2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

77話 「変わらない視線」

極限まで集中する。 右手に神経を集中させ、後ろに引く。

そしてそのまま水平に素早く動かしながら、丁度いいタイミングで握っていた物を手から放る。

「……おっ、今度は3回跳ねた」

目の前には透明感のある綺麗な川、そして地面には小さな石ころが何個も転がっている。

ならば、やる事は1つだろう。

そう、水切りだ。

さっきから俺は1人で水切りをしている。

そう、1人でだ。

「さて、次の石は……」

俺が次の石を探している間、一緒に話すはずだった2人の少女。

金髪の少女、セレナと、水色の髪の少女、カノンは2人でブルーシートの上で楽しそうに話しをしている。

その会話には俺の入る隙はない。 俗に言うガールズトークという奴だ。 
前にもこんな事があった。 そう、これは初めてセレナとアリスが会った日だ。
2人はあっという間に仲良くなり、セレナとアリスの会話に入る事が出来なかった。

だが、俺はそんな事で凹んだりはしない。

俺には一緒に遊んでくれる石ころが居るからな。
石ころがある限り、俺が孤独を感じる事はない。

「頼むぜ、相棒石ころ!」

そう言って相棒石ころを先ほどと同じく川へと投げる。

俺の相棒石ころは水平に飛んでいき、そして川に当たり、跳ねる。

1回……2回……3回……4回……5回…⁉︎

「よっしゃあああああっ!! やったぞ相棒石ころ! よく頑張って跳ねた! 偉いぞ!」

「ルージュうるさい!」

「お兄様うるさいです!」

2人がそう言ってくるが、気にしない。

俺は今猛烈に感動しているのだ。 

ポチャン…ポチャン…と言う音を立てながら水の上を跳ねてくれた我が相棒石ころ

「さっきから何やってるのルージュ?」

セレナ達がブルーシートから立ち上がり、俺の横に来る。

どうやらセレナ達もこの神聖な遊び水切りが気になるらしい。

「ふっふっふ…そんなに気になるかセレナよ。 なら教えてやろう」

「う…うん…教えて?」

「まずは石ころを1つ持つんだ。  この大量の石ころの中から、信頼出来る石ころを見つけ出せ」

「じゃ私これー」

「私はこの石ころにします」

セレナとカノンは足元に落ちていた石ころを適当に拾った。

……俺の話聞いてた…?

