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シロ紅葉

運命の日

 一夜明けた次の日の朝。 
 飾り気のない、だが家具のデザインは女の子らしい。
 悪く言ってしまえば、殺風景な部屋なんだけどもデザインがいいのでオシャレさがにじみ出ている部屋。つまり、彩葉の自室。
 その部屋から重たい物が転げ落ちる音が響く。
「……いったあ、ベッドから落ちるなんて何年振りだろう」
 頭を強く打ったのだろうか、必死で痛みを沈めようと 手で抑えながら床を転げ回る彩葉。
 時刻を確認すると、午前六時。昨日と同じ時間だ。
 しかし、今回は寝起きからベッドから落ちるというなんともベタな起き方をしてしまったので目が冴え渡っている。
 たまには早起きするのも悪くないかと思い、そのまま自室をでて顔を洗いに行く。
 洗面所までにたどり着く途中、居間の前を通っていくのでちらりと様子を伺ってみる。
 なかでは、母が朝食の準備をしているところだった。
 このまま素通りするのもなんなので、挨拶をしながら中に入る彩葉。
「あら、今日は早いのね。昨日父さんに言われたことを気にして、早起きしたの?」
「別にそんなんじゃないよ。目が冷めてしまっただけ」
 コーヒーを淹れながら、疑わしげにこちらをみてくる母。ついでにコーヒーの有無を聞いてくるので頷きだけで返答を返した。
 私は淹れたての熱いコーヒーに角砂糖三つにミルクを多めに入れ、それを片手に母の裁縫で、何度も縫い直された跡が残る座布団に座り込み、テレビの電源を入れる。
 やはりというかやっている番組は、ほとんどが昨日現れた魔女のことについてだ。
 魔女に出くわしたときの対処法、戦闘が起きたときの避難場所等の話が大半で、サバイバル訓練のイロハを教わっているような感じだ。
「こういう状況ってどのぐらいまで続くんだろう」
「この町の安全が確保されるまでは続くわよ」
 それはつまり魔女がアンチマジックの手で殲滅されるか、この町から出ていくのを気長に待つかのどちらかということだ。
 朝から暗い話題が流れ、自然と沈黙する。
 彩葉は顔を洗いにきたことを思いだし、その場から立ち上がり、この雰囲気に飲み込まれないようそそくさと居間から出ていくことにした。


 顔を洗い、三面鏡になっている鏡を覗き込む。
 その表情は居間でのやり取りを引きずっているのか暗い面持ちだった。
 そんな自分に活を入れるべくピシャッと頬を叩き、気分を入れ替える。
「こんなんじゃ駄目だ。しっかりしないと」
 昨日の夜、風呂で自分自身に誓った思いを胸に、彩葉の一日が始まった。


 午前七時二十分。昨日はトースト一枚だったのに対して、今日は味噌汁に白米、卵焼きといったありきたりな日本人の朝食だった。
 朝は決まって母と二人で食べる。父は朝に弱いので起きてくるのは九時や十時です。
 職場が家を出て一分もかからない剣道場なので、寝坊というわけではないのだが、社会人の平日の起床時間としてはどうかと思う彩葉。
 当然そこには、早起きして学校に行くのに父が遅くまで寝ていることに妬みも含まれているが。


 午前七時四十分。
 家のインターホンが狭い家に鳴り響く。
 昨日と違い、余裕をもって準備をしていたので、すぐに玄関へ向かう。
 そこには茜ちゃんがいて、元気よく私を迎えてくれた。
 挨拶だけを交わし、玄関前にあらかじめ用意していたカバンを背にかけ、母の見送られながら家を後にした。


 いつもの通学路はアンチマジックが巡回していた。
 魔女に対する警戒心を高めているのか、表情が強張っている者。過度な緊張で萎縮してしまっている者等様々な人がいる。
 こうして改めてみると、魔女がいかに危険な存在であるのか物語っているのかがわかる。
「昨日よりもアンチマジックの数が増えている!」
「え、そうなの!?」
 びっくりだ。ざっと見回しただけでも二人組のアンチマジックがぽつぽつと見かけるだけなのに、これでも増えているなんて。昨日はどれだけ少なかったんだろう。
「そんなに、危険な魔女じゃないのかな?」
「うーん、分からない。こんな経験するなんて初めてのことだから。アキ君なら何か知っているのかも知れないね」
「そっか、アキのお父さんってアンチマジックの人だったね」
「うん。過去に何度も魔女と闘ったことがあるらしいよ」
「す、すごいね!魔法を使うような奴相手に何度も闘うなんて」
 想像するだけでも恐ろしい。町一つ潰す奴や銃弾が効かない奴もいるのに生きて帰ってくるなんて。
 その話だけでいかにアキの父が凄腕のアンチマジックなのかが分かる。うちの父さんにも見習わせたい。
「だったら今回もすぐに解決しそうだね」
「うん。早く平和になればいいのにね」
 そうして魔女の話は打ち切り、いつもするような他愛の話をして、学校に向かうのだった。


