2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

70話 「ルージュVSザック」


「………」

「ルージュ、ごめんね! 謝るから拗ねないでよ!」

「………」

「ねぇルージュってば!」

さっきから俺はセレナと会話をしていない。

セレナの奴…騙して魔術当てた後に降参しやがって…

勝ったのに勝った気が全然しない!

「もー…今度プリン作ってあげるからさ!」

「いやぁさっきのいい勝負だったな! また勝負しような!」

「うわっ…食べ物で釣れちゃった…」

セレナが引いているが、気にしない。 
騙された仕返しとして、そうだな……3個くらいは作って貰おうか。

「次の試合を始める! アリス! ザック! 降りてこい!」

この試合で勝った方が俺と戦うのか…

どっちも強いんだよなぁ…

アリスは剣術も魔術も…最近では武術も使い始めたし。
ザックはこれまでの試合全て一撃で終わらせてるし。

「アリスだったか。 勝たせてもらうぜ!」

「そう簡単にはいきませんよ!」

「では、始めろ!」

モーナがそう言うと、先にアリスが動いた。

聖水連弾セイクリッド・ウォーターマシンガン!」

アリスの水球が5個、ザックの元へ向かって行く。

ザックは動かず、右手を後ろに引くと…

空音波くうおんぱッ!」

その場で右手を思い切り前に出す。

すると……

「きゃあああっ!」

何故かアリスが吹っ飛んだ。 よく見ると水球も全て割れている。

……今、何したんだ? ただパンチしただけに見えたが…

ザックは倒れているアリスの元へ走っていき…

「あれ、まだ気絶してないのか」

アリスは思った以上にダメージが凄いのか、立ち上がろうとしない。

「なぁ、頼むから降参してくれないか? 流石に女は殴れない」

「………こ、降参です…」

アリスは、立ち上がらずにそう呟いた。

…嘘だろ…? アリスが一撃って…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「アリス! 大丈夫か⁉︎」

「どこが痛い⁉︎ 回復魔法かけるから!」

アリスが戻ってくると、俺たちを見て笑顔で

「いえ、もう痛みはないので大丈夫ですよ。 ……手も足も出なかったです」

アリスは悔しそうに言う。 

ザックはアリーナには戻って来ずに、下で準備運動をしている。

……なにあれ、やる気満々じゃねぇか…

「ルージュさん、応援してます! 頑張って下さい!」

「ルージュ! 頑張ってね!」

…こんな事言われてもし一撃で気絶なんかしたら……

…よし、一撃は耐えよう。 なにがなんでも耐えよう。

「お、おう。 が、頑張るわ」

声が裏返ってしまったが、2人にそう言って下に降りた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お、来たなルージュ! 待ってたぜ」

「あー…うん」

嫌だなぁ…絶対あの訳分かんないパンチ撃ってくるだろ…空音波くうおんぱだったか? 
見えない攻撃とか卑怯だろ…

「お前と戦うのをずっと楽しみにしてたんだ! 全力で行くぜ!」

え、今まで全力じゃなかったのか…?

ちょっとマジで勘弁してくれよ…

「では、決勝戦だ。 ……始めろ!」

決勝戦が始まった。 

空音波くうおんぱッ!」

突風ウィンドッ!」

始まった瞬間、全力で地面に突風を撃ち、上に飛ぶ。

幸い、あの訳が分からないパンチは当たらなかった。

どうやら無条件で攻撃が当たるわけではないらしい。

隕石雨メテオ・レイン!」

空中で炎の球を5個出し、一気にザックめがけて撃つ。

最初から全力だ。

「ははははっ! やっぱすげぇよルージュ! あれ避けるとは思わなかった!」

ザックはそう言いながら俺の隕石雨を避ける。

笑顔で避けるとか……

風加速ウィンド・アクセル!」

地面に降りた瞬間に風加速を使って走り出す。

止まったら何されるか分からない…絶対に動きを止めるな…!

炎斬えんざん!」

斬撃を撃つが、ザックは右に飛んで避けた後、なんと俺の方に走って来たのだ。

「えっ…ちょっ!」

「らぁっ!」

そしてパンチするのかと思わせて腹を思い切り蹴ってきた。

フェイントかよ…!

