2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

88話 「水龍と名乗る男」

龍族の村に来てから、2日目になった。
俺は、セレス達に案内してもらった秘密基地で目を覚まし、外にある川で顔を洗うと、準備運動をしていた。

「…にしてもこの秘密基地、よく出来てるよなぁ…」

洞窟を改良したこの秘密基地。

住みやすい事この上ない。
男子の俺は、秘密基地というものに憧れていた。 だから、今感動しているのだ。

準備運動を終え、空を見ていると、遠くから2つの足音が聞こえて来た。

「ルージュ〜! 」

「ルージュ君おはよー!」

セレスとグリムだ。
2人には自分の家があるので昨日は家に帰った。
そして、明日秘密基地に集合しようと約束していたのだ。

「おはよう。 2人共」

「えぇ! 早速だけど朝食にしましょ!」

セレスは持っていたバスケットを顔の高さまで上げ言う。

3人で秘密基地に入り、木のテーブルにバスケットを置き、木の椅子にセレスとグリムが座る。

…そこで気づく。

「あっ…ルージュの椅子がないわ!」

「あぁっ! 本当だ、2つしかない!」

そう、この秘密基地にある物は全て2人用だったのだ。

椅子の数、毛布の数、全てが2つずつだった。

「…岩創造クリエイト・ロック

俺はテーブルの横に丁度いい高さの岩を出し、それに座る。
…おぉ、意外と座り心地がいいな。

「俺はこの岩でいいよ」

「えっ、あ、そう?」

「ルージュ君土魔法使えるの!? 凄いね!」

グリムが目をキラキラさせながら言ってくる。
俺は苦笑いしながら

「それよりさ、早く食べようぜ? 俺腹減ったよ」

「そうね! 食べましょう!」

そう言ってセレスがバスケットを開けると、中にあったのはサンドイッチだった。

「おぉ! 美味そうだな! セレスが作ったのか?」

「私は料理なんて出来ないわ! お母様が作ってくれたのよ!」

「そうなのか」

まぁ、考えてみればこの歳の子供が料理なんてしないよな。
セレナ達が凄いだけだ。

「…美味いな」

相変わらずこの世界の食べ物は美味い。

そう言うと、セレスは胸を張り

「そうでしょう! お母様は凄いのよ!」

と言ってセレスも料理を食べ始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「さて! それじゃあルージュ! 村長の家に行くわよ!」

「村長の家? なんでだ?」

「僕達も分からないけど、今朝ルージュ君を連れてくるように言われたんだ」

村長からの呼び出しか…、やはりローガの件か?
まぁ村長の呼び出しを断る理由はないよな。

「分かった。 それじゃあ行こうぜ」

秘密基地から村まではそう遠くはない。
だが村に入ってから村長の家までは大分距離がある。
村長の家まで3人で軽く話しながら向かい、村長の家に着くと、扉を軽くノックする。

「入れ」

村長にそう言われ、3人で中に入る。

「俺に話とは何ですか? 」

「お前にと言うか、お前達3人にじゃな」

…ん? 俺ら3人?
セレス達も訳が分からないらしく、首を傾げている。

「てっきり魔剣使いの件かと思ってました」

「あぁ…その件じゃが、準備が整うのは7日後になった」

「なっ…!? 」

7日だと…!? なんでそんなに…

村長は、俺の反応を予想していたのか、冷静に言う。

「7日後、龍族は最高戦力を用意できるじゃろう。 万全な状態で魔剣使いに挑むか、万全じゃない状態で魔剣使いに挑むか、どちらがいい?」

「……分かり…ました。 7日後まで待ちます」

戦力を貸してくれるだけ有難いんだ、文句は言ってられない。
……そうと決まれば、やる事は1つだ。

俺は村長に背を向け、扉の方へ歩く。

「何処へ行くんじゃ?」

「出発までの7日間、森で修行します。 少しでも強くならないと…」

「森で修行する必要はない」

「…え? いや、でも、龍族に頼りきりになるのは…」

「誰もそんな事は言っとらんじゃろう。 全く…少しは人の話を聞け」

あー…レーラにも「人の話を聞け」と言われたな。

「今日お前達3人をここに呼んだのは、強くなってもらうためじゃ」

「ルージュだけじゃなく、私達もですか?」

「そうじゃ、お前達にはあるお方に稽古をつけて頂く事になった」

村長がそこまで言うと、村長のすぐ横に小さな青い光が集まり、少しずつ人の形になる。

「お前達に稽古をつけて下さるお方は…」

青い光が完全に人の形になり、ある青髪の高身長の男が現れた。
青髪の男は俺達3人を見回すと

「俺様だ。 俺様が、お前らを強くしてやる」

突然、そう言ってきた。
…訳が分からんぞ。

「えっと…誰ですか?」

俺がそう言うと、セレスに勢いよく頭を叩かれた。
俺を叩いたセレスは慌てながら

「あ、あんた何言ってんの!? この人に「誰ですか?」なんて…!」

「いや、だって知り合いじゃないし…そんなに偉い人なのか?」

見た感じ普通の人間に見えるがな…

俺がそう言うと、青髪の男は自分の顔を抑えながら笑う。

「ククク…! まぁこの姿じゃあ分からないだろうな、いいぜ、自己紹介してやるよ 」

「はぁ…どうも」

「俺様は水龍、レイニクスだ!」

「………」

……………

村長の家の中が一気に静かになる。

青髪の男、レイニクスと名乗った男は腰に手を当て、偉そうに立っている。

水龍ってのは称号か何かか? ”剣豪”みたいな感じだろうか。

「あ、初めまして。 俺はルージュ・アルカディアです」

俺は普通に自己紹介したが、レイニクスは目を丸くし

「お、おい? 驚かないのか? 水龍だぞ? 俺様は水龍レイニクスなんだぞ?」

「強そうな称号ですね」

そこまで言うと、グリムが俺の肩を叩く。

「…ねぇルージュ君。 まさか君、七龍伝説を知らない?」

「七龍伝説? なんだそれ」

俺がそう言うと、レイニクスは深い溜息を吐き。

「マジかよ…今の子供は俺様達の事を知らねぇのか…? 」

「レイニクス様、お気になさらず……我々龍族は貴方様方の事を尊敬していますので…」

村長はそんなレイニクスを慰めるかのように言う。

…というか、このレイニクスという男はなんなんだ? 七龍ってなんだよ

「…まぁいいや、俺様達の事を話してる時間はねぇ。 おいお前達、この7日間でお前達を強くしてやるよ」

「嘘…あのレイニクス様が私達を…!?」

「夢みたいだねセレス!」

セレスとグリムが感激しているが、俺は未だに訳が分かっていない。

「さて、んじゃ早速移動するぜ? 」

レイニクスがそう言うと、俺、セレス、グリムの3人の身体が青い光に包まれる。
俺は、その眩しい光に耐えきれず、目を閉じた。

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