2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

55話 「シルエット」

夕飯を食べた後もクリスと勉強し、暗くなって来たのでクリスは部屋に戻り、俺は1人で黙々と勉強をしていた。
別に勉強をするのは嫌いじゃないしな。

そして気づいたら夜中の3時だったので、急いで布団に入って眠りについた。

「そういえば、ルージュさんは明日予定ありますか?」

唐突に、アリスからそう言われた。

今俺は教室でいつものメンバーで話している。
話題は明日の予定。 明日は学校が休みだ。

この世界には1週間は7日間という概念はあるが、日付と曜日はない。 そしてここ、剣魔学園では7日間のうち5日間学校があり、残りの2日間は休みになっている。

まぁ、日本と同じだな。

「明日かー…予定は無いな」

特に何かをする予定はない。 明日はずっと勉強してるか。

来週…と言っても今週学校があるのは今日で最後。 あと3日後にはテストがあるんだ。

「じゃあさ! 明日ルージュも参加しない?」

「ん? 何にだ?」

「それは良いですね! ついでに勉強会もしましょう!」

「え…? 何勝手に話進めてるんだ…?」

「何? あんたも来るの? なら私は行かないわよ。 休日まで一緒に居るとか嫌だし」

セレナとアリスがはしゃいでいる中、フィリアはいつも通りだった。

俺まだ行くって言ってないのに、なんでこんなに傷つかなきゃいけないんだ…?

「フィリア!」

「ちょっとこっちに来て下さい!」

「な、何よ…」

ムッとした表情でフィリアを見るセレナとアリスは、セレナがフィリアの右腕を、アリスがフィリアの左腕を引っ張り、廊下に出て行った。

何なんだ一体……

「なぁクリス、何なんだあれは?」

「あぁ…ルージュは知らないのか。 実は君が来る前に僕も誘われたんだよ。 明日はクレアに会いに行く予定があったから断ったけどね」

「明日セレナ達は何をするつもりなんだ?」

「さぁ? 僕も聞いたんだが一切教えてくれなかったんだ」

「何だそれ、怖いな」

あいつら何する気なんだ…?

セレナ達が廊下に居る間、クリスと話して居ると、クラスメイトの女子が俺たちに声をかけて来た。

「あ、あのっ!」

いきなり何だこの人。

何処かで見たことあるような……

「あぁ、確か…ナーシャさん、だったかな? 僕達に何か用かい?」

「えっ! クリスさん私の名前覚えててくれたんですか⁉︎」

「当たり前だろう。 クラスメイトの名前を忘れる訳がない」

……すみません忘れてました。 ナーシャさんすみません。

そうだ、この人は剣術の実技の授業でクリスとペアを組んでた人だ。

「はっ、そうだ! クリスさん、ちょっと時間ありますか⁉︎」

「ん? 何でだ…?」

「え、えっと…少しお話ししませんか? 少しだけで良いので‼︎」

な、何だこれは……まさか…この子はクリスの事が好きなのか…?

うん、それ以外考えられん。 くっそクリスめ…羨ましい…

「あー…悪いんだが、今僕はルージュと話をしているから、また今度……」

「おいっ!!」

俺はクリスの頭を叩いた。

ナーシャは驚いた表情で俺達を見ている。

俺はクリスと顔を近づけ、ナーシャに聞こえないように…

「馬鹿かお前っ! 折角ナーシャさんが話したいって言ってるのに!」

「いきなり叩くなんて酷いじゃないかルージュ。 第一、僕はナーシャさんとあまり話した事がないし…」

「いいから! ナーシャさんと話して来い! 」

「わ、分かったよ」

よし、これでいい。

いやぁ…焦った。 まさかあの状況で断ろうとするとは思わなかった。

しかもナーシャはセレナ達程じゃないが、可愛い部類に入る。
そんな女の子に誘われたら、普通は速攻OKするだろ。

俺はナーシャの方を向き。

「ごめんナーシャさん。 クリスと話したいんだろ? ほら、クリス」

俺はクリスの背中を押し、ナーシャとクリスを近づけた。

「じゃあナーシャさん、行こうか」

「は、はいっ!」

ナーシャはクリスに着いて行き、教室を出て行った。
教室を出る直前、ナーシャは俺の方を振り返り、深くお辞儀をした。

良い子だなぁ……

「る、ルージュ! 今クリスが女の子と一緒に歩いて行ったんだけど!」

「わ、私達が居ない間に何があったんですか⁉︎」

「うわっ…何だよビックリするな」

クリス達が教室を出て行った瞬間、クリス達が出て行った扉とは違う方の扉が開き、セレナとアリスが俺の方に走って来た。

「話してたんじゃなかったのか?」

「あ、そうだった!」

「フィリアさんも是非、明日ルージュさんに来て欲しいそうです!」

「は…?」

フィリアが…? そんな事言ったのか?

