転生先は現人神の女神様

リアフィス

37 収穫祭 2

パーティー会場前に王族が集合した。順番に入っていくらしい。
入る順番にも意味があるらしいが、まあその辺りは興味ない。

来ているのは……。
ファーサイスの北、テクノス技術大国の王族。
ファーサイスの北東、マースト商業国の代表。
ファーサイスの北西、アエスト大国の王族。
後は西にあるダンサウェスト小国や、マーストの東側の小国群から少々。


この周辺は聖域のある森―――ルナフェリアがこの世界に降りてきた時の森―――を中心に東西南北を大国が囲んでいる。
森の北がテクノス技術大国。ドワーフの国で、山をくり抜いて出来ている。
鉱物資源が豊富で、ファーサイスとは食料と金属製品の取引、交易をしている。
生産ギルドの本部がある。

森の東はマースト商業国。商人達が集まった国で、王族はいないが代表がいる。
代表も当然元商人であるため、他の王族達も認めているやり手。
各国の交易などをマーストの公認商人が責任を持って行い。手数料を貰う。などをしているため、大国と同等の発言力、権力を持つ。
商業ギルドの本部がある。

森の西はアエスト大国。
経済法科学園 武闘学園 魔法学園の3大学園があり、学問に力を入れる大国。
経済法科は知識を広く浅く。
武闘科は近接戦闘を中心とした内容。
魔法科は魔法に関する事を中心とした内容。
各国の特徴などは3つ共通で学ぶ。
将来内政で活躍したいなら経済法科学園に。
騎士や冒険者は武闘学園に。
魔法使いや学者なら魔法学園に。
それぞれ入るようだ。
とは言え、結構いい値段するので大体が王族や貴族が大半らしいが……。
受かりさえすれば、他国の者でも問題なく入れる。
ファーサイスの第二王子も学園にいるため不在らしい。

後は周辺の小国が来ているようだ。
マーストの東で、ファーサイスの先日の作戦を行った森の更に東側。
あっちは小国群が乱立しており、しょっちゅう小競り合いをしているらしい。
その小国は大国の後ろ盾を得ようと必死のようだ。大国が後ろ盾に付けば、かなり安全になる。が、大国はそんな甘くない訳で。
小国群に一番近いのはマースト。つまり商人達だ。この時点でもうダメだろう。
続いてテクノスとファーサイスだが、テクノスは技術者達の集まりみたいなもので、装備が充実しているものの、攻め込まれでもしない限りは開発第一だ。
ファーサイスは世界の胃袋と言われているが、国の上層部からは実力者の国と言われている。
つまり、どこも手を貸す価値がないなら放置だ。下手に手を取って共倒れなんかどの国も御免だろう。

ブリュンヒルデが以前言っていた、会話は貴族の戦場だと。
きっとこのパーティーでも様々な思惑が絡んでいることでしょう。
私達は食事に来ました。他所でやってください。


国の名前とその中でも1番偉い人の名前と共に王族が入場していく。
小国群、アエスト、テクノス、マーストの順で入っていく。
次は私の番か……流石にいつものようにグーダラするわけにはいかないか……。

「仕方ない……少し真面目に行こうかしら……貴女達はどうする?」
「どうせヴルカンとシルヴェストルは料理が来たら崩れるのです、最初のうちに力を示しておきましょう」

リュミエールがそう言うと、精霊達が一斉に実体化し、グノームもツルハシを一旦消し、装飾へと回し統一された。
ヴルカンとシルヴェストルだけ知っていたクラウディアが、キラキラした目で精霊達を見つめている。
が、ルナフェリアを含め、雰囲気がガラリと変わった為、体がびくっと反応した。
国王や宰相、王太子や近衛といったメンバーは苦笑……と言うか引き攣っている。
が、王妃や王女の2人は目を白黒させていた。それだけの変わりようである。
楽しそうにきゃっきゃしてたヴルカンとシルヴェストルですらキリッとし、貫禄が出ている。原初の精霊達は伊達じゃない。
そして、女神であるルナフェリアも負けていない。
当然翼は出していないが、着ているドレスが微かに漏れ出した魔力により、端の方が精霊達と同じように幻想的な淡い輝きを発する。


