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シロ紅葉

first day 6

 アキ達が帰り、静まり返った雨宮家の居間。
 父はひたすらに先程の魔女出現に対してのアンチマジックの動きについて携帯で調べながら、テレビの方でも続報のニュースのがないか、チャンネルを目まぐるしく変えていきます。
 母は、無言で機械のようにひたすらに洗い物の片付けを続けます。二人は魔女に対する警戒心を強めているというよりも、まるで何かに怯え、魔女以外の存在に警戒をしているようでした。
 さすがにこの場の張りつめた雰囲気の居心地の悪さに耐えかねて、気分転換に風呂にいくことにしました。
 風呂上がりにはまたいつものような日常が返ってくると期待して。


 入浴してさっぱりすれば、この胸のモヤモヤも解消されるだろうと意気込んで風呂に入ったのだが、まったく気持ちが晴れることはありませんでした。むしろ、気分は暗くなっていく一方でした。
 速報のニュースが流れた時の両親の表情。まるですべてを諦め、この世の終わりを感じさせる顔だった。
 お風呂の温度は決してぬるい方ではなかったが、あの表情を思い出すだけで楽しかった日常がガラガラと音を立てて崩れさっていくような不安を感じ寒気がしました。
 普段あんなにも取り乱すことのない両親なだけに不安は強く残り、私を苦しめました。
 和式の風呂に浸かり、一人憂鬱な気分になっていく彩葉。
「きっと大丈夫だよね。二、三日もすればまたいつもの楽しい日々が戻ってくるよね」
 湯船にブクブクと泡を吐き出しながら、湯船にどっぷりと浸かる。
 それからどうすれば二人をいつもの調子に戻せるのか考えてみるが、良い妙案は浮かばず、ますます滅入ってしまう彩葉。
 結局、最終的には普段通りの自分でいることが一番だと確信する。
 両親があんなにも不安そうにしているんだから、私だけでも明るく振る舞い、両親を安心させてあげなくちゃ。それが娘として今できるせいいっぱいのことだと決意を固め風呂から上がった。


