死霊術師は笑わない
5話
「──っ! 離せっ、このっ!」
突然噛み付いてきたアガミを振り払い、男は急いで下がる。
一同は一斉に武器を構え、少女に向き合う。
「大丈夫かギル!」
「ちょ、この娘なんなのっ?」
静かだった空気が騒然とし、緊張が走る。
「にく……おなか、へった……」
「なに、この娘……お腹が減ってるだけ……?」
「んな訳ないだろう! どこに腹が減ったからって人を食おうとする子供がいるってよ!」
しかしそれでも、見た目は幼い少女。冒険者達は、まだ本気で戦う気持ちになれていないのである。
相対する少女の動きは鈍く、脅威は感じられないが、油断せず周りを囲む。
「おらっ!」
「っ!」
一人の男が少女に近付き、アガミが気を取られた瞬間、逆位置にいた男が重りの付いた麻縄を投げつけ、小さな体を巻き取る。
素早い手際で木に少女を括りつけ、ようやく落ち着いた。
「……とりあえず、お肉あげてみよっか」
「待て、俺がやる」
「気を付けろよ」
最初にアガミに襲われたパーティリーダーのギルが、焼いていたフォレストウルフの肉を手に、慎重に近付く。
しかし、その肉を少女の口元に持っていっても、特に反応はみせない。
「やっぱり食べないか……」
「っていうか、さっき触った時、妙に肌が冷たかったけど……」
そこでそれぞれの頭に浮かんだのは、少女がアンデッド……魔物であるという事だった。
「で、でも……こんな綺麗な死体なんて……」
「否定したい気持ちは分からなくもないが、確証がほしい」
ギルは三十分ほど任せると言い、森の中へ入って行った。
「よし、俺達は俺達なりに検証してみるぞ」
「ええ」
「うん……」
まず男が魔物の毛皮を腕に巻きつけ、それを少女の口元に持って行く。すると先程とは違い、少女は目の色を変えてそれに齧り付いた。
そこを逃さず少女の頭を固定し、動かせない様にした後、女が少女の首元に指を当てる。
「動かさせないで──」
そして
「──脈が、ない」
顔を強ばらせた女が、ポツリと呟いた。
「……戻った。どうだった?」
宣言通り三十分程で、ギルが、四本足を結ばれたうさぎを持って戻って来た。
「脈が、なかったわ……」
「そうか」
ギルは務めて冷静に返すと、女は目を伏せた。
「なんで、なんでこんな子供が……」
アンデッドには謎が多い。
分かっているのは、光魔法に弱い。日の光に弱い。首を切られると動かなくなる。頭を潰されると動かなくなる。生きた肉を喰らう。理性がない。心臓が動いていない……。
しかし、どうやって生まれるのか──必ず生き物が元となっているのだが、どんな過程を経てアンデッドになるのか……等は分かっていない。
一時期、アンデッドに殺されるとアンデッドになる、という学説が有力だったが、実験の結果、ただ死んで終わりである事が明らかになった。。
また死霊術によるアンデッドは、子供向けの絵本に登場するくらい知られていて、この場合、術者の簡単な命令に従うという特徴がある。
「まあいい。とりあえずやってみるか」
ギルは伏せ込む女を放っておき、うさぎを手に少女に歩み寄った。
「ほら、生き肉だぞ」
そう言って目の前で揺らすと、少女の目もそれにつられて左右に揺れる。
男が少女の猿轡を外し、頭を自由にすると、「にぐっ!」と言いながら暴れ始めた。
「……」
そうして無言のまま近づけて行き──
──ギャピッ!
一瞬うさぎが破裂した様な声をだし、すぐに動かなくなった。
「はあ……間違いない。こいつはアンデッド。魔物だな」
誰に対してなのか、嫌悪感隠そうともしないギルと、シクシクと啜り泣きながら蹲る女、後の二人の中に、嫌な空気が満ちた。
突然噛み付いてきたアガミを振り払い、男は急いで下がる。
一同は一斉に武器を構え、少女に向き合う。
「大丈夫かギル!」
「ちょ、この娘なんなのっ?」
静かだった空気が騒然とし、緊張が走る。
「にく……おなか、へった……」
「なに、この娘……お腹が減ってるだけ……?」
「んな訳ないだろう! どこに腹が減ったからって人を食おうとする子供がいるってよ!」
しかしそれでも、見た目は幼い少女。冒険者達は、まだ本気で戦う気持ちになれていないのである。
相対する少女の動きは鈍く、脅威は感じられないが、油断せず周りを囲む。
「おらっ!」
「っ!」
一人の男が少女に近付き、アガミが気を取られた瞬間、逆位置にいた男が重りの付いた麻縄を投げつけ、小さな体を巻き取る。
素早い手際で木に少女を括りつけ、ようやく落ち着いた。
「……とりあえず、お肉あげてみよっか」
「待て、俺がやる」
「気を付けろよ」
最初にアガミに襲われたパーティリーダーのギルが、焼いていたフォレストウルフの肉を手に、慎重に近付く。
しかし、その肉を少女の口元に持っていっても、特に反応はみせない。
「やっぱり食べないか……」
「っていうか、さっき触った時、妙に肌が冷たかったけど……」
そこでそれぞれの頭に浮かんだのは、少女がアンデッド……魔物であるという事だった。
「で、でも……こんな綺麗な死体なんて……」
「否定したい気持ちは分からなくもないが、確証がほしい」
ギルは三十分ほど任せると言い、森の中へ入って行った。
「よし、俺達は俺達なりに検証してみるぞ」
「ええ」
「うん……」
まず男が魔物の毛皮を腕に巻きつけ、それを少女の口元に持って行く。すると先程とは違い、少女は目の色を変えてそれに齧り付いた。
そこを逃さず少女の頭を固定し、動かせない様にした後、女が少女の首元に指を当てる。
「動かさせないで──」
そして
「──脈が、ない」
顔を強ばらせた女が、ポツリと呟いた。
「……戻った。どうだった?」
宣言通り三十分程で、ギルが、四本足を結ばれたうさぎを持って戻って来た。
「脈が、なかったわ……」
「そうか」
ギルは務めて冷静に返すと、女は目を伏せた。
「なんで、なんでこんな子供が……」
アンデッドには謎が多い。
分かっているのは、光魔法に弱い。日の光に弱い。首を切られると動かなくなる。頭を潰されると動かなくなる。生きた肉を喰らう。理性がない。心臓が動いていない……。
しかし、どうやって生まれるのか──必ず生き物が元となっているのだが、どんな過程を経てアンデッドになるのか……等は分かっていない。
一時期、アンデッドに殺されるとアンデッドになる、という学説が有力だったが、実験の結果、ただ死んで終わりである事が明らかになった。。
また死霊術によるアンデッドは、子供向けの絵本に登場するくらい知られていて、この場合、術者の簡単な命令に従うという特徴がある。
「まあいい。とりあえずやってみるか」
ギルは伏せ込む女を放っておき、うさぎを手に少女に歩み寄った。
「ほら、生き肉だぞ」
そう言って目の前で揺らすと、少女の目もそれにつられて左右に揺れる。
男が少女の猿轡を外し、頭を自由にすると、「にぐっ!」と言いながら暴れ始めた。
「……」
そうして無言のまま近づけて行き──
──ギャピッ!
一瞬うさぎが破裂した様な声をだし、すぐに動かなくなった。
「はあ……間違いない。こいつはアンデッド。魔物だな」
誰に対してなのか、嫌悪感隠そうともしないギルと、シクシクと啜り泣きながら蹲る女、後の二人の中に、嫌な空気が満ちた。
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