2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

100話 「決着」

……あぁ、俺は馬鹿だな。 何故初めから完全な龍化をしなかったんだろう。
そうすればこんなに苦戦する事はなかったのに。

石連弾ロック・マシンガン

「っ!!」

俺の石連弾をローガは地面を転がりながら回避する。
まだ俺の両腕からは血が流れており、ズキズキ痛むが、今はそんな事関係ない。
俺の身体なんて、どうなったって構わない。 ローガを倒す。 今はそれだけを考えろ。 痛みなんて我慢しろ、周りの被害は考えるな。

双炎斬そうえんざん!」

風加速でローガの近くに移動し、双炎斬を撃つ。
2つの炎斬がローガの元へ向かっていく。 すると、ローガが両手を広げ、ローガの周りの空間が歪んだ。

「…あの20体よりは弱いけど、いないよりはマシだね…!」

歪んだ空間から、五体の死体が出てきた。
そして、出てきた二体の死体が炎斬を代わりに受け、消滅した。

…また、身代わりか。

「時間稼ぎ、頼んだよ!」

そう言うと、ローガは死体を三体残し、屋敷の中へ入っていった。

おい…あの屋敷にはカノン達がいるはずだろ…

「待て!」

俺が屋敷へ走り出すと、死体達が剣を振り下ろしてきた。
俺はそれを後ろに飛んで回避する。
死体達は屋敷の入り口を守るように立っている。

「…邪魔だな…」

こいつらは死体。 もう死んでるから、容赦はしなくていい。

「…龍神剣術奥義・双龍乱舞」

二刀流で連続で死体達を斬りつける。
肩を、腕を、足を、手を、身体を、背中を。 無差別に連続で、防御する隙なんてあたえない。
俺が斬りつけた場所がどんどん凍っていく。
死体達は痛がりもしないし、声もあげない。

そして、死体達が完全な氷の塊になった。 

「…双炎斬」

氷の塊に双炎斬を撃ち、氷を粉々に砕く。
…これでもう、邪魔者は居なくなった。

俺は屋敷の扉を開け、警戒しながら中に入った。

「…血がついてる。 コレを辿れば…」

床にはローガのものと思われる血がついており、それは上へと続いていた。

俺はその血を辿り、3階にある食堂の前に来た。
…この中にローガがいるのか。
俺は、扉を乱暴に開け、中に入った。 そして、入った瞬間、目を見開いた。

カノン達が居たのだ。 カノン達は口と身体を縛られ、ローガの周りに座らされていた。

ローガは、カノン達の真ん中に立っていた。
どうやらカノン達を盾にするつもりらしい。

「どうだいルージュ君。 これじゃあ攻撃できないだろう?」

「…本当に卑怯な奴だな、お前」

「卑怯か。 確か、初めて君と会った時にも言われたね。 でも、その時言ったはずだよ。
『そんな事は言われ慣れてる。
弱者は負けそうになるといつもそう言う。
 「卑怯だ」 「理不尽だ」ってね。 
そんな事を言う奴には僕はいつもこう返すんだ。 弱いお前が悪いんだろ』 」

