リアルの幼馴染みがこんなに萌えないものだなんて~愛華と瀧編〜

石原レノ

愛華の悲しみ

 「ねぇパパ!遊園地まだ?」
 幼い童女は上機嫌でそう問いかけた。今日は家族で遊園地に行く日。未家いまだけは颯爽と高速道路を駆けていた。
 「愛華。もうすぐだから落ち着いて座っててね」
 優しい母親にそう言われうずうずしながらもその場に座る愛華。これは愛華と瀧が出会う遠い昔。あの忌まわしい事件が起きる少し前の話。
 「しかし今日は休暇が取れて助かったなぁ。愛華と約束していたのにだいぶ遅れちゃったしなぁ」
 父親が申し訳無さそうに言うと愛華は頬をふくらませて文句を口にだす。
 「そうだよぉ。パパ私のお約束破っちゃうんだもん」
 「こら愛華そんな事言わないの」
 母親は愛華にそう言っているが優しい声のため全く嫌な気持ちにはならなかった。
 「まぁだかなぁ♪まぁだかなぁ♪」
 徐々にテンションはMAXになっていく。愛華は遊園地に着いたら乗るものを前日母親都楽しげに話していた。今日のために夜も早く寝たし前日まで家の手伝いを頑張った。この頃から尽くす人だったのである。なのに、、、
 「マ、、、マ?、、、パ、、、、パ」
 大きな音が鳴り響いたと思えば視界は真っ黒に覆われる。瞬間に母親が自分の名前を慌てた様子で呼んでいたことだけが鮮明に残っていた。自分に抱きついている母親はぴくりとも動かず父親の声も聞こえない。自分の体が動かないこと、そしてなぜ母親と父親が何もしゃべらないのかは幼い少女には理解できるはずがない。それまでに純粋な愛華はこれから起こる現実に幾多もの悲しみを覚えるのだった。

 「瀧、ちょっと出かけるから着いてきなさい」
 まだ瀧が幼い時は両親共々家から近い仕事場で仕事をするのが当たり前だった。そんな両親の休日つまり瀧の休校日にいきなり両親に連れ出された。訳も話されずただ出かけると聞いて瀧は嬉しいとさえ思っていた。
 「母さん。どこ行くの?」
 瀧がそう問いかけた事で本人自身が、まだ小学生の瀧でさえも驚きを隠せない状況に追いやったのだと父親の言葉を聞いて後悔する。
 「愛華ちゃんの御両親が交通事故に遭ったそうだ、、、」
 この頃から瀧は割と周りに気配りが出来るようで、人の事を思いやる気持ちが周りより芽生えていた。それは両親が一緒に教えてくれたから、命の尊さを、大事さも、、、いい両親だと幼き少年が思うほどに、、、。
 「え、、、交通事故って、、、痛いのだよね?」
 未家とは長い付き合いで両親共々仲がいい。瀧も何度か顔を見たことがあるし、愛華とは何度か話したり遊んだことだってある。いつも優しく自分に接してくれたあの2人が今事故に遭い苦しんでいると考えると心が痛いものだ。
 「とにかく、今は病院に行って、元気づけてあげようね」
 母親の苦笑を見ながら瀧は少なくとも良い状況じゃないのだと察してしまった。

 「ママ、、、パパ、、、」
 白い病院の手術室前。訳もわからず病院に搬送された愛華は今の状況が理解出来ずにいた。突然両親が倒れ今は病院にいる。幼い少女が戸惑い疑問でいっぱいになるのには十分な条件だった。
 「愛華ちゃん」
 後方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえ振り向くといつも目にする女の人がいた。隣には自分と年の近い男の子と父親である。
 「おばちゃん、、、、おばちゃん!」
 思わず瀧の母に飛びついてしまう。そんな愛華を母は優しく受け止めた。今この子は幼けども不安になっている。それを歌音かのんは分かっていた。
 「不安だね、、、私がいるから大丈夫だよ、、、」
 この時愛華は初めて実の母親以外の女性に心を許したのだった。
 そんな中手術が終了したようで中から医者が姿を現した。真也しんやは不安そうな表情を浮かべながら現状を問いかける。しかし医者の表情は浮かないままだった。
 「かなり危険な状態です、、、このままだと死率はかなり高いかと、、、最悪の場合を考えておいてください」
 この時真也は思った。この結果を愛華に話すべきなのだろうか、話したとしてこの幼い少女にこの現状を理解出来るのか、これからの生活をどうするのか。この少女は今から多大なショックを受けなければならない。両親が回復するのを懸命に祈る事しか出来ない今、その不安が真也の心を覆った。

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