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シロ紅葉

プロローグ

 目を覚ますと意識はそこにあった。暗いなんて曖昧な言葉では言い表すことなど出来ない。見渡す限りが黒に染まっていて、目を瞑っているんじゃないかと錯覚するほどに真っ黒な場所だった。その世界に一筋の光りが差し、人の形を象ったものに形成される。今、この世界には私の意識とその人物だけだ。
「この世界は二つある」その人物がそう言った。声はこの無味乾燥した世界に反響しどこまでも響いていく。
「え、何?この人は何を言っているのだろう。この世には私たちが住む世界ただ一つしか無いと言うのに、まさか天界や地獄が二つ目の世界だと言うのかな?」
 私はこの一言が妙に気になり深く考えこんでしまった。だが、目の前にいる白い霧のようなものに包まれた人物は一言話しただけで風で吹き飛ばされたように消えてしまった。
「あ、ちょっと勝手に消えないでよ。というか出会って一言目がその問いかけっておかしくない?」
 なんかとても疲れてしまった。「はぁ」とため息をこぼしたところに、まるで私のため息に反応したかのように映像が流れ始めた。

 暗い路地裏に二つの白い霧の塊が見えた。私はそれを上空から俯瞰していた。
「あれ、私浮いてる?」
 や、やばい落ちる。どこかにしがみつかないと。なのに辺り一面はなにもない。絶望的だ。迫り来る死を直感し、無事に落下できますように神頼みをして目をしばらく瞑っていたが、一向に落ちていく気配が感じられない。瞼を開けると先程の俯瞰していた場所から世界は一変も変わっていなかった。……ものすごい取り乱してしまった。上空からの俯瞰映像だと気づきパニックになってしまった自分が少し恥ずかしくなった。
「言っておくけど高所恐怖症ってわけじゃないんだからね」
 周りには誰もいないが、さっきの人物がどこかで観ているんじゃないかと思い、ついそう言ってしまった。ほんとに高所恐怖症じゃないからね。大事なことなので二度言いました。
 さて、気を取り直し映像を眺める。よく見れば白い霧の塊は人の形をしていることに気づく。
 映像が切り替わり、私は暗い路地裏の中にいた。目の前には先ほど上空から見た人形の白い霧があった。
「急に変わらないでよ、びっくりするなあ」
 とりあえず白い霧に近付こうとするが、水面に足を浸けたかのような感触がして、不意に足の動きが止まった。血だ。二つの白い霧から血が流れている。
 暗くて分かりにくかったが、壁一面にも赤い塗料の入ったバケツをぶちまけたかのように血が飛び散っている。思わず吐きそうになってしまったがそれを必死に耐えた。
「誰がこんなことを。そもそも倒れているこの二人は誰なんだろう?」
 暗い路地裏ということもあってか、急に寒気と恐怖が押し寄せてきた。正直に言ってかなり怖い。鉄の匂いと二つの死体にそれを彩る暗黒の世界。唯一の救いはあまりの暗さに目が周りの風景を鮮明に写し出さないことだ。それゆえにその場から一歩も動けず、立ち往生していた私に、追い打ちをかけるように後ろから足音が聞こえてきた。
 一定のタイミングで鳴り続けていた音は私のすぐ後ろで止まり、崩れ去る音とともに泣き声が聞こえてきた。私は鼓動の止まらない心の蔵を身体で感じ取りながらも恐る恐る後方に目を遣る、その瞬間私は声が出なかった。
 怖くて声が出なかったわけじゃない、ただ驚いただけ、だって後ろにいた人物は私だったのだから。
「……私が、いる」
 しまった、声が出ちゃった。あまりの驚きにかすれた声がでてしまい、思わず口元を手で押さえる仕草を取る。しかし、私の声に反応した様子はなく、もう一人の私は白い霧に対してひたすらに泣き続けている。
 もしかしてこの白い霧に包まれた人物は私に関係のある人物なのかな。きっとこの二人は大事な人なのだろう、だから泣いているんだ私は。そう考えると、途端にこの二人の正体を知るのがすごく怖くなった。知ってしまうときっと元の私には戻れなくなる、そんな恐怖に駆られた。
 気持ちが暗くなっていくなか、一発の銃声が路地裏に響き渡った。一発の銃弾は泣いている私の方の心臓を貫いていた。……え、何。これってどういうことなの。どうして、私が撃たれたの。頭が真っ白になっていき、私の思考が止まる。だって、仕方ないじゃない私が、今、殺されたんだから。
 いつもの陽気な私ではいられなかった。何もかもが非現実、こんなことが現実に起きるはずがない。たった今起きた悲劇を否定し何も考えないようにする。同時に私の意識もなくなっていき、やがて意識は完全に無くなった。
 そして、もうひとつの私の意識が覚醒した。

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