりはニタァとしている。

「まあそもそもこちらが有利というか、そっちに拒否する理由がないというか」
「最初からこちらが有利な取引だからなぁ……」
「我が国では畑を作る予定は無い。正直言っちゃうと作れないとも言える」
「作れない……とは?」

この外交官は私の土地を知らん。ファーサイスにある人工聖域を遥かに超えた精霊達の数を。
とは言え、実力主義のファーサイスで外交官をしている為、無能はあり得ない。
だが、純粋にタイミングが悪かったとも言える。外交に出てて国にいなかったからな。
ここに農業担当の農産相もいたら多少話は変わっただろう。この人達は聖域が王都内にできたことによる恩恵をはっきりと認識しているから。

「土地はある。だが、それ以外の理由で我が国としては、アトランティス……帝国か? には野菜は作って欲しくないのだよ」
「新しい私の引越し先には、この王都にある聖域を遥かに超えた精霊達が存在している。更に情報を加えると、今のところ3種の妖精種も住み着いた。精霊だけよりも更に効率が上がったと思っていい」
「むぅ……。アトランティス帝国が野菜を作り始めた場合、我が国存続の危機になるのは間違いないだろうな……。何も直接戦闘する必要はないのだよ……」
「王都に聖域が出来たことにより、精霊様の余波の様な物で我が国の収穫量、品質共に目に見えて上がっているのですよ、エルネスト公爵」
「本来ならその辺りもしっかり情報を与えてから外交させる訳だが、どの道相手がこれじゃ変わらんからな……」

これって言うな!

「じゃあ次は値段と証の話しかしらねぇ? いや、その前にバルツァー商会としてはどうかな?」
「ふーむ、そうですなぁ……。要するに我が本店にそちらの香辛料を並べられる……という事で宜しいのですね?」
「まあ、そうね。値段には多少国からの干渉がある程度。ちゃんと指定金額以内という事を守ってさえいればそうなるわね」
「そして仕入れに行く際にファーサイスから野菜を運ぶと」
「何ならうちへの出店も認めましょう。土地も店舗も用意します」
「なんと……」
「『公認商人で貿易を兼ねる』ならば、土地も店舗も用意しましょう。その代わり……ここにいる時点で大丈夫だとは思うけど? 何かやらかしたら叩き出すわ」
「『兼ねている間』は貸し出しと言うことですね? 税関係はどうなるのです? 更に位置的にはどういった場所で?」
「場所に関しては大通りに面した場所、そうね……南側……南東辺りかしら。税に関してはまだ決めてないのよねぇ……。ちなみに南東はこのファーサイスへと流れている川になっている湖があり、その湖は船着き場にもなっている。ファーサイスが許可するのなら船着き場の使用も許可しましょう」
「つまり馬車じゃなく船で運べると……? 至れり尽くせりですね……。となると税次第ですね……」
「売上の何割、固定金制……売上の何割で上限あり……がいいかしら?」
「ほう、ほうほう」

売上が低い場合、税も低くなる。
売上が高い場合、税も高くなるが、上限があるため上限を超える儲けはそのまま懐。
固定金額制だと、売上が低いと辛く、高いと無いも当然。
商会の規模によって固定金を変えるのは普通に面倒なので、やっぱ売上の数割制上限有りがいいだろう。上限無しだと萎えるだろうからな。と言うか絶対萎える。私が萎える自信ある。
という事で税を設定。
前世のように商品1個1個なんて、この世界じゃ管理が面倒だからな。
野菜に関しては関税無しでいいな。うち作ってないし安いに越したことはない。