生物は例外なく魔力を持ち、《魔力操作》で魔力の漏れを抑え無駄を無くすが、完全に遮断する事は不可能で、少なからず漏れているのが基本だ。
だが、月の女神であるルナフェリアと、原初の精霊達は完全に遮断している。

いくら《魔力操作 Lv10》だとしても目や鼻、耳や口という開口部からが漏れやすく、生物である以上、『完璧に、むらなく、常時』と言うのは不可能である。
表面張力の働いている程並々入った水を、一切零さず過ごせと言われているようなもの、と言えば分かりやすいだろうか? どう考えて無理である。
だが、夜と魔を司る神である月神と数千、数万を存在してきた原初の精霊にはそれが可能だ。
それが出来てしまう。

新米や齧った程度の者は、魔力を感じるほど持っていないと思い、舐めてかかる。
ある程度力を持った者は、魔力を感じない程制御しているのか、無いのか分からず判断に迷う。
詳しい者やベテランは、完全に遮断して見せてるのだと理解してしまう。そして、そのヤバさに気づいてしまう。
『生物が生きている以上魔力を持つ。持っていないのは死んでいる者だけだ』
これが、この世界の常識である。

そして、漏れている魔力と言う物は気配や、雰囲気と言うものに現れる。
漏れている魔力が多ければ多いほど、濃ければ濃いほどその感じは強くなる。
周囲に威圧感を撒き散らすようなものだ。
貫禄、存在感、王の気配などなど。そういった物はこの魔力の仕業とも言える。
魔法を使うエネルギーと言う他に、そう言った効果も持つ。
この理由から、ルナフェリアと原初の精霊達は完全に遮断している。
少し漏れるだけでも存在感が十分ヤバいのだ……。
そして、今回その普段遮断している物を、すこーしだけ開放した。
普段完全に遮断していても、神力の体とマナの体ということで結構な存在感を持っている。それが、魔力まで出すのだからその変化は相当なものになる。

ちなみに、わざと魔力を相手に向けると『状態異常:威圧』にすることができる。
周囲に撒けば周囲の者が威圧にかかるだろう。


うーむ。やり過ぎない程度に魔力を漏らすのは逆に難しいな。
このぐらいで大丈夫だろうか……。

「ファーサイス王都の聖域にお住いの、ルナフェリア様と契約精霊様、ご入場!」

ふむ、私はそういう紹介か。まあ、確かにそうだな。精霊達も言うのね。
……では行こうか。精霊達を連れて堂々と、な。
ブリュンヒルデに教えられた様に、けれど女々しくならないよう、堂々と歩みを進める。その横を契約精霊達がふよふよ付いてくる。



この国の貴族達は知っていた。王都にある聖域に住む者が参加する事を。
ある者は興味深そうに、ある者は蔑み、またある者は見極める為に。
しかし、そんな事は微塵も表に出さず、猫を被る。様々な思惑が渦巻く会場。

「ファーサイス王都の聖域にお住いの、ルナフェリア様と契約精霊様、ご入場!」

そこに待ちに待った少女の紹介がされた。
そして、1人の少女と、少女を囲うように6人の精霊が現れた。

その瞬間に呼吸を忘れたかのように静かに、ただ静かに入場者を見送る。
広い会場には少女の歩く音と、衣擦れの音だけが響く。
会場の全ての者達が視線を奪われていた。
見慣れているはずのブリュンヒルデですら、だ。
いや、見慣れているブリュンヒルデだからこそ、普段とのギャップに驚いたのかもしれない。普段がちょっとだらしなく感じるのは、もしかしたら我々の為なんじゃないか……とさえ思った。
普段からこれだと、周囲の者達は精神的に疲れてしまうだろう。
いるだけで視線を奪い、見られてもいないのに背筋が伸びる。
王族が持つそれとは少々違った気配。
慣れてない一般人なら跪いているのではないか?
普段姿勢がなんたら、仕草がなんたら言っている自分が凄い不安になるブリュンヒルデであった。