「お前さぁ…カノン達を人質に取れば、俺が何も出来ないと思ってないか?」

「…なに…?」

俺は、風加速でローガの目の前に移動し、思い切りローガの顎を蹴りあげた。
ローガは宙に浮き、浮いているローガの身体を蹴り飛ばし、壁に激突させた。

「人質がいるなら、人質に当たらないように攻撃すればいい。 簡単な事だろ?」

「…もし人質に当たったらとは考えないのかい…?」

「何言ってんだよ。 死ぬよりマシだろ」

カノン達は目を見開いている。 久しぶりの再会だが、懐かしんでいる暇はない。 

俺は風加速でローガの元へ行き、ローガの顔を思い切り蹴る。 ローガはテーブルに当たり、長いテーブルが真っ二つに割れる。

そして、俺は両手の剣に黒炎を纏わせる。

無重力ゼロ・グラビティ!!」

ローガが部屋にある物を浮かせる。 本や花瓶、木の破片、椅子やテーブルなど。
そして、それらが俺に向かってきた。

「双炎斬!」

双炎斬で俺に当たる可能性がある物だけを落とし、ローガを見ると…
カノンの首を掴み、カノンの首に魔剣を当てていた。

「…これならどうだいルージュ君…! 動いたらカノンを殺す!」

「お前は、何がしたいんだ? そんな事したらお前は俺を殺せないだろ」

「いいや、僕は君を殺せるよ。 ルージュ君、その場で自殺しろ。 自殺しなければカノンを殺す」

…ほう。 なるほどな、ローガにしてはよく考えた作戦だ。
……だがな、やっぱりお前は馬鹿だよ。 ローガ。

「ローガ、もっと周りを見た方がいいぜ?」

カノンの他にも、レーラ、シーラ、ケイプがいる。
その3人が、ローガに体当たりをし、ローガがバランスを崩した。

その瞬間、俺はローガからカノンを奪い返し、ローガを蹴り飛ばした。

その隙にカノンの口の縄を解く。

「お兄様…! 助けに来てくれてありがとうございます!」

「あぁ。 待ってろ、今あいつを倒してきてやるから」

カノンを地面におろし、ローガの元へ走る。
右腕に黒い炎の拳を纏わせる。

…もう、終わりだローガ。

ローガは動けないらしく、立ち上がろうとしない。

「死ねローガ! ナックル・フレ……!」

突然、炎拳が消えた。 纏っていた龍の鱗も消え、龍化も解けた。
その瞬間、俺の身体中に激痛が走り、地面に倒れた。

「な…なんで…?」

「はは…ははははっ!! どうやらルージュ君、君の負けのようだね!」

ローガが魔剣を杖にして立ち上がる。 …何故、ローガが立って、俺が倒れている…?

龍化も解けた…なんでだ…?

「くくく…魔力を使いすぎたみたいだねぇ…! 君、大技ばかり使っていたもんねぇ!! はははははっ!」

「魔力…切れ…?」

……そうだ。 すっかり忘れていた、魔力は無限じゃないんだ。 
それなのに俺は…消費魔力の多い技ばかり使ってしまっていた。

だからって…なんで今!! なんで今なんだ…!

「くっ…そ…! くそぉ…!」

なんとか立ち上がろうと腕に力を入れる。 だが、目の前のローガの魔剣が光り…

「魔剣グラビの名の下に、沈め」

「ぐっ…!」

「ははは! あの鱗を纏っていないと魔剣の力が効くらしいね」

身体が重い。 腕がズキズキする。
せっかく強くなったのに、魔力切れってありかよ…

「…ルージュ君。 僕の勝ちだ。 …おっと」 

ローガが杖にしていた魔剣を上に上げた時、ローガはバランスを崩した。

…今だ!

「う…おおぉ!」

俺は力を振り絞ってローガに体当たりをする。 ローガは魔剣から手を離し、俺はローガの魔剣を掴んだ。

そして、そのままローガを斬ろうとした瞬間。

『あぁ、やっとボクを掴んでくれたね』

謎の声が聞こえた。 声は高く、”ボク”と言っているが女だろう。

「…誰だ?」

『ボクは魔剣グラビ。 君が持っている魔剣の精神さ。 気軽にグラビって呼んでよ』 

「魔剣の精神だと…?」

俺がそう口にすると、いつの間にか離れていたローガが目を見開いた。
そして震え声で

「…魔剣の精神…? 君…まさか魔剣から話しかけられたのか…? 僕には話しかけてくれなかったというのに…」

「…どういうことだ?」

『あぁ、魔剣は気にいった持ち主に話しかけ、力を貸すんだよ。 ボクはローガを気に入らなかった。 でも、ボクは君を気に入った! 君の感情はボク好みだよ、だから力を貸してあげる!』