「くっそ…! 水領域ウォーター・フィールド!」

地面を転がりながら、地面を水浸しにする。

だがそこで気づく、今俺は動きを止めている事に…

「ヤベッ…!」

空音波くうおんぱッ!!」

案の定、俺の身体は凄い勢いで後ろに飛ばされる。

「痛ぇ…」

なんだこれ…本当に訳が分からないぞこの攻撃…

攻撃範囲、攻撃が届く距離、全てが謎だ。

石連弾ロック・マシンガン!」

石連弾を撃った後、すぐに走り出す。

遠くにいたら空音波を撃たれるからな…

風連脚ふうれんきゃく!」

だがザックは石連弾を全て避け、回し蹴りをしてきた。

流石に当たるとマズイ…!

「ぐっ…!」

「おぉ…ガードされたかぁ」

なんとか腕をクロスにして蹴りをガードしたが……

めっちゃ腕痛い!

「なら、これはどうだ? 閃光撃せんこうげき!」

蹴りをした体制のまま、ソーマと戦った時に見せた技を使ってくる。

蹴りをガードした俺が避けれるはずもなく…

「うっ…!」

思い切り腹にパンチをくらってしまい、また凄い勢いで後ろに飛ばされる

そのまま地面を何回も転がる、その際に木刀を地面に落としてしまった。

「……突風ウィンド!」

手を後ろに向け、突風を使って一気に前に飛ぶ。

熱手ヒート・ハンド!」

手を熱くし、がむしゃらにザックを殴る。

だが、ザックは当然のように全て避けてしまい当たらない。

「分かりやすすぎるぜ!」

「……知ってるよ」

武術専門のザックに、素人の攻撃が当たる訳がない。

俺の目的は、ザックに近づく事だ。

閃光フラッシュ!」

「うわっ! 目が…!」

よしっ! 成功だ! 

これでザックは目を開けられないはず…

石連弾ロック・マシンガン!」

「いてててっ!」

ゼロ距離で石連弾を当てると、ザックは少しずつ後ろに下がる。

流石に飛ばされはしないか…

「まだまだ! 石連弾!」

「くっそ…! 目が…!」

目を瞑ってる間に少しでもダメージを与えてやろう。

「もう一度! 石連ロック・マシン…!」

空音波くうおんぱ!」

「っ!」

流石にもう目を開けられるか…間一髪、右に飛んだ事で当たらずに済んだが……

……実力が違いすぎる。

とりあえず木刀は……! あった!

木刀を見つけ、木刀の方へ走り出す。

だが……

「行かせねぇ! 閃光撃せんこうげき!」

物凄いスピードで俺の元へ来たザックに殴られる。

そのまま地面に叩きつけられ、口に砂が少し入ってしまう。

……これまでの戦い方じゃダメだ。 新しい事をやらないと、ザックとは渡り合えない。

新しい事…俺がいつもやらない事…

「もう終わりだルージュ! 風連ふうれん…」

「おらぁっ!」

地面に倒れている俺を蹴ろうとしたザックを、逆に下から蹴り上げる。

俺の蹴りはザックの顎にヒットした。
まさか蹴られるとは思ってなかったんだろう、ザックは蹴り上げにより宙に浮く。

ここからだ。

突風ウィンド!」

「おおぉっ⁉︎」

宙に浮いているザックに突風を撃ち、さらに上へ飛ばす。

まだまだだ。

今度は俺も突風を使って上に飛ぶ。
そしてザックに追いつくと、ザックの服をキッチリ掴み……

電流ボルト!」

雷魔法をゼロ距離で当て、ザックを痺れさせる。

そしてザックの服を離すと、ザックはゆっくりと落ちていく。

突風ウィンド!」

ゆっくり落ちていくザックに突風を当て、無理矢理落下するスピードを上げる。

「…! ヤベッ…! 空音波くうおんぱ!」

流石に焦ったらしいザックが、上にいる俺に空音波を撃ってくるが、もう遅い。

もう落下するスピードは上がっている。 今さらスピードが下がる事はない!