まあ、いくらでかいとは言え流石にバルツァー商会だけでは無理だ。当然他の商人達も加わる訳だが、『国』が関わるのは公認商人の審査を通った者のみの予定だ。

「まあ、商人や技術職……職人達は我が国は歓迎します。これらが居ないと金が回らん」
「うむ」
「いやー、いいですな。滾ってきましたぞ!」
「やる気があるのは何より。ついでに個人的に売りたいのがあるんだけど、店に置いといてくれる?」
「む? それは構いませんが……」
「お、それはまさか?」
「商業ギルド登録してもいいんだけどねぇ……正直店番面倒だし。売れた物の1割を場所代や店番代わりとしてあげましょう」
「場所代も何も、そもそも土地から店舗まで用意して貰うのですが……」
「あ、じゃあ要らないね」
「いいえいいえ、ありがたく頂きますともええ」
「はいはい。置いて欲しいのは魔晶石とうちで採れる果実よ」
「お、やっぱりか!」
「そ、それはまさか……え、こっちの本店に回してもいいですか?」
「……まあ、いいでしょう。鮮度を保つための魔道具を用意しましょうか。売れたら魔道具から別のに移し替えてね?」
「それは素晴らしい! 値段に関しては決まっていますか? お決まりでないのなら私に任せて頂ければそりゃもうガッツリと、ええ」
「……そうね、プロに任せましょうか。この際貨物船も用意しましょう」
「おぉ……何たる光栄か! 今日は来てよかった!」
「デニス様落ち着いてください……」
「おっと、これは失礼……」

おっちゃんが舞い上がった所で話を変えようか。

「それで、公認商人に持たせる証だけれど……」
「他に作れなそうな物ならなんでもいいんじゃないか?」
「……持つ本人に聞こうか」
「そうですねぇ……。できれば持ち運び可能な物と、店舗に置いておく大きめの物が欲しいですね」
「仕入れる際に小さいの。客向けに大きいのか……ふぅむ……」

サイズはそれはいいとしても、問題はデザインだな……国璽の中央を香辛料的な葉っぱにする?
うーん、国璽と商人用の証と、所謂ルナ印である3つのデザインを考えるか……?
ルナ印は果実と魔晶石を置く所とか、入れ物に証として入れる奴だが……今使ってるのをそっちに回すか。
国璽と商人用の証を考えればいいかな……。
国璽は神霊樹となった御神木を入れるべきだろうな。あの存在感だし。
神霊樹と精霊達、創造神殿と精霊達……精霊達は必須だよなー?
うん、そうしようか。国璽は神霊樹と精霊達。商人用の証は創造神殿と精霊達だな。

素材は両方アダマンタイトでいいかな? 少し重いのだが……店舗に置いとく訳だし、持ち運び用は薄いカード型にしようか。それなら重さも気にならんだろう。高級感あるしね、アダマンタイト。

アダマンタイトを"ストレージ"から取り出し、板状にしてそれを風景画の様にしてしまう。神殿と周囲の木々、そして漂う精霊達の絵だ。店に飾るのだしこれでいいだろう。
持ち運び用は薄くして、手のひらサイズのカードに。神殿と精霊達を刻み、木々は少々。
これはファーサイス、アトランティス両国から信用できるとされた者が持つことになるだろう。

「これでどう?」
「これは素晴らしい。文句なんてあろうはずもありませんよ」
「じゃあこれね。国璽も神霊樹になった御神木を入れて、手紙に使った奴は果実や魔晶石のルナ印ブランドのマークにしましょう」
「そう、そう言えばあの木だよ! なんだあれ。何があった?」
「あれは森の妖精が力を貸したようで、すくすく成長したのよ……私もびっくり」
「ふと北を見たら巨大な木が視界に入ったんだ、ちょっと騒がしくなったぞ……」
「まあ、なっちまったもんはしょうがない。丁度いいのでシンボルにでもするわ」

さくさくと細かな部分を詰めていく。
帰ったら店舗を作って、冒険者ギルドにも今回の内容を言っておかないとな。

「うーん、個人的には同盟も結んでしまいたいのだけれど……」
「我々からしたらありがたい限りだが、現状じゃ難しいだろうなぁ」

私の正体を知っている物は少ない。
そして我が国アトランティスはできたてホヤホヤどころか、まだ知っている者が少なく、現状大々的に認めているのはファーサイスのみだ。
農国として、世界の胃袋として有名なファーサイスとアトランティスでは釣り合わない……バランスが悪すぎる。もう少し我が国が大きく、有名になってからだろうな。