 午前八時十五分。昨日よりも十分早く学校に到着する。
「昨日と違って今日は余裕だったね」
「いや、昨日はほんっとーーにごめん!!私のせいで時間ギリギリになった挙げ句走らせちゃって」
「ふふ、別に気にしてなんかないよ。それにたまにはあんなスリルもいいよね」
「茜ちゃんって意外とそういうこと好きなところあるよね」
 おしとやかな見た目に反して、意外とスリルとか絶叫ものとかホラーものがいける人っているよね。
 人間外見からじゃあ判断もできない趣味をもっている人って結構多い。これだから人間ってやつは面白い。
 なんて哲学的なことに考えを張り巡らしながら教室へと続く廊下を歩く。
 教室に入るとアキと仁はすでに来ており、彩葉達の入室を確認するなりすぐに挨拶を交わす。
「昨日は無事に帰れたみたいだね」
「まあな、うちの親父ああ見えて結構優秀なアンチマジックだから」
 自分の父親を誇らしげに胸を張って答えるアキ。ああ私もあんな風に胸を張って父さんを自慢できるようになりたい。ノリのよさとウザさだけは自慢できるけども。
「アンチマジックの数が少ないような気がするけど、いつもあんな人数なの?」
 今日の朝、茜ちゃんと疑問に思っていたことをアキに聞いてみる。
「いや、いつもならもう少し多いんだけど、今回出たのはもしかしたら最大級の危険な魔女かもしれないらしい」
「えー!!だったらなおさら数を増やした方がいいんじゃないの!?」
「危険だからこそ、少ない数で偵察し相手の出方を窺うんだ。それに大人数で動くと相手を警戒させてしまい、最悪逃げられてしまう可能性があるんだ」
 魔女も大人数を相手にするのは望んでいないということなのだろう。だから少人数で戦力を分析し、その魔女に対して、もっとも適当な人物をぶつけるということだろう。
「ふむ、実に合理的な作戦だと思うな。弱き者の力を糧に強大な敵相手に強大な力をぶつける!……熱いな」
 一人うんうんと唸り納得する仁。先程の哲学的な考えを呼び起こす。
 ほんと人間って外見だけじゃあ分からないな。いやこの場合見た目通りか。……深いな、人間って。
「そう言えば、あのカバンの中ってなにが入っているのかしら?やっぱり仕事道具なの?」
「あ、はいはーい!!私もそれ、気になる。あんなものもっていたらいざって時に邪魔にならない?」
「ああ、あのカバンのことか?あの中にはメモ帳とか筆記用具、それに魔女の資料とかが入っているらしいな。あとは非常食の乾パンか」
「な、なんか意外と私達の荷物と変わらないような」
 ノートに筆記用具、教科書。あと、弁当。うん、私達と似ている。
 茜ちゃんはもっとすごい専門道具が入っていると期待していたみたいで、答えを聞いてすごくがっかりな表情をしている。そうだよね、私もそうだもん。
 仁も私達と同じ気持ちなのか残念そうにしている。
「……確かに、非常食に乾パンはないな。せめてあんパンにするべきだ」
 ってそこかよ。私達と論点がずれているな。
 そこになぜかうんうんと仁の意見に賛同する茜ちゃん。そうだよね、女の子は甘いもの好きだもんね。仁も甘いものが好きだし、この二人は昔から妙なところで気が合う。
 話も一段落ついたところで狙っていたかのようにチャイムが鳴り響く。それを合図に各々自分の席に着く。
 そうして本日も退屈な授業が始まる。


 午後十六時。
 長かった一日の授業がすべて終わった。
 清々しい気分で帰り支度を始める面々。周りでは「あー終わったー」だの「疲れたー」だの様々なリアクションを起こしている。私もそんな連中と同じ気持ちだ。
 野原町では、現在魔女警戒報が出ている。
 なのにこのだらけっぷりだ。まあ、これも平和な証だと思うが、もう少し緊張感をもった方がいいのではないか?そんなことを思う。
 といっても昨日から情報が一切音沙汰がないので気が緩むのも仕方ないか。
 そもそも野原町に魔女が現れたのはこれが初めてで大半の人らが実際に出会ったことがないはずだ。
 私達はテレビやニュース等で魔女、魔法使いがいかに危険な存在なのか映像や文章でしか知らないのだ。
「彩葉ちゃん、そろそろ帰ろっか」
 帰り支度を済ませた茜ちゃんが話しかけてくる。その後ろにはアキと仁もいる。
 私の準備が遅いせいかアキは早くしろよ!と手に提げているカバンで頭を叩く。だが、思った以上に衝撃はなく、頭に軽く乗っかっただけでした。……こいつ絶対中身空だな。
 しかしその構図は、端からみたらチンピラに絡まれているように見えるんだろうな私。
 なんてことを思いながら教室を出て、下駄箱まで行き校門を出る。
 すると、そこには腕組みをして誰か待っているおっさんがいた。
「ん、あの人どこかで見たような」
「親父‼」
 よく見ればそのおっさんは昨日の夜、雨宮家にアキ達を迎えにきたセールスマンみたいな男。
 アンチマジックの浅草春彦そのひとだった。




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