俺が空音波に当たると同時に、ザックが地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。

俺はなんとか耐え、落下しながら地面を見る。

隕石雨メテオ・レイン!」

どうせまだ気を失ってないだろう。 

遠慮なく砂埃に隕石雨を落とす

より一層砂埃が舞ったところで、俺は地面に着地する。 

ちょうど近くにあった俺の木刀を手に取り、構える。

さぁ……どこまでダメージを与えられた…?

「痛てててて……容赦ねぇなルージュ…」

ザックがボロボロになりながら砂埃の中から出て来た。

相当なダメージだったようだな。

「容赦ないのはお互い様だろ。 遠慮なく殴りやがって…」

「ははは…やっぱりお前強いよ。 ……楽しくなってきた」

ザックがニヤッと笑い、走ってきた。

……まだそんな体力残ってんのかよ!

黒霧ダーク・ミスト!」

「遅ぇよ! 」

黒霧が広まる前に、ザックが俺の元に辿り着き、顔面を殴られる。

……この距離なら、当たる!

炎斬えんざん!」

地面に倒れる前に、不安定な体制だが、炎斬を撃つ。

炎の斬撃はザックに直撃し、ザックは奥に飛んでいった。

「はぁ…はぁ……これで…最後だ…! 大爆エクスプロー…!」

「はぁ…! 空音くうおん…!」

お互い地面に倒れたまま、立ち上がる気力もない。

正真正銘、これが最後の技だ。

ジョンッ!」

ッ!」

その瞬間、闘技場内に凄まじい音が鳴り響き、俺の身体が強烈な痛みと共に飛ばされた。

俺の意識は、そこで途絶えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……ん…」

「あ、ルージュ起きた!」

目を覚ますと、目の前にセレナがいた。

なんな身体がめっちゃ痛い……俺何してたんだっけ…?

「ちょっと我慢してね! 今私とアリスで回復魔法掛けてるから!」

回復魔法…? なんでそんな……あっ…

「あっ! ざ、ザックは⁉︎」

そうだ。 決勝戦をやってたんだ。 勝敗はどうなったんだ…?

確か最後…俺は空音波をくらったはずだが…

「あー…」

「それは…ですね……」

2人が言いづらそうに顔を背ける。

……あっ、この反応で察したわ。

それにしても、予想以上にダメージが凄いな…立ち上がる事すら出来ない。

「おっ! ルージュ起きたか! 」

声のした方を見ると、いたる所に包帯を巻いた痛々しい姿のザックが笑いながら俺を見ていた。

「ザック…」

「いやぁ…本当楽しい勝負だった! あんなに焦ったのは久しぶりだったぜ! 」

「あぁ、それは嬉しいんだけど、それ…大丈夫か?」

俺はザックの包帯を指差して言う。

いや…やったの俺だけどさ。

「これか? 全然大丈夫だ! 気にすんなよ!」

「そうか…あ、あと、優勝おめでとう」

気にしてないようで良かった。

俺が優勝した事に祝いの言葉をかけると…

「は? 何言ってんだ?」

と言われた。

…え?

「お前”も”優勝だぞ? 2人から聞いてないのか? どっちも気絶したから、引き分けになったんだよ」

………え…

ふとセレナとアリスの方を見ると…

「え…俺も優勝なのか?」

「うん」

「そうですよ?」

真顔でそう言ってきた。

「じゃあなんでさっき顔を背けたんだよ」

てっきり言いづらいから顔を背けたのかと思ったが……

セレナとアリスは顔を見合わせた後、俺の顔を見て…

「「ドッキリ大成功!」」

と言って舌を出して笑った。

…………なるほどぉ……

「騙しやがったなこの野郎! 上等だ! お前ら覚えてろよ! 絶対に仕返ししてやるからな!」

こうして、クラス内トーナメント戦は、俺とザックのダブル優勝という事で終わった。

これでドーラ村に帰れる……

「あー、ルージュそんな事言うなら回復してあげないよー」

「回復したら仕返しされてしまうので回復してあげません」

「えっ…ちょっと待って! 俺立てないんだけど! ちょっと⁉︎ 回復して下さいよ!」

本当に去って行く2人に、俺は叫ぶ。

え…マジで立てないんだけど……

「2度目の人生を、楽しく生きる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く