「そうよねー。武力としては既にうちの方が上だけど、それを理解しているのはこの国でも極一部と騎士達のみか……、どこかうちに仕掛けてくると思う?」
「うーむ……うちとマーストはまずあり得ない。テクノスも攻め込まれない限りは動かないだろう。現状安定してるし、職人達だからな。問題は最近安定しないアエストと西のダンサウェスト小国ぐらいか?」
「総じて西側か」
「うむ。東側は東同士で争って遠征などしてる余裕はないだろうよ。問題は西側で、あっちは国的には落ち着いており、余裕がある。そして更なる問題が、西のトップは法国だ」
「そこを一切受け入れず、人間以外も受け入れる気満々で、なおかつ鉱石のみ為らず香辛料が採れるダンジョンの存在か……」
「そうだ。ただ、神殿などの向こうの手のものを受け入れる場合リスクもあるからな……」
「工作員の存在ね」
「ああ、間者が来るのは基本と言うか……我々の立場からしたら常識だ。要はそいつらに流す情報すらも操作してこそだ。そいつらより面倒なのが工作員だからな……」

つまり、神殿を受け入れようが、受け入れなかろうが、大して変わらないということだ。
どちらかと言うと、受け入れて内部から攻撃されるより、最初から突っぱねて正面衝突した方が私的には楽だろう。

受け入れて内部からの場合、時間がかかるが対処も面倒。
突っぱねて正面衝突の場合、時間がかからず対処は楽。

我が国として考えるなら突っぱねて正面衝突一択だ。
正直武力はうちを超える所は無いぞ? 私を倒せない限り向こうに勝ち目はないのだからな。
うちに喧嘩売った瞬間私と召喚体軍団Vsが確定だ。気の毒にも程がある。そもそも戦いにならん。
この世界にSランク冒険者は二桁だ。にも関わらず、召喚騎士はそれ相当の肉体性能を持った奴をコスト魔力だけで召喚し放題。自動回復を考えないとしても、私の保有魔力で一度に何万体出せるでしょうか。
そんなことしなくても、シルヴェストルに『あの一帯空気抜いてくれる?』でもう勝ち確だ。
そもそも、戦いに、ならない。

「まあ表向きの……目に見える抑止力と言うのは置いといた方がいいぞ」
「人が増えてきたら治安部隊ぐらいは作る予定だけれど……召喚騎士を置いとくのもいいかしらね」
「うむ。そもそも戦う気を起こさせなければいいのだ。最初から全力を明かすのはただの間抜けだが、お前さんならその程度どうということは無いだろう?」
「まあ、Sランク相当の召喚騎士程度ならどうということはないわね。そもそもあそこはマナ濃度が高いから、召喚騎士の維持も他に比べ楽勝」
「まともならあの城壁とかでもヤバさは分かるし、あの漂ってる精霊達を見ても攻め込むという選択肢はなくなると思うんだが……野心のある奴とかは、魔導技師なら戦闘は苦手とか都合のいい解釈するだろうよ」
「その魔導技術を戦闘に転用しているとかは考えないと……」
「うむ。いるもんだぞ、そう言うのが。まあ、お前さんは確実にイレギュラーだが」

そらそうだ、誰が本物の女神がいると思うのか。
だからと言って手加減はしないが。なるべく回避に手を尽くすつもりではあるが……攻め込んできた時点でギルティ。

「じゃあ同盟はもう少しうちが大きくなったらね。領土は大国、神都のサイズは最大規模、しかし住民が村レベルじゃあれだものね」
「せめて小国規模は欲しいな。もしくは様々な意味での『力』を示すことだが、その時点で大体碌な事になってないから、平和的に頼みたいものだな」
「それは相手次第としか言いようがないわねぇ……。虐殺する趣味は持ち合わせていないし、こちらから侵略する理由が皆無だし?」

ファーサイスは野菜的な意味で必要だし、マーストも運び手として、商人は必要。テクノスは技術者だ、これも必要。アエストは言っちゃ悪いがどうでもいいな。
若者達の教育と言う意味で必要だが、無ければ自国に作ればいいし、同盟結んでまで守る価値は我が国としてはない。