そしてゆっくり、堂々と歩いていた少女は真っ直ぐ席に着き、精霊達はぽふっと小さくなり、テーブルの上に陣取った。小さくなっても存在感は変化なし。
少女の紫の瞳が周囲を見渡し、目を閉じながら興味を失ったかのように顔を戻す。
(うん、魔力多かったかな? 減らすか、しょうがない)
そして、その際会場は開放されたかのような、軽くなったかのような変化がした。

そしてファーサイスの王族達の入場を待つ。


何かブリュンヒルデが不安がってるようだけど、私がそうしてくれ言ったんだから気にすることは無いんだがな。まあ、そっとしておくか。
問題あるようなら対処しよう。

ブリュンヒルデが引いた椅子に黙って座り、しばらくするとファーサイスの王族が入ってきた。

ちなみに、私が右端。その隣にファーサイス。その隣にマースト、テクノス、アエストと並ぶ。2列目に小国群だ。つまり、私は大国と同じ扱いということだ!
ついでに密かに隔離されてる感じである。
我々としては食事にしか興味ないのでこの方が有り難い。
この配置、貴族達の立食の方からは小国群の王族を挟んでいるので、私には声が掛けづらく、大国の方もファーサイスを挟んでいる。
問題があるとすれば、2列目の小国群か。
そして、王族達と立食を仕切るように、騎士達が一定間隔で立っている。
当然近衛の者達だ。不用意に近づかせないように睨みをきかせている。

ファーサイスの王族が入ってきた後、本格的な料理がぞろぞろ運ばれてきた。
更に物凄いスピードで乾杯用のお酒も配られていく。
お城勤めの侍女の本気である。

そして、ファーサイス国王の挨拶もそこそこにパーティーが始まった。
そして、早々に精霊達はカリスマブレイク。
乾杯の合図と共に立食の料理にヴルカンとシルヴェストルが釣られて行った。
もう少しこう…………無理か。あの2人にシリアス系は無理だな、うん。
まあ、いいか……。

「食べたいのを皿に取ってきなさい」

残ってた4人にも取りに行かせる。
私はとりあえず乾杯用のお酒を飲み干し、横にすっと空になったコップを差し出すと、近くに待機していたブリュンヒルデに回収される。

ちなみに食器は総じて銀食器のようだ。綺麗に磨かれ、細かな装飾がされている。
我が家で使っているのはステンレスとガラスです。
当然私が《魔導工学》でツルッツルに仕上げました。

お酒は、美味しいんじゃない? この世界ではと言うのが前に付くが。
既に伝えてあるし自家製の飲むんですけどね。
ふふふ、密かに漬けておいた果実酒よ……。
35度程ある無色透明の蒸留酒、ホワイトリカーと言われる物に、砂糖と果実を放り込んで放置するだけだ。
そろそろいい感じになっているだろうから、美味しくいただこうと思う。

ショートグラス、ちっこいコップを取り出し《氷魔法》で大きい氷を入れる。
とりあえず土地にある果実全部で作ってみたけど、何にしようかな……。
ペルシア……レイシ……メロン? うん、桃にしようか。ペルシア、君に決めた!
ということで、ペルシアを漬けておいた瓶を"インベントリ"から取り出す。
桃本体が中々ヤバい色しているが、問題ない。
大体4リットル程のでかい入れ物に並々入っている。年単位で放置したいがためにがっつり作ったのだ。基本飲むのジュースだけどな。体の関係上酔わないし。ぶっちゃけ酒の必要がないんだよね。こういう時に飲まないと減らなさそうなので……。

ということで、ペルシアの果実酒が入っているでかい入れ物を抱え込み、蓋を開けるとふわっと香りが広がる。……うん、いい感じです。
そして、大きい氷が入っているショートグラスにとぽとぽ注ぐ。
炭酸水で割っても良いんだけどね、ロックです!
瓶の方は蓋をしっかり締め、"インベントリ"に放り込む。

ちびちび飲みながら食べるとしようか。


精霊達は元のサイズに戻って、2人づつで山盛りのお皿を運んできた。
お皿をテーブルの上に置き、自分達も上に乗るから小さくなり、そこから自分用の更に取り分け始めた。

「ルナ様飲み物!」
「はいはい」

これまた新しい魔道具……魔法装置かな? 一応設置型だし。
ぶっちゃけた話、私が入れるの面倒なので、精霊達用のドリンクバー作っただけ。
上に何か入れるタンク、下にレバーの簡単なやつだ。
小さい丸い氷を作成し溜め込むタンクや、炭酸水を作るタンク。
後は果汁が入っているタンクがあり、それらが並んでいるだけ。
タンクを増やせば拡張も簡単。牛乳……と言うか、ミルクのタンクもある。
レバーを下げると結界が消え、上げると結界が張られる。