「何勝手な事言ってんのよあんた達……来て欲しい訳ないでしょ」

ですよね。 

「まぁ、どうしても来たいんなら来れば良いんじゃない?」

「……え?」

何この変わりよう。

一体この数分でセレナ達に何されたんだ…?

本格的に怖くなって来たぞ……

「と言うわけで! 明日はこの4人で遊ぼう!」

「楽しみですねー!」

「ふふ…」

「な、なぁ…明日何して遊ぶんだ?」

クリスには教えなかったらしいが、それはきっと明日来れないからだろう。

だが俺は明日行く、これなら明日何するか教えてくれるはずだ。

セレナ達は顔を見合わせ…

「んー…明日まで秘密!」

「楽しみにしてて下さいね!」

……余計怖くなって来た…

やばい、明日行きたくない、ずっと勉強していたい…

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あれからは普通に授業が進み、今は放課後だ。

「じゃあルージュ、明日忘れないでね! 」

「朝10時に花畑のベンチに集合だろ?」

「はい、あと、お腹は空かせて来て下さい」

「え、何で…」

「良いから従いなさい。 絶対に朝ご飯の後にお菓子とか食べるんじゃないわよ」

まぁ、お菓子くらいは別に我慢出来るから良いか。

「分かったよ、それじゃあ、また明日な」

俺はそう言って皆と別れた。 因みにクリスはナーシャと一緒に先に帰った。

どうやら友達になれたらしい。 クリスが休み時間にトイレに行っている時にナーシャさんが教えて来れた。

友達として、手助けくらいはしてやろう。

寮に着き、自分の部屋に入り、私服に着替えた後、俺は勉強を始めた。

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「ふぅ…これくらいでいいか。 大分勉強したな」

1時間くらい勉強したな。

「なんか眠くなって来たな…」

今は5時、夜ご飯まであと1時間ある。 少し仮眠するか…

俺は仮眠をする為にベッドに入り、眠りについた。



『よぉ…久しぶりだな』

………またこの夢かよ。

『これは夢じゃねぇよ』

………は? 何言ってんだ。 ならなんでお前がこの世界に居るんだよ。 お前はこの世界に居ないはずだろ。

『それはお前も同じだろ。 ……まぁいいか、この芝居は意味無かったみたいだしな』

………は? 芝居?

『あぁ、この姿はもう良い。 お前はこの世界から出て行くつもりは無いみたいだしな……本当の俺を見せてやるよ』

………何言って…んだ?

突然、目の前にいた俺の日本での父親の身体から黒い霧が出て来て、よく見えなくなった。

………おい! 何してんだよ!

『ほら、これが俺の本当の姿だ。 驚いただろ?』

………は? それが? ……ふざけてんのか?

『ふざけてるわけないだろ? 俺は真面目さ』

………なら…なんでお前真っ黒なんだ。顔もないし…まるでシルエットだぞ。

そう、霧の中から現れたのは、顔がなく、服も着ていない真っ黒の人型のシルエットだった。

『は…? シルエット…? そんな訳が…』

シルエットは腕を組んで何かを考えている。

はっきり言って、不気味だ。

『あぁそうか! 分かったぞ』

………何がだ?

『”お前には”シルエットに見えてるんだろうな』

………意味が分からない。

『お前は俺の姿を認めたくないんだよ。 だから脳が無意識に俺の姿を見るのを拒否している』

………お前は誰なんだ?

『俺か? 俺はそうだな……俺はお前の味方だよ』

………っ⁉︎

な、なんだ? 今の言葉…何処かで…

『お? 何か思い出したか? 』

シルエットは嬉しそうに問いかけてきた。

………お前…何なんだよ一体…

『んー…まだ思い出せないか…仕方ない』

………思い出す? 何言ってるんだ…

『お前が思い出すまで、俺がサポートしてやるよ。 
いいか、お前がこの世界で楽しく、自由に暮らしたいんなら、来週のテスト、必ず合格しろ。 赤点は絶対に取るな』

………は? テスト? 赤点?

『そうだ。 もし赤点を取った場合、お前は必ず、一生後悔する事になる』

………赤点を取っただけでか? 

『そうだ。 話はそれだけだ、また……今度な』

………っ!

また…まただ…今のも聞いた事があるような…



「何だったんだ一体…」

また変な夢だ。 ……いや…違う、あれは夢じゃないと、シルエットは言っていた。

待て、俺はシルエットを信じるのか? あんな不気味な奴を…?

「何なんだよあいつ…」

『俺はお前の味方だよ』 『また……今度な』

この2つの言葉。 聞いた事がある言葉だった。
そしてよく考えると、シルエットの声も、懐かしく感じた。

俺は何処かでシルエットに会っていた…?

しかもあいつは日本の事を知っていた。

という事は…

「俺とあいつは…日本で会った事があるのか?」

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