侵略しない理由? 侵略した後が大変だからに決まってるじゃないか。後処理は勝った方がするんだぞ? 今まで他国がやってた事を自分達で指示してやらせないといけないのだ。面倒だろう。
貿易結べるならこっちの方が遥かにいい。戦争とてただではないのだ。
……私の場合ただだけど。それは置いとこうと思う。

物理的に土地が足りなくなったら空間拡張すればいいしな。侵略はあり得んと言いきれる。
侵略してる暇あったら内政するよ。我が国は反撃一択。

「よし、話はこんなものかな。今から店舗作るとして……本店と同じでいいわよね?」
「え……いいですとも!」

さすが商人と言うべきか……バルツァー本店は4階建ての普通に立派な建物。それと同じと言ったもんだから、驚きつつも速攻で了承。余計な事を言うの控えたな……。
『そんな良い物貰えるのですか!』→『じゃあ、もっと小さいくていいね』の流れを避けた模様。


「と言うか、同盟結んでそっちに利点があるのか?」
「そりゃもちろん。まずファーサイスが滅んだら野菜が途絶える」
「だが野菜を作っているのは当然我が国だけではないぞ? うちが攻められたらそっちも動くことになる。それだけの利があるか?」
「……それにその態度だ」
「……なに?」
「私の正体を知っていて尚、私を頼ろうとはしない。ただ利用するだけなら余計なことは言わず黙っていればいいだけの話」
「黙っていた所でバレるだろう?」
「まあね。だが信じる信じないはそちらの問題だし。何よりそういった所も含めて、私が個人的にこの国を気に入ってる。国としてもファーサイスの後ろ盾が付くのはありがたい」
「むぅ……」
「いいではありませんか、国王様。我々の選択は間違いではなかった……と言うことですよ」
「まあ、なぁ……。しかし……後ろ盾いるのか?」
「いる。私ではなく、主に国民達の為に」

大国の後ろ盾を求める理由は主に国民達の為。
『私超強いから大丈夫』より、『大国ファーサイスが後ろ盾になったぞ』の方が分かりやすく、安心できるだろうと言う理由。
まとも……と言うか、ちょっと優秀な上層部ならアトランティスのヤバさはすぐに理解する。
沢山の精霊が漂っている所に喧嘩売るのは馬鹿の所業である。
だが一般的な精霊の認識は、加護なども含めどちらかと言うと平和の、繁栄の象徴である。精霊はヤバいと言う記録は残っているが、あくまで記録。しかも数千年近い代物だ。
精霊のヤバさは記録では知っているが、実感が薄い。普段は姿すら見れないのが基本だ。
ほのぼの漂っている精霊が見えるアトランティスがおかしいだけ。

甘く見た結果、手痛い反撃を貰う……どころか国を持ってかれたのが過去の記録。
海に面していた小国、港町的な王都だったがよりにもよって水の精霊に喧嘩を売り、津波により一瞬で滅んだ。真っ昼間の出来事だったようだ。
数十メートルの超特大津波により根こそぎ、辛うじて建物があった……と言うレベルで壊滅。
前世の専門家達は口を揃えて言うだろう、地形的にそんな巨大津波はあり得ないと。
だが、水の精霊が起こしたものだから当然である。水その物に喧嘩売ったような物だ、地形なんぞ関係ない。
精霊が怒った理由? 簡単だ、海を汚しまくったから。水の精霊達がブチ切れるレベルで。
ファーサイスに水を汚すなって法律があるのは、この出来事も理由の1つだったりする。

「って訳で、精霊達が抑止力となるかは怪しい。私1人で大丈夫と信じるかも怪しい。よって、『ファーサイスと言う大国が後ろ盾に付いている』という事が重要」
「なるほど、確かにな……」
「この国では教会事件がありましたからあれですが……他だと確かに薄いかもしれませんね……」


その後暫し話して撤退。
その話の内容は『国のトップとなるならもっと偉そうに、命令形でもいい』とか言われた。
まあ、口調ですね。せめて一人称は変えるべきである……と。
遂に……ロリババアになる時が来たか……。私ではなく、妾ですね、分かります。