グラビがそう言うと、少しだけ、身体が軽くなった。
少しだけ、魔力が回復したらしい。

『魔力は少しだけ回復させてあげた。 少しだけだから、大技は使えないよ。 これで、君がどれくらいやれるか、ボクに見せてよ!』

なるほど…グラビは楽しんでいるわけか。
…だが。

「十分だ。 助かるぜグラビ!」

俺はローガの元へ走り、ローガの襟を掴んで窓の方へ走り出した。
そして、ローガを窓から外へ放り投げた。

そして、大声で叫ぶ。

「レイニクスさん!!! この辺りに大雨を降らせて下さい!」

そう叫ぶと、俺の隣に青い光が集まり、レイニクスが現れた。

「一時はどうなるか焦ったが、何か考えがあるみたいだな。 いいぜ。 制裁豪雨ジャッジメント・レイン

そして、この辺りに急に大雨が降り始めた。 空には雨雲が出来ている。
…よし、これならいけそうだ。

「んじゃ、頑張れよ」

そう言うと、レイニクスはまた光となり、消えた。

『雨なんて降らせてどうするつもり?』

「まぁ、見てろよ。 少しの魔力で、上級魔術にも匹敵する威力の魔術を見せてやる」

『おぉ! それは楽しみだ』

火球ファイアー・ボール! 火球! 火球! 火球!」

空の雨雲に向かって火球を連発して撃つ。 火球は雨雲の中に入っていった。
よし、あとは待つだけだ。

そして、俺は地面に降り、レイニクスを見る。
レイニクスは木の棒を杖にして立っている。

「…ルージュ君。 何故君が魔剣から気に入られているかは知らない。 だが、それは僕の物だ、返せ!」

「やだね。 もうグラビは俺の剣だ。 いや、俺の仲間だ。 お前なんかに渡すかよ」

グラビには心がある。 なら物じゃない。

「もう俺も立ってるだけで限界だ。 だから、終わりにしようぜ。 ローガ」

頭上で、ゴロゴロ…と、雷の音がなる。 どうやら雨雲が雷雲に変わったようだ。

「知ってるか? 雷って、人工的に起こせるんだよ。 雨雲を急激に暖めれば積乱雲が出来、やがて雷雲が出来る。 まぁ、この世界の人たちはそんな事知らないだろうがな」

日本にいた頃、必死に勉強してよかった。 勉強したおかげで、こんな知識を得れた。 
この異世界では役に立たない日本の知識で、ローガを倒してやろう。

俺は、青龍刀に電気を纏わせる。

「あとな、雷は誘導できるんだよ。 雷と電気は引かれ合う。 今俺が持っている電気を纏った剣は避雷針となり…」

電気を纏った剣をローガの近くに投げる。
ローガはようやく分かったらしく、目を見開いた。

だが、もう遅い。

「雷は、避雷針に落ちる」

一瞬、眩しい光が辺りを包んだ。 そして、遅れて轟音が鳴り響いた。 耳を塞がなければ鼓膜が破れていたかもしれない。

雷は音速を超える。 絶対に避ける事は出来ない。

辺りの木は落雷によって軽く燃えてしまっている。 また後で消火しよう。

「あ…あぁ…」

目の前ではローガが地面に倒れている。 服はところどころ破れている。 どうやら相当なダメージだったようだ。

「ローガ、俺の勝ちだ。 カノン達は返してもらうぞ」

「……僕を…殺さないのか…」

「殺さない。 カノンは人殺しを望んでないからな。 お前には生きて罪を償ってもらう」

「…はは…甘いなルージュ君…」

そう言って、ローガは目を閉じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの後、ローガをレイニクスに任せ、俺は屋敷の食堂へ戻ってきた。
もうヘトヘトだ。 青龍刀は2つとも落としたので、今は魔剣を杖にしてなんとか歩けているが、いつ倒れてもおかしくない。

「お兄様! さっきの音はなんですか!? ローガは…」

あぁ、そういえばカノン達の縄を解くのを忘れていたな。
カノン達4人の縄を全て解き、皆俺を見る。

「ローガは倒した。 もう大丈夫だ」

そう言うと、カノンが抱きついてきた。 …正直に言うと、身体がめちゃくちゃ痛いからやめてほしい。
痛む腕を無理やり動かし、カノンを抱きしめる。

「待たせてごめんな。 …ただいま」

「おかえりなさい、お兄様!」

カノンは泣きながら、俺の胸に顔を埋めている。

「レーラ達も、待たせてごめん。 魔方陣痛かっただろ?」

「えぇ、とても痛かったわ、でも助けに来るって分かってたから、耐えられたわ」

「うん。 ルージュ君ならきっとローガを倒してくれるって信じてたよ。 ルージュ君って強いんだね」

「改めてルージュ様を尊敬します。 1人で魔剣使いを倒すとは思いませんでした」

3人からそう言われ、顔が赤くなってしまう。
そして…とうとう限界がきたのか、俺は後ろ向きに地面に倒れ、気を失ってしまった。

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