ということで、初お披露目である精霊のドリンクバーを中央に置く。
すると、ヴルカンとシルヴェストルが飛びついた。

「なにこれなにこれ!」
「下にコップを置く」
「うん」
「飲みたいやつのレバーを下げ、もう良いという所でレバーを上げる」
「えーっと、えーっと……これにしよう!」

すっかりお気に入りのようで、きゃっきゃしている。

「上のタンクが空になったら言いなさい、補充するから。後はレバーはしっかり上げること。良いわね?」
「「「「「「はーい」」」」」」

これで好きにするでしょう。
料理にぱくつき、それぞれが好きなのを飲んでいる精霊達を眺めながら、私もちびちび飲みながら食事を進める。

そして、第一ぎせ……チャレンジャーはヴルカンだった。

「そうだ、混ぜてみよう!」

ドリンクバーの醍醐味に早くも気づいたようだ。
気づいてしまったとも言うのだが……そこはかとなく……いや、ものすごく不安である。
ヴルカンという所がもう……。

「えっと……これと……」

マスカット。

「これと……」

ミルク。

「これ!」

炭酸水。

………………。
正気かヴルカン……。
マスカットとミルクは良いな。マスカットオレかな? 私も後で飲んでみよう。
だが炭酸水はダメだろう……。

ルナフェリアはそれはもう、生暖かい……可哀想な者を見る目をしていた。
だが、ヴルカンはそれに気づかず、にこにこしながら自分の所に戻り……。

……飲んだ。

「ぶはっ!」
「ひゃーっ!」

そして見事に噴き出した。……ウンディーネに向かって。

「何するんですヴルカン……危うくかかるところでしたよー……」

…………うん、知ってたよ。そうなるって思ってた。
そして、ウンディーネは見事な反応ですね。液体操作リキッドコントロールで回避したよ。

「ヴルカン……混ぜるという醍醐味に気づいたのは褒めましょう……。でもそのチョイスは無い」
「ううっ……」
「いや、いらないから。作ってしまったからには全部飲みなさい」

涙目でぷるぷるしながら差し出すのは止めろ。
うわ、分離してる。完璧にミルクと炭酸水分離してる。
あ、シルヴェストルの方に行った。
まじか、飲むのか。勇気あるな。

「ごふっ!」

一応口元は抑えたものの、ぼたぼたしている。
そしてコップはヴルカンの所に戻り、じっと自分のコップを眺めている。
しょうがない、ヴルカンに解決策をやるか。
元々ちらちらと注目されてたのに、今回のでばっちり見てるし。

「ヴルカン、隣のおじちゃんにあげるか。目があった男の人にでも飲ませてあげなさい」

私の言葉を聞いた会場の皆様がざわっとするけど、当然スルーして……。

「精霊の加護付きの飲み物を精霊から手渡しで貰えるのだから、きっと感激して受け取ってくれるわよ?」

という言葉に、ヴルカンは大変良い笑顔―――悪意はない―――を私に向け、私もにっこりとヴルカンに返す。多分吐き出すだろうから、女の人は勘弁してあげよう、うん。

当然ルナフェリアの言葉は他の者からしたら『悪魔の囁き』以外の何物でもなく、『邪悪な笑み』に見える事だろう。
そして、そんな『悪魔の囁き』に誑かされたヴルカン(悪意なし)はすくっと立ち……。立食パーティーが行われている方に顔を向けた。

瞬間的に男共……に限らず女性達すら目を逸らした。
私はもう、この時点で笑いを堪えるのが辛いです。
ブリュンヒルデが何とも言えない表情で私を見ているが気のせいだ。

ルナフェリアは会場の右奥に置かれている円卓、その右側に座っている。
つまり、ルナフェリアの右側は数人の近衛と侍女がいるだけだ。
そちら側に顔を向け、ぷるぷるしていた。笑いを微妙に堪えられていない。