……善処します。


さて、店は南東の……どこにしようかな?
南東地区は半分近くが湖に占領されてるから……船からの運び出しを考えて店は……南側の大通り辺りにしようか。
サイズは本店より明らかにでかくなるけど……倉庫を用意しておくか。
船は……そんな難しく考える必要はないな。海に出るわけでもないし。規格はなるべくファーサイスを基準に……人ではなく野菜などの品物を運ぶと……。

後はあれか、冒険者ギルド本部の方にも話を通しておかないとな……。
もう一人の私に店と船の作製を任せ、ギルド本部へと向かい、開け放たれた両開きの扉を通り中へと入る。


そこそこの広さを持つエントランスの空いているスペースに、ギルド本部の受付が並び、依頼板が置かれ、雑談スペースの椅子や机が並んでいる。
そして、今までと違う所はダンジョン専用の受付があることだろう。
ダンジョンの説明や相談窓口と、ダンジョン品の買い取り窓口がある。
このダンジョン関係の窓口は少々特殊な配置になっており、ダンジョンへと向かう通路の前に陣取り、セキュリティーゲートの魔法装置も置かれている。
ダンジョンで採ってきた物は全部ここで吐き出せということだ。とりあえず全部ギルド職員へ見せてから、自分達が持ち帰る分を受け取る。少々面倒ではあるが、こればっかりはしょうがない。

それと、地味にダンジョンの最高到達数のランキングトップ5までが壁の魔法装置で分かる様になっている。
セキュリティーゲートを出る際にパーティー単位で読み込まれ、表示される。
実はステータスリングの冒険者タブにパーティー設定があるんだよね。
パーティーに設定しておくと、魔法によるフレンドリーファイアが無くなる様だ。
魔法法則の一部だな。
しかしこれは6人までなので、それ以上の集団戦になると注意が必要。

ここのセキュリティーゲートは通った際に持ち物を記憶。
出る時に持ち物が増えていたりすると閉じ込められる様になっている。魔力により個人の特定は可能で、持ち物の読み取りには結界の一種を使用している。空間収納もバッチリ。

ちなみにこのセキュリティーゲートはステータスリングのチェックも行う。
それは何故か……。ダンジョン内部で犯罪者になった場合などの対処用だ。
抜け道があるとしたらゲームなどで言われるMPKだろう。モンスターを誘導し他プレイヤーへとぶつけて殺すPKの一種だ。リアルでやったらさぞ恨まれることだろう。
そう言った危険人物などの相談もダンジョンの受付で可能だ。それを聞いた受付はルナフェリアへと連絡。その後、魔眼でジャッジされる。ギルティだった場合、その場でにっこりスマイルのルナフェリアに首輪をつけられる事でしょう。奴隷落ち、おめでとうございます。

とまあ、かなり厳重な事になっている。国営と言えば国営だから、当然なのかもしれないが。
疑わしきは罰せよ……とまでは行かないが、とりあえず捕まえてからジャッジしようねー、と言う状態だ。事が起こってからでは遅いのだから。


内部はちょいちょい冒険者がおり、雑談スペースで話していたり、ギルド職員と何やら話し込んでいたりと、すっかり生活感と言うかギルド本部としての姿を醸し出し始めた神殿。
ギルドマスターを呼んでもらうため、とことこと受付へ歩いて行く最中……。

「あん? おうおう、お嬢ちゃんここは―――」

と小物が来たのでどうしようかと思ったのだが。
小物の後ろから数人のガチムチな野郎が2人やって来て……。

「はっは! 元気いっぱいだな?」
「俺達といいことしようぜ?」
「えっ? ちょっ……」

小物を挟んで2人で腕を組みホールド。そのまま奥の廊下の方へとドナドナされていった。
間違ってもイチャイチャカップルなんてもんじゃない。
ガッチガチの筋肉で服をパツンパツンにしている野郎2人が、30後半のおっさんを両側からホールドだ。視界の暴力も大概にして欲しい物だ。

