死霊術師は笑わない

神城玖謡

3話

「こ……は……」


 そうしてしばらく考え込んでいると、ようやく自分が、いや、ミナが裸体でいることに気が付いた。

 何か着るものは……と周囲を見渡すも、視界に映るのは瓦礫と森と夜空だけである。

 どうしたものか……天才はその恐るべし頭脳を持って、最善の方法を考える。


(……っん? どうしよう、思いつかない)


 果たしてどうしたものか。この肉体に力は大したないだろうし、周囲には人も村も町もない。
 ましては街道などと商人が通る道もないし、作ろうにもそんな技術はない。


(ま、待て……考えろ。なにかある筈……)


 目の前の材料で解決出来ないのならば、新たな材料を探すのみ。


(……っ! あれはカーテン!)


 周囲を探る目に飛び込んで来たのは、なんとか形を保ったカーテンだった。

 しめたっとアガミは今いる瓦礫を降りようとして──


「ひぎゅっ……!?」


 ──見事に転んで顔面から突っ込んでしまった。


(くそう、なんだ!? 身体が全然思ったように動かない!)


 もちろん、身長や手足の長さ、重心の変化に馴れていないということもある。しかし、この場合はもっと根本的な、「筋肉を動かす」事が難しくなっていることに、アガミは気付いた。


(そうだ……そういえばスカルもゾンビも、動きがぎこちなかったっけ……)


 それはつまり、アンデッド特有の原因だ。

 アガミは、アンデッドについて基本的な知識を思い出した。


(アンデッドには、血が流れていない。中には血を吹き出してるヤツもいるが、それも残っていた血が出ているだけだ。)


 血とは、細胞一つ一つが生きるために必要な空気や、栄養を運ぶ。その血がないなら、つまり細胞は死んでいる事となる。
 しかしながら、それではただの死体。アンデッドは、血の代わりに魔力が流れているのである。


(そうだ、生命維持はもちろん、筋肉一つ一つへの司令も魔力で行う必要があるんだ。相当なタイムラグは覚悟した方が良いな)


 そう思い、慎重に立ち上がったアガミはカーテンへと歩いた。


(くそっ、タダでさえ動きにくいのに、足場が瓦礫で悪いだと!)


 内心毒づくアガミは、ぎこち無い動きでカーテンの元へと歩いて行くのであった。



「ふ……」

(ふむ、服はいちおう、これで我慢するしかない。それにしても……)

「あ……う……」

(なぜこんなにも喋れないのだ!)


 声は出ている。ならばなぜ話せないのか……普段からよく喋るタイプではないアガミだが、さすがに、ずっと録に話せないのは辛くなって来る。


(なんだ……人間には出来て、アンデッドには出来ない事…………あっ!!)


 それは、呼吸だ。生きる上に必要な呼吸だが、もし自動化されていなかったなら、どれだけの死者が出たことか……そして同時に、もう死んでしまっているこの身体には呼吸という機能はついていないのだ! する必要がないともいう。

 原因が分かったアガミは、ずっと自分が息をしていなかった事に気付き、意識的に肺を、横隔膜を動かした。
 そして吐くと同時に喉を震わす。


「……あ、あー、こえ、きこ、るー」


 そうして発せられた声は軽やかな声色で、確かにミナの声だった。


「あぁ……ミナ、ひさ、ぶり、ね…………」


 もしこの身体が生きていたなら、涙を流していただろう。

 たどたどしい声には、強い感情がこもっていた。

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