その間にもヴルカンはふわふわと移動を始め、きょろきょろと生贄を探している。
そして、不幸にも目があってしまった近衛の姿が……。
近衛は護衛の為、長い間目を逸らし続けるわけにはいかない。
その為ヴルカンと目が合う確率は上がるわけで、生贄に選ばれてしまったようだ。
その可哀想な近衛にすすすと近づいていき、そっとコップを差し出す。
周囲はほっと一息。近衛は微かに顔が引き攣っていた。
精霊達の持っているコップは小さく、大人なら一口で行けるサイズだ。
それを見て覚悟を決めた近衛は、コップを受け取り一気に仰いだ。
眉間に皺が寄っていたが、吐き出すことなく飲めたようだ。

「ご、ごちそうさまでした……」

そう言いながらコップを返す近衛の額に、ヴルカンがぽんっと触れる。
すると近衛の体が淡い赤の光に包まれた。周囲からは「おお」という声が漏れる。
それは、個人に贈られる精霊の加護だ。
精霊から生物へ、気まぐれに贈られる加護。これは数日で失われてしまうが、その数日は健康であり、怪我をしてもすぐに治ると言う恩恵が与えられる。
加護を与え、コップを返してもらったヴルカンは、ふわふわと元の場所に戻る。
ルナフェリアは後で、果実をプレゼントすることにした。

それ以外は穏やかに時間が過ぎていく。
立食パーティー用の料理がデザート寄りになり始めた午後3時頃。
ルナフェリアと精霊達は、最初からペースが変わること無く食べ続けていた。

「ブリュンヒルデ」
「はい」
「ギルマスが私と話したそうにしているのだけれど」

冒険者のギルドマスターであるランドルフが、王族とその他を区切っている近衛の近くでどうしたものかと考えていた。
そこへブリュンヒルデが近づいていき、少しの会話の後、端っこを通ってルナフェリアの元へやってくる。
いつもより2,3段ぐらい上の服でぴしっと着飾ってる強面のおっさんである。

「お食事中失礼する。ルナフェリア様」
「…………ふっ」

飲み物を飲もうとグラスに口をつけた状態で、普段とのギャップにより笑ってしまったルナフェリアである。いや、当然分かっている。
見た目は完全に少女だが、これでも前世は89歳まで生きたルナフェリアだ。
こんな王族が周りにいる状態で、普段通りは問題があるんだろう。
分かっているが、笑わないで済むかはまた別の話である。
鼻で笑われたギルドマスターは自分でも分かっているのか苦笑している。

「その顔でそうされると逆に怖いわ。普段通りにしてちょうだい」

グラスから口を離してそう言ったルナフェリアに、がっくししながらも笑っているギルドマスターであった。

「もう、いいや。じゃあ要件を言わせてもらう」

取り繕うことを投げ捨てて、いつも通りに話し始めた。

「実は早朝に冒険者ギルド本部から連絡が入ってな。お嬢をSSSにするかどうかって話が出ているんだ」
「へー。SSすらいないんじゃ?」
「ああ、そうだ! SSを飛ばしてSSSだな! まあ、純正竜を2体も単騎討伐してるんだ、ランク上げるならSSSになるだろう」
「ふぅん……」
「反応が薄いなお嬢……」
「冒険者登録されてるのが重要であって、ランクは別にCで困ってないのよね。それにランク上がっても増えるの依頼料でしょ?」
「まあ、そうだな……」
「それだけなのに割に合わなそうな制約付きそうだし?」
「あー……それはどうだろうな……。SSSはまだ他にいないから、お嬢の交渉次第じゃないか? それに、SSSの話が出ているのに蹴ってCランク止まりだと、安い依頼量で指名依頼が沢山来る可能性があるぞ? そのために呼び出されまくるだろうな」