まあ、深く突っ込みたくも無い内容だし、おっさんがどうなろうがどうでもいいのでスルーを決め込む。

「ギルドマスターを呼んでちょうだい」
「はい、少々お待ち下さい」

さっきの光景を何事も無かったかのように表情を一切動かさずスルーした私。
受付嬢に苦笑で対応されたが、当然後悔は無い。
あれは触れちゃいけない、認知してはいけない内容だ。

まあ、あのガチムチな野郎2人は第一住人組なので『私を知っている』。
そして連れてかれたおっさんは私を知らない。
私がここに来た時点でギルドマスターに用があるし、私は女帝。無駄な時間を取らせない為に『知っている者』がさっさと処理しただけだ。何の問題も無かったよ、うん。

「おう、待たせた」
「うむ、それで要件だけど……とりあえず貿易は結んだ。近いうちに公認商人が来ると思う。それで貿易の証が―――」

ギルドマスターにファーサイスで纏まった話を伝える。
周りに人がいる? 別に問題なかろう。聞かれて困る話でもないし。
これによって、各種香辛料の値段が物凄い雑に付けた物から変更される。
貿易に関わる公認商人用の値段。それ以外の商人用の値段。
後は冒険者から買い取る値段と、採ってきた冒険者が自分の取り分とできる量が確定。

その他鉱物や魔物素材はギルド側にお任せ。
鉱物は北にテクノスがある為、現状出る物は特に気にする物ではない。まあ、低層にあるから比較的安全に楽に掘れて、自然資源ではなくダンジョンだから枯れることがないと言うのが利点だ。
その為、値段的な意味では重要ではなく、貿易に使えるかと言われると使えなくもないが……香辛料がぶっちぎりで優秀だから、鉱物は霞気味。
魔物素材に関しては元々冒険者ギルドの管轄なので、丸投げ。
果実と魔晶石の売上は私の懐。それ以外は基本的に国の資金だな。

「何か微妙にキャラ変わったな?」
「ファーサイスの国王に言われた」
「ああ、なるほど。国のトップになった訳だからな……」
「このちんちくりんでやると『ただ生意気な糞ガキ』になりそうなんだけど」
「……いや、大丈夫だろう? ガキの気配じゃねぇし……と言うか、翼ある時点でなぁ」
「あると便利でねぇ」

ギルドマスターとの話を終え、うちからの派遣ということでギルドにいるジェシカとエブリンの様子も見て行く。が、特に問題はないようなので、ギルドから撤退。

さて、次は一定間隔毎に騎士を召喚しておくか。治安部隊ができるまでは置いておこう。
これに関してはぱぱっと終了。維持も問題なし。

では次だ。
個人的な事は……特に無いか? そろそろ年越し……引っ越しの方は問題ない。
となるとやはり国関係か。ギルド経由でちらほら話は広まってる様だが、まだ大々的な発表はしていない。だから人はそれ程いない。年越しでバタバタすることは無さそうだな。

今は12月の頭。ファーサイスは暖かかったが、この辺りはまあまあ冷える。……本来は。
この土地はね……土地の中の東西南北で微妙に気温が違い、それによって果樹達も分かれてるよ。
中央にある我が家を中心に、北に行けば少し寒く、南に行けば少し暑い。
まあ、《神力体》に含まれる《環境効果無効》による効果で暑いや寒いとか関係ないんだがね。
シロニャンも無縁だし。ジェシカとエブリンぐらいだけど、奴らは風の聖魔布が仕込まれたメイド服着てるから、奴らもこの程度なら無視できる。

結局することは特に無いな。書類関係の処理は担当の分身体がやってるし。
店と船も順調だ。船の動力で迷ったが魔法があるからな。船底に触れている水を前後に動かせるようにするだけで十分だろう。後は普通に方向転換用の物を付けるだけ。