 風呂で決めた思いを胸に、いつもの調子で居間に入る彩葉。だが、そこに父と母の姿はなかった。
 いつもなら両親がいないことに心配なんてしない彩葉だが、入浴前にみた雰囲気が気になり家中探し回ったが見つからなかった。最後に家の外れにある剣道場にむかう彩葉。
 すると、道場には明かりがついており、中から話し声が聞こえたので中に入ることにしました。
 父は我が家の名刀斬刃刃を磨き、かたわらには母が今日の買い物帰りにケガした太股辺りに包帯を巻き直しているところだった。しかし、その表情は先ほどまでと変わらず張りつめたままです。
 一瞬話しかけるのもためらいこのまま家に戻ろうかという衝動に駆られたが、このままではなにも変わらないと思い、意を決して話しかけるべく道場に入る彩葉。
「こんなところにいたんだ。家にいなかったから心配しちゃったじゃん」
 突然の来訪者に驚いたのか、一瞬体をびくりと震わす父。その人物が彩葉だと確認した父はすぐにいつもの調子で彩葉を迎える。
「娘がオレのことをこんなにも心配してくれるなんて。……オレはなんて幸せものなんだ、さあおいで父の胸に思う様飛び込んでこい。さあ遠慮はするなドーンとこい」
 相変わらずの対応をする父の姿を見て、少し元気になったんだと嬉しく思う彩葉。落ち込んでいたら慰めようかとも思ったが平気そうなのでいつものように対応する彩葉。
「じゃあ、遠慮なくいかせてもらうわ!!」
 父の泣くジェスチャーや言動があまりにもうざかったので、母直伝の渾身の飛び蹴りを父の胸に思う様ドーンとお見舞いする彩葉。
「っごふ!!」
 盛大にぶっ飛ぶ父を母はよくやった!っと言わんばかりの満面の笑みを彩葉に向ける。彩葉も思わずガッツポーズを取ってしまうほどキレイに決まりました。
 壁際までとんだ父はよろよろと壁に手を付けながら立ち上がりました。毎度毎度思うがほんと頑丈なひとだな。胸に鉄板が内蔵されているんじゃないかと疑いたくなってしまう。
「……だんだん母さんに似てきたな。父さんは悲しいぞ、暴力ばかり振るうようになって」
「あらあら、以外とまだ余裕がありそうですね、あなた。もう一発入れておきましょうか。今度は私の渾身の一撃を」
 軽口を叩く父に容赦のない一撃を入れようとする母。その表情にはいつもの笑みがある。
「それ以上はさすがにやりすぎなんじゃ」
 さすがにこれ以上はかわいそうだとおもい、フォローに入る彩葉。
「おお、さすが彩葉。ナイスフォロー。さあ、なんとかして母さんを説得してくれ、父さんには無理だ」
 すでに諦めモードに入っている父は、両手を合わせ、神にすがるかのように彩葉の方に助けを求めてくるみっともない父。
「ダメよ、彩葉。この人を調子にのらせておくと後々めんどうなことになるんだから。殺れるときに殺っておかなきゃ」
 鬼の形相をして殺気立たせながら父の前に立つ母。
「母さんひどい!でもオレも理解ある男だからな、それも愛情表現の一つだってことを知ってるさ。さあ、ドーンっとこ――――っぐほ!」
 父が言い終わる前に我慢の限界がきたのか、きつい一撃が父の胸に入る。
 母は、今の蹴りでキレイに巻けていた包帯がほどけたことに対し、それを父のせいにしようとメチャメチャな主張をぶつけています。母さん。そういうのは自業自得というのですよ。
 結局最終的には父の方が根負けし、理不尽な暴力をくらっています。この時ほど母、強しという言葉を強く感じたことはありません。
 一通り、ストレスが解消されたのか母はふーと息を吐き、額から流れる汗を腕で拭うような動作をし、第三者からみれば満足感に満たされているようにみえます。私はそんな夫婦のやりとりをみて、少しだけ今までの日常がかえってきたかのように感じ嬉しく思う反面、この日常がこのまま続きますようにと思った。
「そういえばわざわざこんなところまできて何か用でもあったのか?」
 さっききつめの蹴りを二発も入れられたのにもかかわらず、まるでダメージが通っていなかったかのようにケロっとして聞いてくる父。
「いや、別にこれといったようはないんだけど。さっきテレビでやってた、魔女が現れたっていうニュースが流れていた時の二人の様子が、いつもと違ったから心配になってこうして様子を見にきたんだけど。でもよかった、見た感じはいつもと同じ調子で」
 外見上は二人とも平気なように見える。さっきの夫婦のやりとりがその証拠だ。でもそれはどこか無理をしているようで娘に心配はかけたくないというせめてもの見栄を張っているように見えた。
「もし……さ、何か心配事があるんだったら私でよければ相談にのるから。だからあんまり無理しないでね」
 両親は娘の言葉にはなにも返さずただ黙り込んでいるいるだけだ。悩みはあるが娘には話すことができない。そんな雰囲気が伝わってきた。
 数分の沈黙のあと、父が固く閉じていた口を開いた。
「彩葉には時期がきたら話すよ、だから今はなにも心配しなくても大丈夫だ」
 その言葉には娘に心配かけさせないように、それでいてなにも話すことができないことへの申し訳なさが含まれていた。
「そっか。じゃあ安心してもいいんだね?」
「ああ、いつかきっと必ず話すから、今日はもう早めに寝なさい。今日みたいに寝坊しても知らないぞ」
「うん、わかった。ってなんで父さんがそんなこと知ってんのよ!」
「そりゃあ母さんから聞いたからに決まってんだろ。まったく十四にもなって寝坊するとは。……父さん悲しいです」
 泣きの演技をしながら茶化してくる父の方は無視し、彩葉は怒りと恨みのこもった目付きで母をにらみつける。母は口元に手を当てしまったっとした表情になり。
「ご、ごめ~ん。彩葉にしては珍しいことだったから、ついついしゃべってしまったわ」
 父はいまだに泣きの演技を続けています。
「父さんにしゃべったら絶対茶化してくると思ったから黙っていてほしかったのにー!」
 ぷんすかという擬音が似合うような可愛いらしい彩葉の怒りにごめんごめんと苦笑しながら返す母。
「それに寝坊したのは朝からあんなゆ――」
 夢を見たからと言おうとして口を閉じる。今まですっかり忘れていたが、そもそも事の発端は悪夢を見たからだった。
 通常なら夢の内容なんてほとんど覚えていないが、今回見たのは何故か忘れることのない夢を。両親に相談しようかとも思ったが、せっかくいい雰囲気になってきている場をぶち壊してしまいそうだったので、なにもしゃべらずそのまま黙ってしまう彩葉。
「彩葉、どうしたの?」
 突然の沈黙に不安を感じた母が話しかけてくる。
 母の呼び掛けに我にかえった彩葉は慌てて別の理由を話そうと口を開く。
「じ、実は朝の日差しのせいで二度寝しちゃってさ~。あはは、普段はこんなことあんまりないんだけど、昨日部屋のカーテンを開けっ放しで寝てしまったみたいで」
 苦し紛れの言い訳。だが、嘘はついていない彩葉。そんな彩葉の言い訳を信じたのか、疑っているのかいまいち判別のしづらい表情になる母。父はおそらく信じたのだろう、呆れた表情になっている。
「今日はしっかりと確認してから寝なさいよ」
「父さんとしては同じミスを二度してくれた方がいじるネタが増えていいんだけどな」
 相変わらず人をおちょくることに余談のない父。すごくウザいです。将来こんな大人にはなりたくないなあと強く心に決めました。だからといって母さんみたいなすぐに手、いや足がでる大人にもなりたくないと思う彩葉。
「同じ失敗はしません!」
 少し怒りっぽく言い、最後にお休みなさいと一声かけて道場を出る彩葉。背後から聞こえてくる両親のお休みなさいを聞きながら。


 彩葉が道場を去ったあと、父は名刀斬刃刃の磨きに戻り。母はほどけた包帯を巻く作業に戻る。
 彩葉という台風が過ぎ去ったあとのように道場内は静まり返っているなか、二人は無言でそれぞれの作業に集中している。しかし、その表情は彩葉がくる前とうって変わって和らいだ顔つきをしている。不意に父はぽつりと言葉を漏らす。
「彩葉も親の心配ができるようになるまで育ったか」
 娘の成長に安堵したような声で呟く父。
「あの子ももう十四歳。十四年間上手く隠してこれていたけど、ついにばれてしまったわね。……ごめんなさい、私のせいであなたをそして彩葉も巻き込んでしまった」悲しみのこもった声で嘆く母を父が優しく諭す。
「それ以上はなにもいうな。遅かれ早かれいつかはこの時がくると私達は覚悟していたはずだ」
 いつかくるとは思っていたが、できればその日はこないでほしかったのに。と自分たちの運命を呪いたくなる気持ちを圧し殺し、残酷な運命と真っ直ぐに向き合うことを決意する。
 そして二人は来るべきその日に向けて、最後に唯一の心残りになにを残せれるのか深い悩みに囚われる。

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