その言葉にルナフェリアは渋い顔になる。
指名依頼を断るにしても、受けるにしても、ギルドに依頼が入った時点で呼び出される訳で。

「それは……うざいわね……」
「まあ、実力が確かか疑ってるようだから、ギルド本部に来いってよ」

ギルドマスターはやれやれとしながらそう告げるが、ルナフェリアはニッコリしている。

「そう。まあ、丁度旅もしてみたかった事だし良いけれど……。ギルド本部を落とせば実力を認められるかしら?」
「おう、やめてやれ」

ルナフェリアの冗談じゃ済まない冗談を軽く流すギルドマスター。
丁度良いと言えば丁度良いので、収穫祭が終わったら旅を兼ねて、冒険者ギルド本部がある国ベリアドース大国へ行くことに。
渡すのがあるから出発前にギルドへ顔を出すように言い、戻っていった。

ギルドマスターが離れたと思ったら、変わるように別の男がやってきた。
男ドワーフと言ったらこれ! と言うような見た目をしている。
低身長だけどムキムキの体。ごつい顔に長い髭をしている。
と言うか、ドワーフの国であるテクノス組はみんな似たような見た目をしている。

「私は生産ギルド本部でサブマスターをやっている、セザールと言う者です。お見知りおきを」
「ええ、よろしく。私はルナフェリアよ」
「1つお聞きしたいことがありましてね。生産ギルドに所属しているだろうか?」
「いいえ、ギルドは冒険者ギルドだけよ」
「ああ、やっぱりそうですか……。ギルドに入っていたらこのような素晴らしい物を作る貴女を知らないはずがない! 是非生産ギルド魔導部門へ入って欲しい! SSSで推薦致します!」

生産ギルドは【生産】スキルで部門が分かれている。
鍛冶部門や料理部門、裁縫部門や調合部門などなど。
そして《魔導工学》は魔導部門となっている。
【称号】の[魔法技師]や[魔導技師]と言った魔道具、魔法装置、魔装具を作っているものは魔導部門へ所属しており、商業ギルドにも所属し店を出したりしている。

「生産ギルドねぇ……私が所属する意味無いのよねぇ……売る気がないし。これらは出回らせる気もないから……」
「な、なんと……是非ともその技術を!」

テクノス技術大国。そう言われているだけあって、この国は基本的に職人気質だ。
ルナフェリアの魔導技術は喉から手が出るほど欲しいところだろう。

「そこまでの物なのか? セザールよ」
「そうです! 国王様! この方以上はいないと思われます!」
「断言するか。その根拠は?」
「アーティファクトを作れる方以上の者は居りますまい!」
「アーティファクトだと!」

テクノス組の全員がガタッ! っと立ち上がり、バッ! っとルナフェリアをガン見する。そのガン見もどこ吹く風と料理にぱくつくルナフェリア組。

「この国の城壁もアーティファクト! テーブルの上のあれもアーティファクト! 更にあの方が身に着けている物も従者達が作ったらしくレジェンドです!」
「なんと!」

非常にハイテンションなテクノス組である。
このサブマスターセザールは《解析の魔眼》という魔眼持ちである。
珍しい魔眼の中でも、非常に珍しい魔眼である。
《解析の魔眼》
    《精密鑑定》《精密分析》の両方の効果を持つ魔眼。
その為、ルナフェリアの作った物が分かる。
セザールは《解析の魔眼》で毒が入っているかどうかも分かるため、国王がどこかへ行くときは大体一緒のようだ。

「ふむ……それは是非とも所属して欲しいものだな。少しでもその技術を広めてもらえれば尚良い」
「……セザールと言ったわね。貴方"アナライズ"は使えるかしら?」
「ええ! 使えますよ! 《魔導工学》は上級まで使えます!」
「じゃあこれを見てみなさい。魔装具としては私が作ったやつで1番単純よ。最高傑作は間違いなく城壁だけれど」

"ストレージ"から魔導剣を取り出し、セザールに渡す。
流された魔力を剣の形にして固定すると言う非常に単純な魔装具だ。
柄の部分はミスリルで作られている。
受け取ったセザールは早速"アナライズ"を使用。

"アナライズ"は魔道具、魔法装置、魔装具などに刻まれている魔法を解析する魔法だ。解析とは言っても、刻まれている魔法を浮かび上がらせるだけで、浮かび上がった物を見て理解する必要がある。
つまり、知識がないと全く意味のない魔法だ。
魔道具、魔法装置、魔道具は人によって作り方が違う。
よって、"アナライズ"で実際に見て、効率がいい所は真似をしたりする。
ルナフェリアの作成した魔導剣は最大効率を発揮するため、非常に勉強になる事だろう。