んー……よし、セラフィーナと遊ぶか。そうしよう。

◇◇◇◇

店よーし。船よーし。
ああ、船には証を入れておくか。前と後ろ……両舷にも入れるか。
『ファーサイスとアトランティスの貿易だぞー。国絡んでるぞー』と言う証だ。この辺りでは比較的レアだが、盗賊がいない訳でもない。そいつらへの警告だ。
国同士の取引に手出したら国が動くぞ? 覚悟はできてんだろうな? という事だな。
当然これ以外でも派手にやれば国が動く可能性はあるが、これに手出したら確実に国が動く。
間違いなく盗賊は避けるだろう。

この船は荷馬車より少し早いぐらいだが、荷馬車より遥かに積めるから十分だろう。
ちなみにこの船は"メディテーション"と魔晶石だ。足りない分を魔晶石で補うようになっている。
つまり、魔晶石買ってねという事だ。魔導船と言えるのかな。
飛空艇とかも作ってみたいが、流石にやり過ぎだろうか? 動力は風、浮かすのは重力か。うん、燃費が悪すぎるな。
模型ぐらいの小型飛空艇で我慢するか? セラフィーナが喜びそうだ。そうか、模型か。作って動かして遊ぶのは面白いかもしれんな。覚えておこう。

実際に船を走らせファーサイスへと向かう。
北門を通過する時に船のマークを騎士達に教えておく。
バルツァー商会から1番近い水路は大通りのでかい水路ってか、川その物だったな。楽でいい。
船から飛び移り、商会へと少しだけ歩き中へと入り、真っ直ぐ店員の所へ向かう。

「商会長はいる? ルナフェリアが来たと伝えてちょうだい」
「いえ、ご案内致します。すぐに通してくれと言われておりますので」
「ふむ、では行こうか」

店員に連れられ、お店の奥へ。
商談などに使われるだろう部屋を何個か通り過ぎ、書類とにらめっこしている商会長の元へ案内された。

「これはこれは、わざわざご足労頂き……」
「そこまで畏まらなくてもいいけれど」
「いえいえ、こういうのはしっかりしておかないと陛下が嘗められてしまいますからね」
「ふむぅ……まあいいや。要件は店と船が完成したからその知らせよ」
「おお、もうですか!」
「表の水路に船を停めてある。説明いるでしょう?」
「それでは担当する者もお呼びしましょう」
「その方が楽ね」

そそくさやって来た船を担当する者も連れて、表へと出て早速船の説明だ。
サイズから最大積載量、最大速度などの船の仕様。更に操縦の仕方。

「船の動力はハイブリッド」
「ハイブリッド……ですか?」
「まず1つ、魔晶石を使用した高効率の魔力供給」
「魔晶石!?」
「そしてもう1つが"メディテーション"を使用した、魔石不要のエネルギー供給」
「"メディテーション"!?」
「メイン動力は"メディテーション"からの供給。サブ動力として魔晶石が積んである。速度を上げれば上げるだけ魔晶石を使用するが、どうしても早く……と言う事でも無い限り早くとも1月は持つでしょう」
「ふむ……」
「ちなみに動力として使う魔晶石は安く提供する。値段は実際に使ってみて、どのぐらい持つかを見てからかしらね」

船に関しては動力部分以外、大体ファーサイスで使われている物に似せた為、そこまで問題は無いだろう。動力などは全然違うが……操作とか使い方が大きく変わる訳でもないし、使う側からすれば些細な事だろう。

「ああ、そうそう。魔晶石と果実を置いてほしいと言ったけど、塩と砂糖も置いてもらえる?」
「塩と砂糖ですか?」
「私が普段使用している塩と砂糖よ」

塩1種と砂糖3種の入った小瓶を見せる。海水からの塩とグラニュー糖、上白糖、三温糖だ。
塩、グラニュー糖、上白糖は白く、三温糖はちょっと茶色っぽい。
この世界では塩はソルトクラブや岩塩が基本で、砂糖は蜂蜜が主流である。また、甘味として果実が食されている。

喜んで並べるということで、値段は任せる事にする。どうせ使うのは王族や貴族、高級店ぐらいだろうが、品質を考えればお金にはなるだろう。人は食に弱いのだ。フフフフ。

とりあえず店の紹介もしないと為らないので、テストも兼ねて船でそのままアトランティスへ行こうか。

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