「で、では次にだな。 石を持った手を後ろに引くんだ」

2人は言われた通りに石ころを持った手を後ろに引く。

「こう?」

「変じゃないですか? お兄様」

「うーん…俺から見ると、まだまだだが…まぁ初心者にしては良い方だろう。 そしたら川に向かって水平に石ころを投げるんだ」

俺の言い方にセレナはムッとした表情になるが、言われた通りに2人は石ころを同時に投げた。

2人の石ころはまっすぐ飛んでいき、川の上を跳ねる。

1回……2回……3回……4回……5回…あれ…? ……6回……7回…………

そこまで来て石は川に沈んだ、2つ同時に。

「わー! 凄い! 石ころが水の上を跳ねたよ!」

「面白いですね! やっぱりお兄様が知ってる遊びは面白いです!」

「………」

セレナとカノンは笑顔でハイタッチしているが、俺の顔は笑顔とは程遠いものになっているだろう。

「次はお兄様の本気を見せて下さい!」

そう言ってカノンは石ころを俺に渡してくる。

俺は無言でそれを受け取り、構える。

2人はそれを黙って見ている。

……7回かぁ…いや、さっき5回跳ねたんだ。 なら今回はもっと跳ねるかもしれない。

よし、そう考えたらやる気が出て来たぞ。

「行くぜ相棒石ころ! 」

俺は思い切り石ころを川に投げる。 

石ころは川の上を跳ねる。

1回……2回……3回……4回…ポチャンッ…

「あっ…」

セレナがそう呟いた。

石ころは5回目を跳ねる事はなく、水の中に姿を消した。

「あ…あの…お兄様…? もしかして…じゃんけんの時と同じく…」

カノンが気まずそうに聞いてくる。

俺は無言で石ころを拾い…

「くっそがああああっ!!」

思い切り川に石ころを投げた。

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「き、機嫌なおしてよルージュ! ごめんね!」

「こ、今度はお兄様も一緒にお話しましょうね!」

「………おう」

3人でブルーシートに座り、セレナ達がそう言ってくる。

別に俺は怒っているわけではない。 

「えっと…カノンちゃん、なんの話をしてたんだっけ?」

「えーと…確か好きな食べ物の話だったはずです」

そんな話をしてたのか。 

「そうだったね! じゃあルージュ! ルージュの好きな食べ物は……あ、私知ってるんだった」

「え? セレナ様はご存知なのですか? お兄様、教えて下さい!」

「プリンだ。 と言うか甘い物はほとんど好きだな、後は肉」

俺は即答した。

セレナは頷いていたが、カノンは首を傾げていた。

「ぷりん…? ぷりんとはなんですか?」

「えっ? カノンちゃん、プリン知らないの?」

「はい。 聞いた事がありません」

…カノンはプリンを知らないのか。

あんなに美味いものを知らないなんて可哀想に…

「よし。 ならカノン! 俺がプリンがどんな食べ物か教えてやろう!」

「本当ですか⁉︎」

カノンが目をキラキラさせながら言う。

「あぁ、ならこれから家に帰るぞ。 俺がプリンを作ってやろう」

「お兄様が⁉︎ 作って頂けるのですか⁉︎」

「もちろんだ。 そしてセレナ!」

「ん? なに?」

セレナが首を傾げる。

「セレナにもプリンを作って貰いたい。 …と言うか、プリンの作り方教えてくれ」

「作り方知らないのに作ろうとしてたの⁉︎」

料理とかした事ないしな。 プリンはいつもコンビニで買ってたし。 

「まぁ料理するのは楽しいし、別に良いけどね」

「よし。 そうと決まれば早速材料を買いに行くぞ! 金は俺が出す!」

俺はいつも銀貨を10枚持ち歩くことにしている。 何があるか分からないしな。

銀貨10枚あれば十分足りるだろう。

「早くブルーシートを畳んで! ほらほら!」

ブルーシートから立ち上がり、2人を急かす。

セレナとカノンは溜息を吐き…

「はぁ…本当子供だなぁ…」

「お兄様は本当に年上なのでしょうか…」

そんな事を言いながらもブルーシートから立ち上がり、3人でブルーシートを畳んだ。

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河川敷から少し歩くと、色々な建物が並んでいる場所についた。

魚を売っている店、肉を売っている店、道具を売っている店などなど、さまざまな店が並んでいる。

ここらドーラ村の商店街だ。 商店街には人が沢山いた。

だがこの沢山の人全員が買い物目当てで来たわけではないのだろう。

この商店街の近くには、”初代剣聖”の銅像がある。 俺も初めてこの世界に来た日に見たものだ。

あれを見に来る人もいるだろう。

「セレナ、プリンの材料ってなんなんだ?」

「えっと、卵、牛乳、砂糖だよ」

「え、それだけなのか?」

マジかよ、プリンの材料ってこんなに少ないのか。

「うん。 じゃあルージュ、買って来てくれる?」

「え? 3人で行かないのか?」

「う、うん…私は…その…」

……あ、そうだった。 俺はなんて馬鹿な事を言ってしまったんだ。

王都ではセレナを蔑む人は居なかったから、すっかり気を抜いていた。

ドーラ村ここは王都じゃないんだ。 

その証拠に、よく見れば商店街を歩いている人達は俺達を……いや、セレナを指差して何かを言っている。

セレナを見ている奴らの視線は、とても冷たいものだった。

「……悪い。 考えてなかった、すぐに戻って来るから」

「うん。 行ってらっしゃい」

「カノンはセレナと一緒に居てくれ」

「え? あ、はい、分かりました」

セレナ達を商店街から離れた場所で待たせ、俺は急いで材料を買いに行った。

「…すみません。 卵10個と牛乳2パックと砂糖下さい」

失敗する事も考慮し、多めに買う。

「は、はいよ! ど、どうした坊主? 機嫌悪いな」

「…気にしないで下さい」

店主のおじさんは不思議そうに聞いて来る。

こいつもセレナを見たらきっと態度が変わるんだろ。  

「ほら、卵、牛乳、砂糖だ。値段は…銅貨35枚だよ」

卵は1個銅貨2枚だから、10個で銅貨20枚。
牛乳は1パック銅貨5枚だから、2パックで銅貨10枚。
砂糖は1袋銅貨5枚だから、詐欺られてはいないな。

銅貨は10枚で銀貨1枚と同じ価値になる。

俺は銀貨4枚をおじさんに渡す。

「へい、銀貨4枚だから…おつりが銅貨5枚だ」

「どうも」

銅貨5枚をポケットに入れ、材料の入った袋を持って走る。

商店街から出ると、セレナ達が待っている場所へ向かった。

「あ、ルージュ。 早かったね」

「おかえりなさい。 お兄様」

「おう。 早く帰ろう」

俺達は出来るだけ人が多い場所を避けて、アルカディア家へと向かって歩き出した。

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