「こ、これは……魔導文字!?」

……理解できれば、だが。

"アナライズ"により魔導剣を中心に細かい魔導文字が展開された。
それはつまり、魔導文字によって作成されているという事。


普及されている魔道具である魔法ランプを作る場合の例として。
まずランプの光る部分に《生活魔法》の"ライト"の魔法陣を定着させる。
そして、魔石を置く場所と"ライト"の魔法陣を魔導回路で繋ぐ。
これで、魔石を置けば魔石の魔力を使用し、光る魔法ランプができる。
スイッチ式にしたり、魔石の設置場所を工夫したりなどの違いがあったり、その作り方により魔石の消費速度の違いが出たりと作製者によって変わる。

基本的な魔道具はこういった作り方がされている。
つまり《生活魔法》が基本であり、魔法陣が小さいので消費も少ない。
冒険者御用達な水筒的な物も《生活魔法》の"ウォーター"を魔道具にしている。
自分の魔力を温存しつつ、敵から採れる魔石で飲水が作れる。これは、冒険者からしたら嬉しい物だ。
それに、戦いながら"ライト"を維持するより、魔法ランプにまかせて戦いに集中できた方が良いだろう。自分の命がかかっているのだから。
このような理由から、《生活魔法》の魔道具は結構重宝されている。
多少お金のある家は魔法ライトスタンドなどが置かれていたりする。

だが、ルナフェリアの作成した魔道具、魔法装置、魔装具はかなり複雑である。
一番最初に作ったペグー型魔法瓶 炭酸水メーカーだって、《生活魔法》が3個、《魔導工学》が1個使われており、魔法陣自体も多少弄られている。
冷やす"クール"は、術者のイメージから温度が自動調整される魔法陣なのだが、ルナフェリアはその自動調整部分を固定に書き換え定着させている。
"アナライズ"で見る側もそれなりの知識が必要になる。


そして案の定、喜々として受け取り"アナライズ"を使用したセザールは項垂れていた。魔導文字など見た所で分からないからだ。
まさに『すごすぎて参考に為らない』状態である。
基本この世界の者は<Index>の魔法をそのまま使用する。
オリジナル魔法などを使うのは迷い人が主で、一部転生者が使用する。
魔導文字は使い手のいない言語その物であり、理解するのはほぼ不可能である。
しかしこの場合は……。

「魔導文字が分かるのですか!?」

という流れになる。

「まあ、分かるわね」
「是非! 是非ともご教授願いたい!」
「んー……んー……? ダメね」
「な、なぜです!」
「碌な事にならないでしょう? 貴方みたいな善人だけでは無いのよ」
「それは! そ、れは……」
「ここにいる者が、魔導文字を使えるようになった場合の危険性に思い至らないはずがない。そうでしょう?」

なぜならこのパーティー会場には王族に貴族と言った者達しかいないのだから。
そして、セザール本人もその危険性に気づき、強く言えなくなった。

「魔導文字とは魔法の文字。それぞれが『力』を持つ物。生活は遥かに良くなるかもしれないけど、それ以上に危険な代物」
「む、むぅ……」
「魔導文字は当然、攻撃にも転用が可能。そんな物をホイホイ教える訳にはいかないわ。教えるからには私にも責任があるもの」

セザールが何とも言えない表情で『新しい技術と国の発展』と『その技術による治安の悪化、危険性の発生』の狭間で揺れている所へ、外部、つまり立食の方から男の声が入る。

「そんな怯える必要もありますまい。確かに危険ではありますが、その対策とて同じものから取れるのです。我々人間より強力な者が跋扈する世界、使える物を使わないのは愚か者のすることでは?」

それは、ファーサイスの貴族の1人の発言であった。

◇◇◇◇

精霊のドリンクバー アーティファクト
    ルナフェリアの作品。
    愛する精霊達の為に作られた魔道具の集合体。
    筒状の物が沢山付いており、上がタンク、下がレバーになっている。
    上のタンクに何かを入れ、下のレバーを下げると結界が消え、出てくる。
    タンクの容量は